ショウマ決死のスイミング!【三階】
CDラジカセは濡れないように、もう用具入れの上に乗せた。
「電池……もってくれよ……」
更衣室から廊下を覗くと、エマが放送室に入る前に手を振っていた。
ショウマも更衣室から身を乗り出して手を振る。
水がどんどん増えてきて、いっぱいになる。
「はぁ……リラックス……リラックス……できる、できるよ。僕はできる」
棚に掴まりながら、満潮になるのを待つ。
「音量は最大に……大丈夫、大丈夫。僕もエマみたいに強い。自分を信じるんだ……」
そして、満潮。
ショウマはスイッチを入れる!!
すぐにショウマは、泳いで一番近くの教室に入った。
『今は別れの時だとしても~♫』
爆音で流れる卒業式の曲。
ショウマは急いで教室の後ろまで泳ぐ。
「来た……!」
鮫がゆっくりとやってきた。
ショウマはスリラー映画は好きではないので、あまり見ないが鮫映画を見たことはある。
まさに、水中の殺人鬼が背びれを出して泳いでくる。
「……落ち着いて……」
爆音の歌に《《釣られて》》……なんとまた三匹もやってきた。
ゾッとする。
震えてしまえば、泳げない。
ゆっくりと、まずは教室の壁に掴まりながら更衣室から離れる。
ショウマも、自分の体力がないのはわかっている。
だから、できるだけ泳がないで壁伝いで距離をとる。
そして、静かに泳ぎ始めた。
まだ、卒業式ソングが聞こえる。
脳内で、ショウマも歌って、泳ぐ。
必死で泳ぐ。
でもまだ、まだ……。
苦しくても、まだまだ頑張れ……!
でも苦しい……!!
一度、教室の壁で休む。
「はぁっはぁっ! ……あ……エマ……」
エマが北階段の前、放送室を出たところで立ち泳ぎをしていた。
「(ショウマ!)」
声は出さないが、思い切り手を振って必死に立ち泳ぎしている。
「エマ……今行くから……」
ショウマはまた、泳ぎだす。
聞こえてくる卒業式ソングを、応援歌に!
あぁ、卒業式をエマと一緒に出るんだ! と思う。
この異次元学校からエマと一緒に脱出して、卒業式に出る!!!
まだ、まだ、泳がなきゃ!!
クロールができたのは最初だけ。
もう疲れて、平泳ぎと、犬かきのようにとりあえず泳ぐ。
でも、たまにクロール。
まだ、まだ……疲れに疲れて……10メートルが長い。
足もつかない深さで……怖い。
でも、冷静に……ゆっくりでも……鮫は卒業ソングに夢中だ……。
『さようなら~~さようなら~……さよブツッ』
「えっ……」
「ショウマ……ッ」
音楽が途切れた。
CDラジカセの電池が切れたのだ。
「ショウマ……ショウマ……早く」
叫べない、エマのささやき声が聞こえる。
「くっそ!」
ショウマは、最後の力を振り絞ってクロールした。
思い切り跳ねる、水音。
しかし……CDラジカセの音が消えた今、廊下に響くのはショウマの泳ぐ音!
あいつらは……獲物をロックオン……した……!!
「ショウマはやく……! はやくーーーー!!」
ショウマの後ろに迫るのは、複数の鮫……!!
「はぁ! はぁ!! はぁ!!!」
ザブンザブンと、必死にクロールする。
「もう、すぐ……! 早く!! ショウマー!!」
黙っていられないエマが、ショウマのもとにクロールで向かってくる。
「バカ! 逃げろ……! エマ!!」
「早く……! 息とめて!!」
グン! とエマに手を引っ張られてショウマの身体が水に沈む。
追いかけてくる鮫の群れが見えた。
『これ!』
と、エマがショウマに握らせた布。
潜った水のなか、北階段の手すりにカーテンが結んであるのがわかった。
潜るのにも力がいる。
でもこれなら、まだ素早く潜ることができる……!!
エマが、ショウマを守るように北階段へと導く。
息が苦しい!
もう限界!!
後ろに、迫る鮫が口を開くのが見えた。
『エマ……!』
『ショウマーーー! もうすぐ!!』
『くーーー!!』
最後は、ショウマが腕の力と脚の力で、エマを引っ張っていく!
二人は、二階への階段へと転がり落ちた……!!!