ショウマのラジカセ作戦
「ショウマどうしたの?」
ショウマの顔を見て、エマが不安そうに聞く。
「……ラジカセの電池がなくなりそうだ」
「えっ!?」
電池切れを告げるマークが液晶パネルに映ってる。
ショウマはすぐに電源を切った。
「もう切れちゃう?」
ラジカセの電池が切れてしまえば、作戦は実行できない。
「まだ、大丈夫だろうけど……流しっぱなしにするだけの電池はなさそうだ」
替えの電池はない。
「じゃあ他の作戦を考える? 音を出さないように泳いで……鮫の横を通るのは無理かな?」
何度もこれができれば楽なのに……とエマは思う。
「さすがに、この廊下で鮫は見逃さないと思うよ……」
ショウマは考え込む。
沈黙の時間が続いた。
二人で放送機材の上に座って、エマは少しショウマの肩にもたれて眠ってしまったようだ。
「ショウマ……ごめん、寝ちゃってた」
「いいよ。エマ……作戦を考えた」
「どんな?」
「僕が満潮になったら、更衣室でCDラジカセを鳴らす」
「え!?」
更衣室でラジカセを鳴らせば、鮫は更衣室に集まってくるだろう。
「エマは、その隙に北階段を泳いで降りるんだ」
「はぁ!? ショウマは!?」
「僕も更衣室から泳いで、北階段を目指す」
「な、な、な、な、な、だって廊下は……あんなに長いんだよ!? 60メートルは……あるよ!?」
「頑張って泳ぐ。もう、これしかない。鮫を更衣室におびき寄せて、北階段を降りるしかないんだ」
「じゃあ私がやる!」
「駄目、僕がやる」
「なんで!? ショウマは身体が弱いでしょ!?」
「それでも、僕がやる。最近はちょっと鍛えてたし、心配ない。僕がやる」
ぐっと握りこぶしを作るショウマ。
「……途中で溺れちゃうかも」
「そうなった時は。エマは一人で逃げるんだ」
「なに言ってんの! 絶対やだよ! やっぱり私がやるよ」
「四階でエマはあんなに頑張ってくれたんだ。次は僕の番だ。それは絶対に譲らない」
ショウマの強い意志の目。
「ショウマは、結構頑固だよね」
幼馴染で付き合いの長いエマは、ため息をつく。
優しいショウマだが決めたら絶対に、譲らない。
「僕だって、やる時はやるよ」
「じゃあ、ショウマが北階段に来るまで、私は絶対に待ってる」
「僕が来なかったら、先に行くんだ」
「じゃあ一緒に更衣室に行くのは?」
「音が二人分じゃ、鮫に気付かれるかもしれない。僕は静かに……泳ぐから……昆布みたいにね」
ショウマは昆布みたいな動きをして笑う。
でもエマは笑えない。
「もう! 笑ってくれなきゃ恥ずかしいじゃないか」
「だって!」
「エマの体力の限界が近いよ。計画をすぐに実行しよう」
「絶対、絶対、絶対来てよ!」
「もちろん。一緒に脱出は、エマの願いだもんね」
「……うん……そうだよ……」
作戦は単純だ。
CDラジカセを持ったショウマが更衣室へ行く。
エマは放送室に待機。
満潮になった時に、ショウマがCDラジカセを最大音量でかける。
音を聞いて鮫が更衣室へ集まる。
その隙に、北階段へ。
「更衣室で音を鳴らしたら、すぐ鮫が来て鉢合わせしない?」
「あのCDは、すぐに音が始まるわけじゃなかった。演奏開始まで、10秒くらいある。その間に、更衣室を出る。僕は教室に隠れながら、そっちへ向かう」
「……満潮の時間は6分だよ」
「余裕で間に合う」
ショウマはにっこり笑うが、エマだって50メートル泳ぐのはすごく疲れることを知っている。
「……音が好きじゃない鮫がいたら? さっきの放送は、嘘だったら?」
「そういう可能性は今は考えないでおこう。いくらだって僕達を全滅させる術はある」
「……うん」
この恐怖しかない校舎。
どうして、こんな校舎に来てしまったのだろう?
「頭が痛い……」
「体温が下がってるんだよ。次の干潮で僕は行くから」
「ショウマ」
「少しの間だけ、離れるけど……すぐ戻るから」
「絶対だよ」
「時間だ。じゃあ行ってくるね」
ショウマはCDラジカセを持って、放送室を出て行く。
「待って! 私も作戦前まで一緒に行く」
「わかったよ」
結局エマも、更衣室まで一緒に来た。
お互いに緊張して、静かだった。
「じゃあ、エマは、もう放送室へ戻って」
「……うん……」
水が増えてくる。
作戦が始まる……!!