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知っているのに知らない教室【五階】

「ん……」


 少女エマが目覚めたのは、冷たい床の上だった。

 ここがどこかわからない。

 ただ、ほっぺたに、冷たくて硬い感触……。


「エマ、エマ起きて」


 優しい男の子の声。


「ん……ショウマ?」


 エマの肩を揺さぶって声をかけてきたのは、幼馴染の少年ショウマだと、エマはすぐに気がついた。


「ショウマ……まだ眠い……」


 幼稚園から一緒で、家も近いショウマはよく寝坊するエマを起こしに来てくれた。

 少し冷たい手が頭を撫でてくれるのが、心地よいのだ。


「エマ……今はそういう状況じゃないみたいだよ」


 そう言っても、やっぱり頭を撫でてくれる。


「ん~……まだ……」


 撫でてくれる手の指先が、トンと頭をつついた。


「エマ、起きて。僕もなぜここにいるかわからないだけど……怖いよ」


「えっ……?」


「なんだか、おかしい……」


「……え……」


 エマは起き上がって、座り込んだまま、まわりを見回した。

 

 そこは薄暗い教室……。


「ここ……羽黒野(はぐろの)小学校?」


「……多分、でも……なんか変なんだ」


 教室は、なんだか薄暗い。

 そして黒板はあるけど……普通なら並んでいるはずの生徒の机も椅子はない。


「ここって……空き教室……?」


「空き教室は鍵がかかってるはずなのにね……それにもっと変なんだ」


「なに?」

 

「窓の外が見えない」


 ショウマが先に立ち上がって、エマに手を差し伸べてくれた。

 エマはショウマのこういう優しさが好きだと思う。


 二人で窓へ近づいた。


「ん? なにこれ……窓なのに壁がある?」


「うん。外が見えない」


 窓はあるのに、窓の外は教室の壁。

 開けてみて、触れても確かに壁だ。


「なにか……工事してるの?」


「うーん……わからない」


「なんで私、ここにいるんだろう?」


「僕もわからないんだ。気づいたら、ここにいた」


「え? ショウマも?」


「うん」


「思い出せない……」


「僕もだよ……」


 二人で黙ったけど、いくら考えてもわからない。


「なんか、この教室の電気も薄暗くて気持ち悪いよね」


 いつもの真っ白なLED照明じゃない。

 なんだか変に黄色いような、薄暗い。

 

「時計もないんだよ」


 黒板の真上にある丸い掛け時計がない。

 外が見えないので、全く時間がわからないのだ。

 

「本当だね……先生もいないし……早く帰ろう」


「うん」


 ショウマは、いつものお気に入りの水色のパーカーを着ていた。

 中はロンTに、茶色いズボン。

 エマは、赤いロンTに、短パンのジーンズ。

 いつもの格好だ。

 でも、このロンTの真ん中には、何かキャラクターがいたような?

 今は無地だ。


「ここ……何階なんだろう」


 二人で教室を出て、廊下に出る。

 教室と同じように薄暗い廊下。


 ……不気味だ。


 でもショウマがいるから大丈夫……とエマはショウマに身を寄せる。


「ここ……五階かな」


 羽黒野はぐろの小学校は、巨大なマンモス学校だ。

 過去に児童数が急激に増え、五階建てに建て替えられたが、それから児童数は減少して今は五階は空き教室と多目的室しかない。


 廊下の右側に教室が六つ並んでる。


「空き教室が四つに、多目的室が二つ……やっぱり五階だ」

 

「本当だ。じゃあさっさと一階まで降りよう」


 ふたりとも、不気味さを感じていた。

 どうして、ここにいるのかもわからない。

 

 階段は北と南に二つある。

 南階段の方が近かったが、なんとなく廊下を歩いて、北階段を目指す。


「空き教室が……全部ドア開いてるね」


「うん。多目的室も空いてる……でも何もない」


 多目的室の中も、椅子もなにもない。


 サクサクと歩いて、階段の場所へ向かう。

 確かに壁には『5』の文字。


「やっぱり5階だ」


「ショウマ、さっさと降りよう……えっ!?」


 しかし、そこに階段はない……。

 まるで蓋がされたように壁になっている。

 二人で顔を見合わせた。


 恐怖が、じわりと沸き上がる。


 この薄暗い廊下に立ち尽くす二人。

 

 何か足音が聞こえてきた。


 コツン……コツン……ブブブブルルルウ……コツン……コツン……ブルルッルルル。


 コツン……コツン……コツン……。

 コツン……コツン……ブブブブルルルウ……コツン……コツン……ブルルッルルル。

 

 エマとショウマは、階段を降りようとしたので壁の影にいる。

 だから、教室がある長い廊下の先は見えない。


「……誰かこっちに来てる」


「先生……?」


「……なんか誰かってより……」


「《《なにか》》……?」


 人間の足音じゃない。

 こんな金属的な足音は聞いた事がないし、何かエンジン音のようなものが聞こえる。


「エマ……ここにいたら、駄目な気がする」


「……うん……私も」


「ゆっくり、誰が来ているか見てみよう」


 教室前の長い廊下を覗いてみる。


 コツン……コツン……コツン……。


 コツン……コツン……ブブブブルルルウ……コツン……コツン……ブルルッルルル。


 コツン……コツン……コツン……。

 コツン……コツン……ブブブブルルルウ……コツン……コツン……ブルルッルルル。


「……なっなに……あれ……!?」


 これから二人は恐怖に襲われる。

 エマとショウマ、二人はこの不気味な校舎から出ることができるのだろうか?

 

 

 

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