表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

モフモフはひとりじゃ動けない

作者: おだアール

 モフモフは風さんを待っていた。

 日が暮れるまでには来てくれるはず。だってきょうは、みんな楽しみにしてる花火大会の日だから。

 モフモフは空から地上を見た。まだ昼過ぎなのに、堤防は大勢の人でにぎわっていた。わた菓子やリンゴあめや、そんな出店が連なる中、浴衣姿の人もいっぱい歩いていた。

「見て見て、あの雲。ひつじさんみたい。」

「ほんと、太っちょのひつじさん、なんか、モフモフって感じ。」

 そう、モフモフは雲のこと。ぽわーんと空に浮かぶのがお仕事。

「でも、あの雲、雨降らせないかなあ。花火が中止になんないといいけど。」

「夜までに、いなくなってくれるといいんだけどね。」

 モフモフも、今夜は特別な夜だってわかっている。夕方になったら、向こうの山の奥に隠れるつもり。

 けど、モフモフはひとりじゃ動けない。動きたいときは風くんの助けが必要なのだ。風くんには、今朝何度も念を押して頼んできた。

「きょうは絶対来てね。約束だよ。」


 さて、その風くんはじっとしてるのが大嫌い。いつもどこかで走り回っている。今も遠くの海の上で、飛行機と競争していた。

「こいつ、すんげえ速いじゃん。でも、おいらだって負けないぜ。ブォーン。」


 夕方になって、お日さまが言った。

「じゃ、わし、そろそろ消えるからね。」

「えっ、もうそんな時間?」

 お日さまは海のほうに向かっていく。たいへんだ。もうすぐ沈んでしまう。

 風くんはまだ来ない。モフモフはだんだん不安になってきた。

「おーい、風くーん!」

 声が風くんに届かないことはわかっている。でも、叫ばずにはいられない。気まぐれな風くん、今までも、何度か約束をすっぽかされたことがあるからだ。

「おーい、風くーん、風くーん!」


「モフモフさぁーん、こんばんわぁー。」

 振り返ると、お月さんがいた。

「えっ、まだ明るいのに、どうして?」

「明るいときから出てくることもあるの。それよりモフモフさん、まだここにいるの?」

「風くんが、まだなんだよ。」


 モフモフの不安はピークに達した。

 もし風くんが来てくれなかったら、もしあの山の陰まで行けなかったら。泣き虫のぼくはたまらず大泣きしてしまうに違いない。そんなことになったら、せっかくの花火大会がおじゃんになっちゃう。ぼくのせいで。

 モフモフは、ついに涙を流してしまった。ぽろっとひとしずく。

「おいおい、雨降ってきたよ!」

「なんだよ、今になって。」

「こんなのひどいじゃん。ずっと、楽しみにしてたのに。」


「モフモフさん、ダメ、泣いちゃダメ。風くん、きっと来てくれるから」

 とお月さんが元気づけてくれる。いつのまにかあらわれた一番星も励ましてくれた。

「ここで泣いちゃ、何もかも台無しだろ。」

 そうだ。泣いちゃいけない。モフモフは、必死になって涙をこらえた。

 すると、大空に思わぬプレゼントがあらわれた。モフモフよりずっと大きな虹、目を見張るほど鮮やかでくっきりとした虹だ。

「うわーっ、きれい。すんごくきれい。」


 やがてお日さまは沈み、お星さまがぽつりぽつりとやってきた。けど、地上からは見えない。モフモフがじゃまになっているから。

「どんよりしたお天気だけど、まあ、仕方ないか。」

 こんなつぶやきの中、観客は、花火が打ち上がるのを今か今かと待っていた。


 そのときだ。川の向こうから「ブォーン、ブォーン、おーい。」と声が聞こえてきた。

 風くんだ。風くんが来てくれた!

「ごめん、ごめん、渡り鳥と遊んでたら、夢中になっちゃって。さっ、すぐに、おいらの背中乗って。」

「風くん、ありがとう」


 ヒュルルーッ、ドーン、パチパチパチパチ。

 星空に向け、大きな花火が何度も打ち上がる。息を飲むような見事な光景だ。観客はみんな目を輝かせていた。

 山の陰から眺めていたモフモフも、思わずつぶやいた。

「うわーっ、すんごくきれい!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ