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あなたは死ぬ必要がない  作者: 盛 奨
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05

 それからの僕というものは地球が終わってしまうかもしれないというのに、なんとなくとも変わらないような日々を送っていた。それがまあ、なんともよくわからないような優越感のようなものを感じてしまったのは誰にも内緒である。そんななんでもないような日々であるのにも関わらず、僕という人間は、こうまでしてなにもできないということに逆説的にして、なんともそれでいいのだという考えになってしまったということである。

 それでいいのかといわれればそれで僕という人間は何も言い返せずにだまってしまうだろう。しかしだ。こうまでして、何かを必死にするのにもなんとなくではあるのだが、それもまた一つの人生だろうと、僕の看護をしている看護師にたいしてそんなことを思ってしまったのだ。これであの大きな星の一撃で跡形もなく、何も痕跡がなくなってしまうだろうとそんなことをしていても、それも何も進展の無いこの僕のような病人に対して無意味なことをしていのに対してそれもなんとなくであるのだが、このさいどのような人間と思われても仕方ないだろう。

 そうだ、その行動に対して優越感に浸ってしまったのだ。

 ああ、僕という人間はどこまで落ちぶれてしまうのだろうか。まあこのような状況になってしまったからには、もう後戻りができなくらいには、どうしようもないくらいには、こうなってしまっても仕方の無いことであったのだ。だからこれまでの行いに対して、なんの遠慮も無く、人を心の中で、見下していた。それはまあ昔で言う王族のような僕であったのだろうと、客観的に見て、そんな感想が出てしまう。まだ足があったあの普通の日々ならば確実に自己嫌悪してしまっていただろう。こんな自分が生きていていいのだろうかと。

 まあそれはいいとして、僕はこれからはずっとこの調子で生きていくのだろうと絶対的な自信に満ち溢れていた。もう全てがどうでもよくなっていたのだ。

 そらを一日中眺める。

 そしてブサイクな看護師に体の世話をされる。

 そして一日が終わる。

 地球最後の日が刻一刻と過ぎているにも関わらず、こうしているのにも、まあ何も感じなくなってしまっていた。いつもと変わらないことに関しては、僕という人間は、誰よりもうまく出来ているだろう。だれよりも進歩も無く、そして誰よりも後退も無く、そして誰よりもその場でじっとしている。

 ただ、ふつうな日々が淡々と過ぎていくのであった。


 しかしそれはその日は突然と、僕に襲ってきた。

 現状8時半、何もかわらない日々が始まろうとしていたとき、僕のちょうど正面にある病棟のドアが開いた。そこから出てきたのは、三十代くらいの男性であった。

 しかし男性といっても、どこかアメリカンをにおわせる外見、そしてその香水、そして助手として彼の横に立っていた女性からは、アメリカでありそうなお菓子のにおい、まるでキャンディーを何日も置いておいて、いろいろなシロップを何日もかけて混ぜ込んだにおいであった。

 かれらの威風堂々の登場に僕は関心が無かった。

 まるで背景の一部として二人の情報を終わらせると、またいつものような日常が再開された。

「きみが、代那 志雄〈だいな しお〉君か?」

「ええ彼で間違いありません、この切断された両足、そしてこの無気力。まちがいなく、世界三大奇病の一つ、怪死病の患者です」

「単刀直入に言おうきみに、わたしから、いいや世界からお願いがある」

「獣治癒 八九〈じゅうちゆ はっく〉先生、しかし、かれは症状である無気力により、他人との会話がいっさいできないほどになっています」

「レベル5の患者というわけか、いたしかたあるまい交渉のためにアッパーを使わせてもらうか」八九という男は、僕の顔を興味深そうにみると、アゴを彼の顔と見合わせるようにしてクイッと動かし、俺の反応を見ていた。しかし僕という人間は、このような奇怪な行動をしている人間に対して全くと興味がそそらなかった。

「ここまで動かしているにもかかわらず、まったくと動かない。まるで人形のようだな」

「先生、彼の意識はいまだしっかりとしているものです。あまり彼の名誉を傷つけるような言動はお控えください」

「メイナ、この蔑まれている彼の目を見て何も感じないのかい?」

 八九という男は険悪そうに俺の顔を見て、彼女の言っていることにしぶしぶ了解をした。

「わかったよメイナ、しかしだ。私にも名誉というものがあるのだ」

 諭すようにして、彼はメイナという女性に対してそのような言葉を告げ、ポケットからタバコを取り出した。そして手のひらにおさまるような箱からタバコの棒を一本取り出して、

「メイナ、アッパーの準備を頼む」

 まるでやれやれといわんばかりに、彼は彼女に言った。そしてタバコにコンビニで売っているような百金ライターで火をつけた。

「はい」

 ライターのカチッという音と同時に彼女は業務返事を返した。彼女のかばんを何度から漁り、なにか注射針のようなものを取り出すと、その注射液から、どこからか医療機関からではないような違法のにおいがするような液体の入った袋を取り出して、注射針をその透明の袋の一番下の膜のようなところに突き刺した。そして少しずつ液体を飲み込んだ注射針。準備が終えたのか、注射針の先の方をアルコールのにおいがする綿で拭く。

 そして八九という男に渡した。

「アッパー準備が終わりました」

「しかし彼と会話をするというだけで、まさかジャンキーの連中からこのような違法ものを取り寄せるとは、こんな腐った世界のためといっても、大のあの組織が、ここまでするとはなんとも滑稽だとは思わんかメイナ」

「私にはあなたが何をいっているのか、理解に値しません」

 またも、業務返事を彼に返すメイナという女性。なんとも堅苦しい人間であると彼らの会話から少しだけ理解が出来た。

「いっつも堅苦しいよな君という人間は、すこしはデレたり、起こったりしてみたらどうだね?」男は、不貞腐れて、嫌味を言うようにして、彼女に投げかけた。

「はい」

 しかし彼女は、まったくと顔色を変えずにして、彼の言っている言葉にまた淡々と答えているだけであった。

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