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あなたは死ぬ必要がない  作者: 盛 奨
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02


 それは、とある寒い日のできごとであった。


 空は深々と雪が降っていた。まるで何かが始まるようでもなく、ましてや誰かが、僕の人生に突然と登場するわけでもない。

 僕はずっとこの窓から世界を見ていた。いいやこれは僕にとって一日の過ごし方というものかもしれない。僕の日課でもあり、僕の唯一の僕である僕のあり方でもあったというわけでもある。

 窓にひらひらと小さな雪の結晶が当たると、ガラスと雪自身の温度差によって水へとその姿を変えて、窓の下の方へと雫になって流れていく。

 これがまるで人の一生のように僕は思えていた。窓に近くはない、ひらひらと落ちていく雪は、なにも知ることもなく、なにも変化がおこることもなく、まっさかさまに、地上へと落ちていく。しかしこの窓にあたる雪たちは、そこに自分自身を変えてしまうかのような存在があると気づくわけでもなく、雪自身の在りようによってその姿を、窓にあたることによって変化させていた。

 固形物が水へと変化する。

 これもまた普通の人にあるような変化のようでもあった。

 だからだろうか。自分は窓の近くにはいない雪であるとこの光景を見て自分自身の置かれている状況を鑑みて納得をしていた。

 なぜならそれは、僕の足はとある病院にて、無くなっていている足が、僕の人生を変えてしまったからである。その足は、原因不明の不治の病によってどんどん腐れていくというものであった。

 体が腐っていくようにして、僕の心も腐っていってしまっている。

 もう僕は自分の人生に諦めをつけてしまっていたのだ。

 このまま何も始まることはなく、ましてやなにも得ることもないと。

 こんな諦めを外の暗闇を見ていて、ふと頭に流れていた。

 テレビはこのような状況に置かれてしまったのだろうか、まったくと見なくなっていた。僕が見ると決まって誰かが、走っているような場面が流れるからである。

 それを見て、世界全てが僕のことを攻めいているような気がしてならない。

 派たらか見ればそれはとんでもないような思い違いであると、断固反対してしまうだろう。でも今のこのような状況の僕にとっては、それはひどくつらいようなものであった。

 だんだんと目が腐っていく。ああ僕はなんのために生まれてきたのだろう。

 なにがか変わるわけでもなかった。それがこの病院にいて唯一わかったことでもあるからだ。昔は僕は読書の好きな少年だった。しかしいまは何もする気がおきないでいる。まるで全てが僕からふさぎ込んでしまったのかと思う。

 ただずっと僕はそれから僕の近くにある窓を眺めていた。ベットから見ているということもあり、その光景は一つの空模様ということになる。

 あるときはゆっくりと雲が流れてきて、そしてあるときはしましまもようの雲が流れる。多種多様な雲たちに、僕はそれらの形に何かを連想するわけでもなく、ずっと眺めていたのだ。もういくつ太陽が僕を照らしているのかわからなくなってしまうほどに。

 だんだんと、言葉を発することさえもできなくなっていた。喉がつっかえてまったくしゃべれなくなってしまったのだ。ここまでくると僕はまったくとつらいような感情がわかなくなっていた。、だんだんと植物になっていく自分というものを観測できている、客観的な考えからもなくなっている。「歳をとった」とわかい看護師さんがぼくのことをそう揶揄していたのを家族と会話しているときにふと聞こえてきた。まるで介護施設にいるおじいさんかのようであると。

 反応することさえできなくなっていた僕は、それでも現実を置き去りにするかのようにして空を眺めていた。


 あのときの僕は誰かに気づいてほしかったのだ。


 いつもの消灯の時間になり、部屋の電気が見回りに来ていた、若い看護師さんによってスイッチは消された。部屋の電気が消されると、部屋はいっそういままでの薄ら暗さを強調するようにして漆黒の空間へと変わっていた。

 それでも何もなかったようにして、ずっと同じ姿勢であった僕は、それでも外を眺めていた。消灯による光の変化によって暗闇がより一層、深くなっている。

 徐々に時間がたつと目は慣れてしまったか、部屋にポツンと佇むまどを眺める。

 ちょうどにして月の光が、僕の目の中へと、その美しさを知らしめるかのようにして、照らしていた。まるで光のカーテンのようでもあったため、僕はそれを綺麗だとそんな感想が出た。なにも感じてしまっていない僕が、このようなありふれていることで感動してしまっていることに驚いていた。僕には何かを感動するような心が、余裕が、あったんだと。

 汚れてしまっていた心を洗うようにして月は僕を見ていた。月のクレーターが僕に微笑んでいるかのようでもあった。

 それに関しては僕は、そう思っているだけで心の奥底では、何も感じなくなっている自分に戻っていた。というよりも無上にどうでもよくなったのだ。

 はかりの振り子のようにしてプラスのメーターヵらマイナスのメーターにぐわんと移行しているようだ。


 とくに月を眺めていて何か得をするようなことがあるということでもなかった。ただすいつけられるようにして月を見ていたのだ。まるで僕が僕であったかのように。


 だからかもしれない、つきの少しの変わりように気づいたのは。

 ただえさえ、ずっと空を24時間眺めているという僕であるため、その変化には気づけたのだ。、

 僕が”僕”であったからこの変化に気づけたのである。このずっと窓を眺めていた僕であったからだ。


 つきが地球に反旗をしようと、進軍していることに、その月がとんでもないような、通常ではありえないような大きさになっていることに、世界の天井であるかのように、月は地球を前に地球の全てを破壊し尽くさんとして前進していたのであった。

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