いざ後宮潜入捜査へ
女官に扮した四人の瑞獣らが、御簾の前で平伏する。鎮座した主が「面を上げよ」と、意気揚々と命じた。
「ぶふふっ!」
臣下が顔を上げた瞬間、帝は堪え切れず、吹いた。
「な、なんじゃ、そなたらの出オチ感はっ……! 我が瑞獣ならば、主の予想を超えて来ぬか! ふふっ、はははは!」
腹を抱えて笑う朱鷺に、満仲が不服そうに言う。
「ちぃとばかり、目算がずれたのでございまする。我が十二天将の天后めが、主に反旗を翻したのですぞ」
ぷううと頬を膨らまし、不出来な女装姿の自分を哀れむ。
「まあ、大概のことは予想出来ておったがのう。やはり安孫は……ふふ、巨漢に女装は酷であったのう」
「お分かりであらば、すぐにでも元の姿に戻るよう、ご命令くだされ」
「いや、そのままぞ、安孫。それにしても、やはり水影と麒麟は、最もよのう。そなたら二人は満点ぞ」
「なっ! 主上、わたくしめは?」
「満仲、そなたはそうだのう……八点」
「はちてんっ? それは十点満点にございましょっ?」
「いや、百が満点としたときの、八点ぞ」
「低すぎまするううう!」
満仲が突っ伏して泣く。それを放置し、朱鷺は水影に目を向けた。
「やはり女人姿も似合うのう、水影」
「は。有難き御言葉にございまする」
なるべく感情を入れずに、水影が頭を垂れた。嫌な予感しかしない。
「ところで、その女房装束の下は如何なっておるのだ? 小袖を着ておるのか? 何とも興をそそられるでな、一枚ずつ脱いで見せてみよ」
鼻息荒くじりじりと近づいてくる主の姿に、水影は距離を取りながら、「嫌にございまする」と拒絶した。
「なっ! 俺の望みぞ! ちぃとばかし良いではないか!」
「嫌なものは嫌にございまする。そういうことは、主上に惚れておられる女人と愉しまれてくださいませ」
「なんぞ、つまらぬではないか! 折角俺好みの女人と仕上がっておると言うに!」
「それゆえにございまする! 装束を一枚ずつ脱ぐは良うございますが、それだけでは済まぬでありましょう? 女装した臣下に鼻の下を伸ばされては、民に示しが尽きませぬ!」
「つーまーらーぬー!」
「駄々をこねまするな。折角即位一周年を迎えられたのですぞ。主上の権勢に翳りを差されるおつもりか?」
三つ年下の水影に諫められ、満仲同様、ぷううと朱鷺が頬を膨らませる。
「しゅ、しゅじょう! かわゆいにございまする! わしと御揃いじゃ!」
満仲が目を煌めかせ、同じように、ぷううっと頬を膨らませた。
「はあ。主上の御戯れには、困ったものぞ」
安孫が小声で呟いたのを、隣で聞いていた麒麟が頷く。
「帝に進言出来る公達など、鳳凰様以外いないでしょうね。まっすぐと言うか、怖いもの知らずというか……。しかし、だからこそ、主上は鳳凰様のお言葉を信じておられるのでしょうが」
下働きに扮する小袖と褶姿の麒麟が、二人の確かな絆を称えた。安孫が顔を反らし、「某には、良う分からぬ」と、再び溜息を漏らした。
「——とまぁ、紆余曲折したが、此の中から水影と麒麟の二人に、後宮に潜入してもらうことと相成った」
主の決定に不服そうな表情を浮かべるも、「まあ、たぬきでは仕方あるまい」と、満仲が面倒事から免れたことに、内心喜んだ。
「とは言え、此の事件の裏に何が隠れておるか未だ分からぬでな。安孫と満仲の二人は、いつ時でも参内出来るようにしておれ。良いな」
「御意」
安孫が恭しく頭を垂れたのに対し、「やはり、面倒事には巻き込まれるか」と満仲が鼻息を漏らしながらも、「御意にございまする」と承諾した。
「そして、後宮に潜入する二人は、しかと次のことを肝に銘じよ」
朱鷺が改まって、水影と麒麟に注意事項を伝える。
「まず、後宮は男子禁制ぞ。本来であらば、帝以外の男が立ち入ることは赦されぬ場所。決して男であると露見せぬようにな。万一、男だとバレた際は、後宮に立ち入った罪で、そなたらの首を撥ねねばならぬ」
「なっ! 事件解決のために動いているのにっ?」
麒麟が絶句した。
「ああ。たとえ帝であっても、その罪を覆すことなど出来ぬでな。ゆめゆめ気を付けよ」
「ぎょ、ぎょい……」
ごくりと生唾を呑んで、麒麟が覚悟を決めた。
「次に、失踪した四人の女人らの調査ぞ。何の謂れがあるか分からぬが、ある日突然後宮より消えたは事実。そこに隠されておる謎を解くのだ」
「御意」
水影が力強く頷く。
「次が最後。此度の事件の犯人特定ぞ。今のところ、犯人が男か女か分からぬ。単独犯か、はたまた複数犯か。此れ以上の被害が出る前に犯人を突き止めよ」
「御意!」
水影と麒麟の二人が、朱鷺に向かい、深く頭を垂れた。
「誰が犯人なのか、誰が犯人と繋がっておるか分からぬでな。二人とも、ゆめゆめ油断すること無きようにな」
「御意。必ずや我らの手で、犯人を捕まえてみせまする」
決意固く、水影がそう宣言した。
「一つ、宜しゅうございましょうや、主上」
「何だ、安孫」
「消えた後宮の女官らは、今なお、生きておられるのでありましょうや?」
「さてな……」
朱鷺が考察する目を伏せる。他の瑞獣らも、同じように沈黙した。その沈黙を破ったのは、麒麟だった。
「必ず生きておられます。主上の世に、血生臭い事件は、似合いませんからね」
朱鷺を含め、水影、安孫、満仲の四人が面喰った。だがすぐに笑うと、「そうだのう」と朱鷺がうんうんと頷く。
「ようやっと、我が世となったのだ。安穏たる国で、誰もが幸せであってもらわねば困るでな。ゆえに、何があっても必ず、消えた女官らを救い出せ。誰一人、命絶えることなど赦さぬ」
「犯人を含め、必ず生きて連れ帰りまする」
水影が微笑みを浮かべ、頷いた。
「某も、犯人捕縛がため、いつでも出陣致す所存にございまする」
「わたくしめはー……、犯人の動機が胸糞であった際に、主上が望まれる仕置きを致しまする。それはもう、えげつない仕置きをしてやりましょうぞ」
安孫と満仲も、いっそう事件解決のため、尽力することを誓った。
「ああ。では各々、役目を全うせよ」
帝の命により、四人の瑞獣らが、それぞれの役目に就いた。
よく分かる相関図〜
満仲→安孫 「我らは唯一無二の真友じゃろ!」
安孫→満仲 「自ら損な役割などせずとも、皆、まんちゅうのことを好いておるぞ」




