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帝と四人の瑞獣たち―偽世者(にせもの)―  作者: ノエルアリ
第2部「瑞獣偽者取替騒動」
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縁者

「——実泰さねやす様! すぐに屋敷から出てください! そうでないと、鳳凰様とは二度と会えなくなりますよ!」

 三条家の屋敷で、麒麟が実泰の自室の前で叫ぶ。それでも、「……出ぬ」という暗く沈んだ声がして、「鳳凰様の……水影みなかげ様の一大事なんですよ!」と麒麟が無理やり襖を開けようと、躍起になる。

「わしはっ、わしはもう、屋敷の外には出られぬのじゃっ!」

 どこまでも意地を張る実泰に、麒麟の苛立ちが募り、思わず「実泰様の分からず屋!」と言い放った。

 襖の前で、実泰が沈鬱な表情で俯く。敬福祭きょうふくさいで砕かれた矜持は、今もまだ、実泰を陽の下に出ることを阻んでいる。手が震え、足も動かない。どこまでも自分が情けなく思うものの、「……すまぬ」とだけ返すことが精いっぱいであった。

「実泰様……。いいですか、今、貴方様の弟君、水影様は、偽世にせよという場所に囚われています。このままだと、此方こちらの世に帰ってくることが出来ず、永遠に偽世にて彷徨うことになるんですよ? 水影様をお救いするためには、此方の世から呼び戻すしかないんです。水影様が愛されておられる方が……」

 そこまで言って、麒麟が俯いた。感極まり、あふれ出す涙が止まらない。

「だ、から、おねがいします、実泰さま。水影さまを、鳳凰さまを、連れ戻してっ……」

 嗚咽交じりに泣く麒麟に、「……麒麟よ、すまぬ」と実泰が謝る。その言葉に絶望した麒麟が、ゆっくりと後ずさった。刻一刻と時が過ぎていく中、どうにもならない現実に、ぐっと麒麟が目を瞑る。

「——そのお話、本当ですか?」

 そこに、救いの声が上がった。振り返ると、水影が愛してやまない女人——女中のゆうが呆然と立っていた。

「ゆうさまっ! そうだ、鳳凰様にはゆうさまがいたんだった!」

「私を水影様の所へ連れて行ってください! 私が必ず、水影様をお救い致します!」

 力強い言葉に、麒麟の方が圧倒された。それでも愛の力が勝つと信じ、麒麟はゆうと共に御所へと急いだ。


「——ふむ。話は分かった。わしの大事な嫡男を、偽世などという訳の分からぬ場所に引き込んだ罪、死を以って償わせよう」

「その大罪人はもう亡くなっておるのですぞ、親父殿」

 安孫あそんの父、春日道久が、鬼の形相で息子を取り返さんと武装した。

「そうか。死霊狩りか。この日の下一の武人、春日道久に掛かれば、死霊も悪霊もことごおく討ち取ってくれようぞ」

「いや、死霊も悪霊も退治するは、我ら陰陽師の役目ですぞ、親父殿」

「そうか。その死霊と悪霊を放置した罪、陰陽師に償わせる他あらぬな」

 ギロリと道久が満仲を睨みつける。

(ひい~! 全く話を聞かぬ御仁よ! 早う安孫のすけを救わねば、拳骨だけじゃ済まされぬっ!)

 すっかり肝が冷えた満仲。そこに、三条家からゆうを連れてきた麒麟が戻って来た。

「その女人は……」

「すみません。実泰様は、どうしても無理でした」

「っふ。まあ良い。女中であれど、あの三条のが好いた女人じゃ。その心の強さは真じゃのう」

 ぐっと水影を救い出さんと覚悟を決めるゆうに、満仲が頷く。残るは、朔良式部のみ。

「女人の愛は強いと信じよう」

 懐から一枚の人型を取り出した満仲が、それにふっと息をかけた。




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