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帝と四人の瑞獣たち―偽世者(にせもの)―  作者: ノエルアリ
第1部「後宮女人失踪事件」
3/35

安孫と満仲のポテンシャル(笑)

 春日かすが安孫あそんは、重たい足取りで屋敷に戻ると、どうしたものかと頭を抱えた。

の巨体で女官に扮装するなど、罰以外の何物でもないのだが……」

 はあ、と大きく溜息を吐いた。そこに、太政大臣、春日道久が現われた。

如何どうしたのじゃ、安孫。左様に消沈して」

「父上、実は……」

 そこで、安孫は洗いざらい父に話した。

「——後宮で女官が、次々と行方知らずになっておる件か。れについては、わしの耳にも届いておる。そうか、主上が事件解決に乗り出されたか……」

 道久が険しい表情で、顎に手を寄せる。

「父上から主上に進言していただけませぬか。我が嫡男に、女装は酷であると」

「安孫よ……」

「は。父上」

 安孫が頭を垂らし、父の言葉を待った。

「女官に扮するのであらば、わしが施してやろう」

「……は?」

 思いもよらない父の言葉に、安孫の表情が固まった。

「わしがそなたを美しい女官にしてみせると言うたのじゃ」

「父上がそれがしを……? いやそれ以前に、太政大臣が何ちゅう台詞せりふを仰せかっ」

「まあ、見ておれ、安孫」

 そう言って意気揚々と、道久が女中に化粧道具一式を持ってくるよう、命じた。

 

 縁側にて、安孫が道久から化粧を施されている。ただじっと、目を瞑って完成を待つ安孫の脳裏では、(この化粧道具一式は、何処いずこから持ってきたものぞ? まさか父上の私物にあらぬだろうな)と、日の本一の武人と名高き、父への疑惑がめぐっている。

「よし、完成じゃ。鏡を見るが良い、安孫」

 父に促され、安孫が手元の鏡を覗く。そこには、どうにか頑張った跡が見えるも、やはり見るも堪えない、巨漢の化粧姿があった。

「ぶふっ、す、すまぬのう、安孫。何じゃ、遠目にて薄っすらと見る分には、そのう、う、うつくしい、でなっ……」

 今にも大笑いしそうな父の姿に、「一層、笑い飛ばしてくだされ」と安孫がジト目で言う。

「ううむ、おかしいのう。そなたの母、阿尾菜あおな御前は、それはそれは美しい女人であったのじゃが、なにゆえか、おかしいのう」

 真剣に悩む道久に、「はは。何を悩まれますやら」とテンションの低い安孫が、「父上が血のせいにございましょう?」と空笑いしながら、言った。

「む! わしとてその昔は、おなごらにきゃあきゃあ言われておったのじゃぞ! まったく、親に向かってなんじゃ、その物ぐさな態度は。……まあ、何はともあれ、それがそなたの限界じゃ。思う存分、主上に笑われて来るが良い」

 潔い道久の言動に、「はああ」と安孫が項垂れる。道久が用意した女房装束を着て、安孫は足取り重く、主の下へと向かった。


 同じころ、不動院ふどういん満仲みつなかもまた、女官に扮していた。召喚した式神——十二天将の一人、麗しい天后てんこうの化粧によって、今まさに、絶世の美女官が誕生しようとしていた。……が、満仲がつらつらと述べる要望に、天后も次第に苛立ちを隠せない。

「肌は白粉おしろいにて透き通り、瞼と目の周囲には栗色の顔料にて影を出し、薄桃色の頬紅と、真っ赤な紅を差すことで、絶世の美女の完成じゃ。まあ、もととなる顔が良いでな。化粧など薄くても良いのじゃが、彼奴きゃつらにぎゃふんと言わせしめるためにも、ちょい濃いぐらいが良かろう。ふふ。きっと主上も、女官姿のわしに惚れるじゃろう。三条のの悔しがる表情が目に浮かぶわ」

 絶対の自信を持つ満仲に、とうとう天后がプツンとキレた。主の要望通り、ポンポンポンと、一層濃い化粧を施す。

「お、おお、天后よ、れ以上はもう良い……!」

 慌てて満仲が制止し、つーんと天后がそっぽを向く。

「まったく、やりすぎにも程があるでな。まあ良かろう。どれ、鏡にて我が仕上がりを見せてみよ」

 不愛想な天后が、満仲に鏡を向ける。

「ふふ。どれどれ、可愛い可愛い満子みつこの誕生じゃな」

 上機嫌に鏡を覗いた満仲の目に、信楽焼のたぬきそっくりな自分の顔が映る。

「ぎゃふん! なんじゃこれは!」

「ふふ。たぬ子ちゃん」と、天后が「ぷぷぷ」と笑う。

「誰がたぬ子じゃ! 地味に嫌がらせするでないわ!」

 ぷいっとそっぽを向いて、天后がドロン!と消えた。

「こらっ、勝手に術を解くでないわ!」

 もう一度天后を召喚しようとするも、術札がブルブルと震え、大きな抵抗を見せる。

「くそう! 式神の分際で生意気な! もう良い! これで参内さんだいしてやるわ!」

 開き直った満仲は、本当にそのままの姿で、朱鷺ときの下へと向かった。


よく分かる相関図〜

水影→安孫 「武官は黙って文官の言うことに従うておれば良いのです」

安孫→水影 「ううむ。幼き頃よりの間柄、されど水影殿がことは今でもようわからぬ」


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