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帝と四人の瑞獣たち―偽世者(にせもの)―  作者: ノエルアリ
第2部「瑞獣偽者取替騒動」
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水影の証明

 黄呂おうろは再度牢へと送られ、決して自害せぬようにと、その口もまた封じられた。四人の瑞獣らは、自らは本物であると主張するも、帝自身が偽者を見つけ出さねば、この勝負は終わらない。期限は七日。御簾みすの中で一人鎮座していた朱鷺ときであったが、じっと前を見据えると、偽者を見つけ出すため、一人一人と向き合うことを決めた。


 翌朝——。

 まずは、鳳凰ほうおう——三条さんじょう水影みなかげ

「——さて、水影。今日は何をして遊ぼうか」

 突如、式部省に足を運んできた美丈夫イケメンに、他の文官らは騒然とした。その美丈夫イケメンが、まさか帝とは誰も思わない。その正体を知る式部卿こそ、(ひえ~、何故なにゆえ帝が斯様かような場所にっ……)と平伏したが、「騒ぎ立ててくれるな」という笑顔の裏に見えた帝の凄みに、「ぎょ、ぎょいっ」と急いで部下らに仕事に戻るよう命じた。

「……左様なことなどせずとも、私は本物にございますれば」

 冷静沈着な水影が、唐突に来省してきた朱鷺に言う。

「まあ、そうつれぬことを申すでない、水影。俺とそなたの仲であろう? さて、何をして遊ぶか」

 愉快そうに話す朱鷺に、「私は今、勤めの最中にございますれば」と、水影がつれない態度で仕事に戻る。

「そうだ。今日一日、式部省勤めのそなたに密着していよう」

「分かりました。今日は有給をとりまする。外で遊びましょう」

 職場で一日中ウザ絡みされることを恐れ、水影が、さっと有給申請を式部卿に提出した。

「うむ。それでこそ、我が瑞獣ぞ」

 嬉しそうに笑う朱鷺に、やれやれと水影が溜息を吐く。朱鷺に誘われるまま、市井しせいへと向かった。

「——随分と都の様子も変わったな」

 二人で市井を歩きながら、朱鷺が活気づく都の様子に笑みを浮かべる。

「主上が帝に即位されてから、盛んに公共工事が行われましたでな。都に不足する橋やら養護院やらの建設で、民の暮らしも向上したことにございましょう。まあ、財政面では、春日様が、えらく胃がきりきりとされておられましたが……」

「道久には感謝しておる。何だかんだで、俺の我儘を叶えてくれておるでな」

「まあ、三日で橋を架け、一日で養護院を建設するは、太政大臣、春日道久様以外、出来ぬ荒業にございますれば、あまり無茶を仰られてはなりませぬぞ」

「はは。肝に銘じよう」

「まったく……」

 小言を言う水影に、「晴政が生きておれば、今のそなたと同じことを申すであろうのう」と感慨深く朱鷺が言った。

「左様にございましょうか? 父上は、あまり口数の多い方ではありませなんだ。私が“視えざる者”らの身代わりとなって以降、極端に私とは会話をせぬようになりましたでな」

「されど、そなたが父、晴政は、確かな正義感を持つ男であったぞ。そなたのことも、兄、実泰さねやす同様、愛しておったであろう」

「さあ、それは如何どうでありましょうや。……兄、実泰は光。私は影。陰ながら嫡男、実泰を助け、影ながら生きて参れ——。そう父上には言われましたでな」

「ふむ。かげながらのう……」

「それよりも、今は、瑞獣の中に潜む偽者を見つけ出さねばなりますまい。幾度も申し上げた通り、私は本物の三条水影にございますれば、残る三人の内より、偽者を選定せねばなりませぬ」

「そうだのう。されど、そなたが本物であるという証拠もなかろう?」

「なっ、何を仰せになられまする! 私が本物だというくらい、主上であらば見抜いておられることにございましょう?」

 思わず声を荒げた水影に、「ふむ、おかしいのう。本物の三条水影であらば、これくらいのことで、声を荒げることもなかろうに」と朱鷺がジト目で疑う。

「くっ……! 私が本物たる証拠は……」

如何どうした? 本物の水影ならば、簡単に証明出来るはずぞ?」

 挑発するように、朱鷺が言う。立ち止まった水影が、徐に言った。

「……俺は、何者にもあらず。そこらに転がっておる石ころと同じぞ」

「ん?」

 突然、朱鷺の声色そっくりに、水影がその物真似をした。

「すまぬっ。臣籍の俺が、三条家の公達の名を馴れ馴れしく呼んでしもうた」

「んん? 水影、その台詞せりふはっ……」

「もう一度名を呼んでも良いか? みな——」

「分かった! そなたは本物の三条水影ぞ!」

 気恥ずかしさから、慌てて朱鷺が制止した。

「信じて頂き、光栄至極にございまする」

 本物の水影が、ぱああ!と偽物の笑顔で言った。

「暗黒期の俺の物真似をしてみせるとは、心の傷を抉らんとするの性根、真の三条水影に相違ない。まったく、我が鳳凰は恐ろしい瑞獣ぞっ……」

 強制的に仕事を休まされた腹いせも相まって、水影は、二人しか知らない会話でもって、自らが本物であると証明してみせた。


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