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帝と四人の瑞獣たち―偽世者(にせもの)―  作者: ノエルアリ
第1部「後宮女人失踪事件」
17/35

第一部 完

 後宮にて起きた女人失踪事件で、無事に後宮へと戻って来たのは、つる式部ただ一人であった。それ以外の女人については、残念ながら帰らぬ人として、禁中は触書ふれがきを立てた。鬼の中で一人生き残ったふうは、仲間の菩提ぼだいを弔うため、伊予二名洲いよのふたなのしまへと、遍路へんろの旅に出ることを決めた。

「また会いましょう、麒麟きりん

 そう言って、風が人の姿で麒麟に手を差し伸べた。

「うん。またね、風」

 固く握手を交わした麒麟が、「どこにいても、おれたちは友達だよ」と笑う。

「ええ。いつかアンタが窮地に陥ることがあれば、その時は、一番に駆け付けてあげるわ。約束よ」

「ああ。おれも風に危険が迫れば、いつでも助けに行くよ。約束だ」

 きりっとした麒麟の表情に帝の姿を重ねた風が、そっと笑う。そうして伊予二名洲へと旅立った風の背中を見送る麒麟が、しれっと隣に立つ満仲を見上げた。

「……霊亀れいき様、この国では、人と鬼は共存していくことは出来ないのでしょうか?」

「いとも容易たやすく同胞の首を掻っ切る者らゆえな。我ら人とは、相容れぬじゃろう」

「おれは人も鬼も、左程大きな違いはないと思いました。心の底にある想いは、同じではないかと。おれは風が、冷酷非道な鬼には思えません」

 俯く麒麟に満仲が目を据えるも、がしっと弟分の頭を掴んだ。

「いっ? 霊亀さまっ?」

「吉報を招く麒麟が落ちこむでない。御前おまえは前だけを向き、ただ光の方へと歩めば良いのじゃ」

「霊亀様……。はい。ありがとうございます」

「あの娘は鬼じゃ。冷酷非道な面を見せることもあろう。されど、その吉祥文様きっしょうもんようは、竹であったからのう。御前はその意味を存じておるか?」

「竹の意味? いいえ? 何ですか?」

「竹はのう、本来茎の中が空洞であることから、裏表のない“潔白”という意味を持っておる。ゆえに、御前の友が女中時分に見せておった顔こそ、本来のあの娘なのではないか」

 面倒見がよく、誰にでも親切。それが麒麟の知る、風という女人である——。いつになく満仲が格好良く見えた麒麟は、それでも嬉しそうに、「はい!」と笑って頷いた。


 無事に後宮に戻って来た蔓式部を、伊角納言いすみなごんが、泣くのを堪えて抱き締めた。

「蔓っ……!」

「伊角納言さまっ……」

 女同士の熱い友情を、あい式部として後宮に入った水影が見つめる。これが最後の後宮勤めであった。

「本当にありがとう、藍式部」

 伊角納言に礼を言われ、「『後宮物語』の続きを、楽しみにしております」と、女人の声色で、美しく微笑んだ。その姿に二人の女官が、ぽっと頬を赤く染めた。二人とも藍式部が男であると知っているが、彼が罪に問われないよう、その秘密は墓場まで持っていくつもりである。

「さあて、蔓。藍式部のお陰で想像力が掻き立てられたことだし、早速『続・後宮物語』の執筆といくわよ!」

「ええ。私も新しい“後宮の文官サマ”の可能性が閃きましたわ! 参りましょう、伊角納言様!」

 きゃっきゃと二人が部屋へと戻り、執筆に精を出す。

「やれやれ。もう二度と後宮に入ることはなかろうが、良い見聞の機会となったでな。……後宮での悲劇が二度と起こらぬよう、しかと御友人らを守られよ、朔良式部殿」

 後宮をあとにする前、水影が微笑む朔良式部の霊体に向かい、言った。

「貴殿の愛する御仁ごじんは、必ずや我ら瑞獣が御守り致します」

 そう礼を尽くした水影に安堵したように、朔良式部が友である伊角納言と蔓式部の下へと向かった。情熱を注ぎ、互いに良い作品を生み出す二人に寄り添うように、朔良式部が安穏の笑みを浮かべた。

 後宮から出た藍式部が女装を解き、三条水影へと戻る。松文様が描かれた扇を開き、禁中を歩く水影が、そっと笑った。

れにて、第一幕“完”にございますれば、第二幕も、うご期待あれ——」



次回から第2部開幕です!

ここまでのご感想等頂けましたら、咽び泣くほど舞い上がります。

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