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やさしい生き物

作者: 雉白書屋

 惑星探査船ビョートル号は暗き航路と暗雲立ち込めていた船内との板挟みになりつつも、ついに目標の惑星へと到着した。

 政府の杜撰な計画、無謀だと終始、愚痴を漏らしていた乗務員たちだったが降り立ってみれば嘘のように清々しい気持ちに。

 それもそのはず。外は自然豊かであり、空気が美味い。底をつきかけていた食料もここでなら補給できそうだ。全員浮かれ気味に、とは言え彼らはプロであり、ここは未知の惑星だ。

 そう、未知。目標の惑星へ到着と言っても、初めからここへ来ると決めていたわけではなく、生命反応及び、環境の良い星を探していたという意味。ゆえに情報は一切ない。

 ここへ来れたのは全くの偶然。トラブルにトラブルが重なり奇跡的に、というわけだ。

 食料を手に入れられそうな星を見つけ、船に積み帰るかそれとも今すぐに引き返し、その帰路で船員同士で食い合うかの二択。それほどまでに追い込まれていたのだ。


 ゆえに腹が減り、気が立っていたがそこはプロ。油断はしない。彼らは銃を構え、慎重に進んだ。


「あ、船長! あれを!」


 一人の乗務員が思わず声を上げた。そのさした指の先を船長や他の乗務員が目を凝らし、そして慎重に彼らに近づいた。


「おお、かなりの数だな。この星の住民だろうか」


「どんどん集まってきますね」


「ああ、知能はありそうだ。我々に興味を抱いたのだろう。

がしかし、かなりのんびりした生き物のようだ。

見てみろあの顔、あの緩慢動き。敵意を微塵も感じさせない」


「はい、しかしどうしましょうか。翻訳機なども故障し、あ」


 乗務員の一人が腰に付けた翻訳機を弄った時であった。うっかり片手で持っていた銃の引き金に触れ、発射してしまったのだ。

 放たれた光線が命中した原住民は仰向けに倒れると手足を折り曲げ白煙と肉が焼ける臭いを発しながらピクピク震える。


「おい! 何をしているんだ!」


「いっけね、誤射です誤射。お、でも船長。アイツら逃げたり襲っても来ずに

ほら、死にかけの仲間に寄り添い始めましたよ」


「む、本当だな……あ」


「あはは! 船長も誤射してんじゃないっすか!」


「仕方ないだろう。腹が減りすぎて指が震えたんだ。あ、こら、そこ! 撃つな! まったく」


「みんなストレス溜まってたんすよ。

まあ、たくさんいるしちょっとくらい、いいじゃないすっか」


「まあ、研究のために何体か死体で持って帰るつもりでいたがな。

でもちゃんと生け捕りにしよう。この様子だとそう難しくはなさそうだしな」


「はい。ははは、こりゃ楽でいいや。全然逃げねーな。

あ、でも生け捕りのその前に、おら! こっちこい!

食いもんだよ、食・い・も・ん! わかるか? 持って来いよ!

馬鹿がよ。もう何匹か殺すかぁ……」


「やれやれ、まあ最悪、こいつらをもう少し焼いて食えばいい。悪くない匂いだ」


「あ、さすが船長。良いアイディアっすね」



 こうしてビョートル号の乗務員たちは命を繋いだのだった。

 そう、繋いだ。


「おーい、何してる? サボるなよ。食料は大分積み込んだがまだまだ……あ、おい!」


「あ、船長、あは、あははは」


「おいおいおい、正気かお前」


「でも、はぁはぁ、コイツら、うっ、結構イイっすよ」


「ここに来て何日か経ったとはいえ、順応しすぎだぞ」


「あ、あざっす、はははっ」


「褒めてないんだがな」


「でも、ふぅ、船長もこの星を発つ前に、たっぷり発散したほうが良いっすよ。

何せ、うちの船の女はエリート面してヤラせてくれませんでしたもん。

それどころかネチネチ嫌味と我儘を言いやがって。殴ったら、あ」


「ああ、犯人はお前だったのか」


「あ、あははは、いっけね」


「まったくしょうがないやつだな」


「で、でも船長だってあの女の死体で楽しんでたじゃないですか」


「まあ、他になかったからなぁ。と、この話はおしまいだ。

あれは事故だ事故。星に帰った時、うっかり喋るなよ」


「はーい!」


「それと……そんなにイイのか? そいつらの中……」


「へへへへ、死体より、あったかいっすもんへへへへへ」


「そうか、まあ、うん。これも学術的な研究だな……」


「へへへへ」

「ははははは」



 こうして、犯された女たちの中で殺されなかったものは身籠り、そして子を産んだ。

 それは後の世で猿人と呼ばれ、さらに成長すると同じようにして産まれた他の個体とまぐわい、子を授かった。

 それを途方もない年月を繰り返し、やがて原人、旧人、新人と時を経て、今の人類となった。


 だから我々はこうも残酷な生き物なのだ。

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