光輝
「見ろバークレイ! 私にそっくりだぞ、こいつは!」
癖のない黒い髪に緑がかった黒い瞳、二重のまぶたに長く切れたまなじり、細い鼻梁に薄い唇、青筋が見えるほどに白い肌に頬骨から頬のふくよかさを削いでまっすぐに顎へと走った輪郭線――こちらの肩を抱いて鏡に映るほとんど私と瓜二つのこの少年の顔に私と違うところを探すとすれば、私の眉が下がり暗く戸惑った表情とは対照的な、眉を開いて嬉々と瞳を輝かせるその眩しいほどに明るい笑顔くらいのものだった。
「陛下、声が大きいです」
「陛下などと堅苦しい。ここには三人しかおらんのだぞ、我が愛する弟よ」
「……兄上が柔軟に過ぎるのです」
だからこの弟にたしなめられて不満気に頬を膨らませる少年が、偉大なる神の寵愛を受けて生まれし神の代理人にしてこの国の皇帝であるラートイ陛下であるなどとは、すぐには信じられないことだった。
「突然にこのような場所に連れてこられ、まことに驚かれたことでしょう。まずはお詫びを申し上げます」
年齢とは不相応に背が高く、威風を感じさせる謹厳な顔つきからは想像しにくい、やんわりとした物腰で頭を下げる皇帝の弟――バークレイ殿下の姿に私は目を瞬かせる。帝都の下町に暮らす孤児の自分に、皇族などという雲上の身分の人間が頭を下げるなど思いもよらなかったからだ。
確かに突然のことだった。下町を日払いの仕事を求めて歩いていたら、いきなり数人の男たちに「顔を貸してもらいたい」と囲まれて、そのまま帝都の郊外にある離宮のこの一室に訳もわからず連れてこられ、この二人の少年――皇帝陛下と皇弟殿下に対面したのだった。
「まずは理由と目的をご説明いたします。陛下は生まれつきお身体が強くなく病床に伏せられることも頻繁で、公の場を欠席されることも少なくありません。このため陛下の存在を軽んじる皇族や臣下が多くいるのです。ですから我々は陛下の身代わりとして陛下の公務を行えるものを欲して市井を探し、あなたを見つけ出した次第です。こちらの鏡に見るようにあなたと陛下はとてもよく似たお顔をされて――」
「だからお前は堅苦しいのだ、弟よ」
バークレイ殿下の丁寧な説明にラートイ陛下が口を挟む。私と同じ顔をした皇帝陛下は、いたずら小僧のような不敵な笑みを浮かべながら私の鼻先に指を差してこう宣言された。
「お前は今日から私の――偉大なる神より光り輝くものの名を授けられ、紫紺の衣に包まれて生まれし皇帝である私の影となるのだ! 光輝の影として生きて死ね!」
このとき陛下が見せてくださった、呆れるほどに傲岸不遜でいて、清々しいまでに無邪気で力強く、夜明けの澄んだ空気に射す朝の陽射しのように輝く笑顔が、光輝の名の通りに私を照らし、私に影を与え、私を影として生まれ変わらせたのだった。