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【完結】殿下、その依頼お受け致します!  作者: 鉤咲蓮
一章 天使の秘密

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1.殿下、今そちらへ参ります。

 


 紳士淑女の皆々様、ご機嫌よう。

 今宵も健康に()()()おいででしょうか?

 わたくしはシュミット侯爵家の長女、ユリアと申します。


 背中まで伸びた真っすぐな黒髪、吊り目でも垂れ目でもない平凡な目に赤みの強い紫の瞳。

 本日は城の夜会へ参加すべく、紺色の生地に金糸で花模様を縫い取ったドレスを着ております。身を飾るネックレスやイヤリング、髪飾りなどはシンプルにダイヤをあしらったもの。


 夜会と言っても特別で、第二王子であるエドゥアルト殿下の十八歳の誕生日会です。

 第一王子殿下が病弱という事もあり、今宵のパーティーではエドゥアルト殿下のご婚約と立太子が同時に発表されるのではないか――そう囁かれております。


「緊張しているのか?ユリア。」

「お恥ずかしい限りですが、少しだけ。」

 会場入りのエスコートをしてくださったお兄様は二十歳、わたくしの三つ上です。

 後ろへ流した黒髪はほんのひと房だけ前に垂れ、凛々しくつり上がった眉に色っぽくかかっています。バランスよく鍛え上げられた肉体に背の高さも相まって、美丈夫とはまさに我が兄のこと、などと思ってしまうほどでした。


 身内自慢はこのあたりにして、今夜のわたくしのターゲットを探します。

 会場を見回すと、側近と共にそっと出ていく彼の姿を認めました。よくご令嬢達を撒けたものです――あぁ、人気の公爵令息様を犠牲(おとり)になさったのですね。なるほど。


 話しかけてくださる方々にご挨拶しながら、わたくしはそれとなくお兄様と離れました。ちらとだけ合った目線で「行ってこい」の言葉が伝わります。頑張って参りますね。

 お兄様へ心の中で手を振り、馴染みの方々と優雅に挨拶を交わしながら移動です。



 ここで我が国の王子様がたについて、もう少し。

 第二王子エドゥアルト殿下は王妃殿下との間に生まれた唯一の子で、陛下も目をかけていらっしゃいます。第三王子殿下は第一王子殿下と同じく側妃殿下の子です。


 燃えるような赤髪のエドゥアルト殿下は武勇に優れますが、政務は可もなく不可もないといった所。身体を動かす方がお好きなようです。

 幸いにも第三王子ディートリヒ殿下が優秀な方で、エドゥアルト殿下で判断が難しいものも代わりに任されているとか。


 ならディートリヒ殿下は王太子に相応しいかというと、「お優しいが故に貴族の懐に優しくない」ですとか、「言う事を聞いてくださらないだろう」つまり傀儡にならないとか、「側妃は公爵令嬢だがあくまで養子で、生家は子爵家じゃないか」などという事で、貴族院は反対派が多いのだそうです。

 ご本人も兄の治世を支えると公言されたとか。


 エドゥアルト殿下が王太子になるならディートリヒ殿下のサポートはもちろん、婚約者となる令嬢――いずれ王妃になる方も、優秀な令嬢が望ましい。

 つまり、王立学園を首席で卒業したアイレンベルク公爵家のエルフリーデ様です。


 エドゥアルト殿下と同じ十八歳で、金糸のような美しい御髪に意思の強い碧の瞳をした華麗なお方です。

 公爵令嬢として立ち居振る舞いも堂に入っており、言うべき時はハッキリした物言いをなさいます。気が強過ぎると邪見にする方々もいるようです。


 そもそも、卒業と同時に二人は婚約発表ではと囁かれた事もあったのですが……残念ながら、何もないまま一年が経過しました。

 なぜかと言うと……



「どうしましょう、緊張で胸が苦しくて……あの方に私達の仲を認めて頂けると良いのですが…」

「リリィ、君の事は俺が守る。どうか安心して身を任せてくれ」

「エド様……!」

 会場のバルコニーで歌劇さながらに抱き合う男女を横目に、わたくしはさっさと通り過ぎました。誰も二人を邪魔しないようにと、カーテンの前に立つ護衛騎士たちの顔は虚無です。


 今しがた格好をつけておられた赤髪の殿方が、第二王子のエドゥアルト殿下。

 そして見目麗しいピンクブロンドの彼女は、リリアン・カルク伯爵令嬢。

 「両親が無計画に作りまくった弟妹の未来と借金返済のため、この生まれ持った愛らしさを武器に何ッとしても高位貴族の愛妾になったるわい!」……とのし上がった根性の人です。

 本人が誰もいない教室で言っていました、拳を突き上げて。


 わたくしにとって、お二人は一つ上。

 学園でのリリアン様は女子寮の自室で一人クッションに顔をうずめ、「うぎゃぁあ何なのあのむず痒いセリフ!でも殿下はそういうのが好きだし!」と足をバタつかせたり、「背中を指でなぞるのを!やめろ!人目を!はばかれ!!」などと叫んでベッドを殴っていたのですが…今もやっているのでしょうか?少し気になります。



 なぜ、そんな事を知っているか。

 それはもちろん、わたくしに課せられた任務が彼女の調査、場合によっては暗殺()()()からです。



 シュミット侯爵家の直系は皆が優秀な暗殺者。

 未熟な頃は仕事を回してもらい、一人前になれば自分で仕事を取り、やがては生涯仕える主を自ら選びます。お父様が陛下に仕えるように、お兄様が宰相閣下に仕えるように。

 一生根なし草でいるのは珍しく、そして難しいこと。


 エドゥアルト殿下が二年生に上がった頃から、リリアン様との仲は怪しくなりました。

 婚約者候補の筆頭であったエルフリーデ様の依頼を受けたのがわたくしです。


『彼女の狙いを調べなさい。わたくしを蹴落とそうなどと願う愚か者であれば、死を。』


 結果リリアン様は愛妾で良いと考えており、けれど予想以上にエドゥアルト殿下が自分を離さないため、エルフリーデ様に挨拶も内々の話もできずに困っていたようでした。

 そこをわたくしが繋ぐ事も可能でしたが、エルフリーデ様は不要とのこと。「その程度を自陣でできない女は、王の側妃にも愛妾にもなれませんわ」だそうです。


 反対にエドゥアルト殿下は、能力の足りないリリアン様を王妃にする気満々に見えます。

 本人が「私に王妃業務は難しいのでは」と言っても、「謙遜するとは可愛いヤツめ」コツン、などとする始末。

 リリアン様の笑顔は引きつっておりましたが、殿下は気付かなかったようです。あれが恋は盲目という事なのでしょうか。


 報告を聞いたエルフリーデ様は呆れ果て、かなり愛想が尽きたようでした。リリアン様の実家を助ければ彼女は穏便に消えたのでしょうが、施す気もないと。

 そして然るべき時がきてもエドゥアルト殿下が現実を見れないなら()()()と、ハッキリ決められたのでした。

 依頼をこなしたわたくしはその後を知りませんが、今日きっとその結末を見届けるのでしょう。



 という事で、本日のわたくしのターゲットはリリアン様ではありません。

 まだ我が家の誰にも依頼した事がない、けれど無垢ではいられないだろうお方。


 第三王子ディートリヒ殿下。


 殺す?いいえ、売り込みです。

 わたくしはシュミット侯爵家の娘、腕には自信がある。生涯お仕えするからにはそれなりの格を求めたいし、「お父様のように王家の方に仕えられたら」という漠然とした憧れもありました。

 とはいえエドゥアルト殿下は遠慮させて頂きたいので、ディートリヒ殿下に目をつけたのです。


 わたくしと殿下は同学年。

 共に学園生活を送りましたが、実は在学中はろくに関わった事がありません。会話も挨拶程度のもの。わたくしはあまり目立たないように過ごしたので、殿下の周りはそれとなく避けていました。


 少しでも「居ると困る人」や「迷惑が過ぎる人」がいらっしゃれば、お力になりましょうかと《ご案内》を送るのも(やぶさ)かではなかったのですが……まるっと四年間、ついに機会は無く。

 お陰で卒業した今になって、こっそりお話ができないかと探った末の今日という事です。



「~~……、……?」

「……!………。」

 控え室の並ぶ廊下を歩いていると、ディートリヒ殿下が側近のニクラス・レヴィン様と話す声が微かに聞こえました。

 こちらへ向かわれたのは見えましたが、なるほど用意された控え室ではなく別室にいらっしゃいましたか。


 室内の気配は二人。

 護衛がレヴィン様以外にいないのは少々不用心ですが、目立たないためですね。わたくしは隣の部屋に気配が無いことを確認し、さっくりと解錠して内鍵を閉めました。

 脱出用にバルコニーへのガラス扉を開け…あら?殿下達の部屋もバルコニーへの扉が少し開いているようです。声が少し漏れ聞こえている。このままここから探った方が早そうですね。


「お前もいい加減行ってみたらどうだ?」

「行かないと言ってるだろう。」

 揶揄(からか)うようなお声がレヴィン様。

 彼は殿下の幼馴染みで、二人の時は気安い口を利くのです。殿下は呆れたようなお声ですが、一体何のお話でしょう……?


「王家はイメージが大事ってのもわかるぜ、お前の兄上なんか見てると特にな。だからお忍びで頼めばいいじゃないか。ちゃんと金払えば腕の良い…」

「万一があったらどうする、私は無責任な真似はしたくない。」

 内密に頼む必要があり、腕の良さは依頼料による。ふむふむ。

 露見すると王家のイメージ的にまずいのですね、殿下は無責任な雇い方はしたくないと。えぇ、雇うなら信用と頼れる腕がいります。


「心配か?向こうも仕事だし、薬でも用意すればいいだろ。」

「くどいぞ」

 まさかとは思いますが、雇う相手の身の心配を?それは優し過ぎるというものです、殿下。そして「薬」ときましたか……間違いなく毒薬の事でしょう。わたくしも精通しております。

「へいへい、お綺麗なこって。」

 汚れ仕事という事ですね。

 これは絶対に裏稼業の者をお探しです、希望が見えて参りました。


 しかし殿下は渋っておられるご様子、申し出ても「暗殺なんて!」と糾弾されてしまうでしょうか?

 当然ながら、我が家の事情は大っぴらにはしていないのです。正義感の強い方に知られると危険ですので。表向き、父はあちこち飛び回る外交官です。

 もちろん暗殺でなくとも、リリアン様の時みたく情報収集ですとか、色々お役に立てるのですが……


「…そも、私は………しか、そういう事は……」

 殿下、もう少し大きい声でお願いします。

 鍛えておりますので常人よりは五感の能力が高いと自負しておりますが、さすがにその小ささでは聞こえません。


「わかったわかった、真面目なお前らしいよ。早く良い子を見つけるんだな」

「簡単に言ってくれるな。」

「ほら、例の天使ちゃんは?」

「この流れで彼女の話を出すな!」

 殿下が怒ったように言い返して、レヴィン様がまた適当な相槌を打っています。

 裏稼業で「天使」ですか?


 ……まさかとは思いますが、お父様がわたくしを「僕の悩殺天使ちゃん」と呼ぶ事がバレている?


 お父様はわたくしを見ると「娘が可愛い!見てるだけで死んじゃう!」などとはしゃぐのですが、そんな内々の事が王子殿下と側近に知られているのですか。なんと恐るべし王家の情報網。

 むしろ、お父様が陛下に教えたのでしょうか?むむむ。


「参加って返事だったんだろ?会場戻ったらもう来てるかもしれないぞ。」

「そうだが……話すなら落ち着いたところが良いだろう、彼女は騒がしい場所は嫌っている。」

「兄の方は何とか俺が剥がしてやるから、ちょっと話してみろよ。」

「どの道、兄上(主役)の挨拶を終えた後の方が良いだろう。」

「そうかぁ?」

 兄と一緒に来ているだろう彼女……少なくともさっきまで会場にいなかったという事は、やはりわたくしでしょうか?

 裏稼業の令嬢もそうはいないでしょうし…ですが、どうしてわたくしが暗殺者という事まで知っているのでしょう。お父様が愛称をポロッと零すのとはわけが違います。

 誰かがお教えになったのなら、その情報が当家へ入っていなければおかしいのです。


「天使ちゃん可愛いんだから、声かけるなら早くしとけよ。誰かに取られるぞ」

「…わかっている。」

 あら。これはどうやら、先ほどまでの不穏な話とは別件だったようです。

 ディートリヒ殿下は誰か可愛らしい方を想っていて、レヴィン様がそれを天使ちゃんと揶揄っていただけのようですね。


 一人納得していると、レヴィン様だけ先に部屋を出るご様子。

 婚約者様が到着する頃だからエスコートせねばと、まだお相手が決まっていない殿下を少しからかいながら出ていきました。


 部屋には殿下一人。


 頃合いですね、バルコニーから失礼する事にしましょう。

 お兄様と違ってドレスで動く訓練もしておりますから、これくらいの手すりは簡単です。殿下のお部屋のバルコニーまでは、一メートルちょっとでしょうか。

 せーの、


 タンッと軽やかに飛びましたら、キィと扉が開いて人が出てきました。



「なっ――!?」



 あら、殿下。




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