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パパ上、神様になりました!

処女作になります。

よろしくお願いします。

「……これ、で!終わりだッ!」


 無限に存在する宇宙の果てまで干渉する程のエネルギー。その全てのエネルギーが雄叫びを上げた男の拳に集約する。


「や、やめろッ!我はーーーーであるぞ!人間如きがッ!神たる我にッ」

「テメェの面にももう飽き飽きだ!この拳で全てを終わらせるッ!!」

「その身体で世界の力は耐えられぬぞッ!」


 相対する神の言葉通り男の体は満身創痍であった。

 身長190センチを優に超える美しい男。

 だが、その偉丈夫は数ヶ月に及ぶ神との戦いにより、今立っていることが不可思議な程にダメージを負っていた。

 右足は膝下から切断されており、左腕は存在せず、大小様々な裂傷、打撲、極め付けは胸にポッカリと空いた穴か。

 穴からは止めどなく血が流れ、命がそう長くないことが分かる。


「はっ!これで終われるかよ……!嫁が……娘が待ってんだ!ここでテメェを殺して家族の元へ帰るまで俺は死なねぇ!」

「戯言をッ!我の玩具の分際で……神に楯突くなどッッ」

「もうテメェの御託はいい!これが正真正銘最後だッ」


 言い終えると男は一息の間に神聖な法衣を纏った神との距離を詰める。

 文字通り血反吐を吐きながら迫る男に一瞬たじろぐ神。数万、数億、数兆ーー那由多の彼方以来の自分に向かいくる敵の気迫に圧されてしまったのだ。

 そして極限の戦いにおいてその一瞬は決定的な隙となった。

 全能の力を行使する間もなく、全宇宙を破壊する拳が神へと突き刺さった。

 常時展開している何重もの障壁、純粋なエネルギー、あらゆる守護の概念を突き破ってとうとう神へと届いた。

 拳に集約していた膨大なエネルギーが神の肉体と魂を蹂躙する。

 全宇宙と同等の質量を持つ魂がひび割れ、その質量を吐き出していく。


「こ、こんなことが……。我の魂が漏れ出ていく……」

「はぁ、はぁ……流石にもう限界だ……」


 膝をつき貫かれた胸を押さえる神と、前に倒れ込む男。

 そして次第に神から漏れ出た魂の残痕が倒れ込む男へと吸収されていく。


「これは我が先代の神を討ち取った時と同様の……」


【神クァズダーフィヴジムの弑逆を確認。神殺しを達成しました。世界法則に従い神クァズダーフィヴジムより薊 垓(あざみ がい)に存在の力が移動します】


 垓とクァズダーフィヴジムの頭の中に抑揚のない声が響く。

 その言葉通りにクァズダーフィヴジムの魂がどんどん小さくなっていき、逆に垓の魂はどんどんとその質量を増やしていく。

 魂が大きくなるにつれダメージを負っていた肉体は癒えていった。

 右足、左腕、胸の穴と急速に再生していく。


「な、なんだこれ」

「……神の世代交代だ」


 魂の質量を吐き出し続け、息も絶え絶えのクァズダーフィヴジムはそう言った。


「あん?世代交代だ?」

「……業腹だが、我は貴様に敗れてしまった。故に古来より続く神の世代交代の儀式が始まったのだ」

「テメェ最初から神じゃなかったのか!?」

「我は五代目の神だ。数えるのも馬鹿馬鹿しい程昔に貴様と同じく先代の神を殺して神へと至った」


 垓にとっては驚くべき事実であった。

 神とは世代交代があるものであり、それは神殺しを行なってなる儀式だということ。

 クァズダーフィヴジムも神になる以前は垓の故郷である地球がある宇宙とは別の宇宙の者だったそうだ。


「これより貴様は神へと至る。その時点から貴様は永遠に孤独だ。生は無限に存在し、全能の権能は己を堕落させる」


 それは垓が初めて怨敵から聞いた寂しげな言葉だった。

 数多の世界を玩具と言い、弄んだ全ての生命体の敵。己を愛する家族から引き離した張本人。

 そんな神とは名ばかりの悪魔から聞いたその言葉にやっと垓は悟った。


 死ぬことすら許されない無限の命、全能という力。

 神は無限の命に飽き、自分自身を失ってしまったのだ。


「……それはテメェに家族がいなかったからだ。俺には愛する嫁さんと、目に入れても痛くない娘がいる。無限の生は分からんが、家族がいる限り俺は一生孤独じゃないよ」


 クァズダーフィヴジムの魂が垓の内に入ることで彼のこれまでの記憶が頭の中で再生される。


 ある惑星の戦士であった男は純粋に力を求めた。

 戦いに明け暮れ、惑星間戦争を経て、世界を越え戦いを求め、いつしか唯一神である先代をも討ち取った。


 幸せだった。

 憧れていた最強の座についた。

 並ぶ者のいない真の頂点に立った。

 正に至福、恋焦がれた最強を証明できた。


 だが、同時に孤独だった。

 力のみを求め続けた俺はこれからどうすればいい。

 挑戦すべき敵がいない。全能故に求めるべき力もない。

 仲間も家族もいらぬと遠ざけた彼に残されたものは何もなかった。


 それから幾星霜。

 目的も存在意義も失った神は発狂した。


 世界とそこに暮らす生命を玩具箱、玩具と称し、弄び始めた。

 時には平穏な世界に狂乱を。

 時には己自身で世界を壊した。


 かつては武の求道者だった男は邪悪なモンスターへと変貌してしまった。


 クァズダーフィヴジムの記憶を見た垓は哀れみの目を彼に向ける。


「……そうなる前のテメェとなら仲良く出来ただろうな」

「……ありえぬ話だな」

「まぁ、テメェが許されることはないが、最後くらい俺が看取ってやるよ」

「……余計な世話だ。馬鹿者が」


 その言葉を最後にクァズダーフィヴジムは消え去った。

 残された光の粒子が垓の体に吸収される。


【神クァズダーフィヴジムから薊 垓へと存在の力の移動を確認。新たな神 薊 垓の誕生を祝福します】


「終わった、か……」


 垓はこれまでの怒涛の日々を思い出していた。



◇◆◇◆◇◆◇◆


「んじゃ行ってくるわー」

「うん、行ってらっしゃい。今日は何時頃帰ってくるの?」

「今日も何時になるか分からんわ」

「了解、帰ってくる時連絡して」

「おっけー。おー!たまきー!はぃ、よしよし!今日も可愛いのう!」

「きゃっきゃっ」


 毎朝の光景。

 垓が仕事に出る前の変わらない光景。

 愛する妻の薊 うずらと生後8ヶ月になる愛娘の薊 環(あざみ たまき)に送り出される。

 二人とも掛け替えの無い家族だ。

 世間一般にはブラック企業と呼ばれる会社でもなんとかやれているのは家族の存在があるからだった。

 ブラック企業で心を病みながらも家族の存在で心を癒やして、ささやかながらに幸せに暮らしていく。


 そう思っていた。


 妻にねだり購入してもらった愛車で出社している途中、光が垓を車ごと包み込んだ。


 光が収まるとそこは見知らぬ建物の中。眼前の玉座に座る男が言うにはここは異世界だということ。

 侵攻してくる魔族とその親玉たる魔王から勇者として人を救ってほしいとのこと。

 家族の元へと返せと暴れる垓に、魔王を倒せば帰還できると言う王。

そこからは怒涛の日々であった。

 1日でも早く帰還するために死に物狂いで魔族と戦ってきた。

 仲間と共に魔王を討ち取った。

 それが終わりではなく、魔王を裏で操っていた邪神を討ち取った。

 更にそれも終わりではなく、邪神の主君である邪王神を討ち取った。

 更に更にそれも終わりではなく、別世界の神王を討ち取った。

 更に更に更に…………


 遂に無限に存在する全ての世界に君臨する唯一神を討ち取った。


 既にこの戦いに着いて来れる仲間はおらず、単身唯一神にトドメを刺したのだった。


 かつて魔王、邪神を討ち取っても地球に帰還できなかった垓は、それでも希望を捨てずに迫り来る敵を倒した結果、彼は唯一神へと至る。


 神様になったパパ上地球へと帰還する。


 愛する家族の元へと帰るためとうとう神様になった男のその後の物語。


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