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死の世界へようこそ  作者: 路明(ロア)
Episodio sedici 仮面舞踏会
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Mascherata 仮面舞踏会 III

 広間には人が入り乱れ、顔を隠しているのもあって誰が誰やらという感じだった。

 熱気と蝋燭(ろうそく)の火で少々暑い気がする。

 首を伸ばし叔父の姿を探したアルフレードを、先に叔父が見つけ大きく手を振った。

「おお、やっと来おったか、アルフレード」

 アルフレードは顔を(しか)め、叔父の方に駆け足で走り寄った。

「仮面を付けているのに名前を呼ぶのはやめてください」

「まだ誰も持ち帰っておらんかったのか」

 アルフレードの背後の辺りを眺める。

「そういうつもりは今回はありませんから」

 言いながらアルフレードは、再び首を伸ばして辺りを見回した。

「せっかく息抜きの場を提供してやったのに」

 叔父は大きく額の皺を寄せた。

「ほら、あそこのお胸の豊かなご婦人などは」

「あなたは胸しかないんですか」

「ドレスを着て顔を隠しとりゃ、胸しか分からん」

 アルフレードは叔父の指した方向を何気なく眺めた。

 視線の先にいた(とき)色のドレスの女性が、口元を隠していた扇をずらし口の端をクッと上げて笑いかけた。

 アルフレードは目を眇めた。

 何度も見た笑い方だ。 

 叔父が、おっ、と声を上げる。

「こちらに笑いかけておるぞ。興味を持たれたのではないか?」

 無言でアルフレードは別の方向を見た。

 数人の客に紛れて背中を向けていた男性が、こちらを振り向きやはり口の端を上げて笑う。

「豊かなお胸に興味は無いのか? どんなのが好みだ」

 叔父は耳打ちするように顔をアルフレードに寄せた。

「グエリ家の令嬢のような、淑やかなタイプか」

「淑やかさだけに(こだわ)りはしませんが……」

 上の空で答え、アルフレードはまた違う方向を見た。

 離れた場所にいた女性が、視線を向けた途端に扇をずらし笑うように肩を揺らす。

「気の強いのでもいいのか」

「特に気にはしませんね……」

 反対の方向を見る。

 談笑していた若い男性が、唐突にこちらを向き口の端を上げた。

「嫉妬深いのとか」

「そうですね」

 アルフレードは適当に返事をした。

「嫉妬して刃物を振り回すタイプとか」

「ええ」

 更に別の方向を見る。

 目線の先の男性が、口の端を上げたあと肩を震わせ笑いを(こら)えるように下を向いた。 

 アルフレードは短く息を吐いた。ここにいる全員が人質と言いたい訳か。

 私室で無理やりに決闘に持ち込んだ時と同じだ。

「お前、女の好み変わったか?」

 叔父が困惑した声で言った。

「何のお話でした」

 アルフレードは前方を睨んだまま腕を組んだ。

 ベルガモットはまだ復活しないのか。

 豪華な内装の天井をぐるりと見回す。

 夜にはと冥王は言っていたが、もう少しかかるのだろうか。

 音楽が変わった。

 テンポは良いが、短調のやや不安を煽る出だしだ。

 流れるようでありながら不穏なフルートの音色が会場を貫く。

 荘厳で華やかでありながら退廃的な印象の旋律だ。

 お、と叔父が顔を上げる。

「お前の得意な曲じゃろ」

 来たら演奏を始めるようにしていたな、とアルフレードは眉を寄せた。

「相手も決めんうちに演奏を始めおって」

 叔父は楽団の方を見て口を尖らせた。

「まあ、こんな会じゃ。一人でおるご婦人を適当に誘って」

「結構です」

 アルフレードは片手で仮面を直し前に進み出た。

 自分が標的になればいいのであろう。



 望み通り遊びを提供してやろう。





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