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死の世界へようこそ  作者: 路明(ロア)
Episodio quattrodici 舞踏会前夜
53/74

all'ingresso. 玄関ホールにて

 日中でも薄暗い屋敷の廊下。

 アルフレードはつかつかと歩きながら手袋を直した。

「ピストイアですか?」

 後ろを歩く執事が(しわが)れた声を上げる。

「様子を見て来る」

「これからですか」

 ああ、とアルフレードは返した。

「もしかしたら何日かかかるかもしれん」

「執務が溜まっておられますが」

 落ち着いた口調で執事は言った。

「お前の裁量で決められる所は決めてくれ」

 敷物は敷いてあるものの、古い屋敷の廊下は靴音が響く。

「ピストイアのような近場なら、すぐに戻られることも可能では」

「何が起こっているのか分からんからな。すぐに帰れるかもしれんし、何とも」

 アルフレードは言った。

「別の者で良いのでは」

「もしかしたら教会と揉めているのかもしれん。それだと別の使いが行っても同じことになる」

 薄暗い廊下を抜け、朝の薄い陽光の射す玄関ホール前の階段へと差し掛かった。

 扇状の階段を早足で降り、玄関ホールへと出る。

「坊っちゃま、行ってらっしゃいませ」

「行ってらっしゃいませアルフレード様」

 アルフレードはピタリと立ち止まった。

 他の使用人に混じり、赤毛の女中と馬丁が並んでお辞儀をしている。

「お前ら、また一緒にいるのか」

 アルフレードは眉を(ひそ)めた。

「ち、違います。ここでたまたま会いました」

 赤毛の女中は、両手を胸元で振り僅かに後退った。

「俺、厨房係の人にお届けするものがあって」

「そうか」

 アルフレードは短く言った。

「え……。坊っちゃま……?」

 女中が怪訝そうな表情で顔を見上げる。

「嫌そうな顔はそれだけですか?」

「そんな顔してたか?」

 アルフレードがつかつかと玄関扉に向かうと、従者が姿勢よく扉を開けた。

 窓が少なく薄暗い玄関ホールに、陽の光が射し込む。

 アルフレードは執事の名を呼んだ。

 執事が背後で返事をする。

「戻るまで、こいつらに私の部屋の掃除をさせておけ」

 赤毛の女中と馬丁を指差し、アルフレードは言った。

「二人にですか? 女中の方だけでは」

「こいつら二人にやらせていい。ただし」

 アルフレードは二人に近付くと、声音を思い切り落とした。

「それ以外の仕事中にいちゃつくな」

 すぐに踵を返す。

「掃除中に少々会話するくらいなら構わん。朝夕一回ずつやれ」

「え……朝夕ですか?」

 女中が困惑したように言う。

 アルフレードは構わず執事の方を向いた。

「掃除の監督頼む」

「はっ」

「それと……」

 宙を眺め、アルフレードは言っておくべきことを頭の中で纏めた。

「もしまた、ここの跡継ぎを名乗る輩が現れたら、誰を名乗ろうが構わん、追い返せ」

 執事が僅かに首を傾けた。

「ピストイアに何をしに行かれるおつもりですか?」

 訝しげに問う。

 質問の意図が掴めずアルフレードは眉を寄せた。

「目的は再三話したはずだが?」

「そんなことまでご心配なさってお出掛けになられたことは有りませんでしたから」

 アルフレードは、執事から目線を逸らした。

 ナザリオがまた何か仕掛けて来たら、対処出来るかどうか分からない。

 先日の私室での出来事を考えたら、今度こそ本気で殺しに来るだろう。

 戻れないということもあるかもしれないという考えは、頭の片隅にあった。

「他に、何か深刻な要素がおありなのでは?」

 執事は言った。

「それなら、お前に相談しているはずだろう」

 そうアルフレードは言った。

 さすがに目を合わせられず、手袋を直すふりをしてさりげなく目を逸らした。

「おかしなことを聞くようですが……無事にお戻りになるつもりがありますか?」

「何を言っているんだ、お前は」

 アルフレードは言った。穏やかに言ったつもりだったが、吐き捨てるような口調になった。

「ラファエレの家に行くだけだろう」

 アルフレードは玄関から踏み出した。

「せめて従者をお連れになってください」

「十二、三になる頃には、ひとりで馬で行っていた。慣れた道筋だ」

 ええ、と執事は返答した。

「あの家のご当主は、随分とアルフレード様がお気に入りで」

「ラファエレが亡くなってから、余計にな」

 アルフレードは微笑した。

「あの御家に行くこと自体は心配しておりません。ただ」

「行って来る」

 無理やりに話を打ち切り、アルフレードは玄関のエントランスを後にした。





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