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死の世界へようこそ  作者: 路明(ロア)
Episodio dodici 地下墓地の令嬢
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Signora delle Catacombe. 地下墓地の令嬢 II

 気の渦が止み、静かになった。

 アルフレードは、クリスティーナの埋葬された場所を遠目にぼんやりと眺めていた。

 二人の墓掘り人夫が、上体を上下させ懸命に穴を埋めている。

 薄茶色の棺の(ふた)はとうに見えなくなり、墓掘り人夫の作業は、今は埋葬というよりも後片付けといった雰囲気に近かった。

 土をかけては、とんとんと表面をスコップで叩く。

 周囲の参列者は、半分程はやや冷めた様子で、そわそわと立ち去るタイミングを伺っているように見えた。

 平らに(なら)した土を眺めてから、墓掘り人夫はグエリ家の使用人に「こんなもんですか」というような視線を送った。

 棺に横たわったクリスティーナの、花に囲まれ綺麗に着飾った最期の姿を思い浮かべ、アルフレードは俯いた。

 コツ、コツ、と優雅なヒールの靴音が近付く。

「気の毒ではあったが」

 動きに合わせて黒髪をゆったりと靡かせ、ベルガモットが言った。

「あのような禁忌の行為をやり始めた時点で、こうなることは決まっておったようなものだ」

「禁忌の……」

 アルフレードは俯いていた顔を上げた。

「あの(まじな)いを知っているのか?」

(まじな)いなどであるものか。あれは、やると気が触れると言われておる行為だ」

 ベルガモットは肩を竦めた。

 アルフレードは、許嫁(いいなずけ)の埋葬された辺りをもう一度見た。唇を震わせ、死の精霊の顔に視線を移す。

「知っていたのか……?」

「古来から禁忌とされておる行為だからな」

 アルフレードは大きく目を見開いた。

 彼女の危険な状況について知っている者がこんなに近くにいたのに、なぜこんなことになった。

 どこで気付いてやれば良かった。

 軽い臆病風であろうと軽く見ていた自身を責めた。

「君は……クリスティーナがあれをやっていた場に、いなかったか?」

「おったが?」

 ベルガモットは淡々と答えた。

 アルフレードは更に目を見開き、死の精霊の美しい顔を凝視した。

「なぜ教えてくれなかった」

「お前がやっていた訳ではないからだ」

 ベルガモットは平然とそう答えた。

「それでも教えてくれても……」

「なぜだ。あの女は、わたしの下僕でも何でもない」

 アルフレードは、呆然とベルガモットの顔を見詰めた。

 出逢いのときの態度に反発はあったものの、いつの間にか彼女とは、心が通じ合っているかのような錯覚を起こしていたことに気付いた。

 だが違うのだ。

 ナザリオの言う通り、やはり彼女は生身の人間とは相容れない人外の者なのだ。

「……それが君の価値観か」

 ベルガモットが、やや困惑したように眉を寄せた。

 表情の意味は分からなかったが、アルフレードは追及することもなく背を向けた。

 離れた場所で、従者が横目でこちらの様子を伺うかのような向きで立っていた。

 アルフレードの気が済むまで、何の口出しもせず待っているつもりだったのだろう。

 アルフレードは、従者に向けて「帰る」と動作で示した。

 先に墓地の出入り口の方に向かって歩き始める。

「悪いが……当分君の顔は見たくない」

 ベルガモットから離れる際、アルフレードはそう言った。

「下僕に、(あるじ)と会う会わないの選択の自由などあると思っておるのか」

 ベルガモットは、声を張った。

 強がるような口調にも聞こえたが、気のせいだろうとアルフレードは思った。

「そもそも主従など承知した覚えはない。承知する理由もない」

 アルフレードは、出来うる限り感情を抑え言った。

「それで蘇生を取り消すというなら、そうしてくれ」

「ふん……」

 ベルガモットは、小さく鼻を鳴らした。

 アルフレードが構わず歩を進めると、ベルガモットは背後から吐き捨てるように言った。

「当分顔は出さん。気が済むまで泣き暮らしておれ」





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