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死の世界へようこそ  作者: 路明(ロア)
Episodio quattro 沈黙の迷宮
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Labirinto di silenzio. 沈黙の迷宮 III

 玄関扉を少しだけ開け、アルフレードは屋敷の中を覗き見た。

 親戚宅の玄関扉を手ずから開けるのも滅多にないことだが、屋敷の中を覗き見るなど初めての経験だ。

 馬丁の話通り、中には誰の姿もなく物音一つない。

 扉を大きく開けて中へと入る。

 足元を見回す。馬丁が入ったときの痕跡を探したが、それらしいものはない。

 あれはよほど慎重に入ったのか。それともその後、掃除をした者でもいたのか。

 乳白色の壁と床に、金の飾りを施した明るい玄関ホール。

 とりあえず周囲に誰もいないらしいのを確認して、アルフレードはホールの真ん中をすたすたと横切った。

 奥のアーチ状の天井から続く、長い廊下を眺める。

 大きめの窓が並ぶ廊下は、アルフレードの住む古い本邸と比べて明るく開放的な雰囲気だ。

 奥に向かって緋色の扉が等間隔に並んでいる。

 しばらく眺めていたが、誰も通らない。人影がチラリと見えることすらなかった。

「誰か!」

 使用人でも出て来るかと思い、呼びかけてみる。

 不意に緋色の扉のうち一番奥のものが開いた。

 目を見開き、とっさに身構える。

 ややして扉はゆっくりと閉まった。

 しばらく見ていたが、あとは物音ひとつしない。

 立てつけでも悪いのか。アルフレードは眉をひそめた。

 扉から目を離さず近づく。

 廊下に敷かれた臙脂(えんじ)色の敷物は、見た目よりも毛足が長くフカフカとした感覚だ。

 お陰で足音を忍ばせやすい。

 一番奥の扉の前でアルフレードは立ち止まった。

 確かこの扉だ。

 緋色に金の縁取り。角に植物を模したレリーフをあしらっている。

 玄関ホールに近いことから、社交の際は客の宿泊室に使われる部屋だ。

 アルフレードはしばらく扉の上方を見上げていた。拳銃と薬包を懐から取り出す。

 口で薬包を噛み切り、包み紙ごと銃に入れる。

 銃口を上に向けて構えドアノブに手をかけた。

 一気に扉を開ける。


 誰もいない。


 客室としてはそこそこの広さのその部屋は、タペストリーやカーテン等の仕切りもなく、隠れられる所は無さそうだった。

 あたりを見回しながら中に入る。

 天井から吊られた金細工の燭台も、暖炉の上に飾られた画家の絵もそのままだ。荒らされた様子はない。

 床に敷かれた毛足の長い絨毯(じゅうたん)。誰かが乱入した形跡はなさそうだ。

 部屋中央に設えられた寝台に近づく。

 天蓋(てんがい)から垂れた薄布をまくり寝床を見たが、誰もいなかった。

 何か違和感はあるのだが、何がそう感じるのかは分からない。

 アルフレードは、もう一度室内を見回した。

 別の部屋もこうなのだろうか。

 ひとつひとつの部屋を見て回るかどうか迷う。

 屋敷中の部屋を全て見て回れば、一日ではとても足りないだろう。

 (あご)に手を当て、視線だけをあちらこちらに動かす。

 とりあえず部屋を出た。

 廊下を戻りながら、ひとつひとつの部屋を覗いてだけみることにした。

 一つ目の部屋の扉を開け、中を窺う。

 ざっと見た感じ人の姿はない。

 二つ目の部屋。

 三つ目の部屋。

 何かの数え歌を思い出すな、と思いながら、十二部屋目の扉の前に来た。

 ここがこの廊下の最後の部屋だ。

 先ほど横切って来た玄関ホールを横目に見ながら、アルフレードはドアノブに手を掛けた。

 そこで、手が止まった。

「十二?」

 つい口に出してそう言い、アルフレードはたった今戻って来た廊下を振り返った。

 先ほど中に入った部屋。その部屋の隣の部屋から数を数えて来たのだ。

 ということは、部屋は合計十三。

 だが十三は忌み嫌われる数字であることから、チェーヴァ家では古い本邸を建てた時代から、十三という数は徹底的に避けている。

 十三の部屋が並んだ廊下など造る訳がないのだ。

 アルフレードは廊下の奥を指差し、黙視で扉の数を数えた。

 確かに十三。

 馬丁も部屋の数までは数えなかっただろう。

 屋敷中、こんなあり得ない箇所だらけなのか。

 アルフレードは玄関ホールの方を見た。

 中央から伸びる幅の広い階段を眺める。

 つる植物の絡むようなレリーフを施された手摺(てすり)の細い支柱が、吹き抜けになっている三階まで規則正しく並んでいる。

 階段の一番頂上を目で辿った。

 馬丁は三階の広間と言ったか。

 以前この屋敷に来たときの記憶をたぐり、頭の中に見取り図を書いた。

 ドアノブにかけた手を外す。最後の部屋を見るのはやめておいた。





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