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死の世界へようこそ  作者: 路明(ロア)
Episodio quattro 沈黙の迷宮
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Labirinto di silenzio. 沈黙の迷宮 II

 折り重なるようにして連なる丘陵地を馬で進むと、遠くに城壁と数多くの塔が見えて来た。

 少し首を伸ばして、アルフレードは城壁の奥の方に目を凝らす。

 親戚の家は別邸に当たるので、城壁の外の所有地にあるのだが、とりあえず街の様子はどうなのかと思った。

 城門から出入りしている街の人間が見える。特におかしな感じは無いか。

 出立前、従者が付いて来る用意をしていたが、行き先は親戚の家だし近場だから一人でよいと言った。

 到着してから何が起こるのか自身すら見当も付かないが、怪異が起こる可能性を説明したところで、乱心を疑われそうで面倒という気がした。

 馬上で何気なく首をさする。

 もちろん首輪はない。

 よく分からないが、あれは違う世界と接触した時にだけ見えるのだろうか。

 馬丁の報告の内容について意見を聞こうとベルガモットを待ち受けていたが、丸一日待っても接触はなかった。

 こちらから来て欲しい意思を伝える方法は無いのか。本当に何もかも一方的なのだなと呆れた。

 まさかクリスティーナといれば来るという訳ではあるまいなと思った。

 思わず試してみたくなったが、そのためだけに許嫁(いいなずけ)を呼びつけるという訳にもいくまい。




 城壁を横目に見て通りすぎ、程なくして差しかかったオリーブ畑の中の一本道を通る。

 やや高台になっている土地に建つ屋敷に到着し、アルフレードは門扉の隙間から庭を覗いた。

 門番がいるかと思ったが、誰も出て来る気配はない。とりあえず外壁のリングに馬をつなぐ。

「誰かいるか!」

 そう大きな声で言いながら、アルフレードは門扉を押してみた。

 簡単に開いた。

 怪訝に思い門扉の鍵を何となく眺める。

「アルフレード・チェーヴァだ。誰かいないのか!」

 屋敷に向けてそう声を上げた。

 返事はない。

 気のせいか周囲の鳥の鳴き声すら聞こえない気がする。

 周囲を警戒し、門扉の中へと入った。

 そこで何となく振り向いて、背後に広がるオリーブ畑を見やる。

 領主一族の一家が住むこの屋敷がもし何者かに襲撃でもされていたとしたら、周囲の農民たちに何か違う様子があるはずではと思った。

 不穏な様子は感じられなかった。

 畑一面に植えられたオリーブは、葉をつやつやと健康的に繁らせ、太陽光を反射している。手入れは行き届いている様子だ。

 ジャリ、と微かな足音をさせ、アルフレードは庭に足を踏み入れた。

 庭は荒れた所もなく、腕の良い庭師の手で整えられた様子だった。

 芝生はきちんと刈り込みをされ、大小の庭木も丁寧に剪定されている。

 中央の噴水が、アルフレードを出迎えるかのように水を吹き出した。

 キラキラと陽光を受ける水は、汚れてはいない綺麗な水だ。

 庭師も馬係もいないのは気になるが。

 アルフレードはぐるりと庭を見回した。

 どこからかラベンダーの花のような香りがしている。

 庭花が咲いているのか。それともここの住人の使う香料か。

 何にしろ、違和感は覚えるがはっきりと不審な点はない。

 携帯した銃を手に持つべきかどうかと先程から思っていたが、警戒すべきなのかすら迷うような様子だった。

 馬丁がおかしなものを見たと言ったのは、三階の大広間だったか。

 アルフレードは顔を上げ、屋敷の三階の窓を見た。

 中央の大きなバルコニーは、確か大広間の一角から突き出したものだったと思ったが。

 しばらく窓を眺めていた。

 誰かが屋敷内にいるのなら、窓に姿があってもいいかと思ったが。


 誰の姿もない。





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