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闇鍋(短編集)

「書き出しと終わり」1

作者: Aihpos

「幼い僕らは孤独だったね」~ 「全部嘘だよ」/「くすりと来るもの」

「くすりと来るもの」レギュレーションは浮かばなかったのでとりあえずお話を畳むことを優先。

「幼い僕らは孤独だったね」

そんな歌詞で始まるポップスをスマホから流しながら、俺は帰り道を急ぐ。この曲に歌われている「僕ら」のように、俺もいつかそう思う日が来るのだろうか。もっとも、大学に友達などほぼいない俺には、「僕らは」と言い合える仲の人物など望むべくもないのだが。かつて言われたところによると”花”な曜日であるが、残念ながら俺の元にはそんな華やかさは無いらしい。花屋の店先に並ぶ前に捨てられてしまったのだろうか。


「ただいまー」

一人暮らししている俺の家では、当然答えるものは無いが、長い間の実家暮らしで習慣が身についてしまった。早速冷蔵庫に残っていた缶チューハイの封を開け、つまみを口にする。そして、空いた手で、スマホを取り出した。

「えっと、予定は、っと」

そう呟いて、カレンダーアプリを起動する。

「週明けに提出のレポートがある、か」

そのままノートパソコンを開き、実験室でデータは取り終わって、あとはそれを纏めるだけのレポートに取り掛かる。単調な作業を紛らわすために、動画サイトでいつものように曲を流しながら作業に取り掛かる。そして、一缶程度のチューハイで酔いなどはしないが、作業に取り掛かるためのスイッチを入れるべく、薬缶に水を入れて火にかける。

しばらく待つと、薬缶の注ぎ口の先から湯気が出て、勢いよく笛のような鳴き声をあげ始める。マグカップに注ぎ、そしていつもの様にインスタントコーヒーの粉末を適当に入れる。計量すらロクにしないので、毎回濃さが変わるのはご愛嬌、である。タバコとコーヒーが好物の旧友の呆れた顔を思い浮かべつつ、いつものように一口味見する。

「ふむ、まあこんなもんか?」

そのマグカップを持って改めてノートパソコンの前に腰を据える。

気づけば日付も変わり、そしてレポートがある程度書き進んだ。コーヒーを飲みすぎたのだろう、少し腹が痛い。少しトイレに行って、ついでに長い間椅子に座っていたことで凝り固まった体を伸ばす。そこに、チャットアプリの通知音が鳴る。相手は、高校と大学が同じ、そして学部は違えど今もたまに飲みに行く奴だった。

「まあ、連絡が来ると言ったらこいつか親か、または店長かぐらいだもんなあ」

ネット・カメラ付き目覚し、と喩えても良いほどに通知がこない俺のスマホに自嘲する。スマート”フォン”のはずなのに、通話する相手もいないとはこれいかに。それ以外で偶に鳴る通知といえば、何かの営業や迷惑メールである。

そうして見た通知画面は、案の定な内容であった。

「ダメなら申し訳ないんだけど、今度の土日って空いてる?」

「日曜は家族の用事があるが、土曜なら」

「ちょっとシフト変わって欲しいんだけど!部活の追いコンがあって」

「あー。まあ、了解」

「うん、助かった!ちょっとよろしくお願いする!後で埋め合わせはするから!」

これで何度目だ、また都合の良いことを、と思いながらも、実際暇ではあったし、少なくとも彼の言う「埋め合わせはする」は、何だかんだで今まで一度も破られたことがない。そこはまだ信用はしている。

「おう、期待しとくぞ」

そう返事を返し、再び文字と格闘し始める。再び腹痛が来るとわかっていても、一度切れてしまったスイッチを入れ直すべく、すっかり冷めてしまったインスタントコーヒーを飲み干した。

気づけば空も白み、そしてレポートも参考文献を含めて全て書き終えた。誤字脱字の修正は、目を覚ましてからで良いだろう。

「これで”可”ぐらいはくれば良いのだがなあ」

そんなことを思いつつ、万年床になってしまっている寝室で意識を手放した。

起きた時には、急遽入ってしまったシフトの為に家を出るべき時間となっていた。急いで髪を整え、歯を磨き、着替えて慌ただしく家を出る。

「まあ、この時間帯に客はあんま来ないよね」

この街の住民の多くは俺のような学生である。休日なぞ、近くの繁華街に皆で繰り出しているに決まっていた。あの駅前の広場で適当に10個ほど石を投げれば、1つぐらいは同じ学部の奴に当たるだろう。

昼下がりの喫茶店で、無為な時間を過ごす。仕事もねえ、出会いもねえ、偶に来るのは老人会。

自分で引き受けたとはいえ、バイトに勤しんでいる自分の状況と、本来この場にいるはずだった彼の顔を思い浮かべて、少し情けなくなる。昔から社交的だった彼との差を見せつけられているようで。その分増える給与振り込み額だが、溜まったバイト代を使うための遊び相手すらいない。現実逃避をこめた独り言は、バックヤードに虚しく響いた。

「ははっ、これ、全部嘘だよ?」

(終)


「全部嘘だよ?」をオチの笑いどころに持って来られなかったのがほんとに悔しい、と言うかどう使えば良かったのだろう。

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