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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
6章 白銀と幻想、幽し桜の夢
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99.無何有の郷




ーー見渡す限りの美しい銀世界。


そして今もなおしんしんと降り続ける粉雪。


人の足跡一つない山道の上空を、レンは当てもなく進んでいた。


勇んで神社を飛び出してきたは良いものの、全く異変の黒幕の想像がつかない。


さっきははぐらかされたけど、やっぱり霊夢に“冬が終わらなかった異変”の黒幕が結局誰だったのかを聞いておけばよかったかなぁ。


「おっと......。」


「あっまた逃げたなぁー!?待てーっ、ベン!アタイと遊んでけー!」


「ご、ごめんチルノ、今は急いでるんだ。......それと俺は“ベン”じゃなくて“レン”だよ!?」


「ふっふっふー、あたいの猛攻を避けるのに精一杯で反撃も出来ないだろ、ペン!!」


「だから“レン”だってば......。」


突如目の前に飛んできた弾幕をひょいひょい躱し、反撃もせず逃げ回る。


ーー今日は妖精の数が多いし、心なしかいつもよりも少し好戦的になっている気がする。


妖精達も異変の影響を受けているのか、はたまたこの大雪にはしゃいでいるのか。


いつもだったら幾らでも弾幕ごっこの相手になるのだが、異変が起こっているかもしれないこの状況にあってはさっさと撒かなければならない。


レンはちらりと後ろを追って来る妖精を見やってから、飛行速度を一気に加速させた......その時。


「......っ!!」


急に前方から吹き付けてきた凄まじい吹雪に、レンはバランスを崩した。


そのまま地面へと真っ逆さまに落ちていく。


「タービランスッ!」


地面すれすれのところで風魔法を詠唱。


途端深く積もっていた雪が舞い、辺り一面を真っ白に変える。


地面に向けて射出された風の素因が反発力となり、多少の衝撃はあったもののなんとか地面との衝突を免れてレンは受け身を取った。


ーー危ない危ない。


昔冥界から落ちてきて地面に衝突しそうになった時は風魔法の強さの調節に失敗して滝壺へ真っ逆さまに落ちてしまったが、今回は何とか地面に上手く着地できた。


レンは身体中に被った雪を手で払い、起き上がる。


「あら、博麗の巫女じゃないのね。」


「......へ?」


びっくりして見上げると、上空には淡い水色の髪の少女がふよふよと浮いていた。


紺色のゆったりとした服とロングスカートを身に纏っており、頭には白いターバンのようなものを巻いている。


その肌はまんま雪のように白い。


「ごめんなさいね。まだ冬の力をうまく制御できないものだから少し暴走気味なの。くしゃみをした拍子に意図せず物凄い吹雪を吹かせちゃったんだけど......大丈夫だった?」


「だ、大丈夫だよ。......それよりも今君、冬の力を制御する、とか言ったかい?」


「ええ。私はレティ・ホワイトロック。冬の大自然そのものを操る能力を持ってるの。」


「じゃあ、この終わらない冬ももしかしてレティの仕業なの?」


「私が黒幕でーす。」


「ほ、ほんと?」


「さあ、どうでしょうかー。」


レティはなんだか少し嬉しそうにふふふ、と笑った。


......彼女は本当に黒幕なのだろうか?


「貴方、空飛べるんだし戦える人間でしょ?弾幕ごっこで私に勝てたら教えてあげても良いわよ。」


「分かった。じゃあ弾幕ごっこで勝負だ。」


本当にレティが黒幕だったのならこの弾幕ごっこに勝てば異変は解決なのだが......。


レンは一歩下がると、アルテマの柄に手を掛けて一気に抜き放った。


周囲の雪の光を反射して青白く輝く刀身を相手へと向けて構える。


「......。」


ーー寒符「リンガリングコールド」。


相手がスペルカードを切ったのを確認してから、レンは地面を蹴った。


白い冷気のもやから飛び出してくる弾幕の間を縫うように避けていく。


弾速はそこまで速くないので躱すのは難しくないのだが、突然冷気から飛び出してくるので結構弾道を見切るのは難しい。


躱すのは困難と判断した弾幕は剣で弾きつつ、相手と一定の距離を保ちながらレンも魔法弾幕を撃ち返す。


「あら、随分慎重な戦い方をするのね?」


「この弾幕ごっこに勝たないと黒幕が判明しないかもしれないからな。」


ーーそう。


こんな所で足踏みしてはいられない。


俺が偽りの神を倒す前に幻想郷を誰かに滅ぼされてしまっては守るべきものも無くなってしまう。


たかが冬が長引いているだけとはいえ異変は異変。


この程度解決できなくてはこの先とてもじゃないが偽りの神と戦っていけない。


霊夢に頼りっぱなしではこの先が思いやられる。


例えごっことは言っても負けられないのだ。


そんな少年の真剣な思いを知ってか知らずか、レティは小さく微笑むと二枚目のスペルカードを切った。




※※※



弾幕ごっこは暫く続いたが結局レティのスペルを全てレンが避け切り、弾幕を打ち尽くしたというような形で決着が着き、レンの方に軍配が上がった。


「で、結局レティは黒幕なの?」


「あんなの嘘に決まってるじゃない。自分から黒幕です、なんて言って出てくる黒幕なんていないわ。私は冬の力を操ることはできるけど、冬そのものを伸ばす力なんて持ってないの。」


「......やっぱりか。」


......もっともな話だ。


確かに黒幕が自ら黒幕を名乗ったらそれはもう黒幕ではない気がする。


「一つ、ヒントをあげましょう。」


「ヒント?」


「ええ。何故春が来ないのか、貴方はちゃんと考えてる?」


「春が来ない理由?......誰かが幻想郷中に結界を張って季節が動かないようにしてるから、とかどう?」


「......本気で考えてる?」


「えぇ......?」


怒られちゃったよ。


結構自信あったんだけどなぁ......。


「誰かが春を独り占めしてるから、に決まっているでしょう?」


「......はぁ?」


どうしてそんな考えが浮かんでくるんだよ!?


さっき俺が言った結界の話の方がよっぽど現実性がありそうなもん......。


「春なんて独り占めできるものじゃないだろう?それとも幻想郷の春はそういうものなの?」


「ええ。そういう貴方は幻想郷(ここ)ではない世界から来たみたいな口ぶりだけど、逆に貴方のいた世界では春は“集められないもの”だったの?」


「え、えぇ......?」


集められない春の方がおかしいのか?


そもそも春って季節のうちの一つというか、漠然とした概念であって集めるとか集められないとかそんな次元じゃなかった気がするんだけど......。


頭がこんがらがってきた。


「とにかく、“春の欠片”を探すと良いわ。貴方の目にも見えるはずよ。」


「わ、分かった。一応探すように心掛けておくよ。それよりもさ......」


「何かしら?」


「いや、レティは俺にヒントなんか与えていいのかなって。俺が異変を解決するということは冬を終わらせるっていうのと一緒なんだよ?君は冬の妖怪じゃないの?」


彼女は少し驚いたように目を丸くしたが、またすぐにクスッと笑った。


「確かに、私は冬の妖怪だから春が来たらまた来年の冬まで眠りにつかなくちゃいけなくなるわね。」


「じゃあどうして......」


「季節は(めぐ)らなければならないから、かな。季節が巡らないと生命が育まれないもの。それに自然は季節が絶えず移り変わるからこそ美しいのよ。春が夏を呼び、夏が秋を呼ぶ、というようにそれぞれの季節が変わりばんこに次の季節を連れてくる役目を担ってて、どれか一つでも欠けると自然の摂理が崩れてしまうの。」


「季節の廻り、ねぇ。」


「ええ。勿論冬が終わってしまうのは寂しいけれども、春が来なかったら来なかったで困るのよ。」


「......。」


「さあ、もう行きなさい。幻想郷に春を取り戻して頂戴。」


「ああ、また来年会おう。」


「っ......。ええ、また来年ね。」


レンは複雑な表情をしつつもレティに対して手を振り、空へと飛び上がった。


白い空の彼方へと消えていく少年の姿が見えなくなるまで手を振り続けるレティ。


「......また来年、か。」











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