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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
6章 白銀と幻想、幽し桜の夢
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98.儚き幻想を



ーーある朝のこと。




「......なぁ霊夢。」


「なぁにー?」


「流石に冬、長過ぎないか?」


外で吹き荒ぶ吹雪を襖越しに覗きながら、レンはぽつんとそう言った。


里の農家のおじさんから聞いた話ではもう暦の上では雪はとっくに溶け、野生の獣達は冬眠から目覚め、桜が咲いてもおかしくない頃らしい。


本来であればもう幻想郷はお花見シーズン真っ盛りである......筈だった。


けれども博麗神社の境内に吹いているのは淡い桃色の桜吹雪ではなく、冷たく真っ白な吹雪。


そこらの山を探しても桜はおろか菜の花や筍すら見つけられそうにない。


「うーん、そうね......確かに。」


霊夢は炬燵に足を突っ込んだまま心地良さそうにゆっくりと伸びをした。


「最近寒いからあんまり外出ないし、なんだか少し太って来ちゃったかな。......レンはどう思う?」


「ん?霊夢は相変わらず細いと思うけど......そうだな、そう言われればほんとに若干だけどふっくらしたかも?」


「むっ......失礼しちゃうわね。そういう時は嘘でも変わってないよ、って言うの!」


「えぇ......?」


「女の子に対して“太った”の類のワードは禁句なの。覚えておいてよね。」


どうして言われたことを肯定しただけなのに怒られてるの俺......。


などとは思いつつも、巫女様の機嫌を損ねないようにごめんごめんと謝っておく。


「話を戻すけど、暦に沿わずに冬が長引くことって幻想郷ではよくあることなのか?」


「いいや、そんなことは滅多に無いわ。過去に一度似たようなことが起こったことはあったけど。」


「似たようなこと?」


「ええ、結構昔にね。」


「そうなんだ。里の人達も割と困ってるみたいでさ。このままだとお花見が出来ないどころか田植えも出来なくなってしまうとか。」


「そうよね、お花見が出来ないのは大きな損害よね。」


......どっちかというと実被害が大きいのは田植えの方じゃない?


「まあそんなわけでさ、これも一種の異変じゃないのかなって思うんだけど霊夢はどう思う?」


「さて、どうかしらね。」


「巫女の勘ってやつは働かないのか?」


「分かんなーい。」


「えぇ......?」


「まあでも異変の可能性はあるかもね。さっき、大分昔にも一度同じようなことがあったって言ったじゃない?あれ、実は“冬が終わらない異変”だったの。」


「“冬が終わらない異変”?」


「そう。どっかの誰かさんが幻想郷の“春”を根こそぎ持っていってとある大きな桜を咲かせようとしたのよ。」


「ん......?その話、何処かで聞いたことあるような。」


「あら知ってたの?」


「うん。結構前に誰かからその話を聞いた気がするんだけど......。確かその異変も霊夢が解決したんだったよね?結局黒幕は誰だったの?」


「ふふっ、教えてあげなーい。」


「な、なんで?」


「なんでも。......まあそんなこともあったわけだから冬が終わらないのが気になるんだったら異変調査、してみたら?私はここでゆっくりお茶飲んでるから。」


「お、おいおい。霊夢は異変解決に真っ先に乗り出さなくちゃいけない立場の“博麗の巫女”だろう?」


「寒いから外出たくないもん。」


「......守護者たる巫女さんがこんなんで今までよく幻想郷(このせかい)は滅亡しなかったな。」


「あら、貴方もこの幻想郷を護ってくれるんでしょ?私以外の誰かが解決する異変がたまにはあってもいいんじゃない?」


「それはそうだけども......もし俺も魔理沙も咲夜も、誰も異変解決に動かなかったとしたら?」


「その時は幻想郷も滅びるしかないわね。」


「えぇ......?」


「そんな馬鹿な、とか思っているかもしれないけど実際ありえない話じゃないわ。まだ頭角を現していないだけでこの世界を簡単に滅ぼしかねない神や妖怪もいるかもしれない。そんなのは流石に私の手にも負えないわ。」


ふっと一つ息を吐くと、霊夢は湯呑みを机の上に静かに置いた。


「案外この世界は常に滅亡と隣り合わせで存在しているようなもんよ。幻想は美しいけれども儚くて脆いの。」


「......。」


ーー確かに。


ある日突然、この幻想郷での穏やかな日々と終わりを告げることになってもおかしくはない。


事実......ランセルグレアでの日常はあの日を最後に途切れてしまった。


確かにそこにあったのに、たった一日で水泡となって消えてしまったのだ。


この平和な日々もいつか突然途絶えてしまうのかもしれない。


目の前のよく知っている少女の口から発された言葉に穏やかな日常から急に突き放された気がして、彼はある種の悪寒に似た感覚を覚えた。


「......少し、調べて来るよ。」


「行ってらっしゃい。」


レンは座布団から立ち上がると神妙な顔つきのまま母屋を出ていった。


彼が出ていったのを確認してから霊夢は一つ伸びをして、そのまま畳の上に寝っ転がった。


「......行ったか?」


「ええ、出ていったわよ。」


襖から魔理沙がひょっこりと顔を出す。


「全部盗み聞きしてたでしょ?」


「ふっふっふ、それはどうかな。」


魔理沙はいつもの調子でにしし、と笑うと座布団の上に腰を下ろした。


「本当にレンと一緒に異変調査へ出なくてよかったのか?」


「しょうがないじゃない。紫から今回の異変解決にはレン一人で行かせろって言われたんだもの。どうせ魔理沙も今回の異変解決には首を突っ込むな、とか言われたんでしょ?」


「まあな。......でも、紫のやつ咲夜や早苗なんかにもストップかけてるらしいぜ。何か悪いこと企んでないといいんだが。霊夢はどう見る?」


「私は信用してもいいと思うわ。あのスキマ妖怪を信用するってのもなんか癪に触るけど、あいつも心の根底では幻想郷の平和と存続を願っているんだから。多分何か特別な理由があるんでしょ。」


「ふーん、そんなもんかね。......今回は私たちは異変を解決する側じゃなくて起こす側の仕掛け人の一員ってわけか。」


「まあそういうことになる、のかな。」


「にしても霊夢、お前どんなことを言ってレンに異変解決を促すのかと思えば紫みたいなこと言うんだな。」


「そう?」


「“幻想は美しくも儚くて脆い”とかまるで紫の台詞を取ってきたような感じだぜ。さては前にどっかで言ってたのを真似したな?くくく、お前もなんだかんだ言って紫のこと好きだよな。」


「う、うっさいわね。余計なことは言わなくていいの!」


少し顔を赤くする霊夢をみて魔理沙はまた楽しそうにけらけら笑う。


「レン、大丈夫かね。あいつの強さは知ってるけど......出来ればあんまり危険な目に遭わないといいんだが。」


「大丈夫よ、アイツああ見えてなかなかしぶといし。それに冬が終わらない異変......黒幕は誰か、大体予想がつくでしょう?」


「ああ、懐かしいなぁ。私達が初めて妖夢に会ったのはあの時だったな。顕界は猛吹雪だったのに向こうは桜吹雪でさ。......正直言って、私がいなかったら相当やばかったよな。あの異変。」


「あら、でも結局解決したのは私だったじゃないの。」


「いいや、いち早く異変に気がついたのは私だった。霊夢にも教えてやったのに最初は調査に動こうともしなかったじゃないか。」


「でも一番の功労者は私でしょ?」


「いいや、私だ!」


外は一寸先も見えない猛吹雪。


博麗神社の母屋には二人の少女の明るい笑い声が響いていた。











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