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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
6章 白銀と幻想、幽し桜の夢
95/106

95.雪中、銀の雨



「ふわぁ......。」


レンは気の抜け切った大あくびをした。


部屋の外を見やれば今日も大雪。


ここのところ晴れの日が続いていて少しは幻想郷各地に積もっていた雪も溶けてきていたのだが、今日はビュォォという音を立てて凄まじい吹雪が吹いている。


やっぱりまだしばらくは寒い日々も続いていきそうだ。


何にせよ、今日は人里の見回りも無くフルの休日。


こんな日はやはりこたつに足を突っ込んでぬくぬく過ごすに限る。


居間の襖を開けると、もう既に霊夢が炬燵で溶けていた。


「ほぇ......。」


弛緩しきった溜め息を吐きながらふにゃっとだらけているその姿を見てレンは思わず笑ってしまう。


「おはよう、霊夢。今日は早起きだな。」


「ん、おはよ。刺すような寒さで早めに目が覚めちゃたの。こんな日は一日中炬燵に潜っているに限るわ。」


......俺と同じようなこと言ってら。


「朝ご飯は今から作るからちょっと待っててくれ。」


「はーい......あっ、そうそう。魔理沙がレンに家に来て欲しいんだってさ。ご飯済ませたら行ってあげたら?」


「魔理沙の家?」


「うん。あの子色んなところに遊びに顔出すけど自分の家に人を招くのは結構珍しいわね。何かよっぽどあんたに見せたいものでもあるんじゃない?」


「へぇ......そうだとしたら楽しみだな。朝飯食べたら行ってみるか。」


「行ってらっしゃーい。」


「霊夢は行かないのか?」


「こんな寒い中外へ出るのは嫌よ。それに誘われたのは私じゃなくてレンでしょ?ま、私はちゃんと伝えたからね。あとは行くか行かないかはあんた次第だから。」


彼女はそれだけ言うと炬燵に潜り込んだ。


「......怠惰な巫女さんだなぁ。」


レンはそう言って少し呆れたように笑うと、炬燵のある部屋を後にして台所へと向かった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーー魔法の森。


普段なら鬱蒼と茂っているだけの樹々も、今日は凍てついて美しい樹氷に変わっている。


そんな樹氷の群の真ん中に立つ洋風の一軒家の前にレンは降り立った。


見れば”霧雨魔法店“の看板は雪に覆われて真っ白になっている。


屋根に立つ煙突からは煙は出ていなかった。


この寒いのに暖炉に火をつけないで過ごせるはずがない。


......留守なのだろうか。


「おーい魔理沙、いるかー?」


そう呼び掛け、ドアをコンコンとノックしたが家の中から返事は聞こえて来なかった。


やはり外出中のようだ。


せっかく寒い中我慢して来たけど......仕方がない、また今度出直すか。


諦めて神社へ帰るべく、踵を返したその時。


ーーすとん。


レンのすぐ目の前に生えていた木に、何かが刺さった。


ギョッとして見てみるとそれは......青い柄のナイフ。


刹那、刃物が空を割いて飛んでくるような音が立て続けに聞こえる。


「ひっ......!?」


短い悲鳴を上げつつも彼は飛来してくる無数のナイフを反射的に見切り、すんでのところで躱した。


耳のすぐ近くをナイフが横切っていく音に、身体中から冷や汗が滲み出す。


こんな芸当が出来るのはーー。


「さ、咲夜、いるんだろう!?一体急になんの真似だよ!?」


レンがその名前を呼ぶと、彼女は音もなく木の影から現れた。


「あら、レンなら軽く避けてくれると思っていたのだけれど。ちょっとした挨拶みたいなものよ。」


「挨拶で俺を殺す気かっ!!」


「レンはここで何をしていたの?」


......この人、俺の話を聞いているのだろうか。


咲夜さんって意外と結構マイペースな人だったり?


戯れに殺されかけたのには納得がいかないが、(納得したら負けだと思っている)このまま話を続けても埒が開かなそうなのでレンは問い質すのを諦めることにした。


「いや、少し魔理沙に用があって来たんだけど......留守だったみたい。」


「ふーん。」


聞いて来たのは咲夜さんの方でしょ!?


そんな興味無さそうな反応されても......。


「咲夜も魔理沙に用があってここに来たの?」


「いいえ、私は貴方に用があってここまで来たのよ。」


「俺に......どんな用件で?」


「お嬢様が、”暇だからレンでも捕獲して来い“って。」


「俺は戯れに狩られる小動物かっ!普通に誘ってくれれば良いじゃん。なんで捕獲なの!?」


「うーん、よく分からないけど弾幕ごっこしてレンを打ちのめしてから連れて来なさいってことでしょ?」


「どんな命令されたらそんな解釈になるんだよ......。」


「そのまんまよ?」


「えぇ......?」


「まあ、そんなわけだからさっさと大人しく捕獲されて下さいやがれですわ。」


咲夜はそう言うや否や飛び退って距離を取ると、流麗な所作で太腿のホルダーから複数本のナイフを抜いてレンの方へと放った。


「......言ってることがもうめちゃくちゃだよ。」


と答えつつレンも鞘を払い、剣で飛んでくる無数のナイフを弾き返した。


「ルダミス。」


万一の事故を起こさない為に一時的に剣の刃をなまくらにする魔法を唱えてから、彼は地面を蹴った。


木を盾にしたり、魔法で相殺したりしてナイフの嵐を掻い潜りながら咲夜へと接近していく。


「はぁっ!!」


気合と共に剣光一閃。


咲夜はその剣戟をナイフ一本で受け止めた。


続いて唐竹割り、突きを繰り出すが咲夜はそれらの斬撃をひらりひらりと華麗に躱していく。


そのしなやかな動きは戦闘中でもさながら舞っているかのようであった。


不意に繰り出されたその長い脚での回し蹴りを、レンは辛うじて身を傾けて躱す。


彼は追撃を諦めて一旦飛び退った。


前に一度紅魔館のロビーでやりあった時に格闘戦に持ち込んで、咲夜にきっちりカウンターを返された苦い記憶があるからだ。


一応剣術だけでなく体術もそれなりに会得しているつもりだが、咲夜には格闘戦で勝てる気がしない。


そうは言っても距離を取りすぎると一方的に投げナイフで攻撃されるので間合いの取り方が難しいところである。


元々中〜近距離の攻撃魔法と剣がレンの主な攻撃手段なので近接戦闘の方が戦いやすいのだが、あまり近づきすぎると格闘戦に持ち込まれてしまう。


対して咲夜は遠〜中距離は投げナイフ、近距離は格闘とナイフに切り替えて戦える、といったようにバランス良く攻撃手段を持っている難敵である。


となれば彼女に唯一勝てそうなのは素早さ、と言ったところだが生憎辺りには深々と雪が積もっている。


足を取られて上手く疾走することもできない。


かと言って空中戦に持ち込んでも明らかに咲夜の方が飛行に馴れているのでこちらに勝ち目は無いだろう。


......どう立ち回れば安定して投げナイフを捌けるだろうか。


手数の多い斬撃を剣で受けるうちに徐々に後退り、追い詰められていく。


そしてついに彼は首元にナイフを突きつけられてしまった。


下がろうにも背には木の幹を背負っていてこれ以上後ろには下がれない。


「......まいった、降参だ。」


レンはアルテマを鞘に納めると、両手を上げて見せた。


「あら、思ってたより呆気ないわね。あんまり魔法も撃たなかったし......手を抜いたでしょう?」


「手は抜いてないよ。全力でやった上で負けた。」


「そう......せっかくスペルカード持って来たのに。」


ちょっと残念そうにメイド服のポケットからスペルカードを取り出して見せる咲夜が何だか可笑しくて、レンは笑ってしまった。


「それじゃあ、潔くお嬢様の今夜のディナーになってもらいましょうか。」


「えっ!?なんか最初と話が違くない!?」


急に慌てるレンを見て、今度は咲夜が吹き出した。


「冗談に決まってるでしょう?そもそもお嬢様はそんなダイレクトに人を取って喰ったりしないし、貴方に手を出したりしたら色んな面々を敵に回しそうだし......何よりそんなことをしたら妹様が大暴れよ。」


「......信じていいんだよね?」


「嘘をついて貴方を殺すメリットよりも、妹様に暴れられるデメリットの方が大きいのは貴方も分かるでしょう?」


「あ、あはは......違いないな。」


......デメリットが無かったら俺、今頃躊躇無く殺されてる?


少しやるせ無さそうな表情のレンの心境を読み取ったのか、咲夜は再びクスッと笑った。


「ふふっ、ごめんなさい。ちょっと言い方が意地悪だったわね。命の危険を感じたらレンももう少し本気で抵抗してくれるかなぁって。」


「いや、だからさっきのは全力で戦った上で負けたんだってば......。」


「はいはい、そういうことにしておきましょうか。そもそも本気でやり合ったら弾幕ごっこじゃないんだし......ね?」


ーーそう、弾幕ごっこは遊戯であって直接の殺し合いではないのだから。


本気で相手を打ち倒しに行くのならばそれはもはや“ごっこ”ではなく単なる“殺し合い”である。


そこには知性や美しさの欠片もない。


咲夜はスカートを軽くぽんぽんとはたくと、


「さぁ、負けたからには紅魔館へ遊びに来てもらおうかしら。」


と一言、レンへ向けてそう言った。








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