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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
6章 白銀と幻想、幽し桜の夢
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90.さがしもの




ーー大晦日。


大きな晦の日、と書いておおみそかと読む。


晦とは月の満ち欠けを指す言葉であり、昔は月の満ち欠けで暦を決めていたために月が完全に欠ける月末の日のことを晦日と呼んでいた。


故に一年の最後の月の末の日のこと、つまり一年の最後の日のことを”大“晦日と呼ぶことになった......と霊夢が言っていた。


流石は腐っても巫女。


そのような類の伝統文化や神々の知識についてはもっぱら詳しい。


“腐っても”などとは本人の前では口が裂けても言えないが......というのは置いといて。


今日はその大晦日、ってやつである。


毎年博麗神社ではこの日に大規模な宴会を開き、皆で新年を迎えるのが恒例らしい。


その宴会の準備をすべく、ここ数日は霊夢にこき使われてお酒や料理を確保するために幻想郷を東奔西走していたわけで......。


やっと今日、その宴会の日がやって来たのだ。


レン達は今まさに宴会直前の最終準備真っ最中であった。


「おーい、霊夢?升の数が全然足りないんだけど......」


「納屋に無いの?」


「うん。納屋にあったのを全部持って来たんだけど、これだけじゃ全然足りないだろう?」


「困ったわね......。裏の物置も見てきてくれない?」


「わかった。」


返事を返し、靴を履いたその時。


ガラガラと音を立てて玄関戸が開いた。


入ってきたのは魔理沙と妖夢だ。


「うっす、レン。一足早めに遊びにきたぜ!」


「遊びに来たんじゃなくてお手伝いしに来たんでしょ?......あっ、お師さまこんにちはー!」


頭の後ろで腕を組みながら挨拶をする魔理沙に、ぺこりと頭を下げる妖夢。


......二人とも性格が出てるなぁ。


「あら、いらっしゃい二人とも。」


「霊夢、お手伝いに来たよー!」


「ありがとー。......毎年悪いわね。」


「もう少ししたらお手伝いとして早苗や咲夜達も来るはずだぜ。ささ、早く準備を済ませちまおう。」


「ええ。暗くなる前には全部済ませとかないとね。」


霊夢と魔理沙は台所の方へと歩いて行く。


「お師さまはどこへ行かれるんですか?」


「升の数が全然足りなくてさ。裏の倉庫に探しに行くんだ。」


「妖夢も一緒に探すのお手伝いしますよ。」


「悪い、助かるよ。」


妖夢はいそいそと靴を履くと、レンの方へとついてきた。


一緒に母屋を出て裏手へと周り、境内の隅に建っている倉庫の元へ。


母屋とは独立した形で建っているこの立派な倉庫は相当昔からここにあるのか、大分見た目に年季が入っている。


見ればその軒の所々に蜘蛛の巣が張られていた。


霊夢から借りた鍵を錆び付いた南京錠に刺し込む。


案外鍵自体は傷んでおらず、割とスムーズにかちりと音を立てて回った。


......が、レンが手で押してもその頑丈な鉄扉はびくともしない。


「ぐぬぬ......。」


「お、お手伝いしましょうか?」


妖夢と二人で力を合わせて押し込むと、やっと扉は仰々しい音を立ててゆっくりゆっくりと動いた。


「けほけほみょん、すごいホコリですね......。」


「うん、長いこと掃除してないんだろうな。」


......けほけほみょん?


倉庫の中は妖夢の言った通りすごく埃っぽい。


それに日の当たらない密閉空間だからか、少しカビっぽい匂いがする。


何やら曰く付きっぽい壺や、お札が沢山ぺたぺた貼られた神棚みたいなものまで様々なものが乱雑に置かれている。


ちょっと魔理沙の家を思い出しかけたが、彼女の家もここまでは散らかってないかもしれない。


歴代の博麗の巫女達はどんだけここに物溜め込んでるんだよ......。


「うーん、ここを綺麗に掃除し尽くしたいという妖夢の本能がうずうずしているのですが......。」


「やめとけ。そんなことしたらキリがないぞ。」


「......ですよね。さっさとお目当てのものを見つけ出して母屋へ戻りましょう。」


「うん。ざっと見回した感じここから見えるところに升は......無いね。俺はあっち側探すから、妖夢はこっち側探してくれ。」


「りょーかいです!」


二人は手分けして升を探し始めた。




※※※




「うーん、無いなぁ。」


探し始めてから小一時間が経過。


だいぶ頑張って探しているつもりだが、なにせ置いてあるものが多いわけでこれだけ時間をかけても片っ端からひっくり返すことはできない。


被った埃をぽんぽんはたきながらあれでも無いこれでも無い、とやっていると。


「ん......?」


妖夢は棚の後ろに一振りの刀が引っ掛かっているのを見つけた。


棚を引っ張ってずらし、刀を手に取る。


柄は白く鞘は少しくすんだ朱色。


鍔は少し錆びているがとても立派な刀だ。


なんだかどこか妙な妖力のようなものを纏っている気がする。


......もしかして曰く付きの刀とか?


曰く付き、とか怖いのは嫌いだけど妖夢にとってはそれが刀であれば話は別だ。


怖いけれど......刀なら興味がある。


彼女は鯉口を切るべく徐に親指で鍔を押し上げようとしたが、その刀身はびくとも動かない。


やむなく柄をベタ握りして鞘から引っこ抜くように引っ張ってみるが、微動だにしない。


「むぐぐ......駄目ですか。」


それでもどうしても刀身を見たい妖夢が諦め悪く柄をぐいぐいると。


「んに“っ......痛っ!?」


手から柄がすっぽ抜けた拍子に棚に思いっきり肘をぶつけてしまった。


「つー......。」


ぐらぐらと揺れる棚そっちのけで激痛に悶えていると。


ーーブォーン。


羽音のような耳障りな音が聞こえてきた。


「......ぶぉーん?」


......そういやここは長いこと掃除されていないんだったっけ。


いや〜な予感がする。


まさか大っ嫌いな()()()が......。


妖夢が恐る恐る視線を床へと下げると、そこには一匹のG(ゴキブリ)が。


「......。」


妖夢は目を擦った。


今目の前にあったのはただのゴミだ。


私があんまりにもGを恐れているからゴミを見間違えてしまったに違いない。


ーーお願い、次に目を開く時には消えてて......。


そんな切実な願いを抱きつつ彼女が再び目を開けると。


目の前には黒いブツが二つ。


「......。」


妖夢はもう一度目を擦った。


三匹に増えている。


彼女は何度も何度も目を擦った。


四匹、五匹、六匹。


目を擦るたびに()()らは一匹ずつ増えていく。


ーーどうして増えてるのーっ!?


「あばば、あばばばばば」


「ん、どうした妖夢?」


レンは向こう側を向いて探しているのでまだこの悍ましい怪物たちの出現を知らない。


視線を戻すと、Gはもう数えるのも億劫なほどの数になって蠢いていた。


心なしかさっきよりもこちらへ少し近づいてきている気がする。


「......出ました。」


「何が?」


「お出ましになりました。」


「ああひょっとしてお化け?あはは、きっと見間違えだよ。妖夢は怖がりだなぁ。ここは神社の境内だよ?第一あの鬼巫女さんが悪霊なんか神社の聖域にいたらそのままにしておく筈が......」


刹那、Gの大群の中から一匹がぶぶぶと音を立てて妖夢の方へと飛んできた。


「んに“ゃーーーーっ!!??」


妖夢は踵を返し、刀も放り出して一目散にレンの元へ。


「お師さまお師さま、助けてください!!」


「妖夢?一体さっきからどうしたんd......痛だだだだだ!?」


妖夢が思いっきり抱き付くので肋骨の辺りに凄まじい激痛が走る。


ーー逆にこっちが助けてくれ(?)


めこっ、みしっとかやばそうな音がしてるんだけど!?


どうしてみんな俺をそうやって締め上げるんだよ......。


フランの本気程ではないが妖夢も剣の修行に普段から真面目に取り組んでいる故か力がかなり強く、思いっきり締め上げられたら普通に痛い。


そりゃもう、こんな細い腕と身体のどこからそんな力が湧いてくるんだっていうぐらい。


「妖夢、腕!腕緩めてっ!!」


「無理です!」


いや、そんなきっぱり言われても......。


「助けてくださいぃー!!」


「いや、助けるも何もまずは離してくれないt......いだだだ!?」


痛い痛い。マジで痛い。


一生懸命もがいても全然離してくれない。


「そ、そもそも出たって何が出たの!?」


「ヤツらです、ヤツら!ものすごい生命力で......たまーに台所や厠から出てきては顔に飛びついてくるヤツらです!!」


妖夢が指さした方に視線をやった瞬間、レンはここで初めて彼女が何に怯えていたのかをようやく理解した。


だが、たとえ男とて彼も虫は苦手。


凄まじい数のゴキブリが大挙してこちらへ向かってくるのを見てゾッとしないわけがなかった。


「ぬわぁぁぁーーーっっ!?」


「ひゃぁぁぁーーーっっ!?」


レンが上げた悲鳴に妖夢もびっくり。


二人とも一目散に倉庫の外へと猛ダッシュ。


その後ろをブォーーン、という不快な羽音と共に大量のゴキブリ達が付いてくる。


「何で追っかけて来るんですかーーっ!!」


「妖夢が怒らせたんじゃないのっ!?」


「うわぁぁっ、ごめんなさいごめんなさい!もう二度と丸めた新聞紙で叩いたりしませんから許してくださーいっ!!」


二人の悲鳴に近い声も後ろから聞こえてくる凄まじい羽音に掻き消される。


と、ちょうどその時境内の方からこちらへ歩いてくる魔理沙が目に入った。


「おい、どうしたんだお前ら?さっきからすごい悲鳴上げて......。」


「魔理沙ぁぁっ、助けてぇぇっ!!」


「助けてくれぇぇっ!!」


レンと妖夢の後ろから蠢く黒い塊が飛んでくるのを見て魔理沙はギョッとした。


「うわっ、何だその数は!?」


「いいから助けてぇぇ!!」


「任しとけ!私のマスパで焼き払ってやるぜ。焼き尽くせ、マスタァァァ......!」


キュィィン......というような音を立てながら魔理沙のミニ八卦路が光を帯びる。


その様子を見て全力疾走しながら戦慄するレンと妖夢。


ーーおいおい、まさか俺達ごと焼き払うつもりじゃないだろうな!?


「スパァァァクッ!!」


刹那、轟音と共に八卦路から極太のレーザーが発射された。


「危なっ!?」


「きゃっ!?」


自分達の方へ一直線に飛んできたレーザーを、レンと妖夢は宙に身を投げ出してすんでのところで避ける。


眩い閃光は蠢くG達を包み込み、消し炭にしていく。


十数秒後、あれ程の数いたG達は跡形も無く消え去っていた。


「......危なかった。」


「悪い悪い、火力調整が難しくてな。まあお前達なら避けてくれると信じてたぜ。」


にしし、と笑う魔理沙。


「いや、助かったよ。妖夢は大丈夫?......妖夢?」


返事がない。


見れば、妖夢は地面にぺたんと座ったままピクリとも動いていない。


......もしかして失神してる?




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