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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
6章 白銀と幻想、幽し桜の夢
88/106

88.星降る夜に



「これでよし、と。」


妖夢は出来上がったおにぎりを笹の葉で包み、満足そうに頷いた。


シンプルな塩むすびといえど侮ることなかれ。


ぴかぴかの銀しゃりを使い、一生懸命心を込めて握ったのだ。


ーー美味しく食べてもらえるといいなぁ。


布巾で手を拭き、割烹着を脱いだその時。


「妖夢ちゃーん、お腹すいたぁ。あら、美味しそうね。」


「ああ幽々子様。すみません、これは幽々子様にお出しするためのものじゃないんです。お夕飯は別に作っておきましたので......もうお出ししましょうか?」


「いいえ、自分で後でやるからいいわよぉ。妖夢ちゃん、おめかしして何処へいくの?」


「霊夢達と一緒にお星様見に行くんです。」


「あぁ、流星群ね。でも......今は空、曇っちゃってるわよ?」


「えっ、本当ですか?」


急いで縁側へ出てみると、確かに夜空は残念ながら厚い雲に覆われていた。


星はおろか月光すらも殆ど見えない。


「ほんとだ......。」


「まあ、もし星が見えなくても楽しくお茶してくればいいじゃない。案外朧雲の下でいただくお茶もなかなか乙なものよ?」


「ですね!お菓子も持っていこうかなぁ......。」


楽しそうにあれこれ思案を巡らす妖夢。


妖夢ちゃんは素直ねぇ......。


「妖夢ちゃん?」


「はい、なんでしょうか幽々子様?」


妖夢は小首を傾げた。


「白玉楼に一人だと私、寂しいなぁ......しくしく。」


「わっ、わっ、幽々子様?い、いっつもお側にいるじゃないですか。」


「それでも寂しいものは寂しいもん。」


「えと、えーっと、じゃあ......えいっ!」


妖夢はぎゅっと幽々子を抱き締めた。


小柄な妖夢とすらりと背の高い幽々子の間には頭ひとつ分以上の身長差があるので幽々子の腰の辺りに妖夢が手を回すような形になってしまうが、それでもしっかりと温もりは伝わる。


......嘘泣きもちゃんと本気にして慰めてくれるうちの子可愛すぎかー!!


幽々子も妖夢の倍ぐらいの力で妖夢を抱き締め返す。


「ふにゅー、痛いです幽々子様......。」


「ふふ......離しませーん。」


「離してくだひゃーい......」


可愛い......可愛い......。


「ふひゅー、ふひゅっ......。」


「......はっ!?」


見ればただでさえ白い妖夢の肌は圧迫されすぎて青白くなってきている。


なんか変な呼吸音になってるし。


「よ、妖夢ちゃん!?」


「ぶはっ、ぜえぜぇ......。あ、危うく圧死する所でした。」


幽々子様のお胸で。


妖夢は自分の胸を見下ろした後、幽々子の胸の豊かな膨らみを憎々しげにジト目で睨んだ。


......その胸ちぎってやろうか。


「よ、妖夢ちゃん、ごめんね?目が怖いわよ?」


「いえいえ、なんでもないですよー。別に怒ってないです。今はまだ持たざる者である妖夢にもまだ成長のチャンスはあるって信じてますから。」


「ひ、ひえぇ、妖夢ちゃん怖い......。」


なんでそんなに怒ってるの......?


何が妖夢ちゃんの逆鱗に触れたのかしら。


「今度また豆大福買ったげるから許して......ね?」


「むむむ......仕方がありませんね、それで手を打ちましょう。」


やっぱり怒ってるじゃん。


......ちょろい所も可愛いけど。


「ああ、そろそろ行かなきゃ約束の時間に遅れちゃう!それじゃあ幽々子様、行ってきます。」


「はいはい、楽しんでらっしゃい。今夜は冷え込むみたいだから風邪をひかないよう気を付けてね?」


幽々子にぽんぽん、と頭を撫でられて少し嬉しそうに微笑むと、妖夢はおにぎりの入った笹の葉の包みを抱えて玄関の方へと歩いて行った。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




妖夢が香霖堂に着いた頃には、もう既に魔理沙達は店の裏の敷物の上に座っていた。


「おっ、きたきた。遅いぜ妖夢。」


「ごめーん。ちょっと色々とやることが残っててさ。」


妖夢は両手を目の前で合わせて詫びた。


「妖夢、こっちこっち。」


霊夢が手招きして自分の隣、敷物の空いている場所をぽんぽん叩いたので、妖夢もそこに腰を下ろす。


霖之助はデッキチェアに深く腰掛けて本を読んでいた。


見ればそのさらに隣では草むらの上に直接レンが寝っ転がっている。


「あれ......お師さまは敷物の上に座らないんですか?」


「ああ、まぁうん。霊夢と魔理沙と妖夢が丁度座れるくらいしか広さが無いからさ。もう他に敷物は無いし。」


「私がここをどいて地べたに座りますよ。お師さまは敷物の上に座って下さい。」


「い、いや、ありがたいけど俺はここでいいよ。案外草の上も寝心地いいしさ。」


「そうおっしゃらずに。師を地べたに座らせておいて自分だけ敷物の上に腰を下ろすわけにはいきません!」


「いや......女の子に地べたに座らせるわけにもいかないじゃん?」


「でも......。」


「いいか、妖夢。」


「は、はい、なんでしょうか?」


「君は俺の弟子である以前に一人の女の子だ。つまり......」


「......。」


「......。」


妖夢は師の続く言葉を十数秒待った。


が、なかなかレンはその先の言葉を口にしない。


「......つまり?」


「つまりは......そういうことだよ。」


「えぇ......?」


今の溜めは一体何だったんですか......。


「いいのよ、妖夢。こいつは男の子なんだからその辺の地べたにでも寝っ転がっときゃいいの。」


そう言ってくすくす笑う霊夢。


「ひ、酷くない!?」


「香霖は一人だけ快適そうな椅子に座ってるけどな。なあ、私とそこ変わってくれよ?」


「嫌だよ。君はちゃんと敷物の上に座ってるじゃないか。そうでなくても僕は流星祈願会の為にこの場所を提供しているんだし、自分の椅子にくらい座ったっていいだろう?」


「じゃあ膝の上に乗せろ。」


「......断じて断る。」


途端デッキチェアを巡って口論を始める魔理沙と霖之助。


......あいつら仲が良いなぁ。


「お星様、見えないね......。」


妖夢がぽつんとそう呟いた。


「うん......曇ったままで星ひとつ見えないわね。」


「ねえねえ、妖夢お菓子持ってきたんだけど食べない?」


「本当?じゃあ頂こうかしら。」


「お師様もお菓子いかがですか?」


「ああ、もらおうかな。」


「私、お茶沸かしてくるわね。......霖之助さーん?お茶葉使わせてもらうわよ?」


霖之助は魔理沙と絶賛口論中。


恐らく霊夢の声は耳に入っていない。


「香霖堂にある中で一番良いお茶っ葉で淹れてくるわ。ちょっと待ってて。」


そう言い残すと、霊夢は香霖堂へと入って行った。


あーあ、また勝手に人の家のお茶使って......。


まあ俺もありがたくいただくけど。


「お菓子は何を持ってきたの?」


「カステラとかきんつばとか色々ありますよ。あっ、お師さまの為にお団子も持って来ました!お師さまお団子好きでしたよね?」


「うん。流石、妖夢は気が利くな。」


「ふっふっふ、伊達に幽々子様の従者やってませんからね!......もっと褒めてくださっても良いんですよ?なんなら頭撫でてくださっても良いんですよ?」


「お、おう......。」


もっと褒めて褒めて、と言わんばかりの様子の妖夢。


レンがよしよし、と頭を撫でるとさも嬉しそうに笑った。


......可愛い。


「おいおいレンだけずるいぜ。妖夢も妖夢でいっつも私がちょっとでも頭撫でたりすると怒るくせになんでレンには自分から要求してるんだよ。」


不意に魔理沙の不満そうな声が入る。


ちらりと目をやれば、霖之助はさっきのデッキチェアを降りて草むらの上に直接座って本を読んでいた。


そしてその横のデッキチェアの上には魔理沙のとんがり帽子が置いてある。


どうやら霖之助は口論に敗れて魔理沙に椅子を奪われてしまったようだ。


......お気の毒に。


「べ、別に......。魔理沙はわしゃわしゃ撫でるから嫌なの!お師さまは優しく撫でてくださるからいいの!」


「霊夢が撫でても怒るじゃないか。」


「それは......気まぐれだよ、気まぐれ!妖夢だって撫でて欲しい時と放って置いて欲しい時があるんだよ!」


......お前は猫か。


「魔理沙も妖夢の頭撫でたりするのか。」


「ああ、癖でな。なんかこう......ほら、背もちっちゃいし仕草とかも小動物っぽいから庇護欲をそそられるというか。ついつい撫でたくなっちゃうんだよな。怒られるけど。」


「分かる分かる。」


すっごくよく分かる。


やっぱり妖夢の頭を撫でたい衝動に駆られるのは俺だけじゃ無かった。


「お、お師さままで私を子供扱いするんですか!?」


「あっ、いや、そういう訳じゃ......。」


「私、そんなに子供っぽいですかね......。」


しょんぼりと肩を落とす妖夢。


「あーあ、やっちまったなレン。」


「えぇっ、俺のせい!?」


魔理沙は楽しそうにけけけ、と笑う。


そういう風な方に話題を持ち込んだのは魔理沙じゃないか。


「そ、そういうあどけない感じの可愛らしさも妖夢の魅力だと思うんだけどな......。」


レンのその言葉に妖夢の耳がぴくりと動く。


「えへへ......そうですかね。」


途端嬉しそうに照れ笑い。


コロッと様子を変える妖夢に、魔理沙はにやにやが止まらない。


と、そこへ急須と湯呑みを抱えた霊夢が戻って来た。


「お茶沸いたわよ......なんで魔理沙はそんなにによによしているの?」


「別に何でもないぜ。」


「......変な子。」


霊夢は小首を傾げつつもお茶を急須から人数分の湯呑みに注ぎ分け、それぞれに配った。


「はい、霖之助さん。」


「ありがとう......ってあれ?この茶葉、君達に飲まれないように戸棚の奥に隠して置いたはずなんだけど......。」


「ええ、拝借させてもらったわ。」


「どうして君が隠してある場所を知ってるんだ......。」


「あら、あれで隠しているつもりだったの?一つだけ他のとは違うところに置いてあったからてっきりこっちから使って欲しいのかと思って使っちゃったわ。」


「使うな、の意思表示に隠してあったんだよ。いつもの茶葉が置いてある戸棚とはとは違う戸棚の随分奥にしまって置いたと思うんだが......。」


「うんうん、やっぱり美味しいお茶ね。」


「......霊夢。君、分かってて使っただろう。」


「さあ?どうでしょうね?」


霊夢はそう返事をしてくすっと笑った。


「......まあいいか。」


霖之助は湯呑みを自分の横に置き、座り直してから再び本を開いた。


......また新しく良い茶葉を仕入れとかないとな。


どうしてなのかはわからないが、霊夢はうちにあるお高い茶や菓子の場所を全て把握している。


どこに隠し場所を変えてもすぐに見つかってしまうのだ。


彼女持ち前の勘故なのだろうか。


そうだとしたら、才能の無駄遣いとはまさにこのことである。


まあその才のおかげで幻想郷の平穏は守られているのだけれども。


「霊夢、この中でどれか食べたいお菓子ある?好きなの選んで良いよ!」


妖夢は持ってきた風呂敷を広げて霊夢に見せた。


「ありがと。じゃあ、羊羹貰おうかな。」


「おっ、豆大福いただき!!」


不意に横から手を出した魔理沙。その標的である豆大福を、妖夢はひょいっと掻っ攫う。


「豆大福は妖夢のだもーん!」


「あっ、ずっけー!!なぁ妖夢、半分くれよ〜。」


「やだ!」


「そこをなんとか、な?今度もっと良いもんあげるからさ。」


「もー、しょうがないなぁ。......はい。」


しぶしぶ妖夢は豆大福を半分にちぎって魔理沙に手渡した。


「さんきゅ。お礼に今度三島庵のパフェ奢ってやるよ。」


「ほんと!?魔理沙、自分の言ったことに責任持ってね!約束だからね!」


大層嬉しそうにはしゃぐ妖夢。


その三島庵のパフェとやらはそんなに美味しい代物なのか。


レンが茶を啜りながら横でその話を聞き流していると。


「ねーぇ、レン?」


ーーそら来た。


霊夢の猫撫で声なんて嫌な予感しかしない。


「......嫌だと言ったら?」


「ま、まだ何も言ってないわよ?」


「どうせ自分もそのパフェを奢って欲しい、とか言い出すんだろう?」


うぐっ、と霊夢は言葉を詰まらせる。


どうやら図星のようだ。


「良いじゃないの、別にパフェの一つくらい奢ってくれたって。」


「そう思うなら自分のお金で食べてくれよ......。」


「嫌よ。」


......どうしてそうきっぱりと即答できるのか。


「お願〜い。」


両手を目の前で合わせて上目遣いでねだる。


ずるいぞ......。


まあ別にパフェの一つくらいいいか。


「......まったく、しょうがないなぁ。」


「やった!......約束よ?破ったらどうなるか分かってるでしょうね?」


......なんで奢る側の俺が脅迫されてるんだよ。


「お師さまも一緒にいきましょうね!」


「えっ!?別に俺も行くとは言ってない......」


「来てくれますよね......?」


「レンも来るでしょ?」


「えぇ......?」


なんか勝手に連れて行かれる体で話が進んでいく。


どうして俺に拒否権が無いんだ......。


「勿論香霖も行くよな?」


「いいや、せっかくのお誘いだけど僕は色々と忙しいのでね。今回は遠慮しておくよ。」


「ちぇっ、やっぱり香霖は釣れないなぁ。」


魔理沙の誘いを霖之助は丁寧にきっぱりと断った。


......俺もあんな風にきっぱり断れるようになりたい。


「あ、あのさ。やっぱり俺も忙しいから......」


「お師さまもきっと一度食べればハマりますよ!あそこのパフェ本当美味しいんです!」


「へ、へぇ......。」


嬉しそうに甘味について語る妖夢の笑顔を前にして、レンはその先を言えなくなってしまった。


流石妖夢は甘党というだけあって相当そのパフェが好きなようで、語り始めると止まらない。


「......という訳でしてね!お師さまにも是非一度食べていただきたいのです!どうですか?魅力、伝わりました?」


「うん、今度食べに行くのが楽しみになったよ。」


「ふふっ......一緒に食べに行きましょうね〜!」


まあいっか。


よくよく考えたら別にどうしても断らなければならない理由も特に無いし。


妖夢は話を終えて、何処か満足そうな顔で豆大福を頬張った。


途端その表情は幸せそうな笑顔に。


「ん〜、おいひ〜!!」


脚をぱたぱたさせて頬を綻ばせる。


そのやはり小動物っぽい仕草に、思わず見ている方まで頬が緩んでしまう。


別に星が見えなくともこの笑顔が見れただけで十分来た甲斐があったと密かに思うレンであった。










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