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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
6章 白銀と幻想、幽し桜の夢
83/106

83.親失せの童・1





襖を静かに開け、中を覗き込む。


外は冬で乾燥しているのにも関わらず、もう随分長い間締め切っているのか部屋の中は湿気がこもっていてじめじめとしていた。


そんな薄暗い部屋の隅でうずくまっている小さな少年。


彼は急に外から差し込んできた光に眩しそうに目を細めながら顔を上げてレンを睨みつけた。


「君が弥太君かな?」


「......。」


少年は答えない。


早く出て行って欲しい、放っておいて欲しいとでも言いたげに彼は虚ろな瞳をレンから逸らした。


「......お兄さん、誰?どうせ僕の邪魔をしに来たんでしょ?夜に僕が本当のお父さんとお母さんに会いにいくのを邪魔するんだ。違う?」


弥太は吐き捨てるようにそう言った。


......彼が夜中に起こす奇行も、彼にとっては会いたくて仕方のない両親を見たいが為なのだ。


彼が夜な夜な聞く幻聴はきっと何某かの妖怪のせいに違いない。


だが、君の両親はもう亡くなってしまったのだから声など聞こえうるはずがないんだ、などとは言えるはずもなく。


レンは返す言葉に窮した。


「誰がなんと言おうと、僕はこんな家なんか早く抜け出して本当のお父さんとお母さんのところに会いにいくんだ。」


「でもこの家の人達は君を心配して......」


「あの二人は僕の親なんかじゃない!僕は本当のお父さんとお母さんに会いたいんだ!!......お願いだから帰ってよ。」


弥太は再び俯き、ぽろぽろと涙を零した。


「......。」


正直、痛ましくて見ていられない。


レンには親がいない寂しさが痛いほどよく分かる。


......自分の親も物心ついた頃にはもう他界してしまっていたから。


もしも親の声が聞こえるのなら、まだどこかで生きているのかもしれないと信じたくなるのは当たり前だろう。


彼の虚親探しを止めるのも酷というものだ。


しかし、だからといってこちらも二つ返事で帰るわけにはいかない。


甚兵衛と千代は新しい親として弥太の行く末をあんなに心配しているのだ。


どうにかしてこのたちの悪い所業をなす妖怪を成敗し、彼の精神に纏わりつく負の暗雲を振り払わなければならない。


まあどちらにせよこの様子ではまともに話を聞ける状況ではない。


今日はそっとしておいたほうがいいだろう。


また今度もう少し落ち着いている時に話を聞いてみることにしよう。


「......分かった、取り敢えず今日は帰るよ。またね、弥太君。」


ーー必ず君を元気にして見せるからね。


少年の返事は無かった。




※※※



「はぁ......。」


ーーなんだか重い仕事を引き受けちゃったな。


溜め息を吐きつつ、人々の行き交う大通りを歩く。


一応頼まれているのは夜間の護衛なので、それまではまだだいぶ時間に空きがある。


今日はレンが夕食当番の日なのでこの後買い物を終えたら一旦神社へ帰って晩御飯を作り、夕食を済ませてからもう一度弥太の家へ行かなければならない。


......案外時間に余裕は無いかもな。


澱みかけていた思考を振り払い、八百屋などの商店の並ぶ通りへ足を向けようとしたその時。


「おっと、失礼......ってあっ。」


「......あら。」


偶然にもぶつかりそうになったのはすらりと背の高い、紅魔館の瀟酒な銀のメイドさん。


「咲夜じゃないか。夕飯のための買い物?」


「ええ、まあそんな所ね。レンも?」


「うん......でもまだ夕飯何にするか決まってなくてさ。そろそろいつも作ってるメニューじゃ飽きてきたし、新しいものに手を出してみたいなって思ってたんだけど......なんかオススメない?」


「うーん、そうね......お鍋とかどうかしら。最近は連日雪が降ってすこぶる寒くなってきたし、だいぶお安く済むからオススメよ?」


「鍋、か......。最近やってなかったし良いかもな。」


「最近外の世界で流行りの豆乳鍋とかどうかしら。」


「よし、それにしよう。......とは言っても作り方は勿論材料は何を買えば良いのかとかまで全く想像つかないな。」


とレンが少々申し訳なさそうにそう言うと咲夜はやれやれ、とばかりに溜め息を吐いた。


「しょうがないなぁ......一つ貸しよ?」


腰に手を当ててばちこーん、とウインク。


さっすが咲夜さん。


掃除に洗濯、戦闘や料理に至るまでなんでもこなす頼れるメイド長である。


「まずは野菜からね。お安く野菜が手に入るおすすめの八百屋があるから、そこへ行きましょ。作り方については歩きながら話しましょうか。」


ーーこの人の言う通りに作ったらどんな料理も失敗する気がしないな。


そんな頼もしさを感じつつ、レンは咲夜と共に商店へと向かった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





買い物を済ませ、咲夜にお礼を言ってからレンはまた大通りの方へと戻って来た。


材料は全て買ったし、詳しくレシピが書かれたメモももらってきたので夕飯の準備はバッチリだ。


これであとは帰ってレシピ通りに料理するだけ。


咲夜曰く、料理を美味しくするのは特別な調味料やコツではなく“愛”らしい。


食べる人に美味しく食べて欲しい、と思いながら一生懸命作ることによってなんでも美味しくなるらしい。


......愛ってすっげえな。


そんなことを考えながら欠伸を噛み殺し、空を見上げる。


もうだいぶ日は傾いてきていた。


そろそろ神社へ帰って晩御飯(おゆはん)を作り始めなければ。


「......ん?」


なんだか向こうのほうが騒がしい。


やれやれ、酔っ払いが何かぼや騒ぎでも起こしたか、とそちらへ足を向けた刹那。


ーー邪魔だっ、どいたどいたぁっ!!


視界に入ったのは道ゆく人々を突き飛ばしながら物凄い速さで走ってくる男の姿。


笠を目深に被っていて目元は見えないが、なんとなく口元からその表情は憔悴しきっているのが分かる。


......何をあんなに急いでいるのだろう。


と、その時。


「ま、待ってくださぁーいっ!!」


男の背後の方から聞き慣れた声。


......待てと言われて待つ泥棒はいるまい。


あの声は......。


男の後ろを走っていたのは緑色のベストにスカートという出で立ちの銀髪の少女。


「......妖夢!?」


どうやら男は妖夢に追いかけられているようだ。


「あっ、お師さま!その人スリです!捕まえてください!!」


「おっしゃ任せろ!」


レンは男の前に立ち塞がってその腕を引くとそのまま背負い投げの要領で投げ、地面へと叩き付けた。


「......ぶべっ!?」


間抜けな悲鳴を上げた男を、そのまま地面に押さえ付ける。


「はぁ、はぁ......やっと追いついた。妖夢のお財布返して下さい!さもなくば斬りますよ!!」


「ひ、ひいっ!?俺が悪かったよ嬢ちゃん!返すから殺さないでくれ!!」


男は慌てて懐からがま口の財布を取り出すと妖夢の方へ放り投げた。


財布を受け取った妖夢はひぃ、ふぅ、みぃ、と一通り中に入っていた金額を確認してから安堵の溜め息を吐いた。


「まったくもう......なんてことするんですか。」


「......妖夢、こいつどうする?」


レンは妖夢にスリ魔の処遇を問うた。


一応自警団として犯罪者を捕まえたが、レンには彼を裁く権限など無い。


とはいえスリも立派な犯罪なのだからこのままお咎め無しというわけにも行くまい。


被害者たる妖夢にはその処遇を決める権利があると思う。


問われた妖夢は少し考えた後、


「......放してあげてください。ちゃんと返してくれましたし、この人も生活に困って手を染めてしまったのでしょう。」


と言った。


「......そうか。被害者がそう言うのなら仕方がないな。」


レンは取り押さえていた男を解放した。


「ただし、お金に困ったからってもう二度とこんなことはしないでくださいね。」


妖夢にそう釘を刺されると男は


「ありがてぇ......嬢ちゃん、恩に着るよ。もう二度とこんなことはしねぇと誓うぜ。」


と返し、何度もペコペコ妖夢に頭を下げながら人混みの中へと消えていった。


「......本当に良かったのか?」


「ええ、まぁ。これで何か罰を与えるのもなんだか後味が悪いですし。彼も人を殺したとかそう言うレベルの悪事を働いた訳では無いので。」


......スリも十分立派な犯罪だと思うけどなぁ。


妖夢はちょっと優しすぎやしないか。


「それはそうとお師さま、ありがとうございました!お師さまがあそこにいてくださらなければ今頃どうなっていたことやら......」


「大したことはしてないよ。俺だってたまたまあそこにいただけだし。年末はこういう盗難事件が多発するから、気を付けなよ?」


「はい!はぁ......なんだか疲れちゃいました。」


「どのくらい追いかけてたの?」


「ざっと人里の周りを3周はしましたね。」


「さ、3周!?」


この広い人里の周りを3周もあんな速さで走っていたというのか。


しかも妖夢は買い物の帰り故か両手に大量の手荷物を手に持ったまま追いかけていたようだ。


さすがは妖夢。


女の子なのに逞しいというか......凄まじい体力だな。


妖夢に追いかけられたら俺も逃げ切れる気がしない。


......あれ?


「ちょっと待てよ......?」


妖夢にここまで追い回せる体力や身体能力があるのは普段修行を頑張っているからというのもあるが、半人半霊であるというのが理由の半分を占めるだろう。


半分人間とは言っても半分は幽霊。


姿形は一緒でも当然身体の作りもおそらく若干違うし、基礎体力も人間を遥かに凌駕するものを持っているだろう。


妖夢は荷物を持ったまま追い回していたとはいえ、とてもただの人間では人里3周という長い距離追い付かれずに走ることはできない筈。


もしや、さっきのスリは妖怪だった......?


金に困っているとはいえ妖怪なら人間を喰っていれば飢え死にすることはあるまい。


スリにまで手を染めて人間の通貨を得る必要が果たしてあるのか。


......なんかちょっと引っ掛かるな。


「お師さまお師さま、この後暇でしたら少し妖夢とお茶でも飲んで行きませんか?」


「ごめん、妖夢。ちょっと用事があるからもう行かなきゃいけないんだ。また今度時間がある時に行こう。」


「えっ......ちょ、お師さま!?」


「もうスリには遭わないように気をつけてね!」


それだけ言うと、レンは先程のスリが向かった方向へと走って行った。


「行っちゃった......。」


その場に一人残され、妖夢は小さくため息を吐く。


......久しぶりに人里でお師さまに会えたのに。


もしかしてこの後他の子との予定があったのかな。


「......みょん。」


ちょっぴり寂しくなった妖夢はぽつんと呟いた。








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