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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
4章 繰り返される紅の夢
56/106

56.宵の篝火・参





「......んまい。」


路傍の階段に腰掛け、緑色のシロップのかかった砕氷を夢中になって頬張る。


やっぱりかき氷は美味しい。


屋台で遊び疲れた体を冷やしてくれる。


「う〜ん、やっぱりイチゴ練乳こそ至高ですよね!」


「いやいや、俺はメロンが一番美味しいと思うけどなぁ。」


「かき氷といえばイチゴですよ!!.......ひょっとしてお師さまは練乳もかけないんですか?」


「うん。なんか練乳かけると甘すぎな気がしない?」


「えぇ〜!?練乳が命なんですよ!!何でも甘ければ甘いほど美味しいじゃないですか。甘いは正義なんです。」


「あはは.......妖夢はそんなに甘いものが好きなのか。」


「はい!甘いものなら幽々子様並みに食べられる自信ありますよ!!」


みょん、と胸を張る妖夢。


「でも.......食べすぎると太っちゃうので普段は自粛しているんですけどね。幽々子様は何故かどれだけ鯨飲馬食しても全く太らないので羨ましいです.......。」


妖夢は心底恨めしそうな顔でそう言うのでレンは吹き出してしまった。


「苦いものは駄目なのか?」


「はい......ピーマンとかゴーヤみたいな苦いのはあんまり好きじゃないです。この前幽々子さまに“妖夢は子供舌なのよ”って笑われちゃいました。」


「ああ、そういえば前に白玉楼で夜ご飯食べてた時も妖夢はピーマンを皿の端に避けようとしてたもんな。」


てへへ、と妖夢は少し恥ずかしそうに笑った。


「あっ、でもお砂糖とミルクいっぱい入れたコーヒーは大好きですよ!」


「それはもはや甘い物なんじゃ......」


「いいえ、コーヒーは苦い大人の飲み物です!お砂糖入れても苦味は残ってますし。大人の飲み物を飲める妖夢は子供舌なんかじゃありません!!お師さまもそう思いませんか!?」


幽々子に子供舌と言われたのがよっぽど悔しかったのか、ムキになってそう言う妖夢にレンは思わず苦笑してしまった。


「別にいいじゃないか。俺は子供舌って可愛らしいと思うけどなぁ。」


「......そうですかね?ま、まあ妖夢もちょっとは子供舌な所もあるのかも知れません。」


妖夢はわざとらしい咳払いをしながら小さな声でそう呟いた。



「......。」


そんな彼女の心境も露知らず、レンはぼーっと喧騒の絶えない大通りの方を眺める。


多くの人々が行き交う大通り。


練り歩く人々は皆祭りに相応しい甚平や着物を着ている。


「......そういえば、妖夢は浴衣着てないんだね。」


「あぁ.......私は一応従者として幽々子様に付いてくるだけのつもりで来たのでいつもの服で十分かなと思いまして。それに......私なんかに浴衣は似合わないと思いますし。」


そう言って妖夢はちょっぴり寂しそうにはにかんだ。


「そんなことないって。絶対妖夢なら似合うよ。妖夢の浴衣姿見たかったな。」


「そ、そうですか.......えへへ。お世辞でも嬉しいです。」


「いや、本気でそう思って言ってるんだけどな......。」


「ふぇっ.......」


驚いて変な声が出てしまった。


なんだか......すごく恥ずかしい。


ーー顔赤くなってるの、見られてないよね?


妖夢は照れ隠しにかき氷を勢い良くかき込んだ。


頭がキーンと痛くなる。


少し火照った頭には心地の良い感覚だ。


見れば隣のレンも同じようにかき氷を勢いよくかき込んだのか“いてて......”、と頭を抱えていた。


......あれ、もしかしてお師さまも少し照れてる?


「ん、何か面白いことでもあったのか?」


「ふふふ.......いえ、何でもないです〜っ!」


えぇ.......、と困惑するレンの横で尚も口に手を当ててくくく、と笑いを堪える妖夢。


刹那。


ひゅーん、という何かが空を飛ぶような音が耳に入った。


夜空にのびる白いしっぽを反射的に視線で追いかける。


数秒後、盛大な破裂音と共に夜空に大きな赤い花が咲いた。


それを追随するように次々と同じような破裂音が響き、真っ黒な夜空が色とりどりの閃光で彩られる。


ーー花火だ。


「おお......。」


「わぁ......綺麗ですね!」


妖夢は嬉しそうに歓声を上げた。



※※※



時を同じくして人里の外れにて。




「夏祭りといえば花火。これぞ夏の風物詩って感じだわぁ〜。.......暗い夜空に咲く花を眺めるのもまた乙というもの.......でしょ、紫?」


「ふふ......バレてたのね。」


紫はスキマから出てきて幽々子の隣に腰掛けた。


「半人半霊の子はレンに取られちゃったの?」


「違うわよ。妖夢ちゃんがレンと遊びたいって思ってるの分かってたから特別に譲ってあげたの。」


「.......幽々子、もしかしてさっきの屋台での騒ぎもレンを呼び寄せる為に起こしたとかじゃないでしょうね?」


「あら、見てたの?」


「お腹いっぱいで満足ってのも嘘でしょ?本当はまだまだお腹ペコペコなんじゃない?」


「まぁね。でも妖夢ちゃんに食べ物を買って来させて邪魔するのも悪いし、あれ以上屋台で食べ物買ったら妖夢ちゃんが遊ぶ為のお金もなくなっちゃうから。」


もう十分妖夢のお財布はすっからかんになりかけてたけどね、というツッコミを紫は敢えて飲み込んだ。


「まあ幽々子が自分の食欲よりも人のことを優先するなんて......よっぽど幽々子はあの娘のことを可愛がっているのね。」


「むぅ......失礼な言い方ねぇ。」


幽々子はそう言ってふい、とそっぽを向いた。


「そりゃあ妖夢ちゃんは可愛いに決まってるじゃない。私の自慢の従者ですもの。」


「じゃあもうちょっと妖夢が楽になるように大食いを我慢したりとかしてあげなさいよ......あの子、毎日家計が火の車だー、とか言って泣きべそかいてるわよ。」


「それとこれとは別問題。それに可愛い子には苦労させてあげないとね。やりくりも大変だけど修行のうちよ。現にあの子の師匠の妖忌は頓悟して行方を晦ますまではちゃんとやりくりしてのけてたわよ?」


「貴方ねぇ......」


それを聞いて紫は少し呆れたような表情になる。


「......まあでも自分の従者を可愛いって思う気持ちはよく分かるわ。私も藍が可愛くて仕方がないもの。」


二人は顔を見合わせてふふふ、と笑った。



※※※





夜空を彩っては散っていく幾千もの花火をレンと妖夢は二人並んで石段に腰掛けて眺める。


里の中心の方は相変わらずどんちゃん騒ぎだ。


「べらんめぇ!!俺はまだまだ飲めるぞぉッ!!」


「ういっ......俺が何をしたって言うんだ......ひっく。」


うわっ......風太と幸助だ。


好き勝手酒飲んで泥酔しやがって......。


絡まれたらめんどくさそうなので他人の振りしちゃえ。


それとなく妖夢の後ろに隠れる。


「ん......お師さま?どうかしましたか?」


「い、いや別になんでもないぞ!」


レンは二人がすれ違っていくのを確認してから安堵の溜息を吐いた。


「いや......ちょっと絡まれたら面倒くさい馬鹿どもがいたからさ。」


「ああ、さっきの方々はお師さまのご友人だったんですか?」


ーーまあそんな感じかな。


と答えようとした刹那。


「誰が絡まれたら面倒くさい馬鹿よ、誰が!」


誰かに後ろからポカッと一発殴られた。


振り返ると、そこにはむぅぅ......、とちょっとご機嫌斜め気味な霊夢が立っていた。


「うわっ霊夢!?ち、違うってば!霊夢のことを言ったんじゃないよ!!」


......まぁ酔っ払った霊夢も絡まれると面倒くさいことには変わりないけどね。


霊夢が不機嫌になる上に下手するとスクラップにされかねないので勿論口には出さない。


「あっそ。っていうかあんたをずっと探してたんだけど。どこにいたのよ?急に居なくならないでよね。」


「わ......悪かった。途中で霊夢を見失っちゃったんだよ。」


「おっ、妖夢も一緒か。」


霊夢の後ろから魔理沙もひょっこり出てきた。


「あれ?今日は幽々子は一緒じゃないの?」


「幽々子様は一人でどっか行っちゃったんだ。多分今頃紫様あたりと一緒にいるんじゃないかな。」


「ふーん......まさかだけど幽々子の奴、暴飲暴食っぷりを発揮して人だかりができてたりしてな!」


「「うぐ......」」


レンと妖夢二人揃って微妙な表情になる。


ーーもうその”まさか“をやらかしました。


「......もしかして図星だったり?」


「「ゲフッゲフッ......ゲッフゲフゲフン。」」


霊夢の問いに、レンと妖夢はわざとらしい咳払いをして誤魔化した。


ん?と訝しげな表情になる霊夢。


丁度その時。


空に一際大きな星形の花火が打ち上がり、おぉ.......という歓声が群集から上がった。


「おっ、見ろよ。すっげえ......星型だ!」


花火を見てはしゃぐ魔理沙の声に釣られた霊夢もそちらへと視線を移す。


「本当、綺麗ねぇ......。」


「おっ?霊夢にもものを美しいと思う感性があったとは驚きだぜ。」


「あんた挑発してるの?しばき回すわよ?」


「けけけ、おっかねー。」


問い質されずに済んで、レンと妖夢は胸を撫で下ろした。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




宵が深まるにつれて祭りはいよいよ華やかさを増し、凄まじい盛り上がりを見せた。


深夜。


日付をまたぐ頃になって徐々に通りを練り歩く人々の数は減っていき、屋台も撤収され始めた。




霊夢は酔い潰れてそのまま寝てしまった。


「おい、もうそろそろ帰るぞ霊夢。」


いくら揺さぶっても起きる様子は無い。


「むにゃむにゃ......お賽銭が一杯......」


「あはは......霊夢寝言言ってら。」


寝言を言っているを見て魔理沙がけらけら笑う。


「本当、気持ちよさそうに寝てるね......。」


妖夢も横で寝言を聞いてくすくす笑った。


「妖夢そろそろ幽々子様と一緒に帰らなきゃ。」


「じゃあな妖夢。」


「うん。じゃあね、魔理沙。お師さまもさようなら。」


ペコペコと頭を下げて妖夢は帰っていった。


「私もそろそろ帰らなくちゃな。レン達はどうやって帰るんだ?霊夢は泥酔してるから飛んで帰るのは危ないんじゃないか?」


「どうしよう。霊夢を担いで飛ぶわけにもいかないし......おんぶでもして徒歩で帰るしかないかな。」


「今から徒歩で神社まで帰るのか!?歩いていける距離かどうか以前に危ないぜ?妖怪達も流石に霊夢を背負ったお前を襲うことは無いと思うけど......夜の山は真っ暗だから崖とかがあっても見えづらいからな。」


「大丈夫だ。光魔法を使えば明かりは確保できるしな。」


「そうか......私も手を貸してやりたいがこの箒は一人乗りだしついて行ったところで悪いが私は何もしてやれないからな。」


本当魔理沙はいい奴だな。


「その気持ちだけでもありがたい。大丈夫だ。頑張って霊夢を背負って神社まで歩くよ。」


「まったく......霊夢はどうせレンがいるからってちょっと無防備すぎやしないか?このままここに置いて行って懲りさせるのも一つの手だぜ?」


魔理沙は寝ている霊夢の頬をぷにぷにつっついてにしし、と笑った。


「はは......でもそれは流石に可哀想だからな。こんなところに一晩中寝かせておいたら風邪ひいちゃうし。まあ確かに酔い潰れるまで飲むのは控えてもらいたいけど。」


「けけけ、冗談だよ冗談。さてと......私もそろそろ帰るとするかな。」


「そうか。魔理沙も気を付けて帰れよ?」


「おう、じゃあな!」


魔理沙はそう返事をしてレンの肩を一つ叩くと、箒に跨って魔法の森の方へと飛んでいった。


「......それじゃあ頑張りますか。」


すーすー寝息を立てている霊夢を背負い、レンは博麗神社の方へと歩き始めた。





一時間弱後......


博麗神社の立つ山の中。


レンは寝ている霊夢を背負って石段をひたすら登っていた。


初めて博麗神社に来た時には人里の方から見て正面に位置する山道を登った。


だが実は東側に回りこむともう一本裏道があってこちら側からなら正面の約四分の一ほどの時間で、さらに比較的平坦な道なので楽に登ることができるのだ。


おかげで人里を出てからまだそこまで時間がたたないうちにレンは博麗神社前の石段に差し掛かっていた。


ーー飛べば一瞬なんだけどね。


「うーん......あれ?ここは何処かしら?」


「やっと起きたか。神社へ向かう途中の参道だよ。もうちょっとで着くぞ。」


「ん、悪かったわね。ついつい飲みすぎちゃったわ。」


霊夢はそう言ってくぁ〜、とあくびをした。


「そんじゃおやすみ。」


「あっ!?ちょっ、待て!折角起きたんだから降りて歩いてくれよ!?」


「......やだ。いいからほら、ちゃんと最後まで運んでよね。」


「えぇ......?」


......この巫女二度寝決めやがった。


うぅ......なんだって俺がこんな目に.........。


そうこうしているうちに石段を登り切り、赤い鳥居をくぐった。


境内では灯篭と篝火がぼんやりとした明かりを湛えている。


「ただいまっと......。」


玄関の戸を開け、中へ。


「ふぇぇ疲れた......。」


霊夢は大分軽いがそれでも人一人背負って山を登れば当然結構疲れる。


「おい、霊夢着いたぞ。起きてくれ。」


背中を揺らすが返事はない。霊夢はすーすー眠ったままだ。


「まったく......しょうがないな。」


レンは霊夢を背負ったまま霊夢の部屋へと向かった。


蚊帳で囲って布団を敷き、そこに霊夢を寝かせる。


そのまま部屋から出て戸を閉めようとしたその時。


「レン。」


「起きてたのか。どうした?」


「......ありがと。」


霊夢はこちらへ寝返りを打ってにっ、と笑った。


......さては寝ているフリしてたな?


「はは......どういたしまして。おやすみ。」


「うん、おやすみなさい。」


レンは少し呆れたように笑ってから静かに戸を閉めた。


縁側を通ると、外から鈴虫の鳴き声が聞こえてくる。


涼しげでとても心地の良い音色だ。秋の訪れを感じさせるような。


「......もうそろそろ夏も終わりか。」


また一つ、季節が過ぎていく。






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