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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
4章 繰り返される紅の夢
49/106

49.QED:495年の末に




「ぐっ......。」


極限まで意識を自分へ向けられている殺意へ集中、四方八方からの相手の攻撃を辛うじて剣で受ける。


ーーそう。文字通り四方八方。


禁忌「フォー・オブ・アカインド」


四人に分裂したフラン達が代わるがわる肉薄してきて間髪入れずに爪で攻撃してくる。


人数が増えたので複数の相手に意識を割かなくてはならない。分身を増やそうと全くスピードもパワーも落ちる様子も無く、非常に厄介だ。


「ふふふ......あははははっ!!」


フランの表情は恍惚の笑みに歪んでいる。


まるでレンをいたぶることを悦び......いや、快楽としているかのようだ。


その狂気を前に、レンは冷たい汗が首筋を流れるのを感じた。


ーー刹那。


剣で受け損ねたフランの拳がレンの腹に入る。


「が......はっ!?」


とてつもない衝撃に、レンの身体は浮き上がり。ボロ切れのように吹き飛ばされて壁に容赦なく叩きつけられた。


「ぐぅッ......」


片膝をついたままの姿勢から剣を床に突き立てて立ち上がる。


フランは歩いて近づいて来た。


「......なぁ、フラン。」


「なぁに?」


目を真っ赤に爛々と輝かせて返事をする。


レンはその様子にギョッとしながらも胸中に渦巻いていた疑問を口にした。


()()()()()()()()()()()?」


「ッ......どういうこと?」


一瞬鋭く息を呑んだが、フランはすぐにとぼけて見せた。


「いや......どういうことって......フラン、本気で俺のことを殺しに来てないだろう?どっちかというと敢えてあまり痛くないように殴っているっていうか......。」


ーーそう。


先刻の腹への殴打も、本来なら肋骨が折れていてもおかしくないはずなのに事実レンの骨はどこも折れていない。人間でも思いっきり殴れば肋骨ぐらいはいとも簡単に折れるのに、先刻の殴打ではレンはあくまで凄まじい衝撃を受けただけで一瞬痛みは感じたがどこも怪我はしていない。


それに、今までにフランが放った弾幕もレンに被弾したのは最初の一撃だけで、あとはわざと外しているように見えた。


これじゃあまるでレンを傷付けるのを怖がっているみたいじゃないか。


レンの言葉を受けて、フランは驚いたような表情で数秒間固まった。


ーー直後。


部屋にドカーン、という爆発音めいた音が響いた。


「......えっ?」


フランはいつの間にか部屋の入り口の大扉の前に立っていた。


そしてレンの元まで歩いてくると。


「......鍵は壊しといたから出て行って。」


俯きながら彼女はそう言った。


「何故?」


「何故って......貴方はフランのことが怖くないの!?フランは“ありとあらゆるものを破壊する程度の能力の持ち主よ!?貴方を殺してしまうかもしれないのよ!?」


「......。」


「フランはね、この危険すぎる力を持って生まれてきてしまったから......生まれてから495年間、ずっとこの暗い地下室に閉じ込められてきたの。今だってやろうと思えばここから一歩も動かずに貴方の息の根を止めることだってできるんだから。」


握りこぶしを作るフラン。


「......分かったら、早くこの部屋から出て行って。フランが貴方を殺してしまう前に。さぁ早く!!」


「......断る。」


「......。」


こいつ、今の話を聞いてなかったの?


「......殺されたいの?」


「いや、それは勘弁だ。ただ......」


レンは溜め息を一つついてから続けた。


「......フランが今にも泣きそうな顔をしているから。」


「っ......!!」


フランは鋭く息を呑んだ。


「別に俺がフランの悩み事をどうこうできるなんて思ってないけど......一人でこんなところに閉じこもって泣いてても、余計気が滅入るだけだよ?」


「......貴方を壊しちゃうかもしれないんだよ?」


「フランは自分の能力で俺を殺してしまわないように適度に痛め付けて逃げ帰らせようとしてたんだろう?そんな優しい子が人を殺す訳ないって。」


「あの壁の赤い染みが見えないの!?血よ、血!!フランが人を殺した証拠!!」


尚も食い下がろうとする少年に、フランは怒鳴り付けた。


ーーここに人間が私と一緒に居ちゃいけないんだってば。


私は危ない子なの。


貴方もどうせ何も知らされずにこの部屋に連れてこられたんでしょう?


命を落とす前にさっさと逃げ帰れば良いのに。


「......過去に君が人を殺したのかどうかは知らない。だが、現に君は俺を殺さずに逃がそうとした。少なくとも“今”の君は人を殺したくないと思っている。違うか?」


「......。」


「大丈夫だよ。こう見えて俺結構身体頑丈なんだ。ほら、前に雲より高いところから池に落ちたことあるけど死ななかったんだぞ?」


ぽんぽんと自分の右胸を手で叩いて見せる。


ーー冥界から幻想郷(こっち)側に来る為に幽明結界を潜って上空に放り出された時。


あの時は飛び方を知らなかったから流石に死ぬかと思ったし、池に落ちた後結構長い間気を失ったけど。


「そういう問題じゃないんだけど......。」


「まぁ良いから良いから。ほら、この部屋いっぱい玩具あるじゃないか。弾幕ごっこなんてしてないでこっちで遊ぼうよ。な?」


ーーこの人、きっと底無しの馬鹿だ。


「......うん。」


......でも、馬鹿と遊んでみるのも楽しいかもしれない。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




数時間後。


あれからトランプやらおはじき遊びやら沢山遊んで遊び疲れたのかフランはうとうとし始め、やがてそのまま寝てしまったのでベッドまで運んで寝かせてあげた。


今は毛布をかぶってすーすー寝息を立てている。


こうして寝顔だけ見ると普通の可愛らしい女の子なんだけどな。


「495年間、か......。」


ただの人間であるレンにとっては想像も付かないほどの長い年月を、この子はこの地下室で過ごしてきたと言っていた。


さっき鍵を壊していたし、出ようと思えばいつでもフランは自分で外に出ることが出来たはずだ。フランにとって外に出ることは悲願そのものであるに違いない。


では、何故外に出ようとしなかったのか。


迷ったが思い切って聞いてみることにした。


すると彼女はこう答えた。


ーー自分が外へ出た時に誰かを傷付けてしまうのが怖いの。


ありとあらゆるものを破壊する能力......。


フラン曰く万物には「目」という最も緊張している部分が存在し、そこに力を加えると呆気なく破壊できるらしい。


フランの能力はその「目」を自分の手の中に移動させて握り締めることによってあらゆるものを問答無用で破壊できる、というものだ。


重ねて少々気が触れていて、一度スイッチが入ると歯止めが効かなくなるというその性格故に外へ出た時に暴走してしまったりしたら大量に生き物を殺してしまうかもしれない。


故に彼女はその自らが持って生まれた能力を憎みながらも外へ行くのを自粛しているのだという。


尤も、気が触れているからとはいえこんなやり方をとる姉に対しても多少は憎しみの感情を持っているそうだが。


いつもいつも自分だけ仲間外れにされる。皆外で楽しく遊んでいるのに私だけこの暗い地下室で独りぼっち。


来る日も来る日も孤独、孤独、孤独。


夜も朝も無い地下室で、終わりの見えない永遠にも近しい時が螺旋のように回り続ける。


悲痛な叫びを上げれども、誰にも届かない。


ただこの暗い檻の中に虚しく木霊(こだま)するのみ。


レンは自分の運命を何倍も、とまではいかなくとも人よりも不幸だと心のどこかで思っていたが、それは傲慢なのかもしれない。


終わらない孤独の苦しみを、495年間彼女は絶えず味わい続けてきたわけだ。


どれほど寂しかっただろう。苦しかっただろう。


持って生まれた力を呪いながらもこの空間でずっと耐え続けてきた。


誰のせいでも無い。ただ彼女の終わらない苦しみこそ本当の不幸と言えるのかもしれない。


「んぅ......」


ぱちっとフランの目が開いた。


伸びをしてから手で口を隠してくぁ〜と小さく欠伸をする。


「おはよ、レン。」


彼女は布団をめくってベッドからぴょんと降りると、キラキラした眼差しをレンへと向けた。


「ねぇねぇ、レン!今度は何して遊ぶ?」


「ははは、起きてすぐまた遊ぶのか。うーん、そうだな......何して遊ぼうか......」


とレンが腕を組んだその時だった。


ガチャリ、とドアノブを回すような音が聞こえてきた。


二人とも扉の方へと目を向けると、そこにはレミリアと咲夜が立っていた。


「......お姉、様?」


「えぇ......フラン、久しぶりね。」


レミリアはゆっくりとフランの方へ歩いてくる。


「......フランに何の用?」


レミリアはフランの真正面に立つと、帽子を取って頭を下げた。


「ごめんね......フラン。貴方をこんな所に長い間閉じ込めたりして。馬鹿なお姉ちゃんを許して......。」


「......。」


二人とも無言のまま暫くの間が過ぎた。


レミリアは依然として頭を下げたままだ。フランが反応するまで顔を上げないつもりか。


フランの握り締めた手がわなわなと震えているのをレンは見逃さなかった。


「......ふざけないでよッ!!」


フランは絶叫するように声を荒げた。


レミリアの肩がぴくりと震える。


「これだけ長い年月......散々私だけ地下室に閉じ込めて置いて......495年間よ!?それが今更のこのこ出てきて許してって......お姉様はフランのことなんかとっくに忘れていたくせに!!」


「違うわッ!!そんなことは......」


「何が違うのよッ!?お姉様は私のことが怖くて仕方がないんでしょ!?だから地下に私を閉じ込めた!!フランなんか居なかったことにしようとした!!」


「......。」


レミリアは俯いて黙ったままだ。


「......もういい。お姉様なんか消えちゃえ!!お姉様を消して私も死ぬ!!」


ーーまずい。


「フラン!?待てッ!!」


「妹様!?」


レンも咲夜も止めに掛かろうとするが、もう遅い。


ーー禁忌「レーヴァテイン」。


フランの手の中に業火の剣が生成される。


フランは剣をレミリアへと振るいーー


ーーしかしレミリアは反撃をしようともせず......フランを抱き竦めた。


フランのみが差し違えるような形で静止する。


「えっ......?」


二人の足元にはポタポタとレミリアの赤い血の雫が滴り落ちている。


フランのレーヴァテインはレミリアの胸を穿ち、胸から背中へと貫通していた。


「そうよ......フラン。私は怖くて仕方なかった。......貴方を失ってしまうことが。」


フランの両眼が大きく見開かれる。


「貴方は私のたった一人の妹。寂しかったよね、ごめんね......今更謝ってももう遅いよね。でも......気の触れていた貴方を守る為のこれ以上良い方法が思い付かなかった。」


「あ....あぁ.........」


レーヴァテインはみるみるうちに消滅していき、フランの瞳から涙が溢れ出す。


「お姉様、私......」


「でもやっぱり余計なお世話だったわね。貴方はもう昔みたいに無差別に人を殺そうとはしない。それが分かっただけでももう十分。こんな所に閉じこもる生活は終わりよ。これからは私たちと一緒に暮らしましょう。段階を踏んで館の外にも連れて行ってあげるからね。」


そこにはすすり泣く妹の頭をいつまでも撫で続ける姉の姿があった。











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