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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
4章 繰り返される紅の夢
48/106

48.幼き悪魔は常闇に




翌朝。


朝食を取った後、彼は手ぶらで与えられた寝室を出た。


「ちょっと、レン。貴方手ぶらでフランの所へ行く気?昨日携えていた剣はどこへやったのよ?」


青ざめた顔のパチュリーに引き留められる。


「え?レミリアの妹の遊び相手をするのになんで剣を持っていく必要があるんだ?」


「貴方ねぇ......手ぶらでなんて死にに行くようなものよ!?ほら、さっさと部屋に戻って剣を取ってきなさい。」


「???」


理由も聞かされないままレンは部屋に戻らされた。


言われた通り部屋に戻って剣を腰に吊るしてからエントランスホールへ向かうと咲夜やレミリア、パチュリー、美鈴に小悪魔に至るまで紅魔館の面々が皆勢ぞろいでレンを出迎えた。


「気を付けてくださいね。」


「お願いだから生きて帰って来て頂戴。」


皆口々にレンに励ましの言葉的なのをかけてくる。


「え、えぇ......?」


なんだこの......これから死地に向かう人みたいな扱いは......?


「......健闘を祈るわ。」


最後にレミリアに背中をばしっと叩かれた。


「レン、ついて来なさい。」


「あ、ああ......。」


火を灯した蝋燭を持った咲夜に促され、彼は地下へと続く階段を降り始めた。


紅魔館の他の場所とは打って変わって階段は真っ暗でなかなかにおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。


......俺が引き受けたのはレミリアの妹の遊び相手だよね?なんか得体の知れない怪物といきなり戦わされたりしないよね?さっきの紅魔館の面々の反応といい、この地下へと続く階段の雰囲気といい、嫌な予感しかしないんですが。


そんなレンの不安を他所に、蝋燭を持った咲夜はレンの前方で階段をずんずん降りていく。


「あの......咲夜?」


「何かしら?」


「これどこへ向かってるの?」


「何言ってるのよ?フランお嬢様のお部屋に決まっているでしょう?」


「だ、だよね......あはは。」


やっぱり目的地を間違えている訳でもなさそうだ......はは、笑えねえ。


暗い階段を下り切り、曲がりくねった暗い廊下をを暫く歩いていくと、何やら厳重そうな大扉が視界に入った。


「......死なないでよ。」


咲夜はそう一言発し、大扉をノックした。


「......は?」


やっぱり何かがおかしい。絶対にただの妹じゃないってこれ。


「妹様、失礼します。」


咲夜が大扉の取っ手に手をかけて引っ張ると、大扉はぎぎぎ......という軋んだ音を立てて開いた。


「入りなさい。」


「は......はい。」


中は真っ暗だ。蝋燭一つ灯されていない。


「それじゃあ明日の丁度今頃に迎えに来るから。」


レンが部屋に入るとすぐに咲夜は大扉を閉めた。続いてがちゃっという音がする。


「......がちゃっ?」


嫌な予感がして試しに大扉の取っ手を引っ張ってみたが、案の定うんともすんともいわない。


......閉じ込められた、よね?コレ。


冷たい汗が首筋を流れ落ちる。


うぉいマジかよ!?絶対これあれだろ、あれ......なんかよくわかんないけどヤバいやつやん。


いくら引っ張っても大扉が開く様子はなかったので、レンは諦めて部屋の奥の方へと向き直った。


「おーい......フランドール......ちゃん?」


呼び掛けに返事はない。


取り敢えず真っ暗闇では何も出来ないので......。


「......フォトン。」


光魔法を唱えた。


レンの手の中に光の素因が生成され、辺りの闇を払っていく。


広い部屋にはそこかしこに玩具やぬいぐるみが散乱している。よく見ると腕や首から上が無い人形もあった。


壁の所々に見受けられるのは赤い染み。


ーー......怖っわ!!


なんだあの人形!?どういう遊び方したらこうなるんだよ!?


ってかあの赤い染み......いや、考えるのはよそう。うん、あれはケチャップに違いない。


見回す限りではフランドールは見当たらなかった。


ベッドで寝ているのだろうか。


レンはベッドの方へと近付いた。


こちら側からは見えないが、毛布は不自然に膨らんでいる。


「......ふぅ。」


どうやら今は毛布に潜って寝ているようだ。


起こすのも気が引けるし、そっとしておくか。......でも閉じ込められてるんだし何して暇潰そっかな......などと考えていると。


「......貴方だぁれ?」


「んぎゃーす!?」


いきなり後ろから声を掛けられて仰天。振り向くと、そこには小さな少女が立っていた。


赤い半袖の服に同じく赤いミニスカート、胸元には黄色いスカーフ。金髪をサイドテールに纏めており、目はレミリアと同じく真紅。背中からは色とりどりの宝石のようなものがぶら下がった翼のようなものが生えている。


身長も結構小さくて、成る程。確かに言われてみればレミリアに似ている気がする。


なんだ、どんな怪物が出てくるんだと身構えていたがいざ会ってみれば可愛らしい少女じゃないか。


ビビりすぎて変な声出ちゃったよ。


「えっと......君がフランドールちゃん?でいいんだよね?俺はレン。君のお姉さんから君と遊ぶように頼まれててさ。」


「......。」


フランドールは興味津々と言った様子で目をまん丸にしてレンに近づき、じーっと見つめる。


「......貴方、人間?」


「う、うん。人間だけど......?」


フランドールは目を伏せると、寂しそうな表情で小さく何かを呟いた。


ーーまたか......。


はっきりとは聞こえなかったし、口の動きからしか推測できないがそう言ったような気がした。


「そう......貴方が新しい玩具(おもちゃ)なのね。」


ん......これまた気のせいかな!?今この子俺をちらっと見ておもちゃとか言わなかった!?


「あの......フランドールちゃん?」


彼女は暫くレンを見つめた後、にこっと微笑んだ。


「フランでいいよ!ねぇ、丁度今退屈してたの!あそぼあそぼ?」


「じゃあフラン、何して遊ぼうか......?」


うーん、遊び相手になる為にここへ来たとはいえこのくらいの女の子って何して遊んだら楽しいのか分からないや。


レンが腕を組んで思案を始めたその時。


ちりっ。


何かが頬を掠める感覚。数秒おいて鋭い痛みが走る。


「ッ!?」


見上げると、フランはこちらへと手のひらを向けている。その手から新たな赤色の弾幕が生成され......。


今度は頬を掠めるような軌道ではなく、レンの体の真っ正面へ放たれる。


危ない。考えるよりも早く、左足を半歩引いて体を捌く。


今度はレンの左足首を僅かに抉り、通り過ぎていった。


「......フラン?」


ばっと部屋中の灯りが灯り、レンの光魔法のみしか光源のなかった部屋は一気に明るくなった。


フランの歪んだ笑みがはっきりと視界に映る。


「あははっ!!避けた避けた!!」


フランは嬉しそうに手を叩いて喜んだ。


真紅色の瞳は輝きを増す。あどけない表情をたたえてはいるが、その目は明らかに獲物を見つけた捕食者の目であった。


「ねぇレン、弾幕ごっこしよ?貴方が賭けるのは貴方自身の命。」


「......やっぱりか。」


この子は少々気が触れているのだろう。フランにとっては人間=(イコール)玩具だ。


人間の幼子が蟻を踏み殺すのと同じ感覚でフランもここに来た人間をいたぶり殺す。


ーー......だから皆俺をこれから死地に行く人みたいな扱いしてたのね。


っていうか誰か一人くらい危ないってことを最初から教えてくれててもいいじゃん!?


見た目は小さな女の子だが、今対峙しているだけでも相当な魔力を内に秘めているのを感じ取れる。


霊夢は怒りに任せてレミリアを一瞬でボコボコにしていたが、多分あの時レミリアは本気を出していなかったはずだ。


吸血鬼は本来、かなりの数の弱点を持つ代わりに凄まじい身体能力を誇る。本気の状態の彼女と戦えば、霊夢と自分が力を合わせても勝てるか分からない。


その妹であるフランも相当強いと考えるのが道理だ。増して彼女は幼いが故に多分加減というものを知らない。悪気も無くその強大な力を遊びのつもりで人間にぶつけるのだろう。


そういう意味ではもしかしたらレミリアよりも厄介と言えるのかもしれない。


かといって自分もあの壁の赤い染みと同じ運命を辿るつもりはさらさらない。


「......フランは何を賭けるんだ?」


「コインいっこ。」


「そ、それじゃあ人命も買えないよ?」


はっきり言って戦うのが怖い。


恐怖を紛らわす為にへっぴり腰でジョークを言って強がってみる。


我ながら情けない。


「貴方がコンティニュー出来ないのさ!!」


そう一言叫び、フランは大量の弾幕をレンの方へと放った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




その頃、レミリアの自室にて。




ーーレン、大丈夫かしら......。


椅子に座ったり室内を歩き回ったりしてそわそわ落ち着かない様子のレミリアの姿があった。


不意に小気味良いドアをノックする音がして、咲夜の声が響いた。


「お嬢様、紅茶をお持ちしました。」


急いで椅子に座り、返事をする。


「こほん......入っていいわよ。」


咲夜は一礼してから部屋に入ってきて紅茶の入ったティーカップを静かに机の上に置き、そこにポットから紅茶を注ぎ入れた。


注がれた紅茶の色を見てレミリアはギョッとする。


「緑色、なのね......。今日は紅茶に何を混ぜたの?」


それを聞き、にこっと微笑みながら答えた。


「今日の紅茶は頑張って緑色にしてみました。美鈴が庭で育てた“心が落ち着く”という効果のあるハーブをブレンドしたんですが......どうでしょう?」


「こ、紅茶が緑色......緑茶で良くない?」


咲夜はこういうところで無駄に頑張るのよね......。


”心が落ち着くハーブ“が何なのかは知らないが、自分がそわそわして落ち着かない心持ちでいることが咲夜にはお見通しのようだ。


気遣いを少し嬉しく思いながらカップに口をつける。


「ん......美味しいわね。少なくとも今までの創作紅茶の中では断トツで美味しいわ。」


「ふふ......そう言っていただけると作り甲斐がありますわ。」


福寿草を煎じたのとか青いのとか今まで色々飲まされてきた。体に良いらしいのであれはあれで有りかな、とは思ったが正直言ってもう一度飲もうとは思わない。


が、このお茶は割と本気で美味しい。まぁ普通の紅茶が飲みたいんだけど。


レミリアの感想を聞いて咲夜は満足そうだ。


......そろそろ普通の紅茶が飲みたいな。


「......ところでお嬢様。」


「何かしら?」


咲夜はちょっと迷う素振りを見せた後再び口を開いた。


「つかぬ事を申しますが、レンを妹様のところに行かせて本当に良かったのですか?万に一つ帰ってこないということがあれば......」


「心配しなくても大丈夫よ。レンは貴方が思っているよりもずっと強いわ。いくらフランでもそう簡単には殺せないわよ。十中八九彼に襲いかかるでしょうけど。」


「では一体何故......」


「これは八雲紫に頼まれたのよ。」


「えっ......?」


ーー八雲紫。


幻想郷創造に関わった妖怪の賢者。


何故彼女が介入しているのだろうか。


「なんか事情はよくわからないけど、レンには強くなる為に戦闘経験を積ませないといけないんだって。フランならその相手にうってつけってわけよ。」


「は、はぁ......?」


「それに......ね。フランは多分もう、人を殺したりはしないわ。」


「どうしてそう言い切れるのですか?」


果たして咲夜の問いに、レミリアは答えなかった。


「......これはあの子、フランの為でもあるのよ。」


答えの代わりにポツンと呟かれたレミリアの発言に、咲夜は首を傾げた。






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