46.お嬢様の頼み事
レンは暫く魔導書を読んだ後、パチュリーと小悪魔に礼を言って食堂へと戻った。
レミリアは机に突っ伏していた。寝てるのかな?
「......おーい、レミリア?起きてるか〜?」
「......んあっ!やっと戻ってきたわね!」
軽く肩を揺さぶると、ばっと顔を上げた。
「うーん......眠いわね。最近夜昼逆転してて昼あんまり寝てないから夜でも眠くなっちゃうのよね。」
夜昼逆転って初めて聞いた......。
そっか。本来なら吸血鬼って昼間は寝てて夜起きて活動する種族だもんな。
「どうする?今日はもう寝ても......」
「いや、それには及ばないわ。ずっと待ってたんだもの。そうだ、場所を変えましょ?私の部屋でお喋りしましょうよ。そしたら私が眠くなってもすぐに寝られるわ。」
「俺は構わないけど......。」
「よし、決まりね!咲夜〜!」
「はい、ここに。」
レミリアが手を叩くと、いつの間にか咲夜が側に跪いている。
「私の部屋に二人分の紅茶を持ってきて頂戴。」
「了解しました。」
と一言だけ返事を残して咲夜は再び瞬時に消えた。
「それじゃあ私の部屋へ行きましょうか。付いてきなさい。」
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レミリアの自室はまさに贅の極みといった感じだった。
赤のカラーを基調とした部屋になっており、椅子からクローゼット、ベッドに至るまで豪勢な装飾が施されている。
床に敷かれたカーペットも凄い。なんだコレ。ふっかふかのふもっふもだ。一歩一歩踏み出すたびに足が沈み込むような感覚。一体どれほど高級な毛皮を使っているのだろうか。
「ふふ......カーペットがそんなに珍しい?」
「い、いや......ふかふか具合が凄いなと思って。」
レミリアに促されて、レンは部屋の中央の机に座った。
机の上にはもう既に二組のティーカップとティーポットが置いてあり、ポットからは控え目に湯気が上がっている。
「おお......咲夜は仕事が早いな。」
「でしょ?咲夜はうちの自慢のメイド長だもの。料理や洗濯、掃除まで何をやらせても一流よ。早いし。」
「そういえば咲夜は時を止めたり凄まじいナイフ投げしたり普通の人間とはかけ離れた不思議な力を持っているみたいだけど......あれで本当に人間なの?」
「”人間離れしてる“って貴方が言えることじゃないと思うけど......。まあ確かに咲夜は面白い運命の持ち主ね。」
えっ!?今咲夜の運命が面白いって言った!?
「面白い運命......?レミリアには人の運命が見えるのか?」
レンがそう聞くと、レミリアは待ってましたとばかりに自慢気に胸を張った。
「当ったり前じゃない......。だって私は“運命を操る程度の能力”の持ち主よ?貴方の運命も私が握っているようなもんなんだから。」
えっ、ちょっと待って!?そんなチート能力を持っているなんて聞いてないんだけど!?
「凄え能力だな......。もしかすると俺の運命も見えちゃったりとか......?」
「えぇ。バッチリ見えるわよ。面白い運命を辿る人間は見れば分かるもの。貴方も咲夜に負けず劣らずの数奇な運命の持ち主ね。......まぁ、それ故に私は貴方に興味を持ったのだけれども。」
「そ、そうなのか......。」
まあ、もう滅ぼされた世界から一人幻想郷へやって来た身だしな......。
てかレミリアが俺を気に入ってくれた理由それだけかよ!?
「......あれ?自分の運命について気になって聞いてみたりしないの?」
「ま、まぁな。ぶっちゃけ言うと......自分がこの後どうなるのかとか聞いちゃうの怖いしさ?運命なんか俺次第でこれからいくらでも変わるんじゃないかな......なんて。」
それを聞いたレミリアは一瞬きょとんとした顔になり......俯いたかと思った次の瞬間。
「レ、レミリア?」
「ぷっ......」
吹き出したかと思うと大声を上げて爆笑し始めた。
「そんなに笑うことないだろ......?」
「ひーっ、おかし......。ククッ......まぁそうよね。貴方の言う通り。今いちいち不確定な自分の未来なんて聞いて一喜一憂なんかしていても意味ないものね......ふふっ。」
俺、そんなにおかしいこと言ったかな......。
「今までに何回か人間とこういう話したことあるけど、そんな風な理由で聞かない、なんて言ったのは貴方が初めてよ。やっぱり貴方、面白いわ。」
「あはは......そりゃどうも。」
その後も二人は暫く他愛もない話を続けた。
話し疲れた口を潤す為に紅茶を啜る。
ふと窓の方を覗くと、あいも変わらずまん丸な月が紅い霧の消えた夜空に浮かんでいた。
......霊夢、ちゃんと神社に着いたかな。
「......霊夢のことを気にしているの?」
机を挟んで向かい側に座り、レンと同じく紅茶を啜っていたレミリアが首を傾げる。
「うん......まぁね。あんな化け物じみた強さだけど、あいつ意外と寂しがり屋でさ......。今頃神社で一人でお酒でも飲み直してるんだろうけど、なんか俺だけここに留まって悪いことしたかなって。」
「ククッ......霊夢が寂しがり屋さんねぇ......まぁ案外そうなのかもしれないわね。あの子結構人前では気丈に振る舞うけど、内心誰かに甘えたがっているようにも見えるから。」
「あんなツンツンしてるし、甘えたがりかは分かんないけどやっぱりそんな感じするよな。......霊夢、なんでさっきちょっと怒ってたんだろうな......?」
ーー明らかにお前に妬いてたんだよ......。
とレミリアは心の中で呟いた。
霊夢の機嫌が悪かったのは十中八九レミリアがレンにべったりくっついていたために放って置かれていたからに違いない。
レンに対してあんな態度を取っているけど、多分霊夢はレンに構ってもらえないと拗ねてしまうのだろう。
......まぁ私だってレンと話したかったんだから別に悪いことしたとは思ってないけど。
妬かれていた当の本人は腕を組んで首を傾げているから可笑しい。
「貴方、乙女心には疎いのね......。」
「んあ?なんか言った?」
「いや、なんでもないわ。」
霊夢も不器用だけど、レンもレンだよなぁ......。
そんなことはさて置き。
「......レン。ちょっと折り入って頼みがあるんだけど、聞いてくれないかしら。」
急に居住まいを正し、真剣な表情でレミリアがそう言ったのでレンは少し緊張した。
表情からして深刻な頼みであることに違いない。一応ここに泊めてもらっているんだし、ある程度の頼みは聞かないと恩義に反するというものだろう。異変を起こすような内容で無ければ出来る限り協力はしたいが......。
「頼みとは?」
「この紅魔館の地下にはね......私と血の繋がった妹がいるの。フランドール・スカーレット......私と同じく吸血鬼で、私にそっくりな女の子よ。」
レミリアには妹がいたのか。夕食の時にはそれらしき子は見なかったけど......引きこもりなのかな?
「貴方にあの子と遊んであげて欲しいんだけど......頼めないかしら?」
ーーえっ......?
それだけ?
なんかもっとこう......生死に関わってくるような無理難題でも言い渡されるのかと思って身構えてたんだけど......。
「今回私が異変を起こしたのは暇つぶしの為でもあったけど、実は貴方をこの紅魔館に招き入れることが真の目的だったのよ。どうしてもあの子......フランを貴方に会わせてあげたいの。一日だけでいいから......ね?」
「そんなんで良いんだったら別に俺は構わないよ。丁度人里の守護の仕事も休暇中だし。」
「本当!?.....気をつけてね。」
「おう!任しとけ。」
......ん?勢いで返事しちゃったけどレミリア今なんて言った?
「さてと......本題だった貴方への頼み事も伝えたし、そろそろ眠くなってきたから私は寝るわね。今日は昼も寝ずに起きていたから眠いのよ。」
「夜昼逆転ってやつか?」
「まあ......そんなところかしら。」
レミリアはクスッと笑って大きく伸びをした後、目を擦りながら自分のベッドへと潜った。
「あ、お風呂に入るならこの部屋を出てすぐの角を右よ。寝室は......この部屋の隣に客間があるから、そこを使って頂戴。......お休みなさい。」
「ああ、色々とありがとう。おやすみ。」
レンはそう一言返すと、扉を静かに閉めた。




