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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
4章 繰り返される紅の夢
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42.異変調査






「なぁ......勢い良く飛び出したのはいいけど、辺りは真っ暗だし朝になるのを一回待ってから出直した方が......」


「いいや、それまで待てないわ。私からお酒を飲む時間を奪った罪は重いんだから。さっさとぶちのめさないと気が済まないわよ!」


「そ、そうか......。」


まあ霊夢持ち前の勘さえあれば真っ暗闇でも迷うことはないだろう。


だが問題はそこだけではない。


夜は妖怪達の時間。幻想郷中の魑魅魍魎の類が一日の中で最も活発に動く時間帯である。


今彼らが飛んでいるのは神社の裏の森の上空。


いつ妖怪に襲われてもおかしくない状況なのだが......。


「ねぇ......貴方達は食べても良い人間?」


「ッ!?」


突然濃い宵闇の中からあどけない少女の声が聞こえて来る。だが、その可愛らしい声音に反して話している内容が物騒極まりないものであることに軽く恐怖を覚える。


やがて闇の中から幼い少女の姿をした妖怪が現れた。


レンがよく知る妖怪......ルーミアだ。


だが、今日のルーミアはその緋色の目を爛々と輝かせて異様な気質を放っており昼間の彼女とは雰囲気だけで言えばほとんど別人のようであった。


......彼女も人喰い妖怪。きっと昼間のふわふわしたルーミアではなく、今目の前にいる人間を取って喰う気満々の妖怪じみたルーミアが彼女の本性なのだろう。


「ルーミア......。」


「んー?あっ、よく見たらレンと霊夢じゃないの。なんだ......久しぶりに食べて良い人間が出たと思ったのに......。」


指を咥えてしょんぼりするルーミア。


......あっ、流石に俺達を取って喰おうとは思わないのね。


そういうルーミアを見たくなかったので胸を撫で下ろす。


「私たちはあんたに構っている暇はないの。わかったら早く......」


霊夢が面倒くさそうにあしらおうとしたその時。


「そーなのかー。うぅ......でもお腹減ったのだー。ねえ、弾幕ごっこして私が勝ったら小指の先でも良いから齧らせてくれない?」


ルーミアの長い前髪の下から覗かせた紅い瞳が光る。


「......どうやら月の狂気にあてられたみたいね。いいわよ、弾幕ごっこをして気が済むんだったらしてあげるわ。まぁ小指の一本たりともあげないけどねっ!行くわよレン!!」


「ああ!!」


ごめんな、ルーミア。


あまり気は進まないが、これも異変解決のためだ。なんか霊夢はただ単に八つ当たりしたくてうずうずしていたように見えてならないけど。


......っていうか小指齧らせてって冗談......だよね?


とかレンが考えているとルーミアが弾幕を飛ばしてきた。


「むっ......」


勢い良く広がりつつ向かって来る色とりどりの弾幕。


二人は空を蹴って飛翔、その合間を縫って避けていく。


霊夢がお祓い棒を持ってない方の手をルーミアへ向けて札を飛ばした。


それを見たレンも同じように魔法弾幕を放つ。


放たれた札と魔法弾幕はルーミアの方へと弧を描きながら飛んでいき、見事命中。


だが当たりはしたものの大した深傷ではないようだ。


「も〜、ちょこざいな〜!」


ひらりひらりと避け続ける二人についに痺れを切らしたのか、ルーミアは両手を広げてスペルカード宣言。


ーー夜符「ナイトバード」。


ルーミアを中心として弧を描いて弾幕が生成され、交差するようにして迫って来る。


結構な高密度の弾幕で、流石にこれを正面から突っ込んで回避するのは難しいと判断し、レンは高度を落として森の木々の中に入り込んだ。


さて、どうルーミアへ近づこうものかと考えていると。


遥か上の方を飛翔し、弾幕に正面から突っ込んでいこうとする霊夢が目に入った。


「お、おい霊夢!?」


レンの動揺する声も聞かず、霊夢はそのまま猛スピードで弾幕の嵐へと突っ込む。


そのままひょいひょいと弾幕を器用に避けながらルーミアへと急接近。


「とっとと封印されちゃいなさいっ!!」


お祓い棒を一振りして生成した紅白の陰陽玉をルーミアへと叩き込んだ。


ルーミアはそのまま眩い閃光に包まれ......。


「あぎゃーー!」


ピチューン。


み、巫女様強え......。


ボロボロになったルーミアが落下していく。


「あっ......危ない!」


その様子を見たレンは森を飛び出し、落下するルーミアを地面に衝突するすんでのところで受け止めた。


ふぅ......、と安堵のため息を一つ。


そのままゆっくりと地面に降り立ち、気絶しているルーミアを横たえた。


「きゅう〜......。」


ボロボロだが、妖怪だしこのまま放っておいてもすぐに意識は戻るだろう。


「......?別に妖怪なんだし、この程度の高さから落ちたくらいじゃ怪我すらしないわよ。別にわざわざ私達を取って喰おうとした妖怪を受け止めてやる必要なんかないじゃない。」


「まぁ......ほら、この前の異変の時も道案内してくれたしさ。人を襲うのは本能なんだからなんかかわいそうだろ?」


「ふーん、随分優しいのね。......まぁいいわ。ほら、さっさと行くわよ!」


それだけ言って霊夢は再び地面を蹴って飛び立った。


あれ?なんかちょっと不機嫌気味になった?


「お、おーい!ちょっと待ってくれよ!?」


レンは慌てて霊夢を追いかけた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




見渡す限り眼下に広がる湖。


波一つ立っていない静かな湖面にはまん丸の月が映っている。


「なぁ霊夢。ここが“霧の湖”なのか?」


湖面に映った月を眺めながらレンは訪ねた。


「ええ、そうよ。前にも言ったけどここは夏になっても涼しいからとても快適なの。毎年夏の暑さに耐えきれなくなった時はよくここに遊びにきたりするわ。」


「見渡す限り霧が発生しているようには見えないんだけど......なんで“霧の湖”なんだ?」


「昼の間は濃い霧が立ち込めてるのよ。原因は分からないけど、夜は霧が発生しないの。」


ーーへぇ......。


何故だろうか。この辺り一帯に何か魔法の類が掛けられてるのかな。


刹那。


「ッ!?」


背後から何者かの気配を感じて腰の剣の柄を掴み、振り向いた。


そこにいたのは......。


青い瞳に水色の髪の幼い女の子......とその隣には水色の瞳に明るい緑色の髪の同じく幼い見た目の女の子。


よく見るとそれぞれ形は異なるものの二人とも背中に羽を帯びている。妖精だろうか。


「......ん?」


この妖精達、神社に遊びにきているのを見たことある気がする。


「む、さいきょーのあたいの気配に気がつくとは......あんたやるな!」


「チ、チルノちゃん......霊夢さん達先を急いでるみたいだよ?迷惑かけないようにしようよ......。」


「あら、チルノに大妖精じゃないの。そっか......ここはあんた達妖精の溜まり場だったわね。」


霊夢がチルノ、と呼ばれた青い瞳の方の妖精の頭をぽんぽんと撫でた。


撫でられたチルノはえへへ、と嬉しそうに笑う。


霊夢が小さい子や妖精に優しいっていうのは本当だったんだな。


......あれ、ルーミアは?


ルーミアも見た目はチルノ達と同じくらい幼いと思うんだけど。


「ねぇ、あんた名前は?」


「お......俺?俺の名前は.........レン。」


「あぁ!あんたがレンか!霊夢からよくあんたの話は聞くぞ!」


「え?あ、あぁそうなのか。」


「ちょ、べっ別にそんなにあんたにレンのことを話した覚えは......」


「嘘ばっかり。霊夢、最近レンのことばっか私に話すんだもん。」


「......。」


霊夢の顔が真っ赤になる。


「か、勘違いしないでよね!別にあんたの話をしたくてしてるわけじゃないんだから!前にほんのちょこっとあんたの話をしたのをたまたまチルノが鮮明に覚えていただけで......」


急接近してきてレンの胸ぐらを掴んだままごにょごにょと早口で喋り倒す霊夢。


「お、おう......。」


ちょっと......霊夢さん近い近い。


顔を至近距離まで近付けられて心臓が跳ね上がる。


「ところでお二人がこんな時間にここに来たのは......あの紅い霧を止める為、ですか?」


大妖精と呼ばれた方の妖精が口を開いた。


「まぁね。酒を飲む時間を奪われた霊夢は八つ当たりの為に......」


「はいはい、余計なことは言わない!ほらレン、紅魔館はすぐそこよ。さっさといきましょ。」


「えー?今日は遊んでくれないの?」


「遊ぶも何ももう辺りは真っ暗じゃないの。私は先を急いでるんだし......この時間は妖怪だけじゃ無くて最近現れ始めた魔物も活発になるらしいから危ないわよ。また今度会った時遊んだげるから今日はもうお家に帰りなさい。」


「むぅ......約束だぞ?」


「えぇ、約束よ。」


チルノはちょっと膨れっ面で、大妖精はぺこぺここちらへ何度も頭を下げながら飛んで行き、やがて夜の帳に包まれて見えなくなった。


へぇ......本当に意外だ。鬼みたいな霊夢にもこんなに優しいところあったんだな。


「誰が鬼ですって?」


不吉な満面の笑みをたたえる霊夢。


「ひっ!?その......えっと......」


しまった。声に出てたみたい。


スパパパパァァァン!!という清々しいほどの往復ピンタ音が夜の湖畔中に響き渡った。









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