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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
2章 忘れられし者たちの楽園・幻想郷へ
30/106

30.仮面の傀儡



人里から少し離れた森の中に、黒い人影がひとつ。


漆黒のフードを目深にかぶっており、その下にも仮面を付けていて顔は完全に見えない。ただ、歪んでいるその口元から嬉々とした笑みを浮かべていることだけは分かる。


「......。」


ーー人里に放った妖怪が殲滅された。


あれだけの数の、しかも呪術によって強化した妖怪を相手にできる者などそうそういないだろう。


それに人里の方から微かに感じる魔力と神力。


間違いない。


《天星剣》がこの世界に来ている、という噂はどうやら本当だったようだ。


愉快だ。


これほど愉快なことがあって笑いを堪えられずにいられるものか。


「......必ず、この手で殺す。」


抑えきれないほどの感情が込み上げて来るのを感じながら、彼は次なる呪術の術式を組み立てるのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「今までに人里を妖怪の群れが襲うなんてことはただの一度たりともなかったのに......。あんた達の話では......この騒動は人為的に起こされたもの、なんでしょ?」


「恐らくな。」


「ああ、間違い無いと思うぜ。」


二人で口を揃えて同意する。


「巫女の私を差し置いて里で死人が出るほどの騒動を起こすなんていい度胸ね。必ず主犯を探し出してぶっ飛ばしてやるわ。あんたらも協力するわよね?」


「ああ、勿論だ。元々その為に博麗神社に住んでる訳だし。」


「あー、悪いが私は単独でやらせてもらうぜ。ちょっと気になることがあって、そっちも調べときたいからな。」


おいおい、そこは協力するって言う場面だろ!?


魔理沙の発言にレンは少しギョッとしたが、霊夢はさして気にする様子もない。


「あっそ。分かったわ。こっちも好きにやらせてもらうからね。」


「あぁ。そっちが先に異変解決できるか勝負だぜ!」


「ただし、さっきみたいにまた無茶はしないこと。極力戦闘は控えるように心掛けなさい。危険を感じたらすぐに誰かの助けを呼びなさいよ?」


意気込む魔理沙に釘を刺す霊夢。


「へへ、分かってるって。」


霊夢の、彼女なりの魔理沙への心配のこもった言葉を受けて魔理沙は少し嬉しそうに笑う。


「そんじゃあな、二人とも。私が異変を解決するまでくたばるなよ?」


冗談めかした言葉を残して、魔理沙は箒にまたがり里の外へと飛んでいった。


「さてと......まずは里人に話を聞いて回るわよ。情報収集は異変解決の基本だからね。」


「おぉ......なんか異変解決の専門家っぽいな。」


「”ぽい“じゃなくて専門家よ!まったく......私は博麗の巫女なのよ?」


こういう時だけ霊夢は自慢げに語るんだよなぁ。普段は縁側で昼寝したり茶飲んだりしかしない自堕落な生活してるのに。


「......なんか今凄く失礼なこと考えなかった?」


「べ、ベツニカンガエテナイヨ。」


「......なんでそんな片言なのよ?まぁいいわ。ほら、ぼさっと突っ立って早く行くわよ。」


踵を返し、すたすたと歩いて行ってしまう。


「あっ、ちょっと待ってくれよ!」


なんだかいつもよりもほんの少しだけ頼もしく思えた彼女の華奢な背中を、レンは慌てて追いかけた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





情報収集をして、分かったことが一つ。


行方不明になった里人が何人かいるらしい。


あの騒動が起こった後、里の西側の方面に住んでいた者を中心とする十数名が突然姿を消したのである。


そして、騒動の翌日。


この日もレンと霊夢は里の護衛と情報収集を兼ねて人里を訪れていた。


「......にしてもおかしいわね。そんなに多勢の人々が一気に行方不明になるなんて。これも今回の異変の主犯のせいなのかしら?」


「そう考えるのが妥当だろうな。一体何の目的があって人を拐うのかは全くの不明だが。」


「うーん......大した手掛かりも掴めなかったし、八方詰まりね。」


霊夢の言う通り、今のところ異変の首謀者に関しての大きな手掛かりはいまだに掴めていない。昨日の騒動の影響なのか、今日は大通りでも通行人が極端に少ないのも情報が集まらない原因の一つだ。


「こうなったら......私の勘だけが頼りね。」


「え?」


「勘よ、勘。」


「諦めるにはまだ早いぞ......?」


「諦めてないわよ!巫女の勘はよく当たるのよ。実際、今までに起こった異変もほぼ八割がた勘で解決してきたわ。」


「嘘だろおい!?」


......情報収集の意味無いじゃん。


とレンが呆れていると。


「......」


急に霊夢の顔つきが真剣になり、目が細められる。


「おい、霊夢?どうしたん......」


「......こっち!!」


次の瞬間、霊夢は弾かれたようにレンのローブの裾を引っ掴んで走り出す。


「なんだよ急に!?」


霊夢は答えない。


凄まじい速度で里の通りを駆け抜ける霊夢の後を追いかける。


「なっ!?」


そこにいたのはーー


昨日のと全く同じ仮面を付けた妖怪達だった。


しかも目視できる範囲にいる数だけでも昨日よりも多そうだ。


その横をふらふらと歩く人影が。


「危ない!何しているんだ、早く逃げろ!」


思わず叫ぶレン。


だが、レンの声に振り向いた人間のその顔には......


「一体なんなんだ......?」


妖怪のものと同じあの不気味な仮面が付けられていた。


レンと霊夢を見るや否やこちらへと襲い掛かって来る。


「来るぞ!......霊夢?おいっ!?」


「......えっ?あっ......」


呆気にとられた霊夢の反応が遅れる。


レンはそれを見て反射的に地を蹴り、立ち尽くす霊夢と襲い掛かって来る仮面の男の間に割って入る。


すかさず殴り掛かろうと突き出される拳を彼は右腕の腕甲で受けた。


続いて空いた左手で相手の肩口を掴んで素早く引き、背負い投げの要領で投げて地面に叩き付ける。


男は地面に叩きつけられたが最後、気絶して動かなくなった。


「.....別に助けてって言った訳じゃ無いからね。」


「はいはいこれからは気を付けて......とか無駄口叩いてる場合じゃないな。」


気が付けば二人は仮面を付けた人間達に囲まれていた。


妖怪も結構な数混じっている。


これだけ多くの敵と対峙すると、さすがの彼でも首筋を冷たい汗が流れるのを感じた。


この辺は数日前の騒動の影響か、しんと静まり返っていて人が通る気配は全くない。


ここは一旦逃げる、と言う選択肢もーー


「久しぶりの妖怪退治ね!腕が鳴るわ。」


いや、ないか。


そもそも敵に囲まれている時点で逃げ道など存在しないし、何より隣の巫女様が暴れる気満々だ。


レンは潔く”逃走“という選択肢を諦めて、腰の剣の柄に手を掛けた。


「人間の方は多分攫われた里人達だ。何者かに仮面を付けられて操られているんだろうな。あの仮面を取るか壊すかすれば無力化できるはずだ。妖怪は殺しても構わないが、人間の方はあくまでも無力化するだけ。間違っても殺すなよ?」


「んなの分かってるわよ。それよりもあんた、危険を感じたら私の後ろに隠れてなさいよ?昨日みたいにあんまり無茶したら許さないわよ。」


良い加減“あんた”とか“黒いの”じゃなくて“レン”って名前で呼んでくれないかな?


という突っ込みは心の中に留めておき、


「......その言葉、そっくりそのまま返すよ。」


一言残して。


レンは地を駆け、霊夢は空を滑り、敵の群れへと切り込む。


至近距離から繰り出される敵の攻撃を驚異的な疾さでもって掻い潜り剣を振るって、傀儡と化した人々の顔につけられた不気味な仮面を叩き割っていく。


ちらりと後ろを見やると、霊夢の凄まじい戦いっぷりが見えた。


ひらりひらりと敵の攻撃を避け、弾幕を展開。妖怪はお祓い棒で殴り飛ばす。彼女が懐から取り出したお札を投げると、複数に拡散して敵の頭上へと降り注ぐ。


さすがは霊夢。こちらも負けていられない、とレンは剣を握る手に力を込めた。










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