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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
2章 忘れられし者たちの楽園・幻想郷へ
29/106

29.襲来




レンが博麗神社に住み始めてから半月と少し。


博麗神社では葉桜が見られるようになり、人里では今まさに田植え真っ盛りといった頃合いである。


ーー春の暮れ。


桃色の花弁と緑の混じった葉桜が見られるようになった。


そんな今日この頃、博麗神社は。


「うぅ......腹減った....。」


「もう煎餅も無いわよ......。」


財政難に見舞われていた。


「霊夢が飯食い過ぎなんだよ。」


そう。


元からいつか底をつくと分かっていたとはいえ、ここまで早くお金が無くなってしまったのは明らかに霊夢の暴飲暴食が原因である。


レンが魔理沙からもらったお金の余りも既に綺麗さっぱり無くなりまさに火の車、無一文である。


「うっ......あんたの作るご飯がすごk......それなりに美味しいからいけないのよ!」


「そこは素直に褒めてくれよ......。そういえば博麗の巫女ってどうやってお金稼ぐんだ?」


ぎくり、という反応を見せつつ指を頬に当てて思案する霊夢。


「妖怪退治やお祓いの依頼に、御守りやお札の販売、あとは......お賽銭、かしらね。」


「へぇ.....妖怪退治を依頼されることもあるのか。」


「まあ、私は博麗の巫女だからね。妖怪たちから里の人間を護るのも役目なのよ。」


霊夢は胸を張って自慢げに語った。


「まぁ......何にせよ、このままじゃあ餓死しちゃうからな。里に仕事を探しに行くか。」


「あら、頑張ってね〜。私はここで応援してるから行ってらっしゃ......」


「何言ってんだよ、お前にも来てもらうからな!」


「い、嫌よ!!あんたか弱い女の子を働かせるつもり!?」


「何が“か弱い”だよ!?あんな化け物みたいな怪力を......ぐえっ!?」


「んん〜??なんか言ったかな?」


巫女さんが満面の笑みを浮かべながらレンの首を絞め上げる。


守りたい、この笑顔。


......って言ってる場合かッ!!痛い痛い普通に死ねるッ!


そういうとこだよ。


「ギブギブギブ!!分かったから放してくれぇ!!」


必死の命乞いをして、ようやく解放される。


危ねえ......不用意に刺激しちゃダメだなこの娘。危うくポックリ逝くところだった。


「......とにかく、里に降りて仕事を探してきます。」


「頑張りなさい!程々に期待しといてあげるわよ!」


なんで上から目線なんだよ!?


ーーというツッコミは置いといて。


「んじゃ、行ってくる。」


そう一言言い残して、地面を蹴って空中へと飛び上がり。


適当な高さまで上昇した後、遠くに小さく見える人里目掛けて飛翔する。


つい先日、霊夢に空の飛び方を教えてくれないかと頼んだのだが、


「あんた空も飛べないの!?」


「飛べないのが普通なんだよ。」


「適当にシュッ、ズビューンって感じでやれば飛べるわよ。」


「......はぁ?」


霊夢の説明が絶望的に下手すぎて全く飛び方のコツが理解できなかったので、霊夢が飛んでいるのをよく見て独学で練習を重ねた末についに飛べるようになった。


案外慣れると簡単なものでもう結構なスピードで空を飛び回ることができる。


レンがこの前何時間もかけて登ってきた人里から博麗神社までの道を十分もかからないうちに移動できると知った時は複雑な心持ちになったものだ。


だが、能力のおかげでほぼ無間に空を飛べる霊夢たちと違ってレンは魔力を消費して飛んでいる為飛べる時間には限度がある。


飛べるようになれただけでありがたいので文句は言わないが。


今日の夕飯食べられるかな......などと考えつつ、レンは人里へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「よっ、と......。」


高度を下げ、人里の入り口に降り立つ。


里の中は相変わらずの賑わいだ。


大通り沿いに立ち並ぶ店の前では商人達が威勢の良い声を張り上げ、人々はその間を練り歩く。


ーー今度は人々が群がって来ませんように。


つい半月ほど前に初めて人里を訪れた時のトラウマを思い出す。


里の人達は親切心で恵んでくれるのであり、それはとてもありがたいことなのだが人様から無料でものを譲って貰うのは罪悪感が凄いし、とても惨めな気持ちになる。


まぁ現状一文無しなんだし惨めなことには変わらないんだけどね。



大通りを歩いていると、いろいろな店が目に留まる。


八百屋に呉服屋、茶屋などなど。小物・家具類を売っている店もあるようだ。


「......そういえばどんな仕事をするかの見当すら付けていなかったな。」


本当に何にしようか。


客の呼び込みとか、そういうのはあまり自分には向いていない気がする。


自分に出来るのは......


剣を振るうことと魔法を使うこと。あとは......料理ぐらい。


あっ、そういえば。


以前茶屋に寄った時に雇用人募集の張り紙が店内に貼ってあったのを思い出す。


茶を入れたり菓子を作るくらいだったら自分にもできるかもしれない。


よし、思い立ったらすぐ行動。


幸い近いところにあった茶屋の暖簾をくぐり、店内へ入る。


「いらっしゃいませ。お好きな空いている席へどうぞ。」


いつぞやの看板娘がお盆を小脇に抱えて厨房の方から出てくる。


「あ、今日は客としてじゃなくて雇って欲しくて来たんですが......。」


「ああ!雇用人募集の張り紙を見て来てくれたんですか?」


首肯。


「人手が足りなくて困ってたんですよ!丁度よかった。」


嬉しそうに手を顔の横で合わせて喜ぶ。


「い、いやまだここで働くって決めたわけじゃなくて。時間とか賃金条件とか色々伺ってから決めたいんです。」


「そういうことなら......お父さ〜ん!お父〜さ〜ん!!お父さんってば!!」


「ん?どうしたんだい香夜?」


身長の高い親父さんがのそっと厨房の奥の方から出てくる。


「この人が雇用人募集の張り紙を見て来てくれたんだけど、時間とか賃金条件とかを聞いてから働くか決めたいんだって。」


「おっ!来てくれてどうもありがとう。話なら奥に入って聞こうじゃ無いか。ささ、入って入って。香夜、しばらく店の方を頼んだよ。」


「は〜い。」


店主に促され、厨房の奥の方にある席に着く。


「さて、まずは君の名前を聞こうかな。」


「レンと言います。」


「レン君、だね。俺は佐吉。んで、さっきの女の子がうちの看板娘の香夜だ。」


佐吉は自己紹介をしつつ、にかっと破顔して見せる。


人柄の良さそうな人で良かった。


「で、早速さっき言ってた仕事をする時間についてなんだが......別に来れる時に都合の良い時間だけうちの手伝いをしてくれればいいよ。賃金も時間に応じて払うことにしようかな。」


「本当ですか!?時間指定がないのは助かります。」


働く時間を気にしなくていいのは願ってもいない好条件だ。


「手伝いというのは、具体的には?」


「客の注文を取るのと会計と、暇があれば掃除も......まぁ基本的には香夜と同じような仕事をしてもらいたい。どう?うちで働いてくれるかい?」


佐吉が期待に満ちた眼差しをレンへと向ける。


まあ好きな時間に来て働けばいいと言ってくれているんだし、労働条件としては良好なのだから今更断る理由も無い。


ーーここで働かせてください。


そう一言、答えようとしたまさにその時だった。


何処か遠くから誰かの悲鳴が響いてきた。


ーー妖怪だ!妖怪が出たぞっ!


悲鳴に続いて水面を打ったかのように人々が口々に叫ぶ。


「ッ!?」


弾かれたように入り口を見やり。


「......行かなきゃ。佐吉さん、すみません。この話はまた今度。」


「お、おい。行くってどこへ......まさか妖怪相手にやり合おうってんじゃ無いだろうな?正気の沙汰かい!?」


止めようとする佐吉に構わず、彼は店を飛び出した。


蜘蛛の子を散らすように逃げてくる里人達に幾度かぶつかりながらも悲鳴の聞こえた方へと疾走する。



やがて里の北の方の民家が立ち並ぶ通りに差し掛かった。


ーー濃密な血の臭いが鼻腔を突く。


不快な感覚に顔を顰めながら臭いのする方へと振り向くと、そこには思わず目を覆いたくなるような惨状が広がっていた。


「うっ......」


吐き気を覚え、彼は無意識の内に手で口を押さえた。


腹に風穴が穿たれたり、腰から上が無かったりといった酷い死体が何体か横たわっている。


地面は血の池と化し、ぶち撒けられた脳漿と相まって吐き気を催す光景である。


ーーそして。


こうしている間にも、恐らくこの惨状を作り出した犯人なのであろう妖怪達が血の池の上を駆け回り、逃げ惑う人々をその牙で、爪で、惨殺していく。


「くっ、なんなんだあれは......?」


何かがおかしい。


四本腕があるもの、鋭利な角や牙や爪を持つもの、無数の足で地面を這うものなど見た目は人里を一歩でも出れば何処でも見かけそうな妖怪達である。


だが、不思議なのはここにいる全てが奇妙な形の“仮面”を顔に付けていることである。


いや、あのような異形の妖怪達にそんな知能はないはずなので何者かに“付けられている”と言った方が正しいか。


真っ白で鼻がなく、目にあたる部分だけ、まるでそこだけがくり抜かれたかのように真っ黒である。


何処となく見る者にゾッとする恐怖感を覚えさせるような奇妙な仮面だ。


「ヴェドリア。」


試しに魔力感知の呪文を唱える。


呪文を放った指先にパチっという静電気に似た軽い衝撃が走る。


....やはり。


仮面には何かの呪いが掛けられている。


本来掟によって里の中で暴れ回るようなことは滅多にない妖怪達が気が触れたかのように暴れまわっているのはあの奇妙な仮面が原因と見て間違いないだろう。


ーーと考察している間に彼の背後に回り込んだ個体が一体。


レンの胴体を引き裂かんと振るわれる鋭い爪。


「むっ......」


ーー疾い。


そこらにいる妖怪と少し格が違うようだ。


対するレンは宙返りで避け、着地と同時に受け身を取ってそのまま反撃するべく駆け出す。


低い姿勢で疾走しながら乾いた音を立てて抜刀。


立て続けに繰り出される攻撃を掻い潜って壁を走り、飛び立って妖怪の頭上へ。


ーー取った。


その八尺程もある巨躯の脳天へと魔剣を突き立てる。


不快な程に甲高い悲鳴と共に巨体は地面へ崩れ落ち、絶命。


まずは一体。


「......ッ!!」


顔を見上げると、着物を着た藤色の髪の少女とその従者らしき女性が逃げようと必死に走っている光景が視界に入った。


そこにまた別の妖怪がまさに飛びかかろうとーー。


「危ないッ!!」


意識するよりも先に身体が動き、二人を庇うように妖怪の爪を剣で受け流す。


体重を乗せた攻撃を受け流された妖怪の方は、体勢を大きく崩されてよろめいた。


「アンブレイドッ!!」


その隙を逃さず使える限りで最強の闇魔法をその横腹へと叩き込む。


至近距離で闇の波動をぶつけられ、妖怪は悲鳴を上げる間もなく数メートル程吹っ飛んだが最後、地面に伏して動かなくなった。


「あ......あぁ....」


振り返ると、藤色の髪の少女は従者の女性に引っ付いて今にも泣きそうな表情になっていた。


「......怪我は無いですか?」


「ええ、大丈夫です。なんとお礼を言えば良いか......危ないところを助けていただきありがとうございました。」


「礼ならまた後で。ここは危険です。少しでも早くここから逃げてください。」


「ええ、そうですね。貴方も御武運を。さぁ阿求様、早く行きましょう。」


そう言い残し、女性は藤色の髪の少女の手を引いて走っていく。


「さてと......」


あらかた生存者は逃げることができたようだ。


仮面を付けられた妖怪達は次なる獲物を求めてうろうろと彷徨っている。


その数、ざっと十数体程か。


と、その時。


「レン、無事だったか!」


背後から聞き覚えのある活発そうな少女の声が。


「魔理沙!」


振り返ると、そこには森でお世話になった白黒の魔法少女が立っていた。


「霊夢は一緒じゃ無いんだな......。騒がしいほうへ駆けつけてみれば、一体何なんだなんだぜこの惨状は......?」


「分からない。悲鳴が聞こえて......俺が駆けつけた時には既にこの有様だった。」


「これらの死体は......あの趣味の悪い仮面をつけた妖怪達がやったのか?」


「ああ。間違い無いと思う。」


刹那。


こちらに気づいた複数体の妖怪が悍しい咆哮と共に、レンと魔理沙の元へ迫ってくる。


「ちっ、気付かれたか。取り敢えずこいつらをぶっ飛ばさないとな。」


「ああ。ただ、気をつけろ。あの妖怪達は仮面の影響かは分からないがそこら辺にいる妖怪とは少し格が違うぞ。」


「敵がどんな奴であっても私がやることは一つ。圧倒的な火力を見せつけてやるぜ!」


魔理沙のミニ八卦路が眩い閃光を噴き。


ーー今、戦いの火蓋が切って落とされた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ふぅ......思ったより大したことはなかったな。」


血と土にまみれ、傷だらけになった自分のとんがり帽子をはたきながら魔理沙が呟いた。


「いやいや、結構ギリギリだった......と思うけど。」


同じく血と土にまみれ、傷だらけになった学院制服のローブをはたきながらレンはそう呟く。


辺りには刀傷や火傷だらけの妖怪達の死体が大量に転がっている。


まさに死屍累々といった光景である。


痛々しい程に酷くやられた人間の死体の前にしゃがみ込んで手を合わせ、冥福を祈る。


ーーすまない、もう少し早く駆けつけていれば。


そして今度は妖怪の死体の方へ歩いていってしゃがみ込み、奇妙な仮面を拾い上げる。


「あっ......!?」


彼が手で触れた瞬間、仮面は白い煙を上げてやがて黒い土塊へと変わってしまった。


「何だこりゃ?」


魔理沙も別の妖怪の死体の横にしゃがみ込み、仮面を拾い上げるが結果は同じ。


手で触れた瞬間黒い土塊へと変化していく。


「......呪いの類、と見て間違いなさそうだぜ。」


厄介なことになった。


呪い......幾多も存在する中で最も忌み嫌われる分野の魔法である。


遠隔的に他人の脳を乗っ取って操る、不特定多数の相手を無差別に猛毒で死に至らしめる、などといったたちの悪い類の効果を持つものが多い。


予め何らかの生物や道具などの媒体に仕掛けておくというのが基本的な使い方だ。


発動には術者の魔力を媒体に宿すことを必要とする。そして、発動後効果が切れると目標(ターゲット)以外の誰かの手に渡り、魔力の逆探知などされることの無いようにひとりでに崩壊、或いは消滅するような術式を組み込んでおくのが一般的である。


呪いが掛けられている道具があった場合には明確な悪意を持って意図的に他人を害そうとした術者が必ず存在する。


つまりはこの仮面が呪われているのが分かった時点で、今回の騒動は妖怪の単なる暴走ではなく何者かによって意図的に起こされたものであることも確定してしまったのである。


「こんなこと、一体誰が......」


人々の無惨な屍を見て唇を噛み締める魔理沙。


ーーと、その時。


「大丈夫かぁー!!......ってあれ?」


鍬やら槍やらを手に持った屈強な男達が大勢で駆けつけてきた。


どうやら人里の自警団のようなものらしい。助けにきてくれたのだろうか。


妖怪は何処にいるんだ、と口々に喚く男達。レンと魔理沙の後ろに積み重なった妖怪達の死体を見て彼らは絶句した。


「これ、君たち二人でやったのか......!?」


驚きを隠せない人々がざわざわとどよめき始める。


「えぇまぁ、一応。ただ......俺達が駆けつけた頃には既に何人か殺されてしまっていて......。彼らを弔う為にも亡骸を運び出すのを手伝って貰えませんか?」


そこへ。


「あんた達ちょっとどきなさい!私は博麗の巫女よ!通しなさいよッ!レン......レンッ!まさか死んだりして無いわよね!?どこにいるの!?」


霊夢の声だ。


声の聞こえた方へ視線をやると、霊夢が群衆をかき分けてこちらへ向かってくるのが見えた。


群衆の前に立っていたレンと魔理沙の姿を視界に入れるなり非常に安堵した表情を一瞬見せた後俯き、次の瞬間ものすごい速度で突進して来る。


「あ......霊夢...んぐふっ!?」


正面から霊夢の突進を食らって盛大にのけぞるが、足を踏ん張って何とかそのまま後ろ向きに倒れるのを堪える。


「何で助けも呼ばないのよ!?今回は運良く敵が大したことなかったから無事だったけど......相手が悪かったらあんたの垂れ死んでたわよ!......馬鹿!!」


「お、おい霊夢......」


「あんたもよ魔理沙ッ!!」


人差し指をびしっと魔理沙へ突きつける。


「悪かったって。でも......霊夢を呼びに神社まで行ってたら更に犠牲が出てたかもしれないだろ?」


「それは......ともかく、もう独断で危険なことに首を突っ込むのは控えて。普段の異変と違って今回は死人が出てるんだから。あまり無理に暴れちゃ駄目よ。分かった?」


人々が犠牲者の屍を運んだり、瓦礫を片付けているのにも構わず霊夢は説教を続ける。


「暴れるって......小さい子供じゃ無いんだから......」


「返事は!?」


「うぇーい。いででで!?」


面倒くさそうに返事をした魔理沙の耳を霊夢が引っ張る。


「痛え......何すんだよ霊夢!?」


「まぁまぁ......心配してこう言ってくれてるんだから。な?霊夢?」


「べ、別に。ただ、あんた達に死なれたら私が胸糞悪いから......心配してるわけじゃ無いんだからね!?」


さっき心配したって言ってたよね......?


「はいはい、つんでれいむつんでれいむ。いででで、ちょ千切れる千切れる!?」


顔を真っ赤にして無言で魔理沙の耳を再び引っ張る霊夢。


学習しねぇな魔理沙は......。


二人のいつものようなやりとりを見て、少しだけ心が落ち着いたレンであった。










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