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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
2章 忘れられし者たちの楽園・幻想郷へ
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27.decision of revenge




拝殿の裏側には母屋が隣接していた。


どうやら霊夢はこの母屋で生活しているようだ。


促されて玄関で靴を脱ぎ、中へ上がる。


「お、お邪魔しまーす。」


ふんっ、と霊夢が鼻を鳴らす。


おー、巫女さん怖。


「こっち。」


ぶっきらぼうな態度で案内されて着いたのは、広さ8畳ほどの畳の部屋。


「ここが客間だから、好きに使って頂戴。重ね重ね言うけど私一人でも生活がままならないくらいだから食事は出せないわよ。それと、私の部屋には無断で入らないこと。もしやむを得ず入らなければならない時にもきちんと部屋の外から呼びかけて、私に了承を得てから入ること。変な気を起こしたら殺す!!」


霊夢は早口でそう捲し立て、レンが喋る間も与えずに縁側の方へ歩いて行ってしまった。


「......あそこまであからさまに嫌悪感出されると流石にへこむなぁ。」


......俺、別にあの子に悪いことは何もしていないよね。


まあこれから一緒に生活していくうちに徐々に打ち解けることができるだろう......多分。


重い溜息を吐きつつ、レンは腰の剣帯から長剣を外して壁に立て掛けた。



※※※



ーー変な奴!変な奴!変な奴!変な奴ッ!!


ああ煩わしい。


霊夢の頭の中はあの“黒いやつ”のことで一杯である。


紫も紫だ。


何で自分があんな素性も知れない怪しい奴をうちに住まわせなくてはならないのか。


あーもう腹が立つ。


......けど強かったな、あいつ。


珍しい服装だったところからして外の世界から来た人間なのだろうか。


そういえば名前も聞いていなかった。


名前くらい聞いといた方が良かったかも......いやいや、何考えてんだ私。あんなやつの名前なんてどうでもいい。適当に“黒いの”とかとでも呼んでやればいいじゃないか。


一瞬脳裏に浮かびかけた後悔を一蹴し、彼女は茶を沸かすことにした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




月も夜空の闇を明るく照らす、子の刻頃。


レンは剣を片手に、博麗神社の裏に位置する林の中を歩いていた。


宵闇に生える白い桜の花に、額を優しく撫でる温かい春の夜風。実に心地の良い夜だ。


暫く歩いていると少し開けた空間に出た。


「......いらっしゃい。悪いわね、夜分に呼び出して。」


不意に背後から声が聞こえてくる。


「いえ、恩人である紫さんの言うこととあれば。早速ですが、お話とは?」


「別に敬語使わなくても構わないわ。話しづらいし、貴方も敬語にあまり慣れてないでしょう?何だか口調がぎこちないわよ?」


紫がくすくすと口元に手を当てて笑う。


......図星だ。小さい頃から余り敬語を話す機会がなかったものだからか、恥ずかしながら敬語というのは苦手である。ずっと話しているとボロが出てしまいそうだ。


「じゃあ、お言葉に甘えようかな。」


「そうそう。その口調の方が貴方に合っているわ。」


レンの様子を見て紫はニヤニヤしている。


どうも心の内を見透かされているような気分で調子が狂う。


「まずは......先日の幽々子の件、ありがとうね。」


「あぁ、知っていたのか。」


「知ってるも何も、旧友に大事があったんだからねぇ。私が西行妖の封印が解かれていたことに気付いていればあんなことにはならなかったのに......。」


「まあまあ。結果幽々子が無事だったんだからそれでいいじゃないか。」


「ええ、そうね。誰が封印を解いたのかは気になるけどその話は置いといて、昼間の話の続きなんだけど......」


ふっ、と相手の表情が引き締まるのを見て緊張感を覚え、レンは思わず固唾を飲んだ。


「昼間、貴方がこの神社に住むメリットについての話をしたでしょう?」


「ああ、異変解決に赴いて実践経験を積めば強くなれるという.....」


「そう、それ。で......なんで強くなれることが貴方にとってのメリットになり得るのか、ということについての話をするわね。」


ふぅ、と一拍溜息を置いてから話を続ける。


「落ち着いて聞いて頂戴。貴方が元いた世界......ランセルグレアっていうのかしら。あの世界は今、偽りの神の支配下に置かれているわ。魔物が好き放題徘徊して、街や村も荒れ放題。人も沢山殺された。」


「......。」


予想していたことではあるが、実際に事実として伝えられると込み上げてくるものがある。


あっちの人々は皆明日の朝日を拝めるかも分からないような状況で苦しんでいるのに。自分は大切な人を守り切れず、挙げ句の果てには腐って全てを諦めてしまった負け犬だ。


何故自分は今生かされている?何故こんな自分なんかが......


「気をしっかりなさい。貴方は.......」


「......俺は崩壊しかけている世界からただ一人逃げてきた臆病者だ。」


「私にも貴方の辛い気持ちはよく分かる。でも現実から目を背けていては......。」


「実際に大切な人を失う苦しみを味わってもいない君に俺の気持ちなど分かるものか。」


「ええ、分かるわ。」


「黙れ。君に......君に俺の何が分かるっていうんだ!?もう手遅れなんだよ!......俺はもう死んだんだ。今更あっちのことを言われたって何もできないんだよ......。君にも関係のないことだろう。」


思わず激情に任せて怒鳴りつけてしまう。


ーーあぁ、やってしまった。


つくづく自分の未熟さが嫌になる。


だが、その内容は紛れもなく幻想郷に来てから彼が腹の中に溜め込んできた自らへの劣等感そのものだった。


「......関係あるのよ。奴はランセルグレアだけじゃ飽き足らず、他の世界も滅ぼそうと企んでいるわ。次に乗り込んで来るのは......ランセルグレアの隣の世界。ここ、幻想郷よ。」


「......は?」


思いがけない事実に固まる。


「嘘だ......そんなことが......」


やっと喉の奥から絞りだしたような掠れた声。


紫は小さくかぶりを振った。


「いいえ、残念ながら本当よ。事実、もう既に結界を超えて来た魔物が数体確認されている。本腰を入れて侵略してくるまでにはまだ暫く年月はかかるでしょうけど......」


「......っ!!」


木の幹に拳を力任せに打ち付けた。


皮膚が衝撃に耐えきれずに裂けて真っ赤な血が滴る。


ただの八つ当たりだとは分かっていても彼は湧き上がる激情を抑えきれなかった。


罪もない人を殺し、俺の故郷を滅茶苦茶にしておいて......今度は幻想郷(ここ)までも......


そして今更ながら、何よりも自分にとって赦しがたかったのは愛しき幼馴染を手に掛けられたことだったことを彼は改めて自覚した。


ふざけるな。憎い。死ぬほど憎い。殺したい。いやーー


ーー()()()()()()()()()


唇を強く噛みしめ、唇からも血が滲む。


「いいだろう。奴を殺してでも幻想郷を......守って見せる。」


ーー今度こそ、守るべきものを。


「ええ。偽りの神にとどめを刺すにはその魔剣が必要。扱えるのが貴方しかいないのだから、必然的に幻想郷を救えるのは貴方しかいないことになるわ。でも、今の貴方ではまだ奴を倒すには未熟すぎる。だから博麗神社に住んで、霊夢と一緒に異変を解決して、強くなりなさい。あの神社にいれば異変が起きたら必ず解決に関われるはずよ。」


「......分かった。」


「それともう一つだけ。これはどうしても貴方が偽りの神の討伐を引き受けてくれなかった時の最後の手段として言おうと思ってたんだけど......」


少し言うのを躊躇ってから。


「偽りの神を倒した暁には、ランセルグレアの魔物の世も終わるでしょう。そうなったら......私がうまく貴方を“元の侵略される前の次元のランセルグレア”に返れるように計らってあげるわ。それで全て、元通りでしょう?」


「そんなことが出来るのか?」


「まあ、私の境界を操る程度の能力を使えばね。」


「......気遣いありがとう。ただ、その時帰るかどうかはまだ暫く考えさせてくれないかな?」


それを聞いて紫はふっと頬を緩めた。


「そんなに幻想郷を気に入ってくれたのかしら?」


「まあね。人間が妖怪に喰われたりとか、残酷な世界ではあるけど......自然が美しいし、住んでいる人たちも気の良い人達ばかりだよ。......約一名、滅茶苦茶初対面の印象が悪い奴がいるけど。」


「ふふ、霊夢のことね。でも、最近妖怪と人間がただの敵同士ではなく手を取り合って生きるような風潮になって来たし、妖怪と人間をそういう風な関係に持っていってみんなで楽しく過ごせるようにしたのはあの子なのよ。おかげでどの博麗の巫女の代よりも今代は平和だわ。」


「彼女が......?まぁ、その平和を脅かすような奴は許しては置けないな。」


「そういうこと。それじゃあ、私は色々と調べなくてはならないことがあるからそろそろお暇するわ。くれぐれも霊夢を宜しくね。」


「任せてくれ。」


その様子を見て見て紫は頷き、スキマへ入ろうとしたところで何かを思い出したかのように振り向いて。


「......レン。」


「どうした?」


「憎しみだけでは、勝てないわよ。」


「......。」


思わず鋭く息を呑んでしまう。


いつだっただろうか。突如として行方を晦ましてしまった、かつての師がレンに向けて放った言葉。


ーー憎しみだけでは勝てない。


紫の言葉と重なり、残響のように耳に響く。


「......心に留めておくよ。」


そう一言残して、彼は踵を返した。












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