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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
2章 忘れられし者たちの楽園・幻想郷へ
26/106

26.博麗ノ巫女





身にまとっているのは脇が空いているのが特長的なデザインの紅白の巫女装束。艶のある美しい黒髪を左右に分けて髪留めでまとめ、後ろ髪には白い模様の入った大きな赤いリボンを結っている。


年齢は見た目から判断するに丁度同い年くらいか。


「........。」


少女は凛とした表情でお祓い棒をレンの方へと突き付けたまま石畳の上に立っていた。


目つきは鋭いが、瞳は澄んだ緋色。変な魔力も感じないので誰かに憑依されたりしているわけでもなさそうだ。


「いきなり結構な御挨拶だな。危ないじゃないか。」


「黙りなさい。」


あれ?なんで初対面の巫女さんこんなに冷たいの?


「......君が博麗の巫女なのか?」


「白々しいわね。よくも抜け抜けとさっきと同じ問いを。姿を変えてまた来たってもう二度は騙されないわよ。」


「え?」


さっきと同じ問い?姿を変えてまた来た?


ーー全くもって身に覚えがないんですが。


「何度来たって退治するまで。覚悟っ!」


「ちょ、待って......」


叫ぶや否や巫女は地面を蹴り、軽やかに疾走する。


「......。」


誤解を解く時間も与えてくれないようだ。


突き立てていた剣を石畳から引き抜き、中段に構える。


さて、どう立ち回るべきか。


この少女が博麗の巫女であるということは確定でいいだろう。問題はどう無力化するかである。


とはいえ.......。


「女の子に刃を向けるのもな......。」


レンがそうぼそっと呟いたその時だった。


巫女が不意に加速して残像を残すほどの疾さで突っ込んで来る。


「......っ!?」


ゴオッ、という唸るような凄まじい音と共に繰り出された上段蹴り。


反射的に首を傾けたレンの右耳すれすれの辺りへ向かって、巫女はストラップシューズを履いたその細い脚を振り抜いた。


「......女の子が何ですって?」


......前言撤回。


本気で行かねば殺られる。


「はぁぁぁッ!!」


続け様に巫女がお祓い棒を大上段から振るう。


対するレンはそれを剣で受けた。


「っ......!!」


腹へと繰り出される拳を腕で受け、横からの回し蹴りを飛び退って躱しつつ一旦距離を取る。


四手も受けないうちに飛び退った理由は単純。繰り出される攻撃が疾すぎる。


あんなのと近接でやり合い続けていたら確実に読み違えてあと二、三手も受けないうちに拳をもろにくらっていただろう。


剣の刀身に手をかざして不殺の呪文を唱える。


「ルダミス。」


途端に刃が鈍色の輝きを帯びた。


刀身に物質化した魔力を纏わせることによって一時的に切断力を消滅させた。これで暫くの間はこの魔剣も鉄の棒と同じ。巫女に向けて振るっても斬り殺してしまう事はないだろう。


あとは隙をついて、前に妖夢の稽古の時にも使った火球呪文反射の魔法を掛けられれば少女を傷つけてしまう危険性が各段に低くなるのだが......。


先刻の体裁きを見た限りではあの少女、相当できる。そんな余裕はないかもしれない。


とか考えている間に凄まじい数の弾幕がレンの方へと飛んでくる。


「インヴォカーレ・マギカ。マルチユニット:ミィル!!」


瞬時に闇魔法を放ってそれを相殺し、相殺しきれずに飛んできた弾幕を見極めて神速の剣戟で全て弾いてのける。


相殺、といっても弾幕の数は凄まじいもので半分程は抜けて来ているが。


......と。


弾幕の中に紛れて何やら鈍色の輝きを帯びたものが飛んでくるのをレンは見逃さなかった。


あれはーー


ーー(はり)だ。


全長四十センチ強ほどの長さの巨大な針が数本、恐ろしい程の速さでレンの首元目掛けて正確に飛んでくる。


やり辛いな。


これ程の数の弾幕を剣で弾くだけでも精一杯なのにその間を縫って針が飛んできたら確実に被弾してしまう。


「......。」


重心を体の前の方へ移動させる。


多少の被弾を覚悟でこちらから弾幕へ突っ込まなければ飛んでくる針全てに被弾してしまうだろう。


意を決して剣を前に構え、石畳を思いっきり蹴って弾幕の嵐へと突っ込む。


右腕、足元、左肩。


身体のすぐ横を鋭く巨大な針が通り過ぎるのを気にも留めず、思いっきり体を捻りながら猛然と弾幕の外を目指してその間を駆け抜けていく。


弾幕の密度が濃すぎてあまり大きく動くことができないので最小限の動きで掠り(グレイズ)を狙いながらひたすら前へ。


ーー抜けた!!


視界一杯に広がっていた弾幕の嵐を抜け、そのまま巫女の元へと疾走する。


「ぜあッ!!」


最小限の予備動作からの鋭い斬撃を巫女へ向けて繰り出す。


巫女はお祓い棒でいとも簡単そうに横へ逸らし、反撃の刺突。


レンはそれをステップで回避。逸らされた剣先を下に持っていき、逆袈裟の斬り上げへと繋げた。


対する巫女は今度は地面を蹴って宙返りで斬撃を避け、かかと落としをレンの頭上へ。


ひらりひらりと躱すな、この巫女は。


まるで重力の影響を感じさせない身軽さだ。


凄まじい攻防戦が続く。両者一歩も引かず、受けと攻めを交互に繰り返す。


「......あんた、なかなかやるじゃないの。」


鍔迫り合いの間に巫女が剣越しにぼそりと呟く。


「そりゃどうも。こっちは初めから害意なんか微塵もないんだってば。もうやめてくれ。」


「それは無理な話。あんたは私の大切なものを奪っていったから。」


「いやいや、俺達そもそも初対面だし......。何を奪ったっていうんだ?」


「なっ......まだ白を切るつもり!?......許さない。とにかく退治してやるわ!!」


「えぇ......?」


ーーやっぱり俺、絶対なんか勘違いされてるよね!?


巫女はその言葉を最後に、飛び退って符を掲げた。


「これで終わりにしてあげる!!」


「......ッ!?」


ーー何だ、この感覚は?


背筋に寒気を感じるほどの強大な霊力が巫女の元へと集まるのを感じる。


何かが来る......。


途端、少女を中心として大量の弾幕と無数の札が生成された。


「悔い改めなさい!!」


ーーだから俺は悪いことなんもしてないってば!!


心の中で叫びつつ放たれる弾幕の回避に専念する。


ーー大丈夫だ。札は剣で弾いて数珠状の弾幕の方はステップで避ければなんということは......


この時まだ少年は気付いていなかった。


その弾幕が()()()()()()()()()()ことに。


札を剣で全て弾き、弾幕をステップで回避ーー


ーーした直後。


弾幕は本来通るべき軌道を逸れて少年の元へ。


「っ!?」


気づいた時にはもう遅い。


正面から弾幕を食らい、吹き飛ばされ、受け身をとることも叶わずに身体を石畳に叩きつけられる。


「ぐ.......はっ......!!」


油断した。ただの弾幕、と割り切らずにもっと左右に振ったりして性質を見極めるべきだった。


「ぐっ......!!」


再び立ち上がろうとするが、いつの間にか接近してきていた巫女にお祓い棒を突き付けられる。


「惜しかったわね。だけど、私のスペルカードに舐めてかかったのが貴方の敗因よ。初見の弾幕はもっとちゃんと観察してから避けなきゃね。」


勝ち誇ったような表情で巫女はそう言った。


その様子をちらりと一瞥してからレンは剣を地面に置いて、手を離すーー


「隙ありッ!!」


ーーふりをして、不意をついて足払いをかけた。


「なっ!?」


流石の巫女もこれには反応できず、上体がぐらりと傾いた。


すかさず横薙ぎの斬撃を繰り出すが巫女は常軌を逸した俊敏さでそれをお祓い棒を使って受け流し、空中へ飛び立って弾幕を放つ。


「嘘だろ......!?」


あまりの疾さに目を疑う。


この巫女、もしかしたらレンよりも戦闘慣れしているのかもしれない。


今度の弾幕は先刻のような追尾弾では無いが、上空から一気に下降してくるタイプのようだ。


弾幕を観察して性質を見極めた上で落ち着いて自分の方へ飛んでくる「自機狙い」だけを剣を振るって弾く。




「......。」


ーー何だ、こいつ。


少なくともその辺にいる妖精や妖怪とは比べ物にならないくらいには強い。


霊夢は地面に降り立ち、目の前で剣で弾幕を弾いてのける“黒いやつ”をまじまじと観察した。


黒いローブに紺色のバンダナ、腰には長剣、と霊夢から言わせれば変な格好している......“黒いやつ”。


ここに来るまでに妖怪に襲われて返り血を浴びたのか、シャツは真っ赤に染まっている。


普通の人ならびっくりして叫び声を上げそうなくらいに服は血で汚れているが、彼自体からは邪悪な類の霊力やこちらに対する悪意などは感じられない。


もしかしたらこいつの言う通り、こいつは人に化けた妖怪などでは無くただの人間なのかもしれない。


というか自分持ち前の勘がこいつは人間だ、と囁いている。


それでも彼女が彼への攻撃をやめないのは......先程起こった“あの出来事”への八つ当たりである。


尤も、彼と戦っているうちに純粋にその強さに興味を持ったからでもあるが......彼女はそれを頑固として認めたくなかった。


「......できるわね。」


「そっちこそ。」


互いに武器を構え直す。


ーー決着(ケリ)を付けよう。


互いの鋭い視線がぶつかり合い、それを合図に両者地面を蹴る。


「「はぁぁぁぁっ!!」」


恐ろしい程の速度で肉迫。


より疾く、巧く、力強く。


全身全霊を込めた渾身の一撃を、ここに。


巫女のお祓い棒が、魔導師の魔剣が、凄まじい唸りを上げながら振るわれーー



ーー果たして、二筋の閃光がぶつかり合うことはなかった。


「「えっ......!?」」


両者完璧なユニゾンで驚きの声を上げる。


無理も無い。全身全霊をかけたつもりの一撃を、二人の間に割り込むようにして立っている女性にそれぞれ片手ずつで止められたのだから。


試しに剣を握る手に力を込めてみるが、刀身をピクリとも動かすことができない。


すらりと背の高い女性だ。ゆったりとした紫色のワンピースを着ており、長い金髪の毛先を赤いリボンでまとめている。


整った顔立ちには人間離れした妖しげな美しさがある。巫女や魔理沙、妖夢達の可憐さとはまた違い、幽々子と似たような“大人の女性”といった感じの美しさである。


そんな美しい容貌ではあるが、放つ気質は明らかに妖怪のもの。近くに立っているだけで気圧されてしまいそうなほどの霊力を感じる。間違い無く自分よりも格上であることをレンは直感的に悟った。


「はいはい、ストップ。喧嘩はそこまでにして頂戴な。」


「ちょっと紫、邪魔しないでよ!!こいつは......」


「彼が化けた妖怪では無く人間であることは貴方ならもうとっくに分かっているはずよ。」


「......。」


巫女はそう言われて不機嫌そうになりつつも押し黙った。


この女性の声、前にも何処かで聞いた事がある気がする......


......それよりも今(ゆかり)って言ったか?


「あなたが八雲紫さんなのですか?」


「ええ、そうよ。初めまして。よくぞ無事にここまで辿り着いてくれたわね。」


「はい。あの......魂ごと消滅しそうになっていた俺を救って頂き、ありがとうございました。」


「あら、別に礼なんていいのよ。貴方を救ったのは私たちのためでもあるのだから。」


「え?それはどういう意味で......」


「ちょっと!!私を無視して勝手に話を進めないでくれるかしら?紫は久しぶりに顔を見せたと思ったらいきなり何なのよ!?」


レンが問いかけたところで巫女が横から割り込んできた。


「ああ、悪かったわね。この話は後で改めてすることにして......霊夢、貴方に単刀直入に頼みがあるわ。」


「な、何よ急に畏まって......?」


頼み、という言葉を聞いて巫女は顔をしかめた。


「この子......レンを暫くの間博麗神社に住まわせてあげて欲しいのよ。」


「「はぁぁっ!?」」


レンと巫女、二人合わせて素っ頓狂な声を上げる。


「嫌と言うに決まっているしょう!?何で急にこんな素性も知れない怪しい奴を住まわせなくちゃいけないのよ!?」


巫女がすごい剣幕でまくし立てる。


「紫さん......いくら何でもその要求は俺も呑めません。」


レンも拒否の念を示す。


俺この巫女さんに殺されかけたんですが!?


ここに住むのは御免だし、なんなら今すぐにでも冥界に帰って白玉楼で妖夢と一緒に剣の修行でもしながらのんびり過ごしたい。


「まぁまぁ、彼の強さを見たでしょう?異変解決の時にはきっと役に立ってくれるわよ。それに......」


紫が、子供の浮かべる意地の悪そうな笑みを浮かべて耳打ちする。


「な、何よ?」


「さっきの弾幕ごっこを最初の方から見てたけど、先に襲い掛かったのは霊夢、貴方の方でしょう?特に罪も無い人間を出会い頭に攻撃する巫女、なんて烏天狗の文屋が耳にしたらどうなっちゃうんでしょうね?新聞を読んだ人達の霊夢への好感度が下がって更に参拝客や賽銭も減るかも知れないわねぇ.....?」


あんた、まさか文に新聞のネタとして提供するつもりじゃないでしょうね......?


霊夢はちぇっ、と一つ舌打ちをした。


「ぐっ......わ、分かったわよ!!そこの黒いの!!ここに住むのは許してやるわ!!いや、寧ろ住んでくださいお願いします!!」


えぇぇ!?紫さん何を言ったの!?


「その代わり、食事なんて出せないわよ!!うちは貧乏なんだから!!」


「お、俺はまだ住むって決めたわけじゃ......」


「貴方もよ、レン。」


さっきの意地悪そうな笑みは何処へやら、紫は再び真剣な表情に戻っている。


掴みどころが無いって言うか......幽々子みたいな人だなぁ......。表情筋どうなってるんだろう。


「この神社で霊夢と一緒に居れば異変解決に関わることができる。異変解決で実践経験を積めば強くなれるし、貴方にとって悪い話では無いはず。加えてもう一つ......こっちについては後で話すことにするわね。」


またもや蚊帳の外である霊夢の不機嫌そうな顔をちらりと見ながらそう言った。


「霊夢はあんな感じだけど根はとても素直で優しい子よ。多少の我が儘は目を瞑ってあげて頂戴。それと......話したいことがあるから後で子の刻頃に裏の林へ来なさい。」


レンにだけ聞こえる程の声でそう言い残し。


「それじゃあ霊夢、レンを頼んだわよ。」


「あ、ちょっと待ちなさ......」


紫が手を縦に振ると、空間の裂け目が現れた。


有無を言わせずにその裂け目の中へ。


かくして境内には巫女とレンのみが残された。


「「......。」」


互いに視線が噛み合わず、何も言い出せないまま数十秒が経過する。


「......私は博麗霊夢。知ってると思うけど博麗の巫女よ。名前、まだ言ってなかったから......それだけ。」


霊夢は自分だけ名乗るや否や踵を返し、拝殿の裏側の方へと歩いていく。


「ほら!!なにぼさっと突っ立ってんのよ。さっさとついて来なさいよ。」


「あ、ああ。」


返事を返し、レンは早歩きでつかつか進んでいく霊夢の後について行った。





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