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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
1章 白玉楼での日々
22/106

22.白黒の魔法使い



魔理沙の家までの道すがら。


「なぁ、レン。」


「ん?」


「お前、幻想郷の外から来た人間だろ?」


出し抜けに、魔理沙が自信満々な顔で聞いて来る。


ーー隠してもしょうがないし、別に隠す必要もないよな。


「ああ。そうだけど、どうして分かったんだ?」


「なんか、なんとなく分かるんだよなそういうの。幻想郷(ここ)の奴らとは少し気質が違う......というか。それに着ている服も少し珍しいのぜ。」


魔理沙が人差し指を立てながらニヤニヤする。


「ついでに言えばお前、魔法使いだろ。お前からは魔力の気を感じるぜ。」


「よく分かったな。正確には魔法使いではなく魔導師だが。」


「この森には化物茸の胞子による瘴気が舞っていて普通の人間なら五分もいれば体調を崩してしまうんだぜ。ここにいて大丈夫ってことはただの人間じゃないことは確定で分かるしな。」


ん、ちょっと待てよ?


魔理沙は今普通の人間ならこの森の瘴気にやられてしまうと言ったが、見たところ魔理沙も瘴気の影響を受けてなさそうだ。


ということはつまり......


「魔理沙も魔法使いなんだろ?」


「へへへ、御名答。この“魔法の森”で魔法の研究をしながら一人暮らししてるんだぜ。」


「へぇ、研究か......」


ランセルグレアの学院での研究課題を思い出して思わず苦い顔になる。


学院では毎年夏の長期休暇の課題として研究課題が出される。


テーマは魔法薬だったり呪文の応用方法だったりと各自で設定できるのだが、この自由っていうのが案外厄介なもので毎年終わらせるのに苦戦していたものだ。


「おっどうした、レン?具合でも悪いのぜ?」


「いや、ちょっと元いた世界でのことを思い出してな。」


「その様子じゃあんまり良い思い出じゃなさそうだな......っと、着いたぜ。あれが私の家だ。」


魔理沙が少し開けた空間の方を指差す。


その指が差す先には、小さな洋風の家が一軒佇んでいた。平家で、その屋根には一本の煙突が立っている。


玄関口の横には「霧雨魔法店」という文字が刻まれた小汚い看板が立て掛けられていた。


「魔理沙はここで店も開いているのか?」


「ああ。魔道具を置いている店......のつもりだが、頼まれれば基本何でも請け負うんだぜ。」


「へぇ......売り上げは?」


「全ッ然!第一、客が殆ど来ないんだぜ。なんで来ないのかなぁ?」


「それはアクセスが悪すぎるせいだと思うんだが......。」


運良く出会うことは無かったが、この森にも人間を襲うような妖怪がいるに違いない。襲われた時に抵抗する術を持たない人達にとってはここは近付きにくい場所なのだろう。とても深い森だし、暗いし、危険だし。


「ささ、結構散らかってるけど入ってくれ。」


ドアを開けて中に入れて貰うと、そこら中に生活用品から宝石、何に使うのかわからないような部品まで様々な物が文字通り足の踏み場がないほどに散乱していた。


「レン、取り敢えずお前ずぶ濡れだしお風呂入って来るといい。その間に私は食事の用意しておくぜ。お風呂場はそっちの角を曲がって右手だ。」


「ああ、じゃあお言葉に甘えて。」


魔理沙に言われた通り角を曲がって右手の戸を開けて入ると、洗面所を挟んで浴室があった。


いつの間に湯を沸かしたのか、浴室には既に真っ白な湯気が

立ち込めている。


肩や胸に付けた軽防具類を全て外し、制服も脱いで浴槽に張られた湯に体を沈めると自然とほへーっ、という息が漏れた。


いい湯加減だ。魔法で沸かしたのだろうか。


何にしても魔法で湯加減を調節できるなんて何処ぞの魔導師よりもよっぽど器用なものだ、などと自嘲してみる。


ーーありがたいものだ。


森で迷っていた初対面で見ず知らずの相手を自分の家に泊めてやる、などと言い出し、風呂に入れてやり、さらには食事まで出してくれる。


幻想郷にもこんなに温かい人間がいるのだな、と思いつつ彼の思考は冥界と幻想郷を隔てる結界をくぐる時に何処からか聞こえてきた“あの声”へと吸い寄せられる。


遠い昔、幼い頃に何処かで聞いたことのある気がするあの声。最早昔の事過ぎて記憶に無いが、耳はあの声を覚えている気がして、そのジレンマに思わずモヤモヤする。


空耳......だったのだろうか。


「まあ、考えても分からないもんは仕方ないよな。そのうち急に思い出すかもしれないし。」


己に言い聞かせるようにそう呟き、彼はさらに深く身体を湯船に沈めた。


※※※




「ふいー、良い湯だった。」


「おう、そりゃ良かったぜ。こっちだ。丁度出来たところだから座ってくれ。」


魔理沙に手招きされ、促されるままに席につく。卓上では茸ご飯、茸鍋、焼き茸といった感じの茸を中心とした料理が並んで盛んに湯気を上げていた。どれも良い匂いがするし美味しそうだ。


「魔理沙様特製キノコ尽くしのフルコースだぜ!!遠慮せずいっぱい食べてくれ。」


「美味そうだな......じゃあ、いただきます。」


箸を取り、料理を口に運ぶ。


「美味いッ!!」


どの料理もきちんとキノコの旨味が生かされており、うまく他の食材と調和している。また、様々な種類のキノコが使われているので食感もそれぞれ違って楽しい。


今までのキノコへのイメージがガラリと変化するほど美味だった。


「へへへ、気に入ってもらえたなら嬉しいのぜ。」


魔理沙が食べながら得意げに胸を張る。


「この料理に使われているキノコは全てこの森で採ったものなのか?」


「そうだな。晩ご飯に使うキノコを採るために出歩いてたら後ろから誰かが近づいてくる気配がしたからさ......ホントびっくりしたぜ。」


「キノコ狩りの最中だったのか。驚かせるような真似をして悪かったな。しかも夕食まで半分取っちゃって......」


「いやいいんだ、気にするなよ。どうせ一人分用意するのも二人分用意するのも大して変わらないし、ご飯は一人で食べるより誰かと一緒に食べた方が美味しいぜ。」


そう言いながら魔理沙は人懐っこい笑顔を浮かべる。


ーー本当に気前のいい子だ。これだけ世話好きで快活なのだからさぞ友達も多いのだろう。


「ところでレン、お前はどうやって幻想郷に来たんだ?気が付いたらこの森の中にいた、的なパターンか?」


「いや、一応冥界からこの森へ....その......落ちてきた。」


自由落下した時のあの感覚......今思い出すだけでも鳥肌が立つ。


「落ちてきた.....っていう表現は一旦置いといて.......今お前、冥界から来たって言ったか?ってことはお前も幽霊だったり、半分だけ幽霊だったりする?」


「いや、俺は普通に生きてるよ。幽々子や妖夢みたいに幽霊って訳ではない。」


「んじゃあ冥界へはどういう経緯で辿り着いたんだ?」


彼にとってはその経緯を話すだけでも辛いので答えるかは少し迷ったが、魔理沙は見ず知らずの自分に一宿一飯を提供してくれたのだ。


ここで閉口するのは恩義に欠けているような気がしたのでレンは自分がハグネに殺されてから此処に来るまでの出来事を魔理沙に話してあげた。


「そうか......そんな辛い過去があったんだな。なんかその......ごめんな。お前にとってあんまり人に話して聞かせたくない話題だっただろ?」


「いいや、別にいいよ。そもそも俺なんか森を一人でほっつき歩いていた怪しい奴なんだから、ここに来た経緯くらい聞きたくなるだろう。」


「そう言ってくれると少し心が楽なんだが......。」


魔理沙は肘を机について頭を預け、何やら難しい表情で思案している。


「ん?どうした、魔理沙?」


「いや、紫がなんでそこまでお前に肩入れしたのか気になってな。」


「どういうことだ?」


「八雲紫は妖怪である以前に幻想郷の創造者であり管理者でもある。妖怪と人間の間のバランスを保つためにあいつはある特定の人間や妖怪以外の者には滅多に干渉しないんだ。それが突如幻想郷の外で生活していた、しかもただの人間を訳も無しに救って幻想郷へ連れてくるとは思えないぜ。」


「......確かに。」


「まぁ......あいつの考えていることなんて言われなくてもわかる奴は冥界の食いしん坊お嬢様くらいしかいないしな。考えても仕方がないか。」


「幽々子のことか......。」


「お?冥界の食いしん坊お嬢様、って言っただけでよく分かったな。」


「まああんだけ鯨飲馬食しているのを見たら......な?」


「あ〜あっ、今度幽々子に会ったらレンがそんな風に言ってたって言ってやろ〜。」


「ちょ、勘弁して下さい。」


手を合わせて赦しを乞うレンを見て魔理沙が快活に笑う。


「......で?」


「ん?」


「さっきの話で言ってたけどお前はこれから博麗神社へ向かうつもりなんだって?」


「ああ、うん。」


「霊夢の所へはほぼ毎日遊びに行くからな。私の箒に乗せてひとっ飛びして連れてってやる、と言いたい所なんだが......」


魔理沙は手のひらを前で合わせて申し訳なさそうに詫びの形を作った。


「悪い。明日は魔法薬の研究に使う材料を集めるためにいろんな所を回んなくちゃいけないから忙しいんだ。だから、申し訳無いけど歩いて神社まで向かってくれ。」


「いやいや、なんで魔理沙が俺に謝るんだよ?森の中で途方に暮れていた見ず知らずの俺を家に泊めてくれて、しかも食事まで出してくれるんだから本当にそれだけで御の字だぞ?ましてやこれで明日博麗神社まで送って貰ったりしたらもう魔理沙に親切にしてもらいすぎて罪悪感すら感じるレベルだよ。」


「そんな一宿一飯くらいで大袈裟だぜ。なんなら明日もここに泊まっていって明後日でもいいなら送ってやれるぞ?」


「それは流石に悪いよ......。」


「まぁ......普通の人間だったら道中で妖怪に襲われたりしたら危ないから無理矢理にでも明日も泊めて明後日送ってやるよ、っていうところなんだがな。お前、魔導師なんだし戦えなくはないだろ?あの剣もなんか凄そうだし。」


魔理沙が部屋の隅に立て掛けられている鞘に収まった長剣をちらりと見やる。


「お前、魔法が使えるのに剣も常時携えているのか?」


「まぁな。折角幼い頃から剣の修行してきたんだから使わなかったらなんか勿体ないだろ?それに、魔法と組み合わせて放つ剣技とかもあるんだ。剣と魔法って案外相性いいんだよ。」


ーーそう。彼から言わせれば剣と魔法は戦闘において最高の相性を持つ組み合わせである。


彼の場合、媒体(メディウム)が剣であるため、手にアルテマを握っていれば杖等を持たなくとも威力の半減を気にせずに魔法の詠唱をすることが可能なのだ。故に、剣帯に刺したまんまになっている短杖を使うことは滅多にない。


「へえ......そうなのか。まぁ私にはこのミニ八卦路があるから剣を持とうとは思わないけどな。」


言いながら、魔理沙はポケットから正八角形状の物体を取り出す。見た目からして、森で魔理沙と最初に遭遇したときにレンへと突き付けられた物で間違いないだろう。


「何それ?」


「コレはな......ミニ八卦路っつって、緋々色金(ひひいろかね)っていう特殊な金属で出来ているんだ。こんなに小さいけど最大火力にすれば山一つ焼き払えるくらい強力な魔法が打てるぜ。」


むふ、と自慢げに胸を張りながら魔理沙は説明した。


「すげえなそれ。燃料源とかどうなっているんだ......?」


「当然魔力だ。だからまあ、魔力が枯渇したら魔法が打てなくなるな。......あぁ、そっか。魔力が枯渇しても戦えるように、っていうのもレンが剣を持っている理由のうちの一つか。」


「まあそうだな。俺が剣を持ち始めた最初の理由がそれだ。」


その後も食後の紅茶を飲みながら、彼らは魔法のついての様々な議論を論じ合った。互いに魔法に精通しているだけあって中々の盛り上がりを見せ、気づけばもう夜も更け始めていた。


「レンも明日博麗神社まで歩くんだしそろそろ寝た方がいいな。」


「ああ、そうだな。ちょうど眠くなってきた所だ。」


「......なぁ、寝る前にちょっと私の研究部屋見て行かないか?」


「見せてくれるのか?是非是非見せてもらいたい。」


先刻の魔理沙の話からするに魔理沙の研究部屋には珍しい魔導書や幻想郷にしか自生していないような魔法植物がいっぱいあるのだろう。魔法学生だった身としては是非とも見てみたい。


「おう。ただ私も風呂だけ先に入ってきたいから少し待っててくれないか。」


「分かった。」


魔理沙が風呂場の方へ歩いていくのを見届けてからレンは椅子に腰掛けた。



ーー約二十分後。


「ふいー、良い湯だった。」


先ほど風呂から上がったときにレンが発したのと全く同じセリフを言いながら寝巻き姿の魔理沙がレンのいる部屋へと入ってきた。


「悪い、結構待たせたな。こっちだぜ。」


手招きされて立ち上がり、部屋を出て廊下を歩く魔理沙の後についていく。


「ここで私はいつも魔法の研究をしているんだぜ。」


廊下の一番奥にあった白い扉のドアノブに手をかけ、ドアを開けて中に入る。


「おお......すごいな。」


部屋の隅には机が置いてあり、壁際に並んだ棚には魔法薬の入った瓶やその材料と思われるキノコや植物、魔導書などが所狭しと陳列している。


中には見覚えのある魔法薬や植物もあり幻想郷にもランセルグレアにも共通で存在するものもあるのか、と驚く。


「星とか光に関する魔法の魔導書が多いな。」


「おう。星と光は私の得意分野だぜ。昔から星が好きでさ......ほら、綺麗だろ?この森から見える星の美しさに感動して星魔法の研究に特に力を入れるようになったんだ。」


魔理沙に促されて窓際へ近づき、カーテンをめくると夜空に美しい星々が瞬いているのが見えた。明るさも大きさも疎らだが、成る程。確かに夜空いっぱいに輝く星々には息を呑む程の美しさがある。


魔法には扱う者の個性が出るものだ。きっと魔理沙の魔法には彼女自身の目に映った美しい星々に対する情熱が詰め込まれているのだろう。


ーー自分は......今の自分の魔法には一体何が込められているのだろう。


不意にレンの心の中に浮かんだ疑問。


自らを殺し、祖国をも滅ぼしたハグネへの憎しみだろうか。或いは滅ぼされる祖国やハグネに殺される己の大切な人たちを前にして何もすることのできなかった無力な自分への怒りか。


いずれにしても魔理沙のように純粋で美しい感情では無い。だとしたら、自分の魔法は魔理沙の魔法よりもずっと卑しく醜悪なものなのだろう。


唐突に湧いて出た愚かな思考を、自らを自嘲するように彼は鼻で笑った。


「おいレン、どうしたんだ?なんか急に元気ないぞ?」


魔理沙が心配そうにレンの方を見やる。


「いや、なんか魔理沙が羨ましくてさ。確かに......綺麗な星だな。」


「だろだろ?こんな星空みたいに綺麗な魔法を撃てたらなって思うだろ?」


「うんうん。撃てたら格好良いな。」


「まあ魔法はパワーが命だからな。あの星の美しさを保ちつつパワーも両立させるには......」


「いや、どんな局面でも応用の効く汎用性が命だろ?」


「にゃにおう!弾幕はパワーだぜ!」


「いいや、汎用性だ!」


二人とも互いに明日の予定など忘れて再び愉しそうに魔法についての議論を展開する。


結局夜が完全に更け、そして明け始める頃まで二人の愉しそうな声が研究部屋に響いていたのだった。










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