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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
1章 白玉楼での日々
21/106

21.魔法の森



「......っ」


ふと顔にかかってきた冷たい水によって意識が覚醒する。


「良かった......生きてる...よな?」


あちこち痛む体を鞭打って立ち上がり、周囲を見回すともう辺りは薄暗くなっていた。


随分と長い間気を失っていたようだ。


不幸中の幸い、と言うべきか崖の下は小さな泉になっていてレンはそのほとりに打ち上げられていた。


「初っ端からずぶ濡れだよもう......。」


泉の水は綺麗だったが、学院制服のローブのみならず下に着ているシャツにまで水が染みてしまっている。


それにしても暗い森だ。


あたり一面には沢山の樹々が生えており、鬱蒼とした雰囲気を醸し出している。


ただでさえ枝々に遮られて漏れてくる光の量が少ないのに、もう夕日も地平線に沈みかけているせいでもう視界も制限されつつある。


上空から見た感じではこの森はかなり広そうだったので今日中に抜けるのは難しいだろう。


「ついてないな......今日は野宿になりそうだ。」


溜め息を吐きながら腰に手を当てたその時。


そこになくてはならない筈の物が消えていることに気が付いた。


「あ、あれ?アルテマが......ない?」


剣帯に目を向けると、鞘ごとアルテマが無くなっていた。


「剣がないのは流石にまずい......落下してくる時に留め具が外れてどっかに落ちていったのか......?」


泉の中へ目を向けてみるが、底に剣が沈んでいる気配は無い。


ーーやばい、やばいぞこれ。


丸腰の状態で妖怪に出くわしたりしたら非常にまずい。


剣がなくても魔法は撃てるが、メディウム無しでは威力が半減してしまう。


彼が焦りに焦りながら剣を探していると。


「わは〜。」


背後から少女のものと思われる可愛らしい声が聞こえてきた。


「ん?」


振り向くと、そこには恐らく先程の声の主であろう小さな女の子?がふよふよと浮遊していた。


白いシャツの上にこれまた緋色のリボンのついた黒いベスト、黒いスカートを着込んでおり、ボブ程の長さに切り揃えた金髪には緋色のリボンが結われている。


目もリボンと同じく緋色で、その顔立ちからはまだ幼い少女ののようなあどけない印象を受ける。


こんな暗い森の中で、しかも飛んでいる時点でまず人間ではないだろう。


だとすると外見は幼い少女でも、この子は妖怪なのだろうか。


よく見ると、少女の脇には鞘に収まった長剣が抱えられていた。


ーー見間違えるはずがない。あれはアルテマだ。


何でこの子が持っているんだ?


どうであれ何が何でも返して貰わないと。


「あの......それ............」


「貴方は食べてもいい人類?」


「......は?」


少女はその緋色の瞳を爛々と輝かせながら問うた。


レンは一瞬あまりの驚愕故に何を言われたのか理解できずに硬直したが、意味を理解した瞬間に首筋から冷たい汗が流れるのを感じた。


「ええっと......お、俺なんか食べても美味しくないよ?」


ーーしまった。


相手は妖怪だぞ......こっちは武器を取られて(?)丸腰なんだしこんなことを言っても襲いかかって来るに決まっt......


「そーなのか〜....」


予想に反して、自分の言葉を真に受けた様子の少女にまたもや驚愕する。


「お腹すいたのだ〜......。」


きゅぅぅ、と可愛らしい空腹音を発する腹の辺りを手で押さえながら少女はしゅん、としている。


何だか可哀想になってきた......


この子は人間に会うたびにこんな感じで質問をして拒否される、ということを繰り返しているから常時腹を空かせているのかもしれない。


「なんか......その、ごめんな........。」


そこまで言ったところで制服ローブの内ポケットに入れておいた保存食の存在を思い出す。


幽々子の話では、向こうで死んだ時に体に身に付けていたものは全て紫さんがこっち側に持ってきてくれたらしい。


ということはもしも俺の記憶が正しければ......


「あった!!」


もしもの時のために、と入れておいた半透明の袋入りの木の実の詰め合わせが内ポケットから見つかった。


「これ、少ないけど代わりにあげるよ。」


現状で所持している唯一の貴重な食糧ではあるが、この子がとても不憫に思えてきたのであげる事にする。


「わぁ、ありがとう。」


袋を受け取るなり嬉しそうに中身を取り出して食べ始める。


「なぁ、君名前は?」


「ルーミアっていうの。貴方は?」


「俺はレン。ルーミアってもしかして妖怪だったりするの?」


「うん。ルーミアは闇を操れる妖怪なの。」


「へぇ......」


やっぱりこの子は妖怪なのか。まあ、悪い子じゃないっぽいし別に今更警戒しなくたっていいよね。


頬を小動物のようにもごもごさせながら食べる姿は可愛らしくて見ているだけで癒される。


でも妖怪なんだし、多分生きるために人間を喰うこともあるんだろうな。そんなルーミア想像したくないけど。


視線をルーミアが抱えたままの剣へと移す。


「ルーミア、その剣どこで手に入れたの?」


「これ?すぐそこで拾ったの。」


やっぱりか。


「その剣、俺のなんだ。とても大事なものだから、返してもらえないかな?」


「うん、いいよ〜。レン美味しいものくれたし。久し振りにこんなちゃんとした食べ物食べたよ。」


やべえ、可哀想すぎて涙出てきそう。


「じゃーね、レン。ご馳走さま!またいつか会えたらいいね。」


「ああ、じゃあな。」


木の実を食べ終わるとルーミアは手を振りながらふよふよ飛んでやがて暗闇の中へと消えていった。


「さてと......」


どうしようか。


なけなしの食料はルーミアにあげてしまった。


へその辺りがぎゅるるるる〜、と凄まじい音を立てて空腹を訴える。


必死に心頭滅却に努めるが、どうしても抵抗虚しく空腹を意識してしまう。


「うぐぐ......腹減った.........。取り敢えずここを離れるか。」


泉の周りは開けた空間になっているので妖怪に見つかりやすい。


ーー取り敢えず目立たない場所を適当に見つけて、今日はそこで夜を越すことにしよう。


レンは葉をかき分けながら生い茂る樹々の間へと入っていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ひとまずここで良いかな。」


巨大な岩の下に人一人が入れるくらいの窪みを見つけ、そこに落ち葉を軽く敷いて腰掛ける。


「ぶえっくしょいッ!うぅ......やっぱ濡れたままだと寒いな。」


手ごろな長さの枝を集めて円形にくべ、火魔法を唱える。


「ファイア。」


即席の焚き木についた火は最初こそ勢いが心許なかったものの徐々に強くなり、やがて服を乾かせるほどではないがそれなりの火力になった。


「あったけえ......やっぱ火って偉大だな。」


暖をとれたことへの喜びも束の間。


腹の空腹を訴える轟音は治まらない。


「ぐぬぬ......やっぱり何か食べないと眠れそうにないか。」


十分に暖を取ってから、念のために火を消して剣を片手に窪みの外へ出る。


これだけ自然豊かな森なんだし、探せば何かしら食べ物はあるだろう。焼いて食べれば大体のものは大丈夫......だと思う。




食べ物を求めて森を歩き回ること20分。


やはり探せば色々あるもので、キノコや木の実、野草など食べられそうなものがだいぶ集まった。


「はぁ......。」


何してるんだろう、俺。


ほんの数日前までは妖夢の作る美味しいご飯を食べていたのに。


それが今ではこんな何処とも知らぬ森で無心に食べられるかどうかも分からないものを必死に集めているザマである。


「戻ったら焼いて食ってみるか......。」


先程の岩の窪みの場所へ戻ろうと歩き出したその時だった。


少し離れたところでガサゴソと地面にしゃがみ込んで何かしている人影を発見する。どんな格好をしているのか暗くて分からないし、当然近付かない限り人間なのか妖怪なのかも判別出来ない。


なるべく無駄な戦闘は避けたいので妖怪に近づかないのは鉄則だが、人間ならば助けてくれるかもしれない。


「............。」


少し迷ったが、後者であることに望みをかけて近づいてみることにする。妖怪だったらこちらに気が付く前にすぐに引き返そう。


息を殺し、抜き足差し足でなるべく音を立てないようにしながら人影へと近づく。


緊張からか、徐々に呼吸が浅くなるのを意識する。


ーー対象まであと8メートル程。


濃密な闇のせいでまだぼんやりとしたシルエットしか見えない。


ーー対象まであと7メートル程。


段々人影のシルエットがはっきりしてきた。かなり小柄なようだ。女の子だろうか。


ーー対象まであと6......


「そこにいるのは誰だ?」


活気に溢れた女の子、って感じの声が夜の帳に響く。その声は警戒心故か少し強張っていた。


黒いとんがり帽子、白い割烹着にブーツ。いかにも魔法少女、って感じの格好をしている。背丈はレンよりもだいぶ低いが、年はレンと同じぐらいだろう。


その少しくせのある金髪を片側だけお下げにしている。


少女はいつの間にか立ち上がり、何やら八角形の物体をこちらへ向けて突きつけている。


メディウムみたいなものだろうか。


「......害意はない。君は人間なのか?」


「ああ、思いっきり人間だぜ。」


「良かった......。実はこの森で道に迷ってしまった上に辺りも暗くなってきて途方に暮れていたんだ。森の出口まで連れて行ってもらえないか?」


こんな時間に人間が一人で暗い森を歩いていたら誰でも怪しいと思うだろう。


とはいえここで助けてもらえなければこの森で夜を越さなければならないことになってしまう。


「......嘘は付いていないみたいだな。けど森の出口まで案内するにしてももう辺りは暗いし......お前、よく見たらずぶ濡れじゃないか。ついて来いよ。この近くに私の家があるから一泊泊まって行くといいぜ。」


「い......いや、いくらなんでもそこまでしてもらうのは悪い。入り口まで送ってくれるだけで......」


「私の名前は霧雨魔理沙。お前は?」


「え!?あっ、俺の名前は......レン。」


「早くしろよレン。置いてっちゃうぞ!」


「......。」


勝手な人だなぁ。こっちの言うことを無視してポンポン話が進んでいく。


まあ泊めてくれると言うのならば途方に暮れていたレンにとっては願ったり叶ったりだが。


彼女の好意に心の中で感謝しつつ、彼は森の中をズンズン進んでいく魔理沙の後を追った。


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