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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
1章 白玉楼での日々
19/106

19.その剣戟、春雷の如く



最後に流れ星を見たのはいつ頃だっただろうか。


(あか)い軌跡はまるで空を駆ける流星の如く。


ーーやはり早い。


こちらが攻撃をうまく受け切ったと思った瞬間にはもう既に彼女は次なる攻撃を繰り出している。


前に剣を合わせた時も思ったのだが、妖夢の剣は早い上に一撃一撃が重い。


斬撃を剣で受けただけで腕が痺れる。


常に少しでもこの斬撃を受け損じれば確実に斬られてしまうという緊迫感の中で戦うのもなかなかにきつい。


右上、左、上、突き、切り上げ。


全く隙を見せず、凄まじい連撃を一方的に叩き込んでくる。


「ほ〜らほら♪苦しいでしょう?痛いでしょう?もう抵抗するのなんかやめて......斬られて楽になっちゃいましょうよ〜?」


「......。」


黒妖夢の狂気に満ちた言動を聞き流しながら、西行妖の対処法を割り出すべく頭をフル回転させる。


元より妖夢はあれだけ強いのだ。その強さに西行妖の力が加わっていれば、正直今のレンに勝ち目はないだろう。


あくまでも現状で最優先すべきは西行妖の破壊。


西行妖さえどうにかすれば幽々子は元に戻るし黒妖夢もあの妖気から解放され半霊として妖夢の元へ戻っていくはずだ。


ちらりと黒妖夢の後ろにそびえ立つ西行妖へ視線を向ける。


炎魔法で炎上させるのが一番手っ取り早いが、白玉楼まで延焼してしまう恐れがある。それに、そもそもああいう妖樹の類の幹はあらゆる魔法に対して耐性を持っている。


だとすればあの大木に傷をつける手段としては剣による斬撃が妥当だ。


というかそれ以外思い浮かばない。


「どこ見てるんですか?私だけを見ててくださいね。斬っちゃいますよ〜?」


「ッ!?」


いつの間にか背後に回っていた黒妖夢がレンの首目掛けて緋い楼観剣を振るう。


ゴォッ、というような轟音を立てながら迫る刃。


咄嗟に体を思いっきり捻って潜り抜け、続く追撃をアルテマの柄で弾く。


刃に掠められた黒い髪の毛が何本か千切れて空中を舞った。


一瞬でも判断が遅れていればあの髪の毛の代わりに自分の首が持っていかれていたかもしれない。


戦慄しながらも一度体制を立て直すために後方に飛び退る。


「おっと......逃がしませんよ?」


黒妖夢は素早く切り返し、飛び退るレンの動きに合わせて刀を振るった。


剣先がレンの頬を掠め、割れた浅い切り傷から鮮血が噴き出す。


「くっ........!」


ーーこのままじゃ埒が開かない........。


頬に付着した血を乱雑な動作で拭払いながら剣を構え直す。


相手の方が強さは一枚上手。魔力も体力も向こうには西行妖がいるのだから無限に等しい。故に時間をかければかける程不利になるのはこちらの方だ。


ーー短期戦で決める。


彼は地を蹴り、黒妖夢の方へと疾走した。


「イグニスッ!」


剣を握ってない方の手から一発だけ炎魔法を撃ち出す。


敢えて撃つのは一発だけにし、その一発にありったけの魔力を集約させる。


狙うのは相手............ではなくその足元。


「何の真似ですか......ッ!?」


途端彼女の周囲に土煙が舞い上がる。


「くっ......小癪なッ!!」


黒妖夢は悪態を吐きながら剣を構え直しーー


悪視界の中でも正確にレンの首元を目掛けて斬撃を放ってきた。


凄まじい反応速度だ。


だが、流石に彼女でも悪視界の中では些か剣筋が鈍る。


「フゥッ......」


身を屈めて初撃を躱し、上体を左側へ振ってフェイントをかけた後素早く右側に重心を移動させて抜き去る。


そのまま小高い丘の上に立つ西行妖へと全力疾走。


「せぁあぁぁああッ!!」


ありったけの魔力を握る剣の刀身に注ぎ込み、渾身の一撃を西行妖の幹へと叩き込む。


透き通るような刀身が黒い幹に飲み込まれていくーーーが。


幹に僅か数十センチ程までめりこんだところで止まってしまった。


「くそっ......どんだけ堅いんだよ!?」


剣を幹から抜こうとするが、柄を思いっきり引っ張ってもびくともしない。


振り向けば、すぐ真後ろで黒妖夢が楼観剣を振りかぶっていた。


「くっ......!」


やむなく剣の回収を諦めて飛び退る。


「あはは、文字通り丸腰ですね!」


圧倒的な形勢有利故か、剣を構えもせずに勝ち誇ったような表情で黒妖夢がこちらを丘の上から見落ろしている。


「それはどうかな。」


学院制服のローブの内側に標準で備え付けてある短剣(ダガー)を抜き放つ。


強がってはみたものの内心彼はかなり焦っていた。


ーー何とかして剣を回収しなければ。


一応武器があるにしても短剣一本ではとても黒妖夢のあの剣戟は捌き切れない。


加えて、彼の専門は長剣(ロングソード)である。短剣などまともに扱ったことが無い。2、3手斬撃を受けるぐらいが限界ですぐに弾き飛ばされてしまうだろう。


故に現時点で頼れるのは魔法ぐらいしか無いのだが......


先刻妖夢に施した魔法結界はかなり魔力を消費する魔法で、魔力ももう殆ど残されていない。


今の彼には短剣しか攻撃手段がないのである。


「もっと絶望した表情......見せて下さいよぉ?」


楼観剣片手に、黒妖夢がその真っ白な頬を紅潮させながらにじり寄ってくる。


表情は恍惚の笑みで歪んでおり、その瞳孔の開き切った瞳から発される視線にレンは悪寒を覚えた。


こんなことなら学院で短剣の扱いの授業も取っておけばよかった、などと胸中で舌打ちをしながら短剣を構える。


「まだ抵抗しようとするんですか?レンさんもなかなかにしぶといですね......。」


その姿がゆらりと揺れたかと思うと。


刹那、右前から感じた凄まじい剣圧に嫌な予感を覚え、思いっきり右へ跳ぶ。


嫌な予感は的中し、レンが飛び退ったコンマ数秒後に彼が一瞬前まで立っていた空間を黒妖夢の(あか)い楼観剣が斬り裂く。


「......チッ。」


舌打ちをすると同時にもう一歩踏み込み、彼女はレンの左肩口へと逆袈裟斬りを繰り出した。


対するレンは身体を引きながらその斬撃を短剣で左から右へと受け流す。


三撃目に彼女が繰り出したのはレンの右脇腹を狙った突き。


レンは辛うじて短剣を楼観剣の刀身に当ててその軌道をずらしたが、その反動で短剣を弾き飛ばされた。


ーー取った!!


黒妖夢は己の勝利を確信し、()()の一撃をレンの首元目掛けて振るった。


......が。


最後の最後でレンは彼女の予想外の動きに出た。


腕甲でその斬撃を受け止めたのである。


衝撃に耐えきれずに腕甲には亀裂が入り、留め具の隙間から血が噴き出したが斬撃は止まった。


斬撃を防いだ左腕の逆、右腕ですかさず黒妖夢の襟首を掴んで肩に背負い、ありったけの力を込めて後方へと投げ飛ばす。


「くっ......!!」


辛うじて受け身を取って地面に着地するが、彼女が顔を上げる頃には既にレンは西行妖に刺さったままだった剣の柄を握り、引き抜いていた。


「させるかぁぁぁぁぁ!!」


全力で疾駆し、西行妖の幹と、それを両断するべく剣を振りかぶるレンの間に割って入った。


尚も構わずレンは振りかぶる剣に魔法の力を溜める。


魔法剣技(ソードアーツ):......裁きの雷(ヴォルテイン)ッ!!」


持てるだけの、文字通り全身全霊の魔力を全て雷の力に変換して愛剣へと注ぎ込む。


彼が剣に宿すのに雷の魔法を選んだ理由は単純。


この一撃に疾風迅雷の如き”(はや)さ“を求めたからである。


普通の斬撃を打ち込んでも先刻のように幹に刀身が少しめりこんで終わりだ。


他の魔法剣技でも属性を纏えど威力は普通の斬撃と殆ど変わらないので不可。


だが、雷の魔法剣技だけは違う。一撃に限り、詠唱者の斬撃に本物の空を駆ける雷の如く“疾さ”を与える。


並大抵の斬撃ではこのもはや堅いとかいう次元ではない幹を断つ事などほぼ不可能。


ーーならば。


物理法則をも無視するほどの常軌を逸した疾さを持つ斬撃を叩き込むしかない。


「ぜああぁぁぁあああぁぁッ!!」


その雷を宿す刀身に、不可視の超越的な膂力が加わって斬撃がさらに加速する。


眩い閃光を放つその斬撃は、さながら春の空を駆ける春雷のようであった。


黒妖夢の楼観剣の(あか)い刀身を容易く粉砕して。


そのまま閃光は西行妖の幹へと吸い込まれていきーー


冥界にそびえ立つ桜の大樹は、その根元から両断された。


轟音が辺り一帯の空気を切り裂き、続いて凄まじい衝撃が大地を揺るがす。


暫くして土煙が消え去り、冥界は完全な静寂に包まれた。


「やった......のか?」


途端足が言うことを聞かなくなり、レンはその場にへたりと座り込んだ。


「あーあ、負けちゃいましたね......」


声を聞いて振り返ると、そこには全身が半透明になって今にも消えてしまいそうな様子の黒妖夢が寂しそうに佇んでいた。


「いいや、内容的には俺の完敗だ。俺が丸腰だった時にお前がすぐさま切り掛かってきていれば多分俺の首は跳ね飛ばされていただろう。やっぱり強いな、妖夢は。」


事実、土壇場で先刻の魔法剣技が繰り出せなかったら今頃この首と胴は繋がっていなかっただろう。


気になるのは先刻、咄嗟に詠唱したあの雷魔法。


あの裁きの雷(ヴォルテイン)というのは確か伝承魔法(パラドマギア)の一つである。


勿論レンは竜の祝福なんか受けた覚えはないので扱えるはずのない魔法なのだが、あの時彼が無我夢中で唱えたのは多分裁きの雷(ヴォルテイン)だった。


レン自身、実際に裁きの雷(ヴォルテイン)を見たことはないがレンの使えるうちで最強の雷魔法でもあれ程の威力は絶対に出せない。


本当は雷の中級魔法を詠唱するつもりだったのに。


何故あんな撃ったこともないような高度な魔法が使えたのだろうか。


「えへへ......。またいつか、遊んでくれますか?」


「遊ぶも何も、お前は妖夢の一部じゃないか。元の体に戻ったらまた幾らでも相手になるよ。」


返事は無かった。


代わりに黒妖夢がつい数秒前まで立っていた場所に桜吹雪が舞う。


「さて......」


まずは幽々子や妖夢の手当てをしなくては。


右手の剣を鞘に納め、彼は丘を駆け下りた。





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