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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
1章 白玉楼での日々
14/106

14.大義名分



「みょ〜ん、みょ〜ん、......」


余程痛かったのか妖夢は奇声を上げながら頭を抑えてその場でくるくる回る。


次の瞬間、足をもつれさせ......


「み“ゅっ......」


そのままコケて顔から地面へ。


同時にべしゃっという音がする。


ーーあっ......。


妖夢って意外とどんくさい......?


「だ、大丈夫か、妖夢!?」


「いたた......。参りました.......。」


妖夢は自分の顔に付いた泥を手で拭いながら起き上がった。


「悪かったな......その......自分でやっといて何だが、痛くなかった?」


「.....すごく.....いや、超めっちゃくちゃ痛かったですけど......お気になさらずに。」


やっぱり痛かったんだ......。


ごめんよ。まさか吹っ飛んだ刀身が妖夢の頭に直撃するなんて思ってもいなかった。


「それよりも.....。」


「それよりも?」


聞き返してみたが、妖夢の返事はない。


「あの、妖夢?妖夢さーん.....。」


俯いたまま。ただ手をわなわなと震わせている。


......やっぱりちょっと怒ってる?


次の瞬間。


「レンさんお強いですねっ!!これまでどんな修練を積んでこられたのかお聞かせ願えないでしょうか?いえ、なんなら直接剣術をご教授願えませんか?」


先程の殺気に満ちた目とは一転、目をキラキラさせて迫っ

て来た。


ちょっ.......近い近い。


この子.......大人しい感じの性格だと思っていたのに結構グイグイくるな。


「いや.....そんなこと言ってもね。妖夢も強かったじゃないか。........っていうか実際純粋な剣の腕だったら俺は妖夢に負けてたと思うよ。」


「そんなことないですよっ!現にレンさんは先刻の立会いで妖夢に勝ったじゃないですか。その上木刀もへし折られちゃって.......完敗ですよ。」


「俺が君に教えられる事なんて.....」


「私からもお願いするわ、レン。妖夢ちゃんに稽古をつけてあげて頂戴?」


第三者の声が割って入る。


この落ち着き払った感じの声はーー。


いつのまにか縁側に幽々子が立っていた。


「幽々子様!?」


......うーん。


あんまり人に物事を教えるのは得意じゃないんだけど。今は居候させてもらっている身だし、この屋敷の主である幽々子の頼みとあっては断りづらい。


ーーそれに。


昨日団子を食べてしまった罪があるので、妖夢に対しても強く出られない。当の妖夢は期待に満ちた目線をこちらに向けているだけでそんな考えは頭の片隅にも無い、といった様子だが幽々子はそれに気づいているのかニヤニヤしながらこちらを見ている。


どうやら逃がしてくれる気は最初からなかったようだ。


「......分かったよ。白玉楼にいる間は妖夢の修練に付き合おう。」


「やった!ありがとうございますっ!」


「よかったわね、妖夢。それより、朝ご飯まだかしら?私、もうお腹ぺこぺこだわ〜。」


「あっ!ごめんなさい、すぐに用意します!レンさん、早速ですが、朝食が済んだら稽古に付き合って頂けませんか?」


「あ、あぁ......構わないよ。」


妖夢はこちらにぱちりと一つ目配せをして、台所の方へと早歩きで消えていった。


「.......そんなところで突っ立ってないで此処に座りなさいな。少しお話ししましょ?」


幽々子が縁側に腰掛け、自分の隣をぽんぽんと叩いて見せる。


「う、うん。」


朝食まで特にやることが無く、断る理由も無いので素直に返事をして幽々子の横に腰掛ける。


幽々子はいつの間に持って来たのか、湯呑みを二つ置いて、そこに急須からお茶を注いだ。


二筋の湯気と共にふわっと茶の香りが漂う。


「はい、どうぞ。」


「ありがとう。」


湯呑みを受け取り、口を付けて啜る。おいしい。飲むだけで心が安らぐのだから本当に茶というものは不思議である。


「妖夢の剣術指南を引き受けてくれてありがとうね。」


「ほぼ幽々子が強引に俺にやらせたようなものじゃないか.......。俺、あんまり人に物事を教えるの得意じゃ無いんだけど。」


「まあそんなこと言わずにやってあげて頂戴。あの子、実は昨日からずっと貴方と剣についてお話ししたくてそわそわしてたのよ?」


「俺と?」


「ええ。あの子はね、昔から剣のお稽古一筋なの。暇な時さえあれば常に剣の修練のことだけを考えてる位にね。」


「そうなのか......。」


道理であれだけ強い訳だ。先程は運が良かったが、もし彼女の木刀を叩き折ることができなかったら十中八九鍔迫り合いの末に一太刀入れられて自分が負けていただろう。


「妖夢は強かった。純粋に剣の腕だったら俺よりも妖夢の方が上だと思うぞ?」


「私は貴方も負けてないと思うけど......仮にそうであったとしても貴方と妖夢が本気で殺し合いをしたら、多分妖夢はあなたに勝てないわ。」


「......?何が言いたいんだ?」


「もしも貴方が目の前の敵を本気で殺そうと思ったら......勿論剣だけで挑もうとしないでしょう?弾幕や魔法や道具、その場の地形.......その他諸々、貴方が利用できるものの全てを利用して戦うはずよ。」


「実戦で、ということか?」


「そう。妖夢はそうした勝敗に生死の関わるような実戦経験を積んだことが無い........修練や“ごっこ”でしか戦ったことが無いのよ。だからこの先、いつか本気で自分を殺そうとする敵が現れた時に相手がそうした経験が豊富な者ならば、あの子はとても不利な戦闘を強いられることになるわ。」


「それは一理あるかもしれない。」


「その点、私の目に曇りがなければ貴方は実戦に慣れているように見えるわ。だから妖夢に剣は勿論のこと、そういった実戦でも戦えるような訓練をしてあげて欲しいのよ。」


驚いた。


この西行寺幽々子という人物は人のことをよく見ている。鋭い観察眼と考察力の持ち主というべきか。


彼女は先刻の手合わせを一瞬見ただけで妖夢とレンとの違いを正確に指摘してのけた。


相当な切れ者であることは間違いない。


確かに、レンの見る限りでは妖夢は剣の腕は凄まじいが実戦慣れしているようには見えない。きっとあの剣捌きは彼女の素直で真面目な性格ゆえの欠かさぬ修練が生み出した賜物であるが、その素直な性格がたたって実戦ーー言ってしまえば、魔法や武器破壊などの“小細工”を交えた戦闘においては未熟なのかもしれない。


実際先ほどの木刀を用いた立会い勝負でも、正直言ってしまえば“正攻法では無い“武器破壊に彼女は対応することが出来なかった。


そもそも武器を失う事の無い様に立ち回るのが当たり前だが、レンの知る限りでは相手の剣を引っ掛けて落とす様な剣技も存在するし、度重なる戦闘で刀身についた小さな傷が原因で運悪く戦闘中に剣がへし折れてしまうこともあり得ないことではない。


そうした事態を防ぐ為には剣への負荷を減らすように上手く受け流したり、相手の虚を衝いたりするような様々な技術が必要になってくる。


或いは武器が壊れたら壊れたで体術で応戦するなり、あらかじめそうした万一の事態を見越して懐に懐剣を忍ばせておくなりといった対策をしておかなければその時点で敗北は必至だ。


殺し合いは自身も相手も互いに本気。


こちらの剣が折れたとて相手は剣を納めてはくれまい。


だから例え修練であろうと勝利には貪欲に。


死地を生き抜くためには騎士道において良しとされる様な型の美しさや義を重んじる剣のみでは余りにも頼りないことをレンも自らが今までにして来た体験の中で身に染みて分かっている。


レンの扱う剣術はその点に置いてーーランセルグレアにいた頃に“騎士の剣では無い”と人から揶揄されたことはあれどーー非常に実用的であり、その型は変則的な剣の使い手が相手であっても十分に対応できる。


「成る程。話は理解した。一つ聞きたいんだけど、さっき幽々子は“弾幕”という言葉を口にしたよな。なんなんだ?その弾幕っていうのは。」


「うーん、そうねぇ......どう説明したらいいかしら。」


幽々子は暫し思案した後、手のひらをレンの前に出してみせた。


「百聞は一見に如かず。口で説明するよりも実際に見たほうが早いわ。」


次の瞬間、幽々子の手のひらに淡く発光する光の球が生成された。


「なんだこれ......魔法の一種か?」


「正確にはちょっと違うけど、今はそう捉えてもらって構わないわ。この光る球は霊力の塊で、幻想郷では“弾幕”と呼ぶの。」


続けて幽々子が親指をぱちん、と鳴らすと大量の光の球が幽々子が座っている位置を中心として円形に並んで周囲に生成された。


「おおっ!?」


驚いて声を上げるレンの様子を見て満足したのか、幽々子は少し上機嫌そうな表情を浮かべて説明を続ける。


「基本的にはこんな風に大量の弾幕を生成して、相手に向けて放って、相手の弾幕を躱して.....って感じで戦うの。これを弾幕ごっこって言うのよ。」


「その弾幕って俺にも扱うことが出来たりとか......?」


「う〜ん、できなくはないだろうけど貴方には“魔法“があるじゃない。」


「デスヨネー。」


まあ、そりゃそうだよな。今まで散々魔法を学んできたわけだから今更捨てるのも勿体無いし。


「ところでさ......幽々子。」


「なぁに?」


幽々子が首を傾げる。


少し躊躇ってから、気になっていたことを聞いてみる。


「あの桜の大木......西行妖って幽々子とどんな関係があるんだ?」


「ああ......あの桜の木ね。」


幽々子は溜息を一つ吐いてから話し始めた。


「私がまだ人間だった頃からあったみたい。私は何故か生前の記憶が全くないから詳しい事は私自身も知らないんだけど......なんか、あの木からは私の気が感じられるのよ。」


「どういうこと......?」


「さぁ?でもあの木の根本にはどうやら死体が埋まっているみたいだし、案外あの木に封印されているのは私の死体だったりするのかもしれないわね。」


この人さらっとゾッとするようなこと言うなぁ......。


「そんな感じだから、あの木の封印が解かれたりしたら私の身に何が起こるか分からないしもうあの木にちょっかいをかけるような真似はしないわよ。」


そこまで言って、幽々子はどこか切なそうな目をそびえ立つ妖怪桜へと向ける。


彼女も背負っているのかもしれない。生前のことははっきりは覚えてはおらずとも、微かに脳裏に残る記憶。その中にあった暗い過去を。


その時、台所の方から妖夢の声が聞こえてきた。


「幽々子様、レンさん、ご飯ですよ〜!」


「はぁ〜い!!今すぐ行くわぁ〜!」


その声に大きな声で返事をした幽々子は、我先にと凄まじい速度で縁側を走っていった。


「ほんと掴み所がないと言うかなんというか.....。」


溜め息を一つつき、レンも食卓のある部屋へと向かった。







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