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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
6章 白銀と幻想、幽し桜の夢
100/106

100.ブクレシュティの人形師




ーー進んでも進んでも猛吹雪。


おいおいどうすんだよコレ。


レティと別れてからもひたすら異変調査を続けて各地を回ったが、結局異変の黒幕は愚か“春の欠片”すら見つけることはできず。


辺りはもうすっかり真っ暗になってしまった。


加えて吹き荒ぶ雪風の影響で一寸先もよく見えないほどの超絶悪視界。


実は自分が今幻想郷のどの辺にいるのかもあまりよく分かっていない。


要するに迷子である。


この状況はマズイ。


ひじょーにマズイ。


なんかさっきから眠気がヤバいし。


でも寝たら死ぬやつだよね、コレ。


割と絶体絶命。


ついこの間雪山で転げ落ちて気絶したばかりなのに......。


こりゃ今日中に神社に帰れそうにない。


また霊夢に怒られちゃうな......とか言ってる場合か!!


最悪普通に死ねるぞ。


炎系の魔法で暖まろうにも、燃やすものが無い。


近くに落ちているのは凍った枝や氷柱くらい。


とにかくこの雪風を凌ぐために洞穴でも見つけなくてはこのまま凍え死んでしまう。


とは言ったものの、魔力の消費と体温の低下が怖くて空を飛ぶことができないので深々と積もった雪の上をえっこらえっこら一歩ずつ歩いていく。


少しずつ手足の感覚がなくなっていくことに少々恐怖を覚えつつ雪道を進んでいると。


ふと、猛吹雪の向こう側にぼうっと橙色の暖かな光が見えた。


ひょっとして人間......な訳ないか。


こんな極寒の中妖怪すらほとんど姿を見せないというのに人里離れたこんなところを人が一人で歩いているわけがない。


人外であることは十中八九間違い無いだろう。


問題は話の分かる人外かどうかだ。


会話ができる程度の知能を持っているのならば交渉の余地はある。


此処が一体どこなのかだけでも教えてもらえないだろうか。


あわよくばここから神社へと辿り着くための道も知りたい。


そんな一抹の期待を胸に抱きつつ、レンは光の方へと近づいていく。


だんだん接近するに連れて相手にシルエットがはっきりして来た。


見たところ人型のようで、向こうもこちらに気が付いているのかゆっくりと近づいてくる。


ぼんやりとした光源の正体はその手に持っているカンテラだろうか。


「......貴方、人間?こんな時間に、しかもこんな猛吹雪の中どうしてこんな所に一人でいるの?」


不意に声をかけられてレンは少々狼狽えた。


声の主が、霊夢や魔理沙達と変わらない年頃の見た目の少女であったからだ。


どう見ても普通の人間の少女だ。


ショートボブほどの長さの金髪に、澄んだ青色の瞳。


同じく青色の丈の長いドレスを着ていて、その肩には白いカーディガンを羽織っている。


美しい少女の容姿に金髪と青い瞳というのもあいまってレンはすぐに亡き幼馴染を思い起こした。


......別に顔立ちや服装がそっくりというわけでは無いし別人だということは分かりきっているのだが、なんとなく雰囲気が似ている。


「ねぇ、聞いてるの?」


少女が訝しげな表情を浮かべたので、レンは慌てて首を縦に振った。


「あっ......うん。この辺りで調べ物をしていたんだけど、道に迷っちゃって。日も落ちて暗くなっちゃったし、猛吹雪で視界も悪いしで途方に暮れていたんだ。君も人間......なのかい?」


「ええ、まあそう思ってくれて構わないわ。」


......思ってくれて構わない?


少し言い回しが引っかかったが、今はそんな些細なことを気にしている暇はない。


「あ、あの......もしよければ、神社まで帰る道を教えてほしいんだ。」


「神社!?......ってどっちの?」


ああ、そういえば幻想郷には神社が二つあるんだったっけ。


「博麗神社の方。」


「博麗?別にいいけど......こんな猛吹雪の中空を飛ぶわけにはいかないし、徒歩だったらここから結構かかるわよ?もう辺りも真っ暗だし、悪いことは言わないから今日は私の家に泊まっていきなさい。」


「えっ......いいの?」


「ええ。このまま引き止めないまま帰らせて、帰る途中で死なれたりしたら後味悪いし。」


「ありがとう......本当恩に着るよ。雪は止まないし真っ暗だし道に迷うしで途方に暮れていたんだ。」


「どういたしまして。さぁ、体が冷え切ってしまわない内に早く家に入りましょう。ついて来て。」


レンは頷くと、彼女の後ろについて歩き出した。


人里離れたこの辺りには灯りの類は一切ないのでカンテラの光だけが頼りなのだが、彼女は寸分も迷う様子なく雪道を進んでいく。


相当この辺りに詳しいのだろう。


「名前......まだ言ってなかったわね。私はアリス・マーガトロイド。長いからアリスでいいわ。」


「......アリス?」


「どうしたの?」


「いや......その名前、誰かから聞いたことがあるような。誰だったっけなぁ。」


「えぇ......?」


アリスは不思議そうに首を傾げる。


「......そうだ、魔理沙から聞いたんだったっけ。」


「あら、魔理沙を知っているの?」


「魔法使いでとんがり帽子をかぶっているあの魔理沙でしょ?だいぶ前に彼女が君の話をしていた気がする。」


「へぇ......魔理沙がねぇ。......ってあっ、もしかして貴方がレン?」


「うん。幻想郷とは違う世界からやって来て、今は博麗神社に住まわせてもらってるんだ。よろしく、アリス。」


「よろしく。......確か貴方も魔法が使えるんだったわよね?」


「ああうん、一応魔導師の端くれではあるよ。」


「得意分野は?」


「うーん......強いて言うなら理魔法かな。恥ずかしいけど、聖魔法とか治癒系の魔法はからっきしなんだ。」


「分かる!貴方そんな感じするもの。」


「な、なんで分かるの?」


「なんとなく。ついでに言うと、魔法薬学とかも嫌いでしょ?」


「うっ......おっしゃる通りでございます。」


魔法学生時代の夏休みは毎年最終日に徹夜で魔法薬学の宿題をやったものだ。


......寝ないようにサラに見張られながら。


本当にあの分野では彼女に頼りっぱなしだった。


成績が悪すぎて魔法薬学科の先生から目をつけられていたぐらいだ。


剣術試験は常に学年首席だったし理魔法もトップ20番くらいには入れていたが、治癒系の魔法と魔法薬に関してはおそらく学年ワースト3を抜け出したことはなかっただろう。


苦手と言うにも程があると言うか。


......しょうがないじゃん。


聖魔法も魔法薬もあんまり面白くないし、出来ないもんはできないんだもん。


「魔法に関して詳しいってことはアリスも魔法使いなんだよね?得意不得意とかあるの?」


レンの問いに、アリスはうーんと首を捻った。


「不得意は特にはないかな。得意は......そうね、私は主に人形を操る魔法を扱うの。」


「人形を操る魔法?」


「今はちょっと手元に人形が無いから出来ないけどね。掃除や洗濯を手伝ってもらうこともできるし、剣や槍を持たせて戦わせることもできるわ。」


「へぇ......。魔理沙みたいに星や熱の魔法を扱う子もいるし、一言に魔法使いといっても色んなのがいるんだね。」


「ええもちろん。魔法はその人の“個性”だもの。」


「個性、か......。」


「さ、見えて来たわ。あれが私の家よ。」


アリスの指差す先に視線を移すと、立派な一軒家が視界に入った。


煉瓦造りの八角塔屋が隣接しているというようなデザインで、景観としてはランセルグレアの一般的な洋風の家に似ている。


「ほら、上がって。」


「お、お邪魔します。」


アリスに促されて、レンは身体中に付いていた雪を叩いて払ってから家の中へと上がった。


「寒かったでしょう?取り敢えず風邪を引かないうちにお風呂に入って来なさい。」


「じゃあお言葉に甘えて......」


レンは剣を腰から外して廊下の壁に立てかけると、そのままアリスに案内してもらって風呂場へと向かった。





※※※




「ふぅ......ご馳走様。」


レンは椅子に座ったまま満足そうにお腹をさする。


キッシュやスープ、アップルパイなどどれも美味しかった。


「美味しかった......。なんだか悪いな、泊めてもらう上に晩御飯までご馳走になっちゃって。」


「いいのよ。どうせ昨日の残り物だし、喜んでもらえたのなら良かったわ。」


アリスは小さく微笑むと、食後の紅茶を一口含んだ。


「あ、あのさ。」


「何かしら?」


「アリスはさっき自分のことを“人間だと思ってくれて構わない”って言ってたじゃん?それじゃあ本当は人間じゃないみたいな言い回しだけど......」


「ああ......そうね。私は正確には“もう人間ではない”の。」


「もう人間ではない......?」


「ええ。貴方が元いた世界ではどうだったのかは知らないけど、この世界では魔法使いは一つの種族として扱われているの。その魔法使いという種族も大きく分けると二つに分類できるわ。一つは生まれつき魔法が扱える者達。つまり生粋の魔法使いね。」


「生粋の......ねぇ。」


「そしてもう一つは......元はただの人間だったんだけど修行して魔法を扱えるようになった者達。」


「それがアリスってわけか。」


「そういうこと。魔法使いになっても身体能力に関しての変化は特にないけど、大怪我を負っても傷が癒えるのが早かったり。あとは食事や睡眠を取らなくても死ななくなるわ。”捨食の魔法“っていうのを習得するとそうなるんだけど......そうすると晴れて人間ではなくなるの。」


「へぇ......でも、あれ?アリスもついさっき俺と一緒にご飯食べてたよね?」


「”食べなくても死ななくなる“からあくまでも食べる必要がなくなるだけよ。私は食べたいから魔法使いになってからも普通にご飯を食べるし、睡眠も取る。厳密には人間はもうやめてるけどそういう意味では私もただの人間と変わらないでしょ?」


「だからさっきは人間だと思ってくれて構わない“って言ってたのか。......ちょっと待てよ、魔理沙は魔法が使えるけど人間だよね?」


「ええ、そうよ。あの子は”まだ捨食の魔法を習得していない“魔法使いなの。」


「まだ魔法使いとして未熟だから?」


「いや......あの子もだいぶ修行を積んでいるし、しようと思えば習得することは出来るでしょうね。」


「じゃあなんで習得しないの?聞いた感じだと飲まず食わずでも死なないし寝なくてもいいんだから魔法の研究には便利そうだけど。」


「......魔理沙が元々人里の出身なのは知ってる?」


「うん。本人からちらっと聞いたことはあるけど......それと何の関係が?」


「幻想郷において人里の人間が人ならざる者......つまり魔法使いを含めた”妖怪“になることは一番の大罪なの。」


「......。」


そういえば弥太を苦しめたあの妖怪もそんなことを言っていた。


「仮に魔理沙がその大罪を犯して魔法使いになったとして、その時にあの子を退治しなければならないのは博麗の巫女......他ならぬ霊夢なのよ。」


「つまり、もし魔理沙が修行の末に魔法使いになったら......」


「霊夢が魔理沙を殺さなければならない......ってことね。」


「そんな......。」


「口では”いつかはきちんと種族としても人間をやめて魔法使いになってやるぜ“とかいつも抜かしてるけど、きっとあの子自身もそうなることが分かっているから十分な力を持っていても捨食の魔法を習得しようとしないのよ。」


レンは身震いをした。


あんなに仲の良い二人が殺し合うということが本当に起こり得るのか。


そんなことなど想像したくないし、今の話も悪い冗談であって欲しかったが話していた時のアリスの真剣な表情からしてとても冗談を言っているようには見えなかった。


もしも魔理沙が本当に魔法使いになってしまったら、霊夢は彼女を殺さざるを得なくなってしまう。


今朝霊夢が言っていた話もそうだが、やはり案外この平和な日々はちょっとした出来事でいとも簡単に崩れ去ってしまうものなのかもしれない。


......もしも今アリスの口から聞いた出来事が現実になったとしたら、霊夢は本当に親友である魔理沙を殺せるのだろうか。


はたまたもしも俺が同じように何かしら幻想郷においての大罪を犯したら、彼女は俺を問答無用で殺すのだろうか。


そんな霊夢は想像したくないが......きっとあの娘もそういう博麗の巫女としての振る舞いと一人の人間としての振る舞いのどちらを選べば良いのか、葛藤することもあるに違いない。


だが霊夢が例え親しい間柄の相手であっても禁忌を犯すならば問答無用で殺せるような冷酷な人格の持ち主だとはレンにはどうしても思えなかった。


一見すれば禁忌を犯す者が絶対的に悪だし、しきたりに従ってそれを誅する行動が善として讃えられなければならない。


だが、レンの正直な心持ちとしては親しい者を機械的に誅せるような冷酷な心が彼女にないことを祈るばかりであった。


根はとても心優しい子であることを知っているからこそ彼女がそういう振る舞いを立場上しなければならないことを余計痛ましく思ってしまう。


神妙な顔つきで考え事をするレン。


その表情を見ていて何か罪悪感に似たものを感じたのか、アリスは


「な、なんだかごめんなさい。そこまで真剣に心配するとは思ってなかったわ。別にきっと魔理沙だって人間をやめようなんて本気で思ってないわよ。あの子は人間のままでも十分魔法が扱えるんだから。」


と慌ててフォローした。


「あ、あはは......そうだよね。」


暫く二人の間に重い沈黙が続く。


話の内容が内容なだけにこうなるのも無理はないが。


その雰囲気に耐えきれなくなったレンは口を開いた。


「そういえばアリスって人形を操る魔法が扱えたんだよね。もし良ければ実際に少し見せてもらえないかな?」


「ええ、もちろん構わないわ。ちょっと待ってて。」


アリスは椅子から立ち上がると、奥の部屋へと入っていった。


そして暫くしてから、小さな人形を抱えて戻ってきた。


アリスと同じように青いドレスの上に白いエプロンを着込んでいて金髪、という容姿。


まるで妖精のような可愛らしい人形だ。


「......可愛いなぁ。」


「ふふっ、そうでしょそうでしょ。この子は上海(シャンハイ)っていうの。私が作ったのよ。」


「へぇ......アリスが?」


「ええ。」


アリスは”上海“と呼ばれた人形をそっと机の上に立たせると、その細くしなやかな指をひらひらと動かした。


すると、机の上に直立していた上海がくるくると踊り出すではないか。


「うわっ、すごいすごい!」


踊る上海を目をキラキラさせて見つめるレンを見て、アリスはくすっと笑う。


「そんなに喜んでもらえると嬉しいわね。」


彼女は非常に器用に上海を操って見せた。


まるでアリスの指先と上海人形とが見えない糸で繋がっているみたいだ。


「ちなみにどうやってそんな風に器用に操っているのか教えてくれたりは......」


「えー、秘密!魔法使いが手の内を他の魔法の使い手に見せるのなんて愚の骨頂、でしょ?」


「そ、そうだよね。」


......教えてもらっても使いこなせるようになるまでは相当な歳月がかかるんだろうけど。


アリスの人形を操る魔法は恐らく火の球を撃ったり雷を落としたりするような汎用魔法ではないだろう。


アリス個人によって発明、習得された言わばアリス専用の魔法。


こういった魔法は一般に魔導書に書かれているような魔法とは桁違いの時間を習得に要する。


それこそ数十年、数百年かけて独自の魔法を編み出した魔法使いもランセルグレアにはいたらしい。


きっと一朝一夕でうまく扱える様にはならないだろう。


「たまに人里に降りて子供向けに人形劇を披露したりもしているのよ。」


「へぇ、そうなんだ。里のどの辺でやってるの?」


「里の南側の方に広場があるでしょ。あそこでやってるの。レンも暇があったら今度見に来てみて。」


「うん、きっと見に行くよ。」


レンはそう返事をすると同時に大きな欠伸をした。


「雪の中で一日中歩いて疲れたでしょ。もう今日は早めに寝てゆっくりした方がいいわ。そっちの廊下の付きあたりにある部屋が客間だから、そこを使って頂戴。」


「ありがとう。それじゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな......おやすみ。」


「ええ、お休みなさい。」


レンはゆっくりとソファから立ち上がると、居間を後にした。







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