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主神とくじ引き

「さて、君がジルネーの言っていた鏡の付喪神かな?……なーんて、安孫子鈴鹿さん、この度は……ううん。本当はもっと早くに言いたかった。本当に君には申し訳ないことをした。すまない。」


そう言って、師匠に案内された場所にいた金髪の男か女かわからない美人が最敬礼くらいの深さで頭を下げた。

その人からジワリと文字が浮き出したかと思うと、料理のときと同じように目まぐるしく周囲を舞って眼前で文章と動画が作成されていく。


ノゼヴィル

天空の神、神々の統率者。

世界で一番主流となっているノゼウィル教の崇拝する神。

趣味:下界の観察。

権能:■■■■……権限により秘匿。

最近の悩み:自分の信者に正しく名前を覚えてもらえない……


ほぼほぼ赤裸々な主神()の情報公開に鈴鹿は神様でも情報抜き取れるんだ……と遠い目になった。

目の前で「ふぐうっ」などと嗚咽を漏らしながらガンっとテーブルに思い切り頭をぶつけて泣いている主神は情報と合わせると更に神様らしさに欠いた何かだった。

そして、ぐるりと視線で部屋を一巡した鈴鹿はたぶんこの人人望も無いのではないかと失礼ながら考えていた。

何故か?それはその空間の中にある主神を除けば11席あるうち、埋まっているのが2席しかないからだ。

師匠を入れても3席しか埋まらない。

行きがてら師匠に聞いた話ではこの会議は神生会議と言って新しい神候補が生まれた場合に行われる上位12神が一同を介する行事である……らしい。

師匠は「うん、でも期待しないほうがいいよ?前のアースレイの時だって然程集まらなかったし、ノゼヴィルってこういうとこ甘いんだよねー。」と言っていたが想像以上である。



「ひぐっじゃ、じゃあ、す、ずずがじゃんっの、権限形成、にさんっぜいの、びど」


痛みでなのか興奮してなのか涙としゃくりあげが止まらず何言ってるかわからない主神。


(取り敢えず泣くの止めて、落ち着いてから言えばいいんじゃ?)


失礼なので直接言わずに心の中にとどめようとしていた鈴鹿であったがそれは一瞬のうちに無駄になった。


「え?ごめん聞こえなかった。もっかい言って。」

「こらっジルネー。たとえいつもの事でももっと優しく……。」

「済まないがもう次の狩りの予定があるから帰ってもいいだろうか?」


「う、うわあああああんっ。」


台無しである。堰を切ったようにノゼヴィルが泣き叫びだした。


(リアルでうわあああんって泣く人。初めて見た。)


そんなことをぼんやりと考えていると隣にいた師匠が何やら水晶玉を渡してきた。

何故に今?と疑問に思ったものの鈴鹿が素直にそれを受け取ると、それは突如としてどろりと手のひらの上で溶けだす。

その様子に思わず悲鳴を上げそうになったものの何とか耐えた鈴鹿はそのままそれを見る。

と、それは瞬く間に凝固して美しい氷の蓮の花へと姿を変える。

また蓮か、と鈴鹿は自身の散々だった変成の時のことを思い出して泣きたくなった。

蓮はそのままガシャンと砕け散って霧散する。

文字通りそれは霧になり空間に立ち込めたのだが……。


「あら、この色ってことは……。」

「やった!私と同じだ。」

「……。」


きらきらと光り輝いてはいるものの、そこには常闇が広がっていた。


「ふむ、君の所属は冥界だね。さて、肝心の権能は……と」


いつの間に泣き止んだのか、ノゼヴィルが微笑まし気に常闇に目を向けた。


「権能?」

「ああ、そう言えばそのあたりはまだ説明していないんだっけか?」


じゃあこの後教えるから、まずは見てみようかと爛々と目を輝かせながら師匠が言う。

(けど、なぜだろうか。何か嫌な予感しかしない……。)

そんなことを考えていると常闇に輝いていた何かが収束し、文字を形作った。


―――(まじな)


「え゛っ?」


―――(はかりごと)


「は?」


―――(おきて)


「いや、あのちょ……。」


百面相する鈴鹿を差し置いて他の神々は微笑みながら一様に拍手していた。

師匠なんかは特に嬉しそうに。


「おめでとう。これが君の権能だ。」

「いや全然追いつけないんですけど。権能って何ですか。」

「なんだ、ジルネーから教えられてないのか。権能っていうのはその生物に許された特権の事だよ。君の権能のことを簡単に言うと君はどんな呪いだろうが企みだろうが必ず成功させることが出来る。まあ、それとは反対と言ってもいい掟が出たあたり清濁併せ吞む……だったか?が出来る裁判官……みたいな?」

「はあ……。」


なんだ呪いって、なんだ謀って。

女らしさの欠片も無い、どころか不穏さしか感じない。


(というか学力平均くらいしかない私がどうやって何を企めば成功するんだ?)


組み合わせだけ見るとどこぞの悪女みたいなことが出来る組み合わせだが、如何せん問題がある。

鈴鹿の頭が本当にそれについていけるのだろうか。ということだ。


(もしかしてピンチになる度に相手呪えってことか?)


そもそも呪いって儀式じゃん。時間かかるじゃん。……無理だろこれ、すぐに詰むだろ。

と内心で頭を抱えた。

一体どこで生かせというのだろうか。



そんなツッコミを延々としていると既にやるべきことは全てしてしまったのか、いつの間にか冥界の師匠の領域へと戻ってきていた。何やらノゼヴィルが「正式な神になるには……」とか「君には是非とも……」とかいろいろ言っていたのだが、よく聞かないまま来てしまったことを後悔しつつ、鈴鹿は明日(とは言っても冥界はずっと夜だが)からの予定を考えるのであった。


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