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箱庭と僕と、鏡の話

「それは箱庭。君という神を象徴する、君の領域。その中のルールは君だから例えどんな存在であっても君を害することも、君の許しなくして存在することも出来ない。一人につき一つは持っている神の必須アイテムだ。大事にしてね。」


受け取ると同時に包み紙とリボンが外れ、中に入っていたもの……切子細工の様な精密な細工の小箱が現れた。

思わず綺麗と呟くとジルネーもとい師匠が「喜んでくれて良かった」と朗らかに笑った。


「……さて、世話話はこれくらいにして、君の話をしないとね。」


正確には前々世からの君のことを、と先程までの優し気な雰囲気から一変して師匠がこちらの眼を見つめて真剣な表情になる。

私はこのとき、場違いながらも「いや今までの長い前振り全部世話話程度だったんかい。」と内心で突っ込んだ。

そんなことを思っていると足元が光始めた。

それは徐々に収束し、ずるりと床から抜け出して立体になる。


「これ……この鏡は……。」

「そう、君も知ってるよね。なんせ、君が持ってたものの……レプリカだ。」


目の前に現れたそれは、私が前々世……まだプリシラと呼ばれていた時。

正確には彼女が死んだときに血溜まりから出てきた姿見だった。

この姿が映った、あの鏡である。


「この鏡の名は、浄玻璃鏡。」

「浄玻璃、鏡……?」


聞いたことがある、たぶん私だけでなく、日本人なら割と知っている人も多いのではないのだろうか。

地獄の閻魔大王が持つ、死者の一挙手一投足、はてはその人物の与えた影響すら映す鏡の事だ。

しかし、何故浄玻璃鏡がこの世界にあったのだろうか。


「……そう言えばお師匠様。僕がこの姿に変成するときに無理矢理突っ込みましたね。滅茶苦茶痛かったんですから、アレ。」

「忘れられない経験になったでしょ?それに、あれも持ち主のところに帰りたがってたからね。」

「そもそも僕には心当たりなんてとても……。」


聞き捨てならないセリフを取り敢えず置いておこうとした私のセリフにきょとんとした瞳で師匠が「本当に?」と問いかけてくる。

その言葉に頷きかけて、怪訝そうな師匠の顔が目に入ってぐっと押し黙る。


「本当に普通でしたよ?敢えて言うなら何故か僕の所だけが女性に家督が譲られる女系で、識字率が低めの村の中でほぼ唯一読み書きができたくらいです……けど……。」


逆に言えばその読み書きができるという唯一の点から、プリシラの家が村長の様なまとめ役の様な事を任せられていたのだけれど。


「それだよ。やっぱりだ。やっぱり君は聖具国の神器のうちの一つ。鏡を受けた一族の末裔だったんだよ。」

「せ、聖具国の末裔……ですか?」


いきなり胡散臭くなってきたなと内心で考えつつ、続きを促す。

聖具国なんて聞いたこともないが、さっきの履歴書染みた説明文にも載っていたし、神様が言っているのだから一応本当なのだろう。

今更ながら、相手が本当に神様なら、だが……。


「浄玻璃鏡は外津神だからもう愛想つかしてそろそろこの世界見限るのかなとか思ってたんだけど……そうか……大切にされていたんだね。よかった。」

「はあ……。」


勝手に納得されても困る。こっちは完全に置き去りにされている……説明は私のためのものじゃなかったのか?

察したのかコホンとわざとらしく咳ばらいをした後、師匠が元の調子に戻って、再度説明を始めた。


「あーっと、失礼。少し脱線したけど、君の家が女系だったのは鏡を受けた初代が必ず自分の血を持つものが後継になる様に、血が絶えないようにっていう……まああれだよ。呪いとか、そう言う類。で、文字の方が肝心の浄玻璃鏡の能力のおこぼれだね。……ときに君、前世の学校とやらに通っていた時の読み書きってどう習った?」

「どう……普通に絵本を読んだり、授業で……あれ?」


言われてみてふと気が付いた。

そう言えばプリシラは、両親からそう言った知識を教わった覚えはない。

そんな暇があるなら水汲みや家事をすることの方が優先だったからだ。

それなら私はどうやって文字をマスターしたのだろうか?

首を傾げる私に師匠は頷く。


「そう、君たちの生育環境を見るにそんな教育を施している時間はほとんどない。でも、君たちの血は常に浄玻璃鏡とともにあった……だから……。」

「浄玻璃鏡の持つ情報の一部を無意識に保有していた?」

「そういう事。で、その浄玻璃鏡が今回君が神になったことにも関係してる。」


師匠がおもむろに空中を指でなぞると、「神器」と光の文字で浮き上がってきた。


「読んで字の如く、神が作ったもの。本来自我何てつけようとでもしなければ生まれてくるはずなんてなかったんだ。……でも浄玻璃鏡にはその余白を埋める余分……自我を持つ君たちが、いいや。君がいた。」


師匠が空中の文字を鷲掴み、潰す。

そのまま手を放すと、その手の中には既に何もなかった。


「わかるかい?本来ならあの君が死んだタイミングでその権利は母親に移るはずだったんだ。けれどそれは……したくなかったのか、できなかったのかは定かじゃないけれど、鏡は君とともにあった。君はあの時点で、例外的ではあったが半神半人ではあったんだよ。」


そもそも、君は夜な夜な賭場で「見通す力」を使って勝っていたよね?あれが出来る時点でただの後継者だなんてとてもじゃないが通らないんだよ。と師匠が追い打ちをかける。


「でも半神半人なんて言うんだったらどうして今回の神と繋がるんですか?」

「うん、それは混ざっちゃったから。」

「は?」

「どちらかと言えばあの変成した時点で鏡は君に吸収されて、結果的に君が浄玻璃鏡という女神になったんだよ。」


無理矢理分類するなら付喪神になるね。とまるで小学校の先生みたいに丁寧に話してくれた。

……その話を少々唖然としながら聞いていた私は、さっき貰った箱庭が淡い光を放っていたのを気付くことは無かった。

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