新米女神は食事が苦手
視点を主人公視点に変えさせてもらいました。
定まってなくてすみません。
「あの……二人は、無事なんでしょうか?」
「恐らくは、だけどね。……まあ積もる話もあることだし、一端食事でもとろうか。」
そう言ってジルネーが見遣った先には、いつの間にか二人分の椅子……ではなく何故かクイーンサイズくらいのベッドが二つとその間に若干足の長いローテーブルが設置されていた。
ローテーブルの上には所狭しと様々な料理が置かれている。
「楽な体制でいいよー。私も楽な姿勢で話すから。」
言ってボフリとベッドに飛び乗ったジルネーはそのまま寝っ転がった。
「失礼します。」と礼儀正しくを意識してお辞儀をしてから対面(というのが合っているかはわからないが)するように私が座ったのを確認して「良かったら食べてよ。で、感想聞かせて。」とにこりと笑顔を向けてくる。
若干の食べずらさを感じつつも、言われた通りに手を伸ばそうとして手を止める。
自分の手にしようとした料理……(あちら側の世界でのサンドイッチに近い見た目をした料理だった)がいきなり斑に変色したかと思うと、その変色した部分が文字になって剥がれ、自分の方に向かってきたからである。
その文字たちはクルクルと文字列となって自分の周りを旋回したかと思うと、目の前にまるでそこに紙か何かがあるかのように平面に再構築され、静止した。
輝く文字たちはまるで原稿用紙の様に規則正しく並んでおり、作文のようであった。
料理名:チェルメ
白パンに葉物野菜、焼いた肉、季節の野菜を挟み、香辛料をふりかけて軽く燻したもの。
古くはカラルド帝国(旧カラルド聖具国)の軍用食「シエルテ」が発祥。
原材料
シュシュ肉:マルテ牧場産シュシュレ。
個体名「ナーナス」。雌。2歳。
聖王暦1115年生まれ。生後2カ月でゼラ熱を発症するも投薬により完治。
断尾後は落ち着かず多動気味だったものの……
慌てて目を逸らした。
そんなまるで履歴書を更に細かくしたような肉の紹介文とともに流れ出すその材料になった牛に似たシュシュレという種族の内の一匹の生涯がダイジェストで流される。
……生涯とは言ったが正確にはこの食卓に上がるまでが映像になっている。
加工工程やらも入っているのもあって最早食べる気がしない。
というか、あの加工直前の悲痛な叫びと涙を見てしまうと胸が締め付けられる。
おかしい、村娘だった時の自分はもっと逞しくて、食べられるモノなら虫だろうがその辺の草だろうが大丈夫!!とか思っていてもおかしくなかったはずなのに……繊細になったことを喜べばいいのか、贅沢な考えをするようになったことを嘆けばいいのかわからない。
というか何だこの説明文と動画は。
材料の一部である肉でこの有様である。多分、卵とかも同じようなムービー付き説明文があるんじゃなかろうか。
そう思うと、途端にこの食事という作業が苦痛に思えてきた。
そんなことを考えていると様子を見ていたジルネーが腕を振った。
目の前の置かれていた食事が消え失せる。
ローテーブルも消えて、残っているのは互いに腰かけているベッドのみだ。
「いやあ、ごめんごめん。予想外過ぎて流石の私も対応が遅れちゃった。」
もしや先程までの考えが顔に出ていたのだろうか?と一抹の不安が胸に湧き上がるが、いまだに笑顔のジルネーを見る限りそうではないのかもしれない。
うん、と独りでに頷いたジルネーがしたり顔でこちらへと尋ねる。
「君、勇者たちといて楽しかった思い出とか話せる?あ、本心からね?」
「あの排泄物の如き殿方と無知無能を宣伝しているような方と、そのイエスマンでしかない方々とのことで……?」
可笑しい。確か自分は「あのクソ野郎と口先ばかりで働かないアホと、それに便乗する奴ら」と言いたかった、否。言ったはずなのだけれど……。
字面が、正確には口の動きも音声も変じゃなかったか?
何かこう、無理矢理なんかまあまだマシみたいな言葉で塗りつぶされたような。
今度こそ顔に出ていたのか、自分の様子を見てジルネーが笑い声を上げた。
「やっぱり?そうなるよね!うん!私もびっくり!!」
「……貴方、僕に何かしたんですか。」
違うううううっ。言いたかったのは「貴方私に何かしたの?」だよ!!
なんで無駄に敬語で一人称が僕なんだよ!!いろいろおかしいだろ!!
「いやだなあ。私は何もしてないよ、ただ勝手に君という神のルールがそう決まっただけさ。」
「ルール?」
「そ、ルール。君のそのアバターだって一応ルールの一つだよ。変えられないもの、そうであれと定められたもの。」
ジルネーはどこか痛ましそうに私を……というか私を通して誰かを見ている様だった。
「本当に……何も解らないでいられる人間たちがうらやましいよ。」
いきなり重い空気になるのは構わない。が、という事は私はこのままなのだろうか?
「お師匠様。ルールの抜け道などはないのでしょうか。」
「基本的には無いよ。それこそ無理矢理他の種族に転生でもしない限りは……それも連れ戻されるから本当に一時的だしね。」
……呼び方まで改変されるのかとこの翻訳機能の細かさに溜息を吐きたくなった。
そんな私の心情を余所にジルネー……改めお師匠様がこちらに向けて両手を差し出す。
何もなかったはずの其処には、さっきの妙なお茶会モドキの時の様に何処からともなく現れた美しい細工の小箱が載っていた。
「さてさて、改めて師匠として、愛弟子に最初のプレゼントだ。受け取ってくれ。」
そう言って、お師匠様は微笑んだ。