ぐふふ、その可愛い見た目と冷たい視線のギャップが……、ぐふふ
なるべく早く始まりの街に戻るために、私は真っ直ぐクッシーのもとにむかった。
なぜクッシーが私専用みたいになってるのかわからないけど、今はそんなことどうでもいい。
とにかくユキちゃんを見つけないと。
「さあ、クッシー、私を始まりの街まで連れて行ってください!」
『任せて! さあ乗って乗って!』
「ありがとうございます」
私は前と同じく口の中に入り、そこからクッシーの上まで吹き飛ばされる。
さすがに2回目だし、驚くこともなかった。
『それじゃあ出発~!』
「お~」
クッシーは泊まっていたユキちゃんの別荘近くから、ゆっくりと離れていく。
街まではどれくらいかかるのかな。
お昼までに着いてくれないだろうか。
まあ焦っても私にできることはないし、のんびりと航海を楽しむとしよう。
何しようかな。
この前見つけた百合なWeb小説でも読んでよっと。
そうして私が床に座り込み、スマホを取り出そうとした時だった。
突然クッシーが大きな声で叫んだ。
『危ないっ、よけて!』
「へ?」
何かの気配を感じて右を振りむくと、私の顔のすぐ隣を何かがかすめていった。
今のが何なのか理解できずにぼうぜんとしている私。
そこに遅れて誰かがクッシーの上に飛び込んできた。
結界を打ち破ったということか。
その目の前に現れた人物はとてもユキちゃんに似ていた。
しかし、髪の毛も、よく着ているワンピースも、いつもと違って黒色だ。
それにこの世界のユキちゃんよりもさらに幼くなっている。
見た目はまるっきりこどもだった。
でも、そんな可愛い外見とは裏腹に、私を見る目はとても冷たく大人びていた。
私もたまにしてた、ゴミを見るような目だ。
ちっちゃいユキちゃんにそんな目で見られて、不覚にもぞくぞくしてしまった。
まさか私に、そんな趣味があったなんて……。
また生きる喜びが増えてしまうな。
そんな黒いユキちゃん、黒ユキちゃんは、小さいながらも妖艶な魅力をまとっていた。
私は全身をなめ回すような視線をむけ、ひとりで興奮している。
こんな危機的状況でよくやるなと自分でも思う。
まあ、それはこの子がユキちゃんに似ていたからだろうけど。
可愛さに頬が緩むのを必死でこらえるという非常に気持ち悪いであろう表情をしていると、黒ユキちゃんがこちらにむかって歩き出した。
ふとその顔を見ると、サディスティックな笑みを浮かべていて、残念なことに私はますます興奮してしまう。
黒ユキちゃんは私の前まで来ると、そのまま腕を私の背後に回して抱きついてきた。
その柔らかな体と冷たい感触に、私の心臓の鼓動が苦しいくらいに激しくなる。
全身に力が入らず、そのまま押し倒されてしまった。
支えのない場所で倒れこんだ私たちは、クッシーの上から転がり落ちていく。
さっきの襲撃で結界がなくなったため、途中で止まることなく海へ投げ出される。
こんなわけのわからない状況でも、私は黒ユキちゃんをかばうように抱きしめた。
しかし、私たちの近くに突然渦潮が発生し、巻き込まれるように流されていく。
さすがにこれは助からないかもしれないな……。
もはや水の中から顔を出すこともできず、黒ユキちゃんをギューッと抱きしめながら意識が遠くなっていった。
それからどれくらいたったのかわからないけど、あおむけ状態で目を覚ます。
この展開何回目だよって感じなんだけど……。
現実で何回も気を失うようなこと、普通は起きないからね。
ゆっくりと体を起こすと、すぐ近くに黒ユキちゃんが横たわっていた。
黒髪が乱れて、黒いワンピースも乱れて、あまりにも魅惑的な姿に私の呼吸も乱れる。
どうやらまだ気を失っているみたいだ……。
いいよね、触っちゃってもいいよね?
ちょっと安否確認するだけだから。
この状況ではこの作業は必要なことなんだよ。
うんうん。
ではいただきます。
ツンツン。
「おお……」
ツンツン。
「おお……!」
「……何してるの?」
「おおおおおおおおおおお!?」
突然気を失っているはずの黒ユキちゃんから声が発せられて、悲鳴のような声をあげてしまった。
「やっぱり変態ね、イチゴは」
「なっ、違いますよ、私は変態じゃありません!」
「ふ~ん」
必死に抵抗するが黒ユキちゃんの目は絶対に信じてはいない目だった。
でもそのジト目がまたいい。
うう~、ぞくぞくしちゃう。
「なんでもじもじしてるの、気持ち悪い」
「ぐふふ、その可愛い見た目と冷たい視線のギャップが……、ぐふふ」
「……」
自分でも今のは相当に気持ち悪いんだろうと思う。
普通の人ならほぼ間違いなく引くところだ。
しかし、黒ユキちゃんはなぜかそこで嬉しそうに照れていた。
あなたも結構変じゃないかな。
「それよりあなたはユキちゃんなんですか?」
「本人ではないわ、でもまったくの別人ってわけじゃないけど」
どういうこと?
多重人格とかそういうことかな。
でも姿もちょっと違うしなぁ……。
「一時的に体を借りたりしてるのよ、私は夢魔だから」
「ユキちゃんに憑依みたいなことをしてるってことですか」
「簡単に言えばそうなるわね」
それは大丈夫なのか?
夢魔ってことは取りつかれたら害があるんじゃ……。
「憑依して何をしてるんですか?」
「死なないように守っているのよ」
「へ?」
守ってるって、ユキちゃんのことだよね?
「あの子は昔、一度死にかけてたのよ」
「ユキちゃんがですか?」
「そう、ああ、あなたからすると現実世界の方ね」
「ええ!?」
死にかけてた?
しかも現実世界の雪ちゃんが?
「それ、原因は何なんですか?」
「夢魔との戦いで消耗しすぎたのよ」
「えいっ!」
「いたっ、何するの!?」
私は黒ユキちゃんの頭に軽くチョップをかました。
絶対に痛くはないだろう。
「冗談はほどほどにしてください」
いくらなんでもいきなり夢魔との戦いでとか言われてもね。
しかもそれが夢の世界ではなく現実の方でなんて。
そんなの簡単に信じられるはずがない。
「冗談だって思う? でもあなただってユーノに会って夢の世界に来たんでしょ」
「あ、それはまぁ……」
「だったら、あっちの世界にだって非現実的なことが起きててもおかしくはないでしょう?」
た、確かに……。
ユーノさんと会ったのは現実世界だったね。
突然目の前に現れたりとかしてたし、十分に非現実的だ。
それなら夢魔とかいたりするのも否定できないか。
マジか……。
「雪ちゃんは今も夢魔と戦っているんですか?」
「いえ、いったんは落ち着いたわ、でも夢魔との戦いは終わらない、人が夢を見る限りは」
「そんな……」
私たちがブラック企業と戦っているように、雪ちゃんもそんな危険なことを……。
なのにあんなにやさしくて、あんなに笑顔だったのか。
やっぱりすごいな雪ちゃんは。
こんな私にもできることはないのかな。
「あれ? そういえばなぜ黒ユキちゃんは夢魔と戦ってる雪ちゃんを助けてるんですか?」
「夢魔にもいろいろいるのよ、人間だって同じでしょう?」
そう言われると納得してしまうな。
「ということは、かわいくてやさしい夢魔とお友達になって、あんな夢やこんな夢を見せてもらったりとかできないだろうか」
「……まあ、探せばいるんじゃないかしら、知らないけど」
「はっ、心を読まれた!?」
「思いっきり声に出してたわよ……」




