旅行じゃなくて新婚旅行でしたね!
檻の外の世界は相変わらず不気味な空の色をしていた。
いまさらだけど、こんなところに存在するものなどあるのだろうか。
どこまで進んでも何も見つからないような、そんな気がしてしまう。
「さて、ここからどうするべきでしょうか」
「え、何も考えてなかったんですか?」
「あはは……」
前のこともあるし、適当に飛び回るのは危険だよね。
もし見つかって、あれだけの数に囲まれたら逃げるしかなくなってしまう。
でもなにも手掛かりはないから、とりあえず飛び回ってみるか?
結奈さんは私を女神にした後、特に何も教えてくれなかったからなぁ。
そういえばむこうは私を狙っているから、見つかってしまった方が早いのかも。
ただ私は今回で決着をつけたいわけじゃない。
なにかここに重要なものがないかどうかを調べたいんだ。
だからやっぱり相手には見つからずに進みたい。
効果があるかわからないけど、気配を消す魔法をかけておくか。
その時、どこか遠くの方から私を呼んでいるような感覚がした。
「ちょっとむこうの方を調べたいんですけどいいですか?」
「うん、別にいいよ」
特に手掛かりがないので、その不思議な感覚を信じてみることにした。
不気味な空を少しだけゆっくりと飛行する。
進めば進むほど、やっぱりこの先に何かある気がしてきた。
変わらない景色の中を飛び続け、ついに妙なものを発見する。
それは宙に浮かぶ大きな門だった。
そしてその内側に吸い込まれていくように、空間が渦を巻いている。
これは近づいても大丈夫なのだろうか。
ミュウちゃんも雪ちゃんも警戒していったん待機する。
「あの門はいったい……」
「こんなところにあるなんて絶対に怪しいよ」
確かにこれで何もなかったら逆におかしい。
しばらくその場でじっとしていると、いきなり渦が大きくなって、私たちはそこに吸い寄せられる。
「きゃっ」
「雪ちゃん!」
私はバランスを崩した雪ちゃんの腕をとっさにつかみ、ミュウちゃんにぎゅっとしがみつく。
なんとかバラバラにならずに済んだものの、吸い込まれる力に抗えず、私たちは渦の中へ飲み込まれていった。
気が付くと私たちは、美しい庭園の中にいた。
きれいな水の流れる川や整備されたお花畑。
風にのって花弁が舞う様子を見ていると、まるで天国に来たみたいに思えてしまった。
どことなく祝福の庭園に似ている気がする。
ポカポカしてやさしい空気が、私の全身から力を抜いていってしまうような感覚がした。
まるで春の季節に、ボーっとしていると睡魔が襲ってくるあの感じだ。
こんなきれいな場所がなんでこんなところに存在するんだろうか。
「ここは何なんでしょうか」
「さあ? 夢の世界ではあると思いますけど」
雪ちゃんにもわからないらしく、困惑するしかなかった。
そもそも檻の外の世界というのは夢の世界側にあるのだろうか。
それとも現実世界が変化しているものなのか。
現実世界で大橋の時に見た世界と、鐘の門から来た世界は同じなのか。
重要な人物たちに話を聞いているはずなのに、私たちは何もわからずにいる。
まだ何か隠されているんじゃないだろうか。
それとも、もしかしたら誰も本当のことを知らないのかもしれない。
そんな風に考え事をしながら歩いていると、自分の意志ではなく、まるで誘われるようにどこかを目指していた。
雰囲気は祝福の庭園に似ているけど、実際に進んでみるとやはり別の場所らしい。
でもお花畑はたくさんあるし、噴水もあちこちに存在する。
きれいな景色とほんのり甘いお花の香りに意識を持っていかれそうになる。
やがて大きな橋が見えてきて、そこから下をのぞくとここも空中に浮かぶ島であることが分かった。
そういうところも祝福の庭園に似ている。
歩行者用にしては大きすぎる橋を渡りながら、むこう側で水が島から流れ出ているのを見つけた。
あれだけの水、いったいどこから湧いているんだろう。
下に流れていってるけど、海にむかっていってるんだよね。
本当にここから落ちたら海なんだろうか。
それとも海が見えてるだけで、下は別の空間なのか。
ミュウちゃんと一緒に飛んでいけばわかるのかもしれないけど、別に確かめるようなことでもないかな。
橋を渡り切った私たちは、誘い込まれるように砂浜へむかう。
「海だ~!」
ミュウちゃんがはしゃぎながら砂の上を走る。
「海だ~!」
雪ちゃんもそれを追いかけるように走っていく。
「そんなに焦らなくても海は逃げませんよ~」
と言いながら、私もかなりわくわくしていて今にも駆け出してしまいそうだった。
ミュウちゃんと雪ちゃんはすでに海に入って、水の掛け合いをしている。
水着があれば存分に楽しめるんだけどなぁ。
……って、あれ?
いつの間にか私たち水着になってる?
そういえば前にもこんなことあったなぁ。
ちょっとよくわからないけどまあいいや。
これでいっぱい楽しめるぞ!
「私も混ぜてくださ~い」
「お姉ちゃん早く~」
ふたりと一緒に私も水を掛け合う。
なんだかとても楽しかった。
「あはは」
「あはは」
「あはははは」
「あはは」
「あはは」
「あはははは」
「あはは」
「あはは」
「あはははは」
みんなで笑いながら、ただ水を掛け合うだけ。
まるで青春の1ページのようだ。
また学生の頃に戻りたいなぁ。
でも今はそれが叶わないから、こうやって楽しい時間を過ごすんだ。
「……ってなにしてるの私たち!?」
雪ちゃんが急に手を止めて、なぜか驚いたように声をあげた。
「どうしたんですか雪ちゃん、もっと遊びましょうよ、せっかくの旅行なんですから」
「何言ってるんですか苺さん! 旅行じゃありませんよ!」
うん? 雪ちゃんはいったい何を言ってるんだろうか。
「あ、そうでしたね、旅行じゃなくて新婚旅行でしたね!」
「そういうことじゃないです!」
「もう、照れなくてもいいんですよ」
私はさっきから様子のおかしい雪ちゃんの隣に移動し、そっとほっぺたにキスをした。
「ひゃっ」
雪ちゃんは驚いて小さな悲鳴をあげていた。
そしてプルプル震えたあと、キッとした目で私を見る。
「何するんですかぁああああ!」
雪ちゃんの鉄拳が私に叩き込まれ、私は砂浜からかなり離れた位置まで飛んでいってしまう。
その位置でも十分足がつく程度の深さだったので、自力で海面に顔を出すことができた。
「だ、大丈夫ですか苺さ~ん!」
雪ちゃんが慌てた様子で砂浜から声をかけてくる。
私は手を振って大丈夫だと合図をした。
その時後ろに誰かいる気配がして振り返ると、そこにはなぜか結奈さんの姿が。
ここよりも深いはずの場所なのに腰から上が水面に出ている。
そんなはずはないのに、結奈さんが裸だったせいでそれどころじゃなかった。
「お母さ~ん!!」
私は結奈さんの胸に包まれるため、全力で海の中を移動した。
「どこへ行くんですか苺さ~ん! それ以上行ったら島から落ちちゃいますよ~!」
後ろから雪ちゃんの声が聞こえるけど気にしない。
ママのおっぱいが私を待ってるんだから!
「うおおおおお、アイキャンフラ~イ!」
「苺さんは飛べないでしょ~!」
雪ちゃんにツッコまれながら、私はいつの間にか海から放り出されて宙に浮いていた。




