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銀の月  作者: 紅花翁草


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7/30

銀竜ナセラ 2

 机と椅子が並ぶ教室を思い描いていた私は部屋の中を見てびっくりした。大きな円卓と椅子が部屋に入ったすぐのところにあり真ん中にはさっきみた水晶が置いてある。その奥には教室2つ分くらいありそうな空間だけがあった。開放された窓から光と風が入ってきている。

 ナムルさんが円卓の横を抜けて10数人の白いワンピースの服を着ている生徒達の方へ歩いていったので私も付いて行った。


 ナムルさんに気付いた先生らしき女性が、軽く会釈をして、生徒達の言動を制した。

 静かになった部屋の生徒達の目線が私に向けられているのが判った。

 10歳前後の子供から20歳くらいにみえる人たち、それぞれが同じ服を着ている。

(うわ! 転校生ってこんな感じで見られているんだろうな…)

 などと思っているとナムルさんがわたしを呼んでいるのが聞こえた。

「なおさん。ここが銀の魔術を教える月修院の教室です。巫女の修行と教育をしているのです。」

 私はナムルさんに招かれるまま生徒達の前に行き頭を下げて挨拶をした。

「みなさん。ちょっと授業の見学にきた方を紹介しますね。」


 私は向けられる生徒の視線の中から、笑っているティオを見つけてちょっと安心していた。

「彼女は、なおさん。ティオ姫の客人で、今日この町に来てくださったのです。今までお祖母さんと

隔離された森の中で暮らしてきたので、世間のことをほとんど知らずに育ってきました。だから、少しでも力になれるかと色々なことを見てもらっています。みなさんも力になってあげて下さいね。」


(…へ?)

 私は頭の中を整理しながら隣にいるナムルさんを見上げた。

 ナムルさんは笑顔で私の方を見ているので、なるほどっと理解した。

「よろしくお願いします。」

 私は深く頭を下げて挨拶をした。

 頭に乗っていたモカがふわっと飛んで顔を上げた私の顔の前あたりで、浮かんでいた。

「あっ…モカごめん。」

「なお~。びっくりしたです。」

 モカは私の出した腕の中に着地して私の顔を見上げている。目が虚ろだった。

(寝てたな…)


 見上げてティオ達の方に視線を戻すと、色んな表情と視線を私とモカに向けられているのが判った。

(天使と悪魔か…さっきからの視線は私じゃなくてモカの方だったのね。)


 私はナムルさんの方を自然とみていた。

「はい。みなさん。実際に見た人は少ないと思いますが、この方が精獣のモカ様。なおさんのお祖母さんの精獣です。稀な事ですが、契約者の意思でなおさんの付き添いをしているそうです。」

(なるほど! そうきたか。)


 私はナムルさんの機転の上手さに拍手を送りたくなった。

 ティオも同じ意見らしく、私を見て喜んでるようにみえた。

「モカ、そういう事だからね」

 私が小さく話しかけるとモカは無言で頷いていた。

「ソリアルさん。」

 ナムルさんが先生らしき人のところに行ってなにやら話している。

 私はその場から動けず、ただ立っていた。

(う~ん。どうしたら…)


 ティオに助けを求める視線を送ってそれに気付いたティオが私の方へと来てくれた。

「なお。魔術の修行見てみない?ソリアル先生いいでしょ。」


 ナムルさんが生徒と私の方を見て、

「私はこれからルミナ様のお手伝いに行きますからなおさんをよろしくお願いしますね。」

 そういって私の方へと歩いてきた。

「また後で、私のところに来てくださいね。ソリアルにその旨伝えてあります。」

 ナムルさんが部屋から出ようとするのを確認する間もなく、ソリアルさんが私と側にいるティオのところにやってきた。

「ティオ姫様、あまり派手な魔術を見せる事はダメですよ。それでは、各自の基礎力を見直すついでに魔術の初級から始めましょうか。」

 ティオが嫌そうな顔をしながら返事をしているので、派手な魔術というのをやりたかったんだろうと思った。

「なおさんは私の側で見学していてくださいね」


 ソリアルさんはまだ20代前半かな? 結構若く見える。襟付きの白のワンピースに銀色の刺繍。腰には大きな銀の布が巻かれている。着物の帯みたいだと思った。


「では、まずは魔力の覚醒から。」

 さっきまでティオ達がいた場所に移動した。

 何もない空間に人の大きさほどある水晶がふわっと現れて、浮かんだ。

「この水晶に意識をこめると魔力に反応して白く輝くのですよ。強い魔力ほど輝きが増します。最初は小さな光なんですが、修行でみなさん強い光を出せるようになるのですよ。」


 小さな女の子が慣れた動作で水晶に手をかざすと、懐中電灯ほどの光が溢れていた。

「あの子の歳っていくつなんですか?」

「去年入学して今、9歳ですよ。一番下の子になります。」

 私はこの世界の疑問を聞いてみた。

「ここに入学するのは、巫女や神官になるためなんですよね?」

「ええ。みなさんそのために日々努力していますよ。」

「あの子は・・・自分の意志で巫女になろうとしているのですか?」


 私の思いを聞き取ってくれたソリアルさんは小さな少女を見つめながら話してくれた。

「生まれたときにその才能がほぼ決まってしまう私達は、育っていく環境の中で何をしなければならないのか悟っていくのですよ。人より魔力が高い私達は、将来魔術で人のために生きていけるようにと。だから、強要で入って来る子はいないのよ。ただ、小さい頃の周りからの期待や、この町の巫女や魔術士に触れ合う中でやらなければならない。と思ってしまうのも事実ですが。」


 私はモカをぎゅっと抱きしめて自分の事やモカの事、色々考えていた。


「でもね。巫女としての修行や魔術の修行は大人になったとき、本当にやりたいことができたときにとても役立つからここの卒業生で悔やんだ人はいないと思うのよね。」

「はい。ライカちゃん、良い感じになってきたね。」


 ソリアルさんが少女を呼び戻して次の生徒が水晶に手をかざしていた。12歳くらいの少女はライカちゃんより眩しい光を放っていた。

「そのまま、波長を乱さないように。」

 輝きが少し変化する水晶が一定の輝きに戻っていくのが判った。


「なおさん、ここを卒業した人で、医術士になったり、保育士になったり、料理士になったり、色々な人たちがいるのよ。ここは。。。魔力を持った少女達に魔力の使い方と正しい心を教える所だと思ってるの。。。私達、元生徒の願いと想いでもあるのよ。」

 ソリアルさんの迷いも陰りもない透き通る声が私の気持ちを晴れやかにしていった。

「はい!」 少し張りのある声で私は返事していた。


「はい。リーアンちゃんも魔力の伸びと安定もよくなってきてますね。」

 水晶に、魔力を込めていく生徒達をソリアルさんは、誇らしげに誉めているのが,なんだか羨ましく思えてた。

「じゃ最後はティオさんの番ですね。」


 ティオが私に手を振っている。

 私もモカと一緒にティオに手を振った。

「モカ。ティオはどんな光を出すんだろうね。」

「です~。」 

 ティオのかざした水晶が輝きだした。


「なお。気をつけて見てね。」

 言った瞬間、水晶もティオも姿が消し飛んでしまっていた。あまりの光の量で私は目をそむけた。


「なおさん。もう大丈夫ですよ。」

 ソリアルさんの言葉で私はそむけた視線をティオに向けた。

 水晶の中に白い太陽があるみたいだった。


 ソリアルさんに呼ばれたティオが私達のところに歩いていきた。

「ティオってすごいのね。びっくりしちゃった。」

 ティオが誇らしげに笑っている。

「まあね。ちょっと本気だしちゃった。」

 横にいるソリアルさんが半歩前に出てティオと私の間に入る形になった。

「いつもそれくらい頑張ってくれると私は嬉しいんですけどね。」

 ティオの笑顔が照れ笑いに変わっていった。


 ティオの腰の辺りにライカちゃんと呼ばれていた少女が寄ってきていた。

 ティオを壁にしてモカを見ているようだった。

 くりっとした目と可愛いい髪飾り。きれいな銀髪は短く整えられている。

「この子はライカちゃん。」

 ティオから上級生が下級生の面倒みるのが慣わしだと教えてくれた。

 私はライカちゃんにモカに興味があるのか聞くと、小さな声で「うん。」

「モカ。ご指名よ。」

 私は、腕の中でくつろいでるモカをライカちゃんの目の前に差し出した。

「触ってみて、ふわふわしてて気持ちいいよ。」

「なお~。ぼくって…」

 モカが何か言いたいみたいだけど、撫でて誤魔化した。

 ティオとソリアルさんも私も微笑している。


 ライカちゃんがゆっくりとモカの背中を撫でて、すっと手を戻した。とても嬉しそうな顔になっているのが見えた。

「ね。 モカは私の大切な友達なんだ。怖くないでしょ。」

 今度ははっきりと聞き取れる声で「うん。」っと返事が返ってきた。

 いつの間にか生徒達が私とティオを囲んでいた。

「モカ。大人気ね。」

 モカもちょっと嬉しくなったみたいで、ぴょんっと手から飛び上がって頭に戻った。


「はい。みなさん、モカ様が困惑していますので、戻ってください。」

 ライカちゃんたちが広場の方に戻っていく。

「なお~。ぼくちょっとびっくりだったです。」

 頭の上でモソモソしているモカに私は「ごめんね。」と謝った。

「だって、モカが怖がられるのって嫌なの。」

 モカは何も言わずに頭の上でくつろいでいる。


 まだ私の隣にいるティオがソリアルさんに話かけている。 

「なおが知りたい事を教えて差し上げえてみてはどうですか?」

「そうね。次は魔力での物質操作を見てもらおうと思ったのですが、」


 ソリアルさんが私に意見を求めてきたので、私はすこし考えた。

「そうですね。それも見て見たいです。まったく魔法ってものが判らないので何でも興味あります。」

 私はおじさんやミリアさんが使っていた、戦闘用の魔法を見てみたかったけど、ここでは禁句のような感じがした。


「はい。それでは、次は操作の基本をやってもらいますね。」

 ソリアルさんは広場に向かって手をかざしている。

 いつの間にか消えていた水晶の場所に今度はソフトボールほどの水晶が1・2・3・・・全部で8個、宙に円を描くような位置にそれぞれ浮かんでいた。

「では、いきますよ。」

 ソリアルさんの合図ともに水晶は力尽きたように床の上に落ちた。

 ライカちゃんが前に出て手を出して念じている。

 ゆっくりと8個の水晶が元に位置に戻っていった。

「じゃあ、回転してみましょうか。」

 回りだした8個の水晶は速度を上げていく。ひとつの円を描くように移動する水晶は速度を落として最初の位置に止まった。

「はい。よろしいですよ。」

 生徒達が次々と交代していく。大きい子になるほど速度が速く、円を描く軌道もより複雑に組み合わさって、とてもきれいだった。


(わたしにも出来たらいいのにな~できないんだよね…)


 ティオの番になっていた。

 ティオの操作している水晶はさらに早く、水晶の軌跡でひとつの大きな球体に見える。

「はい。みなさん、終わりましたね。授業の時間もなくなってきましたので、今日はこれで終わりにしましょう。」


 生徒達はソリアルさんに挨拶をしてそれぞれ雑談をはじめた。


「ティオさん、ナリアさん、マールさんは月礼の間へ。」

 呼ばれたティオ達が私の隣にいるソリアルさんの所にきた。

 ティオの視線が私に移った。

「なお、もう少し待っててね。」

「ここで待ってればいいの?」


 私の質問に答えてくれたのはソリアルさんだった。

「なおさんは私とナムル様のところにいきましょうね。ナムル様が待っていますので。」

(そか・・最初そんなこといってたよね)

 私はティオに手を振ってソリアルさんの背中を追った。

 ティオと一緒にいた少し背の高い女性の視線が気になったが、大きな木の扉を抜けてソリアルさんの後を歩いていった。


(なんか嫌な視線だったな…)


最初、ナムルさんと会った教会みたいな部屋の、手前の通路まで戻ってきた私は、そのまま教会の裏にまわるようになっている通路を、進んで行くソリアルさんの、後をついていった。

 窓のないその通路は壁にある電球みたいな明かりで照らされている。

 少し薄暗い通路を進むと、銀なのかよくわからないが装飾が施された扉で行き止まりになっていた。

 ソリアルさんが手をかざしてなにか呪文みたいなものを呟いている。

 扉がぼんやりと発光したように見えたと思ったら、触れてもいないのに奥へと開いていった。

「なんだろね…ここ…」

 特別な場所なのだと、感じた私は小声でモカに話かけていた。

「うん。たぶん…」

 そういって頭の上のモカは黙ってしまった。緊張しているみたいだった。

 私は少し前を歩くソリアルさんに近づいて聞いてみた。

「この先の扉の向こうにナムル様がいますので、そこまで、行ってくださいね。私は入ることを許されていないので。」


「えっ?!」


 目の前にはまた扉があり、これも銀色で凝った装飾の扉だった。

 さきほどと同じように扉を開けたソリアルさんが私の歩みを促している。

「入ると下に行く階段がありますから気をつけて下っていってくださいね。少し濡れているところもあるので滑らないように。」

 私はすこし明るくなっている扉の向こうを覗き込むような仕草で扉に近づいていった。

 下へと下る螺旋階段だけが見えている。


 覚悟を決めたわたしはソリアルさんに軽く会釈して扉を超えて階段を下っていった。

 振り返ると扉が閉まっているのが少し見えた。


「行くしかないね。モカ、いくわよ。」

 モカも頭から浮かびあがって、私の肩あたりを浮遊しながら下へと歩いていった。


 岩壁から水が滴り落ちる階段は滑りやすくなっていて、ゆっくりと踏みしめながら私は進んでいた。

「モカ、さっき何言おうとしてたの?」

「うん。精霊の気配がするです。とても大きな息吹が感じるです。」

 モカの緊張が私にも伝わってきた。

「じゃあ、やっぱりここって、銀竜ナセラがいるところなのね。」


 奥へと下っていくと私にも大きな気配と圧力みたいなものが感じられるようになっていた。

 そこは大きな鍾乳洞になっていた。

 岩のあちこちに無造作に生えている水晶が青白く輝いていて、大きな洞窟だけど見渡せるほど明るかった。

 私がナムルさんを見つけると同時にナムルさんも私を見つけていた。

「待っていましたよ。こっちへ来てください。」

「モカ、おいで」

 腕の中へモカを呼び寄せて、私はナムルさんのところに歩いていく。

 ナムルさんの後ろの青白く光る岩山が動いてるのが見える。

(うそ…あれがナセラ? おっきい~)

 ぐいっと持ち上げた頭。青く光る二つの瞳がまっすぐこっちを見ている。


 寝そべっている銀竜ナセラの胸元に女性が一人立っていた。

「あっ、ルミナさんだ。」

 ナムルさんの隣に着いた私は銀色のドレスを着ているルミナさんに頭を下げて挨拶をした。

「ナムルさん…なんで私をここに呼んだのですか?」

 まったく理解できない私はまず、根本的な問いを聞いてみる。

「ナセラ様がね、モカとあなたに挨拶したいって。」

「いや…挨拶って…そんな…」


(でかいし、怖いし。)


「さあ、ナセラさまの下に行ってくださいね。ルミナ様もお待ちですよ。」

 銀竜ナセラの寝床は、青白く光る水晶の照明とそれを反射する岩から染み出ている水滴で幻想的な空間だった。


 モカをぎゅっと抱き寄せてゆっくりとルミナさんの所へ。

 緩やかな上り階段になっている石段の壇上へと。一歩ずつ滑らないように。

(う~ん…)


「えっと、ルミナさん、おじゃましてます。」

 何を言ってるのか自分でも判らない挨拶を済ませた私は、青い瞳の銀竜ナセラにも挨拶をした。

「はじめまして。なおです。…っと、モカです。」

 圧倒的な大きさの銀竜ナセラを見上げる私に映った青い瞳は、威圧感がなくとても優しく暖かい瞳だった。


 ルミナさんが私に手を差し伸べてきた。

「こちらへ。」

 無意識に右手を出した私の手はルミナさまに引き寄せられる。

 すっと、押される形になった私は、銀竜ナセラの胸元に位置している。

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