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銀の月  作者: 紅花翁草


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ティオ・エリシア 3

「すごいわね…」

 ティオの顔が真剣になっていた。

 その顔を見て私は、このカードも特別なものなのだと感じた。

 並べ終わったティオが3枚のカードを手に取って私に見せてきた。

「これが基盤のカードといって、扱える属性や、自軍にかかる効果などが、これできまるのだけど…持ってみて」

 ティオが1枚、渡してきたので私は手にとった。

「あっ! 読める。」

 お祖母ちゃんからもらったときには、絵柄なっている文字みたいなものが読めなかったけど、手に持った瞬間にカードの名前と効果が直接理解できていた。


「リミナスの天空城 月3闇3 ファル数20 月属・闇属・精霊族に攻撃力+3守備力+3の効果。 飛行タイプのみ攻撃行動が出来る。」


 ティオが軽く頷いてもう一枚テーブルからとって私に渡してきた。


「銀竜ナセラ 召還ファル数 月3無3. 攻撃力6 防御力8 飛行、月属。 竜族で、月属に攻撃力+1守備力+1の効果。」


 私は頭に入ってきた情報を声に出して答えた。

「この名前入りのカードは手札に1枚しか入れないルールなの。」

私はそこまで聞いて自分が今までやってきたカードゲームと同じことに気付いた。

 テーブルにあるカードの枠が黄色になってるやつを指差してティオに解いた。

「この黄色い枠のカードは魔法カードだよね。」

「ええ、そうよ。知ってるの?」

 私は自分の世界に同じようなカードゲームがあってそのトーナメントの上位に入るくらい遊んでいる事を話した。


「でも…なんで読めるようになったんだろう…」

 私は手に持っている空に浮かぶ城の絵柄のカードと銀色の竜の絵柄を眺めながら呟いた。

「それは…たぶんこっちの世界に来たからじゃないのかな? 同じ言葉を話してるのって、偶然じゃないと思うし。」

「そうよね。お祖母ちゃんの魔法かな? …便利ね。ほんと…」

 改めて私はおばあちゃんの存在を大きく感じた。

「まったく。」

 ティオの返事が私の思いをつかみ取っていた。

 声を出して二人は笑っていた。


 ティオがカードをテーブルに戻した。

「なおの世界のカードってただの紙みたいだけど、このカードには魔力が入っているの。」

 私はティオの話を静かに聞いていた。

「カードを作る専門の魔術師がいるのよ。封印士と呼んでるの。その封印士が実在する場所や物、人、精霊、竜などの前にいってその物が出している魔力を封じこめてカードにするの。」

 ティオがテーブルに1枚しかない名前入りカードたちを指している。

「とくに、このクラスは特級と言われ、世界に数枚しかないのよ。高い魔力を封印する力をもった封印士が限られているし、対象物に会うのすら難しいから。それにもう…いないのよ。」

「いないって?」

私は言葉の意味を確認したくて聞いてみた。


「上級クラスまでのカードを作れる封印士はいるのだけど、特級を作れる人がもういないの。」

 ティオはテーブルの端に置いてあった、カードケースから一枚のカードを出してテーブルに置いた。

「私の特級カード、ルシア様よ。月の王宮を建てた人で銀の時代と呼ばれる最初の王妃さま。」

 カードには、城のテラスに立つ女性が描いてあった。

 ティオに似ていると思った。


「で、なおのその天空城カード。と、この2枚の基盤カード…『リミナスの聖殿』と、『リミナスの月下舞踏会』。そしてこの、『銀影の騎姫リミナス』」

 ティオが3枚のカードを手に取って見せる。

「月光の王妃。銀影の魔道士。とか言われるリミナス様。実際に見たのは初めてよ。ルシア様と同じ時代の人らしいけど、伝説みたいになってる人。」

「ふぇ~。すごいカードなんだぁ~」

 私は思わず、ため息をつきながら声を出していた。

「わたしもここまで、すごいカードが出てくるとはおもってみなかったよ。なおのお祖母さんって、リミナス様の縁のある人か、もしくは親族になるひとなのかな?」

 二人の思案する沈黙が流れた。


「まあ、難しい話はこれくらいにして、私のカードと勝負しましょうよ。」

 ティオは自分のカードをデッキに戻して、私のカードをまとめ始めた。

「ルールの確認してみましょうか。」



 基盤カードを1枚セット。駒カードと魔法カードをシャッフルして裏向きでセット。最初は7枚手札     

 に取る。 

 

 両陣とも手札から駒カードを場に置く。(召還総ファル数が基盤ファル数超えないこと)

 

 戦闘ターン・攻撃側が駒による攻撃指定を決める。

         守備側の駒が攻撃表示なら攻撃力の数値、守備表示なら守備力の数値で判定。

         攻撃側(攻撃力)-守備側(駒の表示でどちらか)=0以下になれば墓地に落ちる。

         攻撃側の駒の行動は一回のみ。(特殊行動もその時1回のみ使用できる)

         魔法カードは基盤の残りファル数以下なら使用可能で攻撃側は、攻撃指定前1回       

         のみ、守備側は、攻撃指定後1回のみ使用出来る。

         駒が墓地に落ちた時ライフポイントが維持ファル数分なくなる。最初は20ポイントあ     

         り、0になったら負けとなる。

         場に駒が居なければ直接攻撃ができライフポイントを1減らすことができる。

         攻撃側の駒の行動がすべて終わるか、指揮者が終了の合図をすればターン終了。

 

 補充ターン・基盤ファル数を最大値まで回復。

         手持ちカードを最大5枚になるまで補充できる。


 召還ターン・場にある駒の維持ファルを消費することで駒を継続させることができる。

         継続させない駒を墓地に落とす。(ライフポイントに影響しない)

         残りの基盤ファル数に従って新たに手札から召還できる。


 攻守交替で戦闘ターンに戻る。


「だいたいの流れはこんな感じになるけど。なおの知ってるルールと同じかな?」

 受け取った私のカードデッキをテーブルに置いてわたしは頷いた。

「ええ。ほんと変わらないの。びっくりするぐらい」

 私はソファーの横で暇そうに見ているモカをひざの上に置いて大きく背伸びした。

「モカ、まっててね。私の実力をみせてあげる。」

(やるからには勝つぞ~)

 モカは「はいです。」 と頷いた。


 私はテーブルにカードを配置しようと、基盤カード『リミナスの天空城』を置いた。

「まって、ここでするのもいいけど折角だから、この世界のやり方でやらない?」

 手を止めた私は、ティオに訊ねた。

「ここのやり方?」

「そうよ。このカードを実態化する石版があるのよ。それを使って試合するの。練習用に持ってるからそれを使ってやりましょうよ。」

 ティオは立ち上がってメイドさんたちのいる扉をノックした。

 扉を開けたメイドさんに用件を伝え、テーブルに戻ってきた。


 程なく扉が開き、食事を運ぶワゴンみたいなものをメイドさんが押して入ってきた。

 私はモカをソファーに置いて、部屋の窓側の広いところに置かれたそのワゴンを見にいった。

「ぼくもみるです。 」 

 モカがふわっと飛んで私を肩あたりをついてきた。


ワゴンの上にはカードの裏と同じ絵柄が描かれている石版があった。

 ティオがカードケースを持って、ワゴンとほぼ同じ大きさの石版の前に立った。

「この上にカードをおくと実態化するのよ。」

 カードケースからカードの束を取り出して、基盤カードを石版の上に置いた。

 カードの絵柄の上に同じ絵柄の城が小さく浮かんでいた。

「あっ、かわいい~。」

 ティオが小さく笑った。

「ね。こんな感じ。小さいから可愛いけど、公式用の大きな石版だともっと凄いよ。」

「なおも置いてみてよ。」

 モカがとなりで嬉しそうにしていた。

 私は逸る気持ちで自分のカードデッキをテーブルから取ってきた。

 『リミナスの天空城』を置いた。

 絵柄と同じ、空に浮かぶ城がふわっと現れた。

「じゃあ、駒も並べましょう。」

 手に取った7枚から二人それぞれ駒を召還した。

 石版の上には実態化した兵士や竜、魔法使いに妖精。チェスの駒みたいに見えた。    

「なおの先行でいいよ。手加減なしでやりましょう。」

 ティオは真剣な顔をしていたけど、嬉しそうだった。 


 私はひとつ、深呼吸をいれて、対峙するティオの駒たちを観察した。

(戦士系メインかな? 数値アップ系のカードデッキのようね。)

「よし。」

 私は小さく気合入れて、指揮を始めた。

 実態化した駒たちは生きてるような動きをしていた。剣を振ったり、翼を動かしたり魔法を唱えたりと、見ているだけでも楽しかった。

 ティオの戦略は、思ったとおり駒の数値アップを基本としていた。

 私のは、月と闇の2色デッキだけど、基本的には数値アップ戦略のデッキなので駒で押していく物理攻撃主体の攻防が繰り広がられていた。

 

 15分ほどで勝負がついた。

 勝ったのは私。僅差の結果だった。


「ん~苦戦したー!」 私は大きく背伸びして体の硬直をほぐした。

「まけたー!」 ティオも手を伸ばして深呼吸していた。

「面白かった~。」

「たのしかった~。」

二人ほぼ同時に声をだして、そして笑顔になっていた。

「なお~凄かったです。」

 モカが私の頭にちょこんと乗ってきた。

「駒が実際に動いたりするのがいいね。」

 私はこの石版とこっちのカードが気に入ってしまった。

「でしょ。5日後に月礼祭っていう祭りがあって闘技場でファルトカードの親善試合があるの。私が月の民、代表で出るから見に来てね。」

 カードをケースに閉まってティオは窓の外を指差した。

「あそこよ。実態化がほぼ実物で再現されるのよ。さっきの竜とか精獣とか凄いわよ。」

 指す先にはサッカーコロシアムのようなすり鉢状の建造物が見えていた。

「私的にはこれでも十分楽しかったよ。またしようよ。」

 私もカードをケースに入れて、腰のホルダに閉った。



「今から銀礼の神殿に行かなくてはならないんだけど、なおもくる? 日が沈むまえには帰ってくるけど。」

「いってみたいけど、ティオはそこでなにするの?」

「祭司になるための巫女修行よ。なおは神殿の見学してみてはどう?。」

「ん~…ここにいても暇だし、行こうかな。」

 私は城の中庭にいた竜がまだ居るのを何気に確認して、窓から離れた。


「そうね。」 ティオが私の服を見ていた。

「着替えましょう。」

 ティオから予想していた言葉が返ってきた。

(やっぱり…)

 扉を叩いたティオにつれられて私は隣の部屋へと入っていった。モカもそのまま頭の上にいる。

 扉を開けてくれたメイドさんと奥に2人のメイドさんいた。

(3人だったのか。)

「なににしようかな。」

 沢山のドレスや帽子、靴が並んでいる場所に私はティオに連れられていった。

(ヒラヒラしたのって苦手なんだよね~。)

「ドレスってあまり着ないから、動きやすいのがいいな。」

 私はドレスを選んでいるティオに声をかける。

「判ったわ。じゃここらあたりでいいかしら。」

 ひとつはティオと同じような白いすっきりとしたスカートのドレス。

(胸元が開きすぎなんだよね…)

 ふたつめはチャイナドレスのようなスリットがはいった薄い黄色のドレス。

(動きやすそうだけど…スリットが…)

 みっつめは上下に分かれた白いドレス。

(まあこれならいいかな?)


「これにするね。」

 みっつめのドレスを私は選んだ。

「着替えはメイドさんに手伝ってもらってね。私は部屋でまってるから、モカちゃんもこっちで待ってましょ。」

 ティオに呼ばれてモカは私の頭から扉へと飛んでいった。

「なお~。まってるです。」

 扉から二人が出ていったのを確認したメイドさんが扉を閉めた。

(なんか怖い…)


 何事もなく、着替えが終わった。

「なお、似合ってる。けど…それ、付けていくの?」

 戻ってきた私の、腰にあるベルトを見てティオが訊いてきた。

「肌身離さず持ってなさいっておじさんがいってたから。」

 モカがソファーのところでゴロゴロしているのが気になった。

「モカ? なにしてるの?」

「ん? なにもです。」

 モカはふわっと飛び上がり私の頭に戻ってきた。

 ティオがちょっと笑っていた。

「行きましょうか。」

 私はティオの後を付いて廊下へと出た。

「銀礼にいきますね。なおさんも一緒です。」

 ティオは扉の外にいたハミルさんに声をかけた。

 私はハミルさんに会釈した。

「はい。」

 ハミルさんはその一言だけ言ってティオの後ろについていた。

(会話とかあまりしないのかな? …できないのかな?)


 階段を下って中庭の通路に出た。

(まだ竜いるかな?)

 すぐに竜が視界に入ってきた。

(ミリアさんの竜によく似ているけど、竜ってみんな同じなのかな?)

 私は竜を横目でみながらティオの後をついていった。

 城の中を横断するような形で私たちは神殿へと続く庭園にでた。

 色鮮やかな花を並べた庭園には鳥の囀りや風になびく木々の音がゆっくりと流れていた。

 神殿へ伸びる道の向こうから赤い鎧をきた人が歩いてくる。

(さっきの竜騎士だ。ミリアかな?)

 隣にいたハミルさんの動きが変わったような気がした。


 赤い竜騎士は兜を付けているので誰なのか判らなかった。

 私は隣をすれ違う竜騎士を目で追っていた。


「なお!」

 私の視線に気付いた竜騎士が突然、声をかけてきた。

「あっ! ミリア。」

 聞き覚えのある声で私はミリアだと確認した。

 ティオとハミルさんがちょとびっくりしたようだったけど、私たちのために立ち止まってくれた。


「やっぱりここに来てたのね。」

 兜を脱いだミリアはルミナ王妃に用があってきたこと、昨日のなおの事を話すのが遅れた事、私の服が変わっていたので気付くのが遅れた事、を話してくれた。

「なおの頭にモカが乗っている事に気が付けば…」

 私とミリアとモカはその場で笑っていた。

 少し離れたティオとハミルさんにミリアが会釈している。

「まだお使いの途中だから、行くね。」

「はい。またね。」


 駆け出すような勢いで城へと歩いていったミリアと別れて、私はティオの隣に歩いていった。

「お待たせ。ごめんね。」

「知り合いだったのね。」

 ティオの声になぜか重いものが感じ取れた。

「ええ。昨日、助けてもらって友達になったの。」

「あっ。そうなんだ。」

(嫌いな人なのかな?)


「ティオはミリアとは知り合いじゃないの? おじさんとは知り合い同士だけど。」

 ティオが困った顔をしている。

「知り合いって言えばそうなるかな。おじさんの家で何度か一緒になったことあるし…」

 ティオはどこか遠くを見ているような視線で歩いていた。

「民族の色の相性がね。…火は太陽と接属で武力を優先する民で…なんか合わないのよね。」

 前を歩くティオがくるっと回って私をみた。

「だから、おじ様の家では、ミリアさんとあまり喋らなかったの。」

「そうなんだ。」

 私は後ろ向きで歩くティオの横を跳ねるように追い抜いた。

「相性って大事だけど、ティオもミリアも私の大事な友達よ。だから私が保証するわ。ティオとミリアも仲良くなれるよ。」

 庭園の門がすぐそこに見えてきた。神殿までもうすぐだ。


 一呼吸置いて私は頭の上のモカを胸の前に抱き寄せた。

 早足でティオが私を追いかけてきた。

「そうね。」

 明るい声でティオが笑っている。


 見上げるとミリアの竜が青い空を悠々と飛んでいる。

 私は竜に向かって大きく手を振った。

 隣のティオも空を見上げていた。


「なお~。」

 力無いモカの声がした。

「ねむいです…」」


 ティオと私の笑い声が風の音に流されていった。

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