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銀の月  作者: 紅花翁草


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行って来ます。 2

 部屋に戻ってすぐ、ティオに連れられるように私はお風呂に来ていた。あとからお母さんも来るとティオが教えてくれる。

 長い入浴で、のぼせそうになりながら、私はお母さんとティオと沢山の話をした。

 そして家族で入るお風呂も、当分出来なくなる寂しさを隠しながら、私は就寝の挨拶をして部屋に戻った。


 リナの部屋で私は独りでベットで寝ている。意識を入れ替え、今はリナが表に出ている。

 日本に帰る前に、少しでもリナに故郷の景色を見せたくなった私の提案だった。


 銀髪をなびかせ、月明かりを浴びながら、オルトリアスの空を飛んでいるリナ。

 都はまだ、祭り最後の余韻の中で、人々の声が溢れている。

 リナは月を目指すかのように上昇し、遥か遠い景色をその目に写していた。

[町や人が変っていても、世界はやっぱりあの頃と同じね。]

 リナの目に映る昔の記憶は、乱雑に浮かんでは消えていった。

[なにするにしても、時間もお金も無いからな~、なおの気持ちだけで十分ってことね。]

 城に戻ろうと思ったリナに、下から向かってくる人影が見える。

 リナは立つように空に静止して、来客者を迎えた。

「新しい道を、あなた自身の力で拓きましたね。おめでとう。」

 淡い光を放つ赤髪の少女にリナは微笑を送る。

「はい。友人達やシェラ様の助言を頂き、私は望んでいた以上の道を見つけました。」

 ミリアは深々と頭を下げる。

「リナ様、あの時救ってくれて本当にありがとうございました。なにかお礼をしたいのですが。」

「私は出来ることをしただけ、ただそれだけです。奇跡を起こしたのは貴方の兄ですよ。」

 リナはミリアと一緒にいる精獣を見る。

「あなたが私を見つけたようですね。」

 ふと、よぎった考えで、リナは言葉通りの『上の空』を見上げた。

「ねえ、ミリアさん。さっきのお礼の事だけど…」

 ミリアは考え込むリナに「はい。」と答える。

「お酒で祝わない? 私今、お金持ってないのよ。貴方がいる迎賓館で乾杯しましょうよ。」

 予期しない提案にミリアは戸惑いながらも、頷いた。

「決まりね。それじゃ、時間もあまり無いので早く行きましょう。」

「あっ。はい。」

 考え込む猶予などなく、ミリアとフィールはリナを追って迎賓館に戻った。

 ミリアは宿泊している部屋にリナを迎え入れる。

 部屋に案内される前に、リナは迎賓館の執事にお酒と少しの料理を頼んでいた。

「ミリアさん、お酒は大丈夫?」

「はい。ワインなら飲めます。」

「それは良かったわ。ちょっと特別なやつを用意させてるから一緒に飲みましょう。」

 リビングになっている部屋のソファーに座ったリナはミリアとフィールを確認するように見つめた。

 ミリアの髪色は部屋の明かりで桃色のような色合いに見えている。

「とてもいい色ね。」

 リナは満足気な笑顔を見せる。

 扉を叩く音にミリアは返事を返し、入ってきた執事とメイド達はテーブルにワインボトルとオードブル的な料理を並べていった。

「流石ね。完璧って言える程の素晴らしさです。突然の訪問なのにありがとう。」

 リナの褒め言葉に執事達は深く頭を下げる。

「ミリア様、リナ様、御用が出来ましたら、御呼び付けください。失礼します。」


 リナはワインを開け、二つのグラスに注ぐ。

「リナ様はどういう方なのですか?」

 ミリアは色々と聞きたいことが整理できず、曖昧な問いしか出てこなかった。

「そうね。その前に『様』はやめて貰おうかな。たぶん私のほうが年下だから。」

 ワイングラスを受け取ったミリアは、「はい。」と返事を返し、リナの差し出したグラスに重ねた。

 一気に飲み干したリナはとても嬉しそうな笑顔になっていた。

「このワイン、久しぶりだけど本当に美味しい。別格ね。また飲めるなんて。」

 2杯目を注ぎ、今度は味わうようにゆっくりと飲むリナだった。

「今回の騒動に出てこれたのも偶然って言えばいいかな。普段は違う場所にいるから、救世主的な扱いになってるけど、実際は違うのよ。」

 テーブルの料理に手を出し、もぐもぐしながら話を続けるリナ。

「明日には戻るし、次はいつになるかも判らないのよね。」

 ミリアはワインに口をつけ、その味と香りを感じながら話を聞いていた。

「そうですか。」

 ミリアはそれ以上の事は聞かない事にした。

「ミリアさんの方がこれから忙しくなるとおもうから、覚悟しておきなさい。」

 リナの眼差しも加わって、ミリアは気が引き締まる感じになっていた。

「あと、お兄さんにも少し話しをしときましょうか。」


 ミリアは隣の部屋にいる兄のロイを呼び出し、部屋に連れてくる。

「こんばんわ。突然ごめんなさいね。ついでになっちゃったけど、お兄さんに伝えときたい事があるのでお伝えします。」

 グラスを置いたリナは、ミリアとロイと対峙するように席を立った。

「ちょっと片腕出してくれますか?」

 ロイが右腕を差し出すようにすると、手刀の一閃が肘と手首の間を通り、ロイの腕が床に落ちた。

ミリアとフィールは驚きの声を上げるが、ロイ本人は冷静に受け止めていた。

 傷口は結晶が見え、血とか肉とかが全く見えなかった。

「痛みはありますか?」

 リナの問いにロイは確かめるように話す。

「はい。激痛というものではありませんが、じりじりとする痛みがあります。」

「それは良かった。痛みが無いと、修復する意志が起きないですからね。」

 リナは落ちている腕を魔力をこめた足で踏み、粉々に消した。

「お兄さんの修復は、ミリアさんしか出来ません。」

 動揺の中、ミリアはリナの呼びかけに冷静さを戻す努力をしながら返事をする。

「お兄さんに意図的に魔力を流す方法は判りますか?」

 ミリアは首を横に振る。

「では、最初は体に触れて、治癒魔法のように流してみてください。」

 言われた通りにすると、ロイの腕の結晶が増えて、無くなった部分の形に形成され、塵になると、ロイの腕は元通りになっていた。

「鍛錬すれば、離れていても同様に復元出来るので、頑張ってくださいね。」

 リナはロイの胸に指を挿す。

「前にも話した通り、心臓の炎華石が砕けると、貴方は砕けて消えてしまいますから、そこだけは守りなさい。」

 ロイは頷き、心配そうに見るミリアの頭撫でる。

「大丈夫だ。」

 

 リナは一歩下がりロイに頭を下げた。

 ミリア達はその行動に慌てて声をかけた。

「え、ちょっ、どうしたのですか?」

 頭を下げたままリナは答えた。

「ゴーレムとしての不憫さを伝える事をしてなくてごめんなさい。人の本能的な欲求全てが無くなる事がどれほどの苦痛なのか私は少しだけ理解できますが、それでも辛いと思いました。」

 リナは顔を上げロイとミリアを見る。

「本当に、ごめんなさい。」

 もう一度、頭を下げて謝るリナを、ロイは膝を着き、頭を下げ答えた。

「私にとっては、その程度の対価で、妹を守れる事に嬉しく思っています。ですから、感謝の気持ちは変りません。」

「ありがとう。」リナは顔を上げ、膝を着く騎士に手を差し出す。

「精獣と契約して、騎士の道に戻れたのはミリアさんの努力です。今後の二人の道に幸溢れる事を願います。何かあればルミナ王妃かティオさんに伝えてください。」

 ミリアとロイは、リアに敬意の礼を返す。


 自室に戻ったロイを見届けたミリアは部屋に戻る。

 リナは、ソファに戻り、戻ってきたミリアに注ぎなおしたワインを差し出した。

「そろそろ戻らないとだから、ボトル空になるまで付き合ってくださいね。」

  リナの美味しそうに食事をする姿を、ミリアはどこかで見たような気がしていた。

  ミリアは、フィールに空に高い魔力をもった人が居ると教えられ、もしかしてと見に行ってからの今までの経緯が、まだ信じられない気持ちの中、城へと飛んでいくリナさんを見上げていた。

「なんだろ…シェラ様といい、そういう人達が多いのかな。城の人達って…」

「どうなのかしらね。」


 私はリナのベットで寝ていた。

 リナがベットに入るのを、うとうとしながら感じ、「おかえり。」と小さく呟き、また眠りに落ちていった。

 朝、目が覚めると私は少しの頭痛に悩まされていた。

「痛いし、重いしなんだろ…少し気分が悪い…」

(リナ~。昨日、何かあったの?頭痛いんだけど。)

[ああ、ワインをちょっと飲んだの。ミリアさんとね。]

 私は頭痛を一瞬忘れるほどの驚きだった。

(え? なんで? というか、お酒、まだ飲んだことないのにー!)

[そうだったの? 16歳から飲めるのに、飲んでなかったの?]

 ベットから体を起こした私の隣でリナが申し訳なさそうに私を見ている。

(こっちの世界じゃ16でも、私が居た世界の日本ってっところはね、20歳からなの。)

 これが二日酔いって言う、症状なのかと理解した私は気力が保てないほどの脱力感になっていた。

[ごめんなさい。昔好きだった、]

 私はリナの言葉を止める仕草で遮る。

(ううん、それは良いの。私の方こそ、ごめんなさい。私も飲んでみたかったな~って、二日酔いだけの経験なんてって思っただけだから。)

 頭痛を振り払うようにすこし頭を動かした私は、笑顔を作る。

(ワインは美味しかった?)

[もちろん。変らない味で、とても美味しかったわ。]

(今度来た時は、私も飲む。)

 どうでもいいような決意を示す私を、リナが笑っていた。


 ベットから起きた私は、喉の渇きように置いてもらっていた水をグラスに注いで飲み干した。

「さて、日本に帰りますか!」

 太陽が昇り始めたオルトリアスの景色を、焼き付けるように眺めた私はモカを起こして、二日酔いと格闘しながら、朝の身支度を済ませた。


 朝食を普段通りに済ませ、私はお母さんの部屋に呼ばれていた。

「きをつけてね、なお。」

 別れの抱擁をするお母さんに私は、「はい。」と小さく頷き、宝印石を渡した。

「あっちで無くしたりしたら、大変だから。」

 受け取ったお母さんは、入れ替えるようにクローゼットから銀色に輝くネックレスを私にかける。

「これは、お守りよ。」

 城の旗に描かれてる王家の模様が入った翼と盾を合わせたような彫銀のネックレスだった。

「ありがとう。行ってきます。」

「はい。」と答える笑顔のお母さんともう一度、抱擁を交わした。



 モカと出会った遺跡で異界の扉を開くと、お祖母ちゃんから聞いた私達は、馬車に乗って向かっていた。

 帰りの馬車には、ティオとハミルさんにお祖母ちゃんが加わり、道中の話題は封印士の話になっていた。

「いいかい、封印するのには、特別な魔法紋章を使うのだけどね、クラスが上がるほど複雑な紋章になり、その魔法紋章を維持しながら、相手からの魔力を紐解き、それを紋章に重ね縫っていく

ことなんだよ。」

 ティオは本題になった話を真剣に聞いている。

「まずは、紋章を描く練習からだね。」

 そういって一枚の紙を渡す。中には紋章が1つ書かれていた。

「これの紋章を模写して暗記しなさい。」

「もしゃ?」

 ティオが聞きなれない単語の意味を聞き返した。

「別の紙に同じ紋章を書くってことさ。そうね1000枚も書けば覚えるんじゃないかい。」

「え…」

 落胆しているのが誰の目にも判るティオにお祖母ちゃんは、最後の一言を付け足した。

「次来るまでに覚えときなさい。」


 ロレン夫妻の家に着いた私は庭に赤い竜が2匹居ることにすぐに気が付いた。 

 出迎えの中にミリアとお兄さんのロイさんがいるのを確認すると私は飛び出すように馬車から降りた。

「ミリア、お兄さんも来てくれたのね。」

「ロレンおじ様とおば様にフィールを紹介するついでにね。リッサもセシアも見送りにきたかったけど、護衛の任があるから無理だって。エリも残念がってたわよ。」

 ティオが会話に加わり、立ち話を始めると、ロレンおばさんが「焼き菓子を、準備してあるから」と家に招き入れる。 


 私達は、長いティータイムの中、城での出来事をティオから、ミリアから、私から、3人がロレン夫妻にやっきになって話していた。

 死んでお母さんに生き帰してもらったとことか、リナの話とか、言えないことが沢山あったけど、私は祭りの事や友達になったエリオナちゃんの事を沢山話した。


 ティオの帰りの時間に合わせ、神殿の場所に向かった。

「ここは、祈りの神殿って言われてる場所よ。」

 ロレンおばさんが私に話してくれた。

「次元の亀裂みたいなのがあるらしくってね。異界と繋がり易いの。でも、それはあまり良くない事だから、私達が見守ってるのよ。」

 朽ち果てた神殿に、みんなは敬意を込めた祈りを捧げている。

「ねぇ、モカ。だからここでモカと出会えたのかもね。」

 腕の中にいるモカは、「はいです。」と嬉しそうに答えた。


 お祖母ちゃんが魔法紋章を描くと、光が溢れる扉のような物が現れる。

「それじゃ、行って来るよ。」

 お祖母ちゃんの、簡素でいつもの言葉にどこか安心している私がいた。

 挨拶は十分にした。約束もした。目標も見えた。

 不安を感じる事など無かった。

「またね。」

  笑顔で別れの挨拶を済ませた私は、お祖母ちゃんと一緒に扉の中に入った。


 目覚まし時計の音が、眠りの邪魔をする。

「ん~もうちょっと…」

 私は飛び起きるような意識で目を開けた。実際は目を開けただけの状態の中、目覚ましに手を伸ばし止める。

「夢! なんてことは無いよね。」

 枕元で寝ているはずのモカの姿が無かった。

 私は飛び起きて自分の部屋を見渡す。

「なお~おはようです。」

 心臓の鼓動が収まっていくのが自分でも判った。

「おはよう、モカ。今日は早起きなのね。」

 窓の外を見ていたと理解した私は、ベットが起き上がり、モカと一緒にもう一度外を見た。

(リナ。ちょっときて)

[どうしたの? なお。]

 昇り始めた太陽が眩しかった。モカとリナと一緒に見た朝日はとても暖かく感じた。

「これからも、よろしくね。」

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