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銀の月  作者: 紅花翁草


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3/30

ティオ・エリシア 1

 わたしは、朝の日の光で、心地よい眠りから目覚める。

 いつもと違う朝。

 通学や通勤で行き交う人の声や車の音などなく、ただ鳥の声が微かに聞こえてるだけだった。

 わたしは木の部屋を見渡し、そして枕の横にいる白いふくろうの子供を見つけてここが夢じゃい事を再確認した。


「モカ。おはよう」

 私の声で目を覚ましたモカを抱きかかえて、おじさんたちがいる食卓へ向かった。。

 いい匂いがする台所にはおばさんが食事の用意をしている。おじさんは外で何かしているみたいだった。

「顔を洗っておいで。それと、食事の準備ができたって、あのひとを呼んできてね。」

「はい。」と返事をして私はモカを抱いたまま、洗面台に行き、顔を洗った。


(そうだ…鏡ってないのね。不便じゃないのかな?)


「モカ、私の髪の毛ってどこか跳ねてない?」

 私は濡らしたタオルでモカを拭きながら、モカを頭がよく見える位置に上げた。

「大丈夫だよ。跳ねてるとダメです?」

 モカがそう聞いてきたので私は、ダメなのって笑いながら答える。

「モカも跳ねてると可愛くないでしょ。」

 私はモカを下ろして頭から丁寧に拭いてあげた。


「おじさんを呼びにいこうか。」

 冷たい水でスッキリと目が覚めた私は元気よく外に飛び出した。モカも私の後を飛んでくる。


 まぶしい太陽で湖がキラキラと輝かしている。心地よい風が今日も私を包んでくれた。

 湖の前で空を見上げていたおじさんに手を振って、朝食が出来たことを伝えた。


 家に戻ると、テーブルには美味しそうな果物と焼きたてのパン、いい匂いがするスープが並んでいた。

 モカはテーブルの端に、私はその隣の椅子に座る。

 私はパンを小さく千切ってモカのお皿に置いた。果物はおばさんが小さく切ってくれたのが皿の中にすでに置いてあったので、私は上手に食べているモカを見てテーブルの料理を口に運ぶ。


 食事を終えたおじさんが、私に今日の段取りを話し始める。

「あと1時間くらいしたら、オルトリアスまで護衛してくれる人が来ることになったから。」

(あ。そうだよね、二人で行くんじゃないよね。やっぱり、…モカ襲われたんだし。)

「王宮まで連れてってくれるから、あとはルミナ様と話してくればいいからね。」

(保護者付きの冒険か~。ちょっと残念だけど、安全に王宮ってところまでいけるんだから、いいか。)


 パンを頬張りながら、私はこれからいく町がどんなところなのか期待で一杯になっていた。

「ねぇ、おじさん?」

 お腹も一杯になったので疑問に思ってたことを訊ねてみた。


「どうやって護衛の人呼んだの? 電話とかないみたいだけど? それも魔法みたいなものなの?」

 昨日の出来事で、魔法がこの世界の機械や道具の変わりになっているのがなんとなく分かった。

「電話? ああ、今日の連絡の方法なら朝、太陽が昇ったときに風の精霊に手紙を運んでもらったのだよ。 私たちの世界では精霊の力を借りて火を熾したり、傷を癒したり、物を動かしたりするのが普通だね。もちろん、昨日みたいに戦うための魔術もあるがね。」 


「指先に火を出したり、擦り傷ぐらいの傷の手当て、髪を乾かすくらいの風とか、小さい力の魔力なら、ほとんどの人が出来るようになるけど、高位魔術になると限られた人しか覚えることはできないのだよ。」


(魔法の世界か~すごいところにきたんだな~私もちょっとくらいならできるのかな?)


「なおちゃんには無理だろうね」

 おじさんは私の心を見透かしたように微笑んでいた。

「えっ。なんで~」 私はちょっと怒ったふりをした。

「髪の色が黒だからね。精霊が手助けしてくれないんだよ。なぜか。」

(髪の色で決まってしまった。…なんて不条理な世界なんだ。お父さんのせいか~)

 肩が落ちたのが自分でも分かるくらい凹んでいた。

「じゃあ、なんでモカが見えたの?」

 いつのまにか、おばさんからおかわりを貰っているモカを見て私は、

「ってまだ食べてる~」

 きょとんと、こっちを見てだめなの? って顔で見られたら、いいよって言うしかなかった。

 モカとのやり取りを聴いていたおじさんとおばさんが笑っていた。


 おばさんが私の問いに答えてくれた。

「精獣は魂の力のみに共鳴するから魔力が無くても関係ないの。魂の力っていうのはね、密度が濃いとか輝きが強いとか表現されるけど、ようは、精神力ってこと。なおちゃんは人より心が強いからモカが見えたの。」


(強いのかな?…こんなに悩んでるのに…)


「それってとっても良い事なのよ。」

 モカにお茶を勧めて,おばさんは空になったお皿を台所に持っていった。

「髪の色って特別な事なの?」

 昨日ミリアさんがお祖母ちゃんの髪の色を訊いてきたのを思い出しておじさんに聞いてみた。

「人には得意属性があってね、、4元素と太陽と月の6種類。その属性で髪の色がはっきりと分かれるのだよ。私たち銀色は月の属性、ミリアちゃんの赤は火の属性、色が鮮やかなほど魔力が高い。なおの黒色っていうのは人間だとまったく魔力を持たないのだよ。闇の属性をもつ魔族の黒髪だけは別だけど。我々、人は光の属性側なので闇属性の魔法を使うことができないのだよ。」


 お茶で一息ついたおじさんが付け足すようになぐさめてくれた。

「黒髪を持つ人はこの世界にも沢山いるから珍しくないよ。」

 私は髪の毛をさわった。

(結構自慢だったのにな~)


「そろそろ出かける準備をしなさいね。」

 台所から香ばしいクッキーの匂いがする紙袋を持ったおばさんが、戻ってきた。

「そうそう、お祖母さまがくれたカード達をもっていきなさい。肌身離さずもっているのだよ。」

 着替えをするために立ち上がった私は、はい。と返事をして部屋を出た。


(やっぱあのカードって意味あったのか。私の知っているカードゲームによく似た絵柄なんだけど違うんだよね。タロットカードに近いのかな?)


 おばさんが用意してくれた、服に着替えてカードケースを枕の下から取り出して部屋を出た。

「おじさん~。このカードってなんなの?」

 椅子に座りながら靴の手入れをしていたおじさんに私は訊ねる。

「ファルトカードといって、魔力が入ったカードで、主に王族の娯楽遊具だな。」

「へ? おもちゃ?」 あまりの事に呆然としてしまった。

「と言っても、高価な物だから大切に扱いなさい。下手をすると国ひとつ潰しかねないからね。」

「は? …」 言葉になりません。

「王宮でカードの使い方を教えてくれると思うから、そのときに詳しく聞きなさい。それとこれを、腰につけなさい。カードを収めるベルトと靴。」

 今磨いていた皮の靴と隣の椅子の背に掛けてあった同じ皮のベルトを私は受け取った。

 ベルトには西部劇にでてくる拳銃を収めるケースと似たものが付いていた。


(これに入れるのね。でも、盗られたりしないのかな? 目立つし…)


「これって、大丈夫なの?盗まれたりしない?」

「ああ、心配いらないよカードケースは持ち主しか開けれないから誰も盗もうとしないし。金銭的にも価値が無いからね。中のカードは誰でも使えるからむやみに開けないことだね。」

(よくわからないけど…まあいいか。)

 カードをセットして、ベルトをつけて、靴を履いた私は、月の王宮に行く心構えをした。


(いっくぞ~)

「モカおいで~」

 テーブルでくつろいでるモカを私は抱き上げて窓の外を見た。


(あっ馬。…馬車か。あれでいくのかな?)

 窓のから遠い位置に見える馬車が近づいてきた。車輪の音がすぐに聞こえて、おじさん達も気付いて扉から外に出ようとしていた。

 家の前に止まった馬車を私は窓からモカと二人で見ていてた。

(馬車の中に誰かいるのかな? あの騎手さんだけなのかな?)


 馬車の扉が開いた。

「おじ様~おば様~。お久しぶりです~。」

 女性の声がしたと思ったら白い軽やかなドレスを着た、女の子が出てきた。

腰ぐらいまで長い銀髪が、日の光りを受け輝きながらなびいていた。


「ティオ!」 おじさんがびっくりしているみたいだ。

「まあ…」 おばさんはあきれているようだった。

 ティオと呼ばれた女の子の後ろから白い鎧を着た男の人が出てきた。180cmくらいありそうだった。鍛えられた褐色の筋肉が白く輝く鎧をさらに美しく見せていた。

 

(女の子は私と同じくらいの年かな。あの人は20~25ってところかな。)

 少女とおじさんたちは家に戻ってくるみたいだったので私は扉を開けにいった。

 軽い挨拶をして、私はおじさんの隣の席に座った。向かいの席には、さっきまで白い鎧を着ていた男の人と少女が座っている。


「なおちゃん。こちらが王宮まで護衛してくれる。ハミル・ウォレットさん。王宮とオルトリアスを守る守備隊の隊長をしていている人だよ。」


「で、こっちがオルトリアス次期王妃様の自覚なしのティオ・エリシア姫様。」


(姫様? …なんで姫様がきちゃうのよ。自覚なしってそりゃ……)


 ミリアさんと同じように鎧を消したローブ姿のハミルさんが申し訳ないと言った風な感じでおじさんに頭を下げていた。

「おじ様、意地悪言わないでよ。私もここに用が出来たから来たのよ。」

「ほう、よほど大事な用事と思われるのだが、あいつのお菓子を食べに来ただけとは言わないでくれよ。」

「うっ…。そうよ! おば様のお菓子は最高なの! 特に出来たてのが!」

 おじさんとお姫様とは思えないティオさんの会話がおかしくて私は笑いそうになっていた。

 おじさんはやれやれって仕草をして、台所にいるおばさんに声をかけた。

 程なくおばさんは焼きたてのクッキーを持ってきてテーブルに並べる。モカがなぜかおばさんと一緒に飛んできた。


「あ…その子が精獣?」 ティオさんの口調が低くなっていた。

「そうだよ。その子の名前はモカ。このなおちゃんの精獣だ。手紙に書いたように、なおちゃんとモカの今後の対応をルミナ様に相談するために護衛をよんだのだよ。」

 おじさんはそういって真剣な眼差しでモカを見ているハミルさんに合図をした。

「はい。責任をもって王宮までお連れいたします。」

 ゆっくりとした力強い言葉で私のほうをみていた。


(そか、これが普通の反応なんだ。モカ、なんか可哀想だな)


 私はモカをそっと抱き寄せて膝の上に座られた。

「なお~。どうしたの?」 

 私は何でもないよって笑顔で答えた。

「さて、時間も過ぎていくことだしそろそろ出発してもらおうかの。」

「え~。まだクッキー食べてない~」 テーブルにあるクッキーに手を伸ばすティオさん

「冗談だ。久しぶりだし少しぐらいならいいだろう。」

 微笑みながら、おじさんもクッキーに手を伸ばす。

 私は二人のやり取りをみて、なんかいいな~って気分になった。


「おばさんのお菓子って美味しいけどそれ以上美味しいのって街にはないの?」

 モカにクッキーを与えて私も負けじとクッキーを手に取ってティオさんに尋ねた。

「ない!」 

 きっぱりと答えるティオさんだった。

「え~。町にいったら美味しいお菓子食べようとおもってたのに~」

「おば様よりちょっと落ちるけど、美味しいお菓子なら教えてあげるわよ。」

 ティオさんは嬉しそうにクッキーを食べながら私にそういった。


 クッキーを食べつくした私とティオさんを見て、おじさんが一言呟いた。

「娘は持つものじゃないな。」

 私とティオさんは同時に「えー」と叫んでいた。部屋に笑い声が広がった。

 ハミルさんが笑顔になっているのを私は見逃さなかった。

(いい人そうね。)

 

 

 おじさんとおばさんに挨拶をした私はティオさんの馬車に乗り込んだ。そこへおばさんが紙袋をもってやってきた。

「これ、あなたにお土産にしようと包んでたのよ。帰ったらルミナ様に差し上げてね。」

「はい。お母様も喜びます。また遊びにきますね。今度はケーキ焼いてね。」

 袋を受け取ったティオはおば様と軽く別れの抱擁をした。

「おばさん。いって来ますね」

 モカを膝の上に乗せたまま、私は開いている扉のところにいるおばさんに手を振った。

 馬の嘶きと車輪の音が聞こえて私達はおじさんの家を後にした。




 窓の外には緑の木々が流れ、蹄と車輪の音が響く馬車の中で、私とモカは向かいに座っている姫さまと鎧姿のナイト様をみていた。

(こうやってみると、お似合いだな~付き合ってるのかな?)

「ちょっと訊いていいですか?」 私はお姫様に話しかけた。

 お姫様は「なに?」と砕けた返事を返してくる。

「おじさんとおばさんってどんな人なの?」

「えっ?」 

 予想どうりの返事が返ってきた。

「私は昨日の朝、何も聞かされないまま、お祖母ちゃんがあの家に私を送ったので、ほとんどわからないの。お祖母ちゃんの親戚って事は判ったんだけど、王妃様のルミナさんや、姫様のあなたと知り合いっていうのがね…」


 姫さまはちょっと考え込んでた。

「私のお母様とおば様が遠い親戚でね、おば様も昔は銀礼の神殿にいたの。」

「神殿?」

(あぁ…昨日モカが言ってた場所か。)

「王宮の隣にある月の精霊を祭ってある所なんだけど、巫女をしてたのよ。って、あなたどこの生まれ?」 今度は姫様が首を傾げていた。

「こことは別の異世界からきたの。」


 少しの沈黙がながれた。


「難しい話になりそうなので、放置します。」

 姫さまは真面目な顔をして、そして笑ったので私も一緒に笑った。

「私のお母様とおば様は遠い親戚で仲のいい友達ってことね。おじ様は王宮の守備隊で活躍しててね。おじ様に私は守ってもらっていたの。」

 納得した私をみて、姫さまは少し考えているようだった。

「あなたはおじ様と親戚?」

「いえ、おばさんのお父さんと私のお祖母ちゃんが従兄妹っていってた。」


 再び沈黙が流れてた。


「よくわからないけど、たぶん私とあなたは血族って事かな?」

 わたしも「かな?」って返事をした。

「じゃあ、私の事をティオって呼んでね。親戚みたいだしね。」

 私たちはティオ。なお。と呼び合うことになった。


 姫さまは張っていた肩を砕くかのように、座っていたソファーにもたれた。  

「姫様。」 隣にいたナイトさまの声が、妹を叱っている兄のように見えた。


「姫さまって大変見たいね」

 私が苦笑いしながら二人を見ていると、モカが私の膝から頭に飛び乗った。

「こら。モカなんで今、頭に乗るのよ。」

「外の景色見たいです。」

「じゃ仕方がないか」

 姿勢がくだけたままのティオが、モカと私を面白そうにみていた。

「なおとその子は仲がいいのね。私の知ってる精獣って人を馬鹿にしているっていうのか、見下してるっていうのか、あなたたちみたいに楽しそうに会話してるのって見たことないのよね。」

「私とモカは友達だからね」

 私はモカと出合ったときの気持ちと今の関係をティオに話した。

「そっか~友達か~そうよね、契約とか考えなければ、そうだよね。いいな~」

 頭に乗っているモカを見て私はちょっと誇らしげになっていた。

 私はティオに顔を近づけて小声で内緒話をした。


「ねぇ、ハミルさんってカッコいいね。ティオの彼氏?」

 突然の質問にティオはびっくりして、恥じらいが出ている顔を隠すように手で顔を触っていた。

「なにいってるのよ。彼はそんなんじゃないの。私を守ってくれてるだけ…」

 判りやすい反応でティオが片思いしているのがわかった。

 私は外の景色を真剣な目で見ている献身的なナイトさまをちらっとみて、ティオの想いに気付いてるのか、確かめたい衝動に襲われたが、我慢した。

(姫様とナイトさまの恋か~なれるといいな~)


 冷静さを取り戻したティオにぐっと握った手を見せて小さな声で

「がんばれ!」

 その手を包むように私の膝まで戻したティオは笑いながら答えていた。

「ちがうって」

 馬車は何事もなく快速な旅を続けていた。

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